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第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】

第32話 不入虎穴、不得虎子。

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「もんげらーど!」
(そこをどけーっ!)


 オバサンをどかさないことにはエルを助けられない。遠慮無くバッサリ行かせてもらう!


「もけつまくこみょう!」
(虎穴獲虎衝!)


 虎穴には入らずんば虎児を得ず! まさに今の状況にピッタリだ。牢屋を開けなきゃ、エルを救出できない。勢いにまかせて突っ込む!


「むうっ!?」


 意表を突いたためか意外とあっさりオバサンに突きが命中した。血は出ていない。操っている魔王にダメージを与えるように、霽月八刃の効果を乗せたからだ。


「ホホホ、これが噂に聞く、我々の概念その物を攻撃する技ね。人間にしてはやるじゃない。」


 存在自体を貫いているというのに、随分と余裕のようだ。おかしい。魂を傷付けられるのは耐えがたい苦痛のはず! しっかり命中した手応えがあるのに!


「今、おかしいと思っているのではないかしら? 牛や虎には効いたのに、とでも思っているのかしらね? 私を底辺魔王如きと一緒にはしないことね。」


 ヤバイ! 気付いたときには遅かった。剣を抜こうとしても抜けない! 何かに絡め取られているかのように、びくともしない。


「ホホホ、先程は逃がしてしまったけれど、今度は逃がさないわよ。」


 オバサンの体から黒い紐状の影が俺の体を捕らえ始めた。これでは剣を離して逃げることも出来なくなった。絶体絶命だ!


「今度は念入りに動きを封じて、確実に仕留めてあげるわ!」

「……っも!?」


 ダメだ。逃げられない。鞭の蛇から逃れたときは蛇身濘行を使えた。ここまで完全に捕らえられてしまっては、俺の生半可なあの技では逃げられない。技を極めていたら逃げられるのかもしれないが、生憎、剣技以外の技はマスター出来ていない。


「師匠、大ピンチッスね! でも、ここから大逆転するんスよね? 俺、楽しみッス!」


 そういえば、コイツもいたんだった。大ピンチとか言ってないで、さっさと助けてくれりゃあいいのに! 相変わらず空気の読めないヤツだ。


「ホホホ、勇者が倒される瞬間が拝めるのですよ。しっかり目に焼き付けておきなさい。その次はあなたの番ですよ。」

「いやあ、光栄ッスわ! 目が焼け付くッス!」


 その時、ゲイリーの目が光った。何をしたんだ? そういえば、少し熱くなったような気が……、


「むううっ!? おのれ、木偶の坊、一体何をした!」

「もわっちぃ!?」


 気が付いたときには俺と魔王は火だるまになっていた。コイツ、魔法が使えたのか! とはいえ俺ごと燃やすとはどういうことだ!


「次は俺っちの番ッスよぉ!」


 どういう訳か、ゲイリーはそのまま斬りかかってきた! 無茶苦茶だ!


「ぎああああっ!?」


 魔王というか、オバサンの肉体その物を斬りつけやがった。オバサンが絶叫を上げる。魔王は無事でも、乗り移った体自体がダメージを受けるのは避けられなかったというところだろう。体の拘束が緩んだ。逃げるなら今しかない!


「もぎゅわーっ!」


 大げさに暴れて、何とか逃げ出した。火が付いたままなので、床に転がりながら火を消す。火が消えてから、何とか体勢を立て直し、魔王がいる方向に向き直る。


「どうッスか? どうッスか? 俺っちも結構いけるっしょぉ?」


 ゲイリーはがむしゃらに攻撃を仕掛けている。オバサンの体が切り刻まれていく。魔王に操られた相手とはいえ、いくら何でもやり過ぎだ。ゲイリーの目付きもおかしい。目がイってやがる! まあ、いいや。コイツに魔王をひきつけておいてもらおう。それよりもエルだ!


「……お兄さんは誰?」


 遅かった。どさくさに紛れてアイツが……ラヴァンが! またしても、俺はダシに使われてしまった。前の空間の十代前半くらいのエルと一緒にいる。


「私は未来の君の婚約者だよ。」
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