363 / 401
第2部 第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第21話 受け継がれる呪い
しおりを挟む
下水道を下りた後は何事もなく、安全に逃走することが出来た。臭いのは慣れないけど。結構長い距離を歩いた。もう既に町の外まで来たのではと思ったとき、少年が再び指示を出してきた。
「……これ!」
目的地近くのマンホールなのだろう。俺はやっと出られることに安堵した。急いではしごを登り、外へ出る。やっと悪臭から解放される。
「……あっち!」
下水道を出た先はいかにも、貧しい人達が住んでいるスラム街という感じだった。この国に来てから初めて見る光景だが、やはりどこの国でもこういう所があるのかと落胆した。夢も希望もありゃしない。自分も梁山泊に入る前は似たような貧しい立場だったので、見ていて心が痛くなる。だが同時に懐かしさも感じた。初心を思い出した。
「……ここ!」
少年の案内で一つのあばら屋に到着した。ここが彼の家なのだろうか? 少年に付いて中へと入る。
「お帰りなさい……、エピオン。」
「……ただいま。」
家の中には簡素なベッドが置かれていて、そこに一人の女性が横たわっていた。彼の母親なのかな? 顔は随分とやつれていて生気があまり感じられない。見るからに体を悪くしている。何かの病気で寝たきりになっているのだろう。
「その剣士様は?」
「町の人に見つかってかこまれてしまったときに、このオジチャンが助けてくれたの。」
お、お、お、おぢちゃん!? まただ。前みたいにおぢちゃん呼ばわりされてしまった。ちくしょう、小さい子からしたらオッサンなのだろう。悪気はないだろうから、怒るわけにもいかない。
「まあ、それはありがとうございます! ……なんとお礼を申し上げてよろしいのやら……。」
「もんも! もんもやーじ!」
ああっ! こんな時にしゃべれないのは辛すぎる。気にしないで欲しいと伝えたいが、今はこれが限界だ。なんとかジェスチャーで首を振ったり、両手でストップして、と言いたげな雰囲気を出してみた。
「まさか、剣士様、言葉がしゃべれないのですか?」
「このオジチャン、も、とか、もげ、とかしか言えないみたい。」
少年のフォローにも助けられ、一応しゃべれないことは伝わったみたい。大きく顔を縦に振って肯定の意志を伝える。
「まあ、それは……。剣士様も不幸な身の上なのですね。その身の上で立派な剣士になられたのですね。すばらしいですわ。」
なんか大げさに解釈されてしまったようだ。あくまで一時的にしゃべれないだけなんだが。……それよりも俺を剣士様と呼ぶことが気になる。勇者とは認識されてないっぽい。記憶の世界では額冠の被認識能力が機能しないのだろうか? エルの弟を名乗るあの少年もいちいち勇者であることを確認してきた。そうである可能性が高い。
「私たち親子はいわゆる“悪魔憑き”と呼ばれる者です。かつて私は、今は亡き夫と共に魔族によって呪いを受けた身なのです。夫もそれが原因で命を落とし、私も体を蝕まれています。後に生まれたこの子も同じ呪いを受け継いでしまったのです。」
「ももめや?」
何だって? 悪魔憑き? この呼び方は初めて聞いたが……まるで、エルとそのお母さんと同じじゃないか! 経緯は違うんだろうけど、悪魔と同等の扱いを受けているから同じだ。
「呪いは他の人に感染すると言われているために、人から恐れられるのです。なので、私たちは人の目を避けて生活しています。」
魔族に傷を負わされ、後遺症が残る。それは他人にも感染する可能性があると聞いている。でも、それはある程度強い闇の力でないと発生しない現象でもあるらしい。それこそエルのように体内にコアが発生しない限りは。
「私たちがこのスラムに住み始めてから、他の方に感染したところは見たことがありません。あれはただの噂なんだと思います。人々は悪魔を恐れるあまり私たちの様な人間を遠ざけたいのです。」
少年の母は涙ながらに語った。俺はただ、この人の考えに同調するようにずっと相づちを打ち続けた。世間の悪魔に対する知識が間違っていることは、魔王達と対峙してみてわかったことだ。ヤツらは恐ろしい存在だが、思ったほど伝染能力は持っていないと俺は考えている。エルを見ていても影響がないことは自明の理だ。
「ですが、私たちにはどうすることも出来ません。一度、悪魔憑きと思われてしまったら、ずっとそのままなのです。多分、この子も一生……、」
この少年もエルと同じ様な人生を歩むことになるんだろうか? 確かにお母さんよりも強い闇の力を感じる。しかも、彼は体に悪影響が出ていないようにも見える。エルと同じで闇の力に適性があるのかもしれない。
「もるも……。」
無駄かもしれないが、試してみたいことがある。でも、やらないと感情の収まりがつかいない。救ってあげたいんだ、この人達を! せめてお母さんを蝕んでいる闇の力を斬って楽にしてあげたい。
「な、何を……?」
「オジチャン、止めて!」
俺がいきなり剣を抜いたんだ。当然の反応だろう。口で説明できないし、出来たとしても信じられない話だろうから、そのまま試すことにした。
「もうめつ、まもみん!」
霽月八刃、ダメ元で試す。剣を振り下ろしたとき、周りの風景が急にぼやけ始めた。目の前の親子も驚いた表情のままで固まっている。次第に姿が薄くなり、虚空にかき消えてしまった。同時に風景も暗転し、別の場所へと切り替わる。
「もっもす……。」
やっぱり記憶の世界なんだ。記憶の中の範疇でしか世界が動かない。記憶を持つ本人に影響はあるのかもしれないが、ここで終わりだ。誰の記憶かはわからなかったが、どこかに本人がいるはずだ。今は無事であることを祈りたい。
