上 下
76 / 331
第2章 はぐれ梁山泊極端派【燃えよ、十字剣!!】

第76話 空耳の時間がやって参りました。

しおりを挟む

「勇者様? 勇者様ですよね?」

「ん、あ、ああ。勇者だけど……。」


 本部の敷地内を歩く途中で練兵場の近くを通りかかった。当然の事ながら、額冠の力のせいもあり、ただ通りがかっただけにも関わらず、注目を引きつける結果となった。訓練生たちも当然まだまだ発展途上だから仕方ない。おまけにそういうお年頃の子たちだ。勇者という称号に憧れがないはずがない。


「聞きましたよ! 大武会で優勝されたんですよね!」

「魔王を倒したこともあるんですよね? 武勇伝を聞かせて下さいよ!」

「技を見せて下さいよ! 勇者の一撃を見てみたいです!」

「おおうあ! そんな一辺に来られても困るんだけど!」


 やっぱり揉みくちゃにされた! 冒険者ライセンス試験のときみたいになってしまった。これでは総長のもとにいつまでたってもたどり着けない! 誰か助けてくれ! 

 エルは……なんか遠巻きに見て嬉しそうに笑っている。揉みくちゃな俺を見て楽しんでいる! ダメだ。

 じゃあエドは……なんか教官の人と話し込んでいる! ええんか、ここで世間話してても?

 じゃあ他は……ミヤコとタニシは訓練用の器具で遊んでいるっ!

 じゃあゴリ…じゃなかったゲイリーはなんか自分が褒められてるみたいにドヤ顔でふんぞり返っている! もうダメだぁ!

 とりあえず剣を手にして、構えを取る。しょうがない。こういうときは……、


「異空跋渉!」

(ズボアッ!!)

「勇者様が消えた!?」


 この前憶えたばっかりの技を使って脱出してみた。本来は空間を行き来する技だが、同じ空間の中でも目に見える範囲なら転移することにも使える。ある意味、瞬間移動だ。


「……!? 勇者様があんな所に!?」

「凄い! 一体、何をしたんだ?」

「転移魔術を使えるんですか?」


 脱出するためとはいえ、ちょっとやり過ぎたか? 一般的な常識を超えた剣技だということを考えてなかった。知らなきゃ、魔法にしか見えない。


「これは魔法じゃないよ。剣技だから!」

「ええっ!?」

「剣でそんなことを!?」


 訓練生達の間でどよめきが起きる。ああ! 余計に騒がせてしまった。その様子を見たエドが俺に声をかける。


「また新たなる技を習得したようだな。この際、彼らの前で他の技も披露してやってくれまいか?」


 エドに促される。しょうがない。今度はもうちょい、地味目な技を披露してみよう。これを見たら多少は満足してくれるかもしれない! 自分の剣はしまって、訓練用の剣を拾い、打ち込み練習用の人形に狙いを定める。


「破竹撃!」

(ビシィッ!!)


 音と共に人形が真っ二つになった。訓練用の剣をあえて使って威力を落としたが、訓練生に見せるだけならこれぐらいで十分な…はず……?


「すげええっ!!」

「練習用の剣でこの威力!?」

「刃は潰してあるのに、どうやって斬ったんだろう!?」


 みんな、不思議がっている。戦技一0八計なんて初めて目にしただろうし、基本技とはいえ、威力はかなりある方だ。ぱっと見でわかりやすい技なのでこれを選んだのだが、また、騒がせる結果になってしまった。


「彼の巧みな技量によって斬られたのだ。腕力、体力だけではなく、技の鍛錬の積み重ねによって成せる神業なのだ。みんなも基礎を大切にして鍛錬に励むと良い。」


 はは、照れるな。こうやって解説されると、照れくさくなる。でもまあ間違いない。梁山泊にいた頃はひたすら基礎ばっかりやってきたわけだし。


「ついでにあっしも技を披露するでヤンス!」


 何故かタニシがしゃしゃり出てきた。なにをするというのか……。


「あっしは勇者の舎弟一号、タニシでヤンス! あっしのフレイル殺法をとくとご覧あれ…でヤンス!」


 フレイルを懐から取り出し、ヒュンヒュンして素振りを始めた。アチョー、ハチョー、とか意味不明な奇声を発している! やめてくれ! 見ているこっちが恥ずかしい。


「くらえ、ハッチョウ・エンゲキ!!」


 上段にフレイルを振りかぶった。まさかとは思うが、破竹撃のことだろうか? また空耳かよ! この前も異空跋渉をハイクバショウとか言ってたし……。タニシは破竹撃をマネして、目の前の人形に対して思いっきり振り下ろした。


(ヒュン!……ドフッ!!)


 フレイルの分銅は人形にかすりもしなかった! 代わりにあらぬところへ命中し、男なら誰もが聞きたくない音を立てた。


「オーマイガッ!!」


 破壊したのは人形ではなく……自分の股間だった。クリティカルヒットだ!


「むやみに武器を振り回してはいけないでヤンス! ……キュウ!!」

「タニシーっ!?」


 自分を強打して失神て……何回目だ、お前?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

処理中です...