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第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】

第49話 一触即発、婿姑戦争!

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「ゴメンね……。」

「謝らないでよ! わたくしがもっと惨めになるじゃない!」


 エルのお母さんもそれは理解していたんだろう。やっぱり娘のエルと性格が似ている。やさしいから、辛い思いを少しでも和らげたかったのかもしれない。それが裏目に出ていたということか。どちらも悪くない。気持ちのすれ違いが不幸な関係を作ってしまったんだろう。


「フフ、性懲りもなく、無関係の君がこんな所へやってきたのか?」


 熾烈な姉妹喧嘩に巻き込まれている最中、ラヴァンが姿を現した。エルも一緒にいる。当然、その姿にエルのお母さんとオバサンは釘付けになった。自分もしくは姉と同じ容姿をした娘がそこにいるのだ。無理もない。


「お姉様が二人!? どういうこと?」

「お母さん!」


 まさか、自分の娘が現れたとは思っていないだろう。そして、エルの方は母との再会だ。幼い頃に死別して以来だったはず。とはいえ、ここはエルが生まれる前の時代。お母さん側は娘の事を知らない。だから、感動の再会とはならないだろう。


「何者ですか? 私に似た姿をしたあなたは一体、誰?」

「私たちは未来の世界からやってきました。彼女は貴女の実の娘です。そして私は、その婚約者。そこにいる男は未来の勇者です。シャルル殿ではありません。」

「わたくしたちを騙したのね!」

「その通り。この男は私たちには関係のない男です。」


 うおおい! あっさりバラすなよ! おかげで、オバサンは俺を罪人を見るかのような態度になっている。エルのお母さんはそこまではしていないが、信じられないといった感じの表情になっている。別に騙してないからね? 勘違いされただけだから! 不可抗力だから!


「未来から何をしに来たのですか、あなた方は?」


 エルのお母さんは慎重な態度を示している。色々、信じがたい事が起きているのは事実だ。エルよりも聡明で自信に満ちた魔術師といった印象だ。娘のエルとは違う魅力がある。エルも虐げられていなければ、こんな風になっていたのかもしれない。とはいえ、俺はエルの方が好きだ。このお母さんには何か近寄りがたい雰囲気がある。


「実はグランデ家の遺産を受け取りに来たのです。ここに隠されている様なので、彼女と共にやってきたのです。」

「遺産……を? ですか?」


 そこまでぶっちゃけちゃうのかよ! 余計、警戒してしまうんじゃないか? ちょっと焦りすぎなんじゃない? 勝利を確信してとち狂ったのでは?


「何を言ってるんですか、あなたは? 遺産のことなど知りません。」


 ほら見ろ、拒絶されたじゃないか。エルのお母さんはますます警戒を強めてしまったようだ。協力が得られないなら、更に困難になってしまうだろう。


「さて、それはどうでしょうか? 私は貴女自身が遺産その物の核になっていると推測しています。そこにいるナドラ様や私が手に入れようとしても拒絶される。その警戒心こそが封印としての役割を果たしているのでしょう。」


 その封印を解けるのは……エルということか。エルのお母さんが警戒しない相手なら、警戒を解いて遺産を受け取れるようになっている? 多分、ラヴァンはそう考えているのだろう。


「貴女の愛する娘は目の前にいます。その彼女に遺産を譲渡するのが筋ではありませんか?」

「知りませんし、わかりません。逆にその子が私の娘という証拠はあるのですか?」


 エルのお母さんの言うことはもっともだ。生まれる前の時代なので信じがたい話に聞こえるのだろう。目の前にはおかしなことを言っている男がいる。彼女にとってはただ、それだけなのだろう。


「このままでは埒があかない。少々手荒な真似をさせてもらうとしよう。」

「遺産の事など知りません! それが何故わからないのですか!」


 うわああ! このままではエラいことになる。ラヴァン、お前、結婚前に婿姑戦争をするつもりか! このままでは見てられない! 部外者扱いされたとはいえ、こんな状況、放っておけるもんか!


「ちょっと待て、ラヴァン! これ以上、俺の前で過ぎた暴挙はさせない! アンタ、いくらなんでも強引すぎるんだよ!」


 俺は両者の間に割って入った。この争いは何が何でも止めないといけない。例え俺が盾になってでも阻止する。部外者扱いされるなら、犠牲になることは大した問題じゃない。俺を忘れていたとしても、エルには嫌な思いをさせたくない!


「部外者は口を挟むべきではない。君は早々に退場し給え!」

「部外者でもなんでもいい! 俺はエルに嫌な思いをして欲しくないだけだ! 例え記憶の世界だったとしても、自分の母親と争わせたくない! それの何が悪いって言うんだ!」

「君はわかっていないな。所詮、記憶の中の世界だからこそ非情になれるのだ。ここにいるエルフリーデ様は本人ではない。遺産を相続するための障害でしかない! 時に魔術師は合理的に、冷静に、非情にならねばならない! 真理を追究するためには、情念を捨て去ることが絶対条件なのだ!」


 言い切りやがった! 魔術を極めるために人の心を捨てるのにためらいがないのか? エルの記憶を書き換えたことや、決闘でギアスをかけたり、決闘後にエルの記憶を強引に統合したり……。非情の精神があったからこそ出来たことなのか。

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