「……これ!」
目的地近くのマンホールなのだろう。俺はやっと出られることに安堵した。急いではしごを登り、外へ出る。やっと悪臭から解放される。
「……あっち!」
下水道を出た先はいかにも、貧しい人達が住んでいるスラム街という感じだった。この国に来てから初めて見る光景だが、やはりどこの国でもこういう所があるのかと落胆した。夢も希望もありゃしない。自分も梁山泊に入る前は似たような貧しい立場だったので、見ていて心が痛くなる。だが同時に懐かしさも感じた。初心を思い出した。
「……ここ!」
少年の案内で一つのあばら屋に到着した。ここが彼の家なのだろうか? 少年に付いて中へと入る。
「お帰りなさい……、エピオン。」
「……ただいま。」
家の中には簡素なベッドが置かれていて、そこに一人の女性が横たわっていた。彼の母親なのかな? 顔は随分とやつれていて生気があまり感じられない。見るからに体を悪くしている。何かの病気で寝たきりになっているのだろう。
「その剣士様は?」
「町の人に見つかってかこまれてしまったときに、このオジチャンが助けてくれたの。」
お、お、お、おぢちゃん!? まただ。前みたいにおぢちゃん呼ばわりされてしまった。ちくしょう、小さい子からしたらオッサンなのだろう。悪気はないだろうから、怒るわけにもいかない。
「まあ、それはありがとうございます! ……なんとお礼を申し上げてよろしいのやら……。」
「もんも! もんもやーじ!」
ああっ! こんな時にしゃべれないのは辛すぎる。気にしないで欲しいと伝えたいが、今はこれが限界だ。なんとかジェスチャーで首を振ったり、両手でストップして、と言いたげな雰囲気を出してみた。
「まさか、剣士様、言葉がしゃべれないのですか?」
「このオジチャン、も、とか、もげ、とかしか言えないみたい。」
少年のフォローにも助けられ、一応しゃべれないことは伝わったみたい。大きく顔を縦に振って肯定の意志を伝える。
「まあ、それは……。剣士様も不幸な身の上なのですね。その身の上で立派な剣士になられたのですね。すばらしいですわ。」
なんか大げさに解釈されてしまったようだ。あくまで一時的にしゃべれないだけなんだが。……それよりも俺を剣士様と呼ぶことが気になる。勇者とは認識されてないっぽい。記憶の世界では額冠の被認識能力が機能しないのだろうか? エルの弟を名乗るあの少年もいちいち勇者であることを確認してきた。そうである可能性が高い。
「私たち親子はいわゆる“悪魔憑き”と呼ばれる者です。かつて私は、今は亡き夫と共に魔族によって呪いを受けた身なのです。夫もそれが原因で命を落とし、私も体を蝕まれています。後に生まれたこの子も同じ呪いを受け継いでしまったのです。」
「ももめや?」
何だって? 悪魔憑き? この呼び方は初めて聞いたが……まるで、エルとそのお母さんと同じじゃないか! 経緯は違うんだろうけど、悪魔と同等の扱いを受けているから同じだ。
「呪いは他の人に感染すると言われているために、人から恐れられるのです。なので、私たちは人の目を避けて生活しています。」
魔族に傷を負わされ、後遺症が残る。それは他人にも感染する可能性があると聞いている。でも、それはある程度強い闇の力でないと発生しない現象でもあるらしい。それこそエルのように体内にコアが発生しない限りは。
「私たちがこのスラムに住み始めてから、他の方に感染したところは見たことがありません。あれはただの噂なんだと思います。人々は悪魔を恐れるあまり私たちの様な人間を遠ざけたいのです。」
少年の母は涙ながらに語った。俺はただ、この人の考えに同調するようにずっと相づちを打ち続けた。世間の悪魔に対する知識が間違っていることは、魔王達と対峙してみてわかったことだ。ヤツらは恐ろしい存在だが、思ったほど伝染能力は持っていないと俺は考えている。エルを見ていても影響がないことは自明の理だ。
「ですが、私たちにはどうすることも出来ません。一度、悪魔憑きと思われてしまったら、ずっとそのままなのです。多分、この子も一生……、」
この少年もエルと同じ様な人生を歩むことになるんだろうか? 確かにお母さんよりも強い闇の力を感じる。しかも、彼は体に悪影響が出ていないようにも見える。エルと同じで闇の力に適性があるのかもしれない。
「もるも……。」
無駄かもしれないが、試してみたいことがある。でも、やらないと感情の収まりがつかいない。救ってあげたいんだ、この人達を! せめてお母さんを蝕んでいる闇の力を斬って楽にしてあげたい。
「な、何を……?」
「オジチャン、止めて!」
俺がいきなり剣を抜いたんだ。当然の反応だろう。口で説明できないし、出来たとしても信じられない話だろうから、そのまま試すことにした。
「もうめつ、まもみん!」
霽月八刃、ダメ元で試す。剣を振り下ろしたとき、周りの風景が急にぼやけ始めた。目の前の親子も驚いた表情のままで固まっている。次第に姿が薄くなり、虚空にかき消えてしまった。同時に風景も暗転し、別の場所へと切り替わる。
「もっもす……。」
やっぱり記憶の世界なんだ。記憶の中の範疇でしか世界が動かない。記憶を持つ本人に影響はあるのかもしれないが、ここで終わりだ。誰の記憶かはわからなかったが、どこかに本人がいるはずだ。今は無事であることを祈りたい。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
剣客居酒屋 草間の陰
松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる