上 下
52 / 331
第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】

第52話 脱出! そしてまた脱出!!

しおりを挟む

「ぷはーっ! やっと戻って来れたな、現実に!」


 俺たちはエルのお母さんに別れを告げ、記憶から作られた世界から脱出した。エルの実家の屋敷に戻ってきた。異空間に送られる前の応接間に今はいる。戻ってきたのは仲間だけじゃない。敵対関係にあるラヴァン、オバサンも一緒に連れ帰った。


「アイツ、やっぱりいないね。」


 ミヤコがエルの弟分がいないことを気にしている。ヤツも連れ帰りたかったが、戻ってきたときにはすでにいなかった。タニシ達の話によると、いつの間にか姿を消していた模様。アイツだけ空間への侵入方法が違っていたから、隙を見て抜け出していたようだ。


「あの子なら大丈夫よ。強い子だから。」

「さすが、お姉さんだねえ。でも、エルるん、対面して再会してなかったよね?」

「その内、すぐに再会出来ると思う。生きていればね。」

「だってさ!」


 ミヤコは意地悪そうな顔で俺に言う。何だよ、一体? エルを巡っての対立相手とでも言いたいのだろうか? それ以前に俺にとっても弟みたいなもんだろう。それよりも気になることがある。弟以外にいないヤツがいる。


「黄ジイがいない? どこいったんだ?」


 神出鬼没な、あのジジイもいない。まあ、そもそも、この場には一緒に来ていなかった。異空間に来た途端、急に姿を現した。そして、急にいなくなった。あのジジイも別経路で侵入してきたのだろうか。そういえば異空間から出るとき、意味深な事を言っていたような気がする。


『まだ事は収まってはおらぬ。外へ出ても、気を抜くではないぞ』


 そういえばジジイだけではない。蛇の魔王も援軍がどうとか言ってたような……? そういえばどことなく、屋敷の中が煙たい匂いがする。何か嫌な予感がした。


「お母様! 大変ですわ! 誰かが屋敷に火を放ったみたいですの!」


 エルの従姉妹が血相を変えて部屋に入ってきた。火? 不審火? 誰がそんなことを? 急いで間近にある窓へ向かい、外の様子を確認する。


「や、やべえ! 火の手が回ってきてやがる!」

「フフフ。処刑隊ですわね。万が一のことを考えて、わたくしが彼らに出動要請をしていたのです。」

「ナドラ様、彼らが来るのは三日後ではなかったのですか? 約束と違うではないですか!」


 ラヴァンの言うことはもっともだった。ラヴァンがエルを殺さなければ、処刑隊を呼ぶという話をもちかけていたはず。その期限は三日間と言っていた。にもかかわらず、この場に現れたということになる。


「それはあくまで貴方が取引に応じた場合の話ですの。貴方やそれ以外の輩が全てを台無しにした。グランデ家の遺産を求めた結果、元よりそれはすでにあの女が処分済みだった。最初からわたくしは騙されていたんですの。被害者はわたくしの方。全てはあの女とその娘の策略だった!」


 策略って……。アンタが勝手に遺産が魔術の奥義書だと勘違いしてただけじゃないか! 当主になったからって、強引に奪おうとしてたし、エルをいじめてたし、この人ホントろくなことしてないな。挙げ句の果てに腹いせでヤバいヤツら呼び寄せるなんてな。盗人猛々しい。


「あなた方はここで焼け死んでしまいなさい! グランデ家の名を汚したことを悔やみながら、あの世で詫びなさいな。」


 オバサンは娘のヘイゼルを呼び寄せ、姿を消した。自分たちだけで転移魔法で逃げたようだ。俺たちだけではなく、ラヴァンも置き去りだ。ヘイゼルはラヴァンの事を気にしてそうな感じではあったが、娘の意向も無視したようだ。ホントろくでもない。


「早く脱出しなくては。当然、君たちは置いていく。決別した相手の面倒までは見切れない。」

「それ以前にアンタの転移魔法って、定員ありじゃなかったっけ? その後、エルの分身を連れて転移してたような気がするけど?」

「どのように取ってもらっても構わない。少なくとも、赤の他人の事にまで、命をかけられるほど私はお人好しではない。」


 そこから更に、『無様な姿になってまで命を張れる訳がない』、と付け足し、ラヴァンも姿を消した。なんなん、アイツ! 感じ悪いわぁ~! 無様で悪かったな! それでも俺はそういうことしか出来ないんだよぉ!


「アニキ~、このままではあっしら、全員、ホットドッグになってしまうヤンス!」

「ええ~? それはワンちゃんだけじゃないの? ウチらは絶対助かるから!」

「なんか、凄いことが始まりそうッスね! 俺っち、ワクワクしてきたッス!」


 なんかタニシ以外、緊張感が欠けてるような気がするが……、それよりも脱出、脱出するのを優先しなくては!


「絶空八刃!」


 俺はとっさに剣を振るった。突破口を開くために建物の壁と周囲の火を斬った。屋敷全体の火が消えるわけではないが、ここから逃げ出せる。


「ゴメン、エル、君の実家を壊しちゃった。」


 さすがに罪悪感はあった。エルの思い出の場所を壊したことには違いないのだ。みんなの命と天秤にかけた結果、やらないといけなくなった。


「今はそんなの気にしないで。みんなが助からないとダメだから。早く安全な所へ行きましょう!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...