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第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第52話 脱出! そしてまた脱出!!
しおりを挟む「ぷはーっ! やっと戻って来れたな、現実に!」
俺たちはエルのお母さんに別れを告げ、記憶から作られた世界から脱出した。エルの実家の屋敷に戻ってきた。異空間に送られる前の応接間に今はいる。戻ってきたのは仲間だけじゃない。敵対関係にあるラヴァン、オバサンも一緒に連れ帰った。
「アイツ、やっぱりいないね。」
ミヤコがエルの弟分がいないことを気にしている。ヤツも連れ帰りたかったが、戻ってきたときにはすでにいなかった。タニシ達の話によると、いつの間にか姿を消していた模様。アイツだけ空間への侵入方法が違っていたから、隙を見て抜け出していたようだ。
「あの子なら大丈夫よ。強い子だから。」
「さすが、お姉さんだねえ。でも、エルるん、対面して再会してなかったよね?」
「その内、すぐに再会出来ると思う。生きていればね。」
「だってさ!」
ミヤコは意地悪そうな顔で俺に言う。何だよ、一体? エルを巡っての対立相手とでも言いたいのだろうか? それ以前に俺にとっても弟みたいなもんだろう。それよりも気になることがある。弟以外にいないヤツがいる。
「黄ジイがいない? どこいったんだ?」
神出鬼没な、あのジジイもいない。まあ、そもそも、この場には一緒に来ていなかった。異空間に来た途端、急に姿を現した。そして、急にいなくなった。あのジジイも別経路で侵入してきたのだろうか。そういえば異空間から出るとき、意味深な事を言っていたような気がする。
『まだ事は収まってはおらぬ。外へ出ても、気を抜くではないぞ』
そういえばジジイだけではない。蛇の魔王も援軍がどうとか言ってたような……? そういえばどことなく、屋敷の中が煙たい匂いがする。何か嫌な予感がした。
「お母様! 大変ですわ! 誰かが屋敷に火を放ったみたいですの!」
エルの従姉妹が血相を変えて部屋に入ってきた。火? 不審火? 誰がそんなことを? 急いで間近にある窓へ向かい、外の様子を確認する。
「や、やべえ! 火の手が回ってきてやがる!」
「フフフ。処刑隊ですわね。万が一のことを考えて、わたくしが彼らに出動要請をしていたのです。」
「ナドラ様、彼らが来るのは三日後ではなかったのですか? 約束と違うではないですか!」
ラヴァンの言うことはもっともだった。ラヴァンがエルを殺さなければ、処刑隊を呼ぶという話をもちかけていたはず。その期限は三日間と言っていた。にもかかわらず、この場に現れたということになる。
「それはあくまで貴方が取引に応じた場合の話ですの。貴方やそれ以外の輩が全てを台無しにした。グランデ家の遺産を求めた結果、元よりそれはすでにあの女が処分済みだった。最初からわたくしは騙されていたんですの。被害者はわたくしの方。全てはあの女とその娘の策略だった!」
策略って……。アンタが勝手に遺産が魔術の奥義書だと勘違いしてただけじゃないか! 当主になったからって、強引に奪おうとしてたし、エルをいじめてたし、この人ホントろくなことしてないな。挙げ句の果てに腹いせでヤバいヤツら呼び寄せるなんてな。盗人猛々しい。
「あなた方はここで焼け死んでしまいなさい! グランデ家の名を汚したことを悔やみながら、あの世で詫びなさいな。」
オバサンは娘のヘイゼルを呼び寄せ、姿を消した。自分たちだけで転移魔法で逃げたようだ。俺たちだけではなく、ラヴァンも置き去りだ。ヘイゼルはラヴァンの事を気にしてそうな感じではあったが、娘の意向も無視したようだ。ホントろくでもない。
「早く脱出しなくては。当然、君たちは置いていく。決別した相手の面倒までは見切れない。」
「それ以前にアンタの転移魔法って、定員ありじゃなかったっけ? その後、エルの分身を連れて転移してたような気がするけど?」
「どのように取ってもらっても構わない。少なくとも、赤の他人の事にまで、命をかけられるほど私はお人好しではない。」
そこから更に、『無様な姿になってまで命を張れる訳がない』、と付け足し、ラヴァンも姿を消した。なんなん、アイツ! 感じ悪いわぁ~! 無様で悪かったな! それでも俺はそういうことしか出来ないんだよぉ!
「アニキ~、このままではあっしら、全員、ホットドッグになってしまうヤンス!」
「ええ~? それはワンちゃんだけじゃないの? ウチらは絶対助かるから!」
「なんか、凄いことが始まりそうッスね! 俺っち、ワクワクしてきたッス!」
なんかタニシ以外、緊張感が欠けてるような気がするが……、それよりも脱出、脱出するのを優先しなくては!
「絶空八刃!」
俺はとっさに剣を振るった。突破口を開くために建物の壁と周囲の火を斬った。屋敷全体の火が消えるわけではないが、ここから逃げ出せる。
「ゴメン、エル、君の実家を壊しちゃった。」
さすがに罪悪感はあった。エルの思い出の場所を壊したことには違いないのだ。みんなの命と天秤にかけた結果、やらないといけなくなった。
「今はそんなの気にしないで。みんなが助からないとダメだから。早く安全な所へ行きましょう!」
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