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第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】

第42話 ちょっと手を添えるだけ。

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「やめんか、二人とも。」


 婚約者と弟君の戦いが始まると思われたその時、二人の間にお爺ちゃんが割って入っていた。さっきまで、ウチの隣にいたのに! まるで瞬間移動したみたいに、そこにいた。しかも弟君の剣を素手で受け止めていた。


「邪魔すんな、ジジイ! コイツを殺して何が悪い!」

「さっきも言うたじゃろう? 互いに争えば、敵の思うつぼじゃと。この場は刃を収めよ。」

 弟君は掴まれた剣を抜こうとしてるけど、全然抜けない。一方のお爺ちゃんは涼しい顔をしながら軽く掴んだ剣を離さずビクともしていない。見るからにお爺ちゃんの方が力なさそうなのに、そんな不思議な光景が目の前で展開されている。


「離せ!」

「……ほれ、これが望みか?」


 お爺ちゃんは剣を離した。急なことだったので弟君は体勢を崩して倒れそうになっている。すぐに体勢を戻して、今度はお爺ちゃんを攻撃しようとしている。凄い勢いで剣を突き出した。


「……ほい。」


 一瞬の出来事だった。弟君の体が宙を舞っている。多分お爺ちゃんの仕業だ。武術のことはさっぱりわかんないけど、これが神業だっていうのはわかる。ホントに不思議だった。まるで魔法みたい。


(ドシャアッッ!!)

「ぐはっ!?」


 弟君は背中から地面に落ちた。受け身も取れてないみたいだから、防御のしようがないくらいのことをされたんだろう。


「な、何をしやがった!」

「何って、儂は只、ちょいとお主の攻撃に手を添えてやっただけじゃ。これは“円転流離”と呼ばれる技。相手の力をそっくりそのまま利用して反撃に転ずるのじゃよ。」


 これも流派梁山泊の技? ていうか、このお爺ちゃんもあの流派の人なの? この前のパイロンとかいうエラそうなオジサンより年寄りなのに、もっと凄い人に見える。ホントに何者?


「そんな馬鹿なことが出来るはずがない!」


 弟君は立ち上がり、再び攻撃をする。今度は剣を大きく振りかぶり、お爺ちゃんに飛びかかる。でも、お爺ちゃんは避けようともしていない。


(バキィィィィン!!!)


 まさかの結果になった! 剣の方が折れた。お爺ちゃんは軽く拳を剣に当てただけの姿勢になっている。素手で折ったの? あの剣、結構太くて頑丈そうなのに! 


「馬鹿な! どんな小細工を使いやがった!」

「さっきと同じじゃ。お主の攻撃に合わせただけじゃよ。これは儂が折ったのではなく、お主自身の手で折ったようなもんじゃ。剣が折れるほどの威力があったわけじゃな。」

「屁理屈を言うなぁ!!」


 弟君は現実を受け止めきれないみたい。ウチだってそうだ。横から見てても、現実離れしてる。ありえないような事が起こった。それぐらい強さに差があるんだろうね。


「まあ、良いわ。いずれわかるようになる。今は只、お主には黙っておいてもらうとしよう。」


 気付いたときには、お爺ちゃんが弟君の腹にパンチを決めていた。また同じ事の繰り返しになったけど、多分これは避けられないんだと思う。また一瞬でお爺ちゃんは終わらせた。殺気までわめいていた弟君は再び失神することになった。やめろってお爺ちゃんが言ったのにやめなかったんだから仕方ない。


「さて、お主はどうする? お主は妖術師のたぐいじゃろう? この坊主よりは頭も回るはず。手を組むことに異論はあるまい?」

「さあ、それはどうだろうな? 出来ればメリットをご教授頂きたいな?」

「そりゃ当然、みんなが無事でここを脱出する出来ることじゃろう。」

「そうか。それでは私の目的が達成される事はそこには含まれていない。」


 婚約者は急に姿を消した。多分、瞬間移動の魔術だ。そう思った瞬間、お爺ちゃんの背後に姿を現した。


「スター・バース……何!?」


 お爺ちゃんはいつの間にか婚約者の杖を取り上げていた。魔術を途中で止めたのはそれが原因。杖に魔力を集中させていたのにそれがなくなったら、魔術が完成しない。バケツに水をためていたのにいきなりひっくり返されて空っぽになったような感じに似ている。ウチも魔術を使うからそれが良くわかる。集中を乱されたら無駄になっちゃうもんね。


「いかんのう。老いぼれだからといって、まだ火葬にするのは早とちりしすぎではないか?」

「そんな! いつの間に!」


 驚く婚約者にお爺ちゃんは杖を投げて渡した。え? そんなにあっさり渡しちゃったら、また、魔術で攻撃されるじゃん! どうするつもり?


「かくなる上は! これならどうだ!」


 婚約者は杖が戻ってくると同時に魔術を使おうとした。そう、使おうとしただけで何も起きなかった。多分お爺ちゃんに阻止された。お爺ちゃんは婚約者の喉に人差し指と中指を突きつけている。


「ほれ、どうした? 何かするんじゃないのか?」

「ぐっ! 卑怯な! このような小細工で魔術の集中を妨げるとは!」

「卑怯? 何を言うとる。お主は先程、儂を火葬にしようとしただろうに。しかも、不意打ちでな。これを卑怯と呼ばずして何とする? お主ら妖術師は不意打ちする事が常識なのかえ?」


 お爺ちゃんは婚約者に指を突きつけるのを止め、スタスタと歩いてある程度距離をとった。距離が離れている方が魔術の邪魔をされにくい。これじゃ、魔術の方が有利になる! お爺ちゃんは何を考えてるの?


「卑怯と言うなら、やってみい。正面から撃ってみるがよかろう。」

「ご老人、魔術を侮辱するのはいい加減にして頂きたい! お望みとあらば、私があなたを完全に消滅させてみせよう!」


 婚約者は杖に魔力を集中させ始めた。さっきよりも更に強く魔力を貯めている。多分広場を吹き飛ばした時と同じぐらいの強さで使うつもりなのかもしれない。お爺ちゃんはどうするつもりなんだろう? これじゃ本当に火葬にされやうよ!
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