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第2部 第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第58話 カエルの王子様
しおりを挟む「今回はゴメンね。みんなに色々迷惑かけちゃった。」
「気にしてないよ。俺だけじゃなくて、みんなもそう思ってるはず。」
エルの故郷から離れ、俺たちは再び行く前に立ち寄った宿場町へと戻ってきていた。近場で休めそうなところがなかったからだ。間に野宿も挟んではいるものの、あの場所に留まるよりはずっと良かった。
「本当にそうならいいけど、いっぱい危険な目にあわせてしまったから、心配なの。」
「いいんだよ、気にすんなって!」
宿場町に戻ってきてから、二人だけの時間を作ってもらった。自分から頼んだのではなく、ミヤコが気を使ってくれた。タニシとゲイリーはイマイチ意図がわかっていない様子だったが、うまく説得してくれているだろう。ミヤコには感謝しないといけない。
「私、帰るところがなくなっちゃった。二度と帰ることは出来ない覚悟はしていたけれど、家その物がなくなるなんて思ってなかった。そういう意味では大失敗だったのかもしれない。」
少し帰るだけののはずが、家を失い、身内に非難された挙げ句、自分のトラウマを掘り起こされ、激しく傷付けられた。ここまでヒドい目にあうなんて、不幸さが度を超えている。神様なんて、この世にいないんじゃないか、なんて思えてしまう。彼女は何も悪くはないのに。
「でも、いいこともあった。お母さんに会えたし、色々話すことも出来た。もう会えないって思ってたから、嬉しかった。」
お母さんの遺品、例の絵本には彼女の幻影と共に、娘のエルに伝えたかったメッセージが封じられていた。しかも、エルが“大切な人を見つけたとき”にだけ開く鍵を付けて。娘が幸せになったとき、祝福するために残していた。周りのロクでもない連中が求めていた魔道書なんかよりよっぽど価値のある遺品だったと思う。
「それにね……あなたのことがもっと好きになった。お母さんには悪いけれど、これが一番だったかも。私のために命をかけてくれた。一生懸命戦ってくれた。だから私もがんばることが出来たの。」
「……照れるじゃないか。そんなに褒めても何も出てこないよ?」
「すでに十分もらったから。もらいすぎて、ダメになっちゃいそうなくらい。」
「え~、そうかな?」
今回はかっこ悪いところばかり見せてしまったので、正直どうなのかなとは思っていた。ギアスで言葉を封じられ、奇声を発し続けるハメにあったり、ラヴァンにカエル呼ばわりされたりもした。でも、彼女からしたら特に悪い印象は持たなかったということか。それだけでも大分救われたような気がする。
「でも最後にエルを殴ってしまった。あれだけはホントにゴメン! 俺、怒りで我を忘れてた。」
「あれは……別にいいの。私も獣になっているときに大分酷いことを言ってしまったと思う。その罪滅ぼしだと思えば、痛みなんて大したことない。心を傷付けられた方がもっと辛いと思うから。」
エルは申し訳なさそうに言う。事故とはいえ、俺が悪いことしたはずなのに、逆に謝られてしまうとは。思いがけない展開だった。
「別にあれは本心じゃなかったんだろ?」
「……全くそう思ってなかったなんて言ったら嘘になると思う。」
「……まさか、そんなわけない。」
「実際にそう思ってしまったときもあるから、本当。変に嘘をついても、あなたに嫌われそうだから。」
彼女はさらにぶっちゃけたことを言った。少しショックだったが、本当のことを言ってくれたのは逆に嬉しかった。
「この前、リハビリを兼ねて、何度かあなたと模擬戦をしたよね? そのときに思わず気付いてしまったの。あなたが以外と弱いってことを。」
怪我がある程度治り、体がある程度動かせるようになったところで、俺たちは模擬戦をした。確かにエルは強かった。何度か負けかけたが、以外となんとかなった。あれは彼女が手加減をしてくれていたのだろうと解釈している。
「勝てる、って何度か思った。でも勝てなかった。何度追い詰めても、土壇場で逆転された。不思議だった。でも、それがあなたの強さの秘密だと思うの。」
実はあの時、本気だったのか。手加減だと思っていた。自分の中では特に追い詰められたときに何かしたという意識はない。あくまで普通に戦ったとしか言えない。自分ではわからんなあ。まあ、いいや。そういえば気になっていたのに聞きそびれたことがあったのを思い出した。
「そういえば遺品の絵本だけどさ、あれってどんな話なの?」
「それはね……、」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とある国のお姫様が鞠で遊んでいたが、泉に鞠を落としてしまった。泣いていたお姫様の前に一匹のカエルが現れ、こう言った。
『鞠を取ってきてあげよう。その代わりに私と友達になってもらえるかな?』
と、提案されたお姫様はしゃべるカエルに驚きつつも、それを受け入れ鞠を取ってきてもらった。受け取った後はそのまま城へ帰り、カエルも泉に戻っていった。
その晩、お姫様が両親と一緒に食事をとっていると、窓を打つ水音が聞こえた。窓を見てみると、そこには泉のカエルがいた。
『私も一緒に食事を取らせて下さい。』
お姫様は気持ち悪いので拒否しようとした。それを見た王様は、こう言った。
『友達になるという約束をしたのなら、ちゃんと守りなさい。』
お姫様は渋々受け入れ、気持ち悪いと思いつつ、カエルと一緒に食事を取った。
その後、お姫様が寝ようとしたところ、あのカエルがまだいることに気が付いた。
『私と一緒に寝ましょう。』
カエルはそう言い、お姫様のベッドに入ってこようとした。お姫様は断固として拒否し、城に入ってくるな、と言った。それを聞いたカエルは落ち込み、去り際にお姫様へこう言った。
『わかりました。もう二度とあなたの前には姿を現しません。』
これを聞いたお姫様は言い過ぎたことを悔やみ、カエルを持ち上げ、お別れのキスをした。すると不思議なことに、カエルの体は次第に大きくなり、美しい貴公子の姿になった。
『ありがとう。元の姿に戻れました。私は悪い魔女の手によって、カエルの姿にされた王子だったのです。』
その後二人は仲良くなり、結婚していつまでも幸せに暮らしたという。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……こんな話よ。まるで私たちみたい。細かいところは違うけれど、まさか自分が似たような運命に巡り会うなんて思ってなかったわ。あなたにキスをしてもらって、目を覚ましてもらったし。この部分は逆になってるけど。」
エルは嬉しそうに言った。俺は初めてこの話を聞いたが、似たような話はどこかで読んだか、聞いたりしたことがあるような気がする。とある少年がカエルと出会った。魔物に襲われたとき『接吻してくれれば、お前を助けてやる!』とカエルが言ったため、渋々従うとカエルは屈強な戦士となった。そのまま魔物を撃破してもらうという話だ。どこで見たんだっけな? 思い出せないや。
「その前に俺、王子様じゃないんだけど?」
「別にいいじゃない。気にしなくていいよ。私はそう思ってるから。そんなこと言ったら、私もお姫様じゃないよ。と言うよりも私は魔王様だと思う。あなたは勇者なんだし。」
「そっか。勇者と魔王はいつまでも仲良く幸せに暮らしました、とさ!」
言った途端に次第に笑いがこみ上げてきたので、大声で笑った。エルもつられて一緒に笑い出した。こんなに笑ったのは久し振りかもしれない。めでたし、めでたし!
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