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第2部 第1章 はぐれ梁山泊極端派【私の思い出に決着を……。】
第9話 シケにはご注意ください。
しおりを挟む俺以外のメンバーが自称婚約者ラヴァンの提案に賛成するとは思えなかった。特にミヤコが黙ってはいないだろう。でも、反対意見は出なかった。おそらく俺と同じく、エルの思念波を受け取ったのだろう。渋々受け入れているようだ。そのためか表情は硬い。特定の一人を除けば……。
「シケまくってんな……。」
町に入った。ラヴァンの案内で入っていったが、風当たりが強い。俺の勇者補正ですら、無効化されている。みんなエルのことしか見てない。ざわついている。
「……。」
当人が一番辛いはず。エルはうつむいて暗い表情になっている。彼女はこうなるのを想定していたんだろう。確かに辛い。側にいてあげたいが、ラヴァンの提案を受け入れてしまったので彼女はヤツの側にいる。歯がゆい。
「いやあ、なんか噂されてるっぽいッスね! さすが師匠ッス!」
「お前なあ……ちょっと黙っててくれる? 今そういうのじゃないから。」
「勇者としての余裕を見せるんスね。さすがッス!」
約一名、空気が読めてないヤツがいる。コイツは思念波を受信しなかったのだろうか? まあ、会ったばかりだし、エルも気が引けたんだろう。俺も嫌だし。
「やっぱり、あの時のことを憶えているんですね、皆さん……。」
例の事件の前に町にアンデッドモンスターが出没するようになったと聞いた。その数がだんだん増え、町の被害も大きくなる一方だったらしい。町の人達も被害者だ。とはいえエルは悪くない。悪くないはずなのに……。
「貴女が気にする必要はありません。私が必ずこの状況を覆してみせます。」
こんな状況で気にするなとか言うなよ……。今が辛いんだから、そこを何とかしろよ。フォローが理屈っぽい。そんなもん、なんの足しにもなりゃしねーんだよ! これだから、頭でっかちのヤツは……。
「着きましたよ。貴女の思い出の家に。」
一際、大きな屋敷の前にやってきた。この町自体大きな家とか屋敷が多かったのだが、住んでいる人の層が今まで見てきた町と違う。昨日までいた宿場町とはエラい違いだ。金持ちとか貴族ばっかりなのだろう。そのなかでも大きい屋敷なんだから、エルの実家はそうとう格式が高いのだろう。ガチのお嬢様だったわけだ。
「変わってませんね……。」
エルはぽつりとつぶやく。普通、この言葉を言う人は懐かしんだりして嬉しそうにしてるもんだが、エルの表情は悲しそうだった。俺は元々実家なんてものがないから、どういう気持ちになるのかわからないが、故郷に帰ってきて喜べないのは不幸なことだと思った。安心できるはずの場所が辛い思いでしかないなんて……。
「さあ、入りましょう。入って叔母上に会わなければ何も始まりませんからね。」
門を開けて中に入ろうとしたその時、横から誰かがやってくる気配がした。屋敷の人かな? それとも近所の人か?
「あらあら、ラヴァン様! 何処へ出かけていたかと思ったら……疫病神に取り憑かれるなんて、物騒じゃないかしら? 屋敷に入るんでしたら祓ってからにしてくださいまし。」
見てみれば、明らかにお嬢様という出で立ちの女の子がそこにいた。髪の毛は肩までの長さで赤毛。赤色をメインにした服装…ローブ風の衣装を着ている。全身まっ赤っか。派手だ。と言っても、ミヤコとは路線が違う。露出度は当然低いし、高そうな服を着ている。そして……何よりも、誰かに似ているような気がした。
「……ヘイゼル。従姉妹とはいえ、彼女は君の姉上同然だろう。疫病神などという不名誉な呼び方は決して許されるものではない。訂正し給え!」
コイツが! エルの従姉妹! 言われてみれば、確かにエルと顔立ちが似ている。強気そうな目付きと髪の色、長さが違うといった感じだ。
「だってそれ以外に呼びようがないじゃない? それとも魔王と呼んだ方がいいかしら?」
「……!?」
エルが息を飲む気配がした。ショックを受けているに違いない! そう思うと、俺はこの女を許せなくなってきた。姉に対して言うような言葉じゃない! 今すぐにでも、殴りかかりに行きたかった。
「ラヴァン、ヘイゼル。それぐらいにしておきなさい。グランデ家の屋敷の前で狼藉を働くのはおやめなさい。当主である、あたくしが黙っていませんよ!」
屋敷の方からいつの間にか、一人の女性がやってきていた。口ぶりからすると、この人がエルの叔母さんってことか!
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