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第5章 完成!究極の超次元殺法!!
第332話 たとえ泥まみれになってでも
しおりを挟む「お願い!! 消えないで!! ロアーっ!!」
俺の意識はその声に呼び起こされた。俺を待っていたエルの声だ。傷ついた体でこの場に駆けつけてくれたんだろう。来てくれなかったらこのまま死んでいたかもしれない。目の前には全てを飲み込む滅びの光が迫っていた。でも、不思議と落ち着いていた。
「虚空……滅光っ!!」
自然と体が動いた。ついさっきまで意識がなかったけど、同じ事をしていたと思う。初めて見た技でも使える。いや、見たことがあるのかもしれない。ちょっと先のことくらいは手に取るようにわかる。だから出来た。
(ズオオオオオオォォォォォッ!!!!!!)
光の奔流同士がぶつかり合い、互いを消滅させ消えていく。残ったのは技によって抉られた地面だけだった。人は誰一人として巻き込まれていない。相手の…宗家でさえも。
「馬鹿なっ! 秘伝の禁じ手を見様見真似で使用した上、相殺しただと! こんなことがあっていいのか!!」
宗家は茫然自失としていた。完全に無防備だった。彼らしくない姿を見せていた。
「ロアよ、今こそあの技じゃ! 最後にお見舞いして、この試合に勝利するのじゃ!!」
サヨちゃんが大声で叫んでいる。応援に来てないと思っていたのに来てくれていたのか! 俺は落ちている剣を拾いに向かった。
「超次元殺法、戦技一〇八計、究極奥義……、」
剣を手に取り、技の構えに移行する。同時に額の辺りが熱くなったような気がした。そして、額冠を付けているときのように、勇気が心の底から溢れてきた!
「天破陽烈……八刃斬!!!」
太陽のような光を帯びた刃が迸る。無防備な体勢の宗家の体をなぎ払った。不思議と彼の体は切り裂かれる事はなく、その場に倒れた。
「終わった。手応えあり!」
終わった瞬間、周囲は静まりかえった。あまりの出来事にみんなが見とれていた。俺でさえ見とれてしまうような光景だった。
「くっ……見事な一撃だった。口惜しいが私の負けだ。最早動くことすら出来ぬ。さっさと止めを刺せ。」
「駄目だ、刺さない。アンタの指図は受けない。それに……アンタ自身が言ってたじゃないか。敗者に権利はないって。俺は止めを刺さないよ。殺すのはそもそもルール違反だし。自殺も出来ないようにしといた。」
「な……何!? そんな馬鹿な!?」
舌を噛んで死のうとしたのだろう。何かをしようとして失敗していることは見ているだけでもわかった。そうなることはわかっていたので、奥義で“自決する可能性”を斬っておいた。普通、敵を斬る行為は相手の命を奪う行為だ。だが究極奥義は違う。相手から生殺与奪の権利を一時的に奪う事が出来る。相手を死なせずに無力化する。全ての八刃を超越した効果を持っているんだ。
「それから……エルの件、彼女の思いを汲み取って、負わされた怪我そのままで試合に臨んだことは感謝してる。あれはあんたなりの“慈悲”だと解釈した。“慈悲”には“慈悲”で返したってことにしといてくれ。」
「“慈悲”など当の昔に捨て去った。あれは“慈悲”ではない。勝手なことをぬかすな!」
「はいはい。」
二人が会話を進める中、一人の人物が駆け寄ってくる気配がした。司会の人だ。俺たちの戦いに巻き込まれる可能性を考えて離れたところにいたようだ。
「お話の途中申し訳ありませんが、試合の続行は如何致しますか?」
司会の人は宗家に継戦の意志を確認しに来た。ルール上は俺が一本取っただけだし、両者ともに意識がある状態だ。
「私の負けに決まっておろうが! どの道、私はこれ以上動くことは出来ぬ。降参で構わんぞ!」
「では、パイロン選手、降参するということでよろしいですね?」
「そういうことにしておけ。はよう、決定を下すがよい!」
宗家の意志を確認した司会の人は振り返り、観客席を見渡す姿勢をとった。
「たった今、決勝戦の勝敗が確定しました! 壮絶な決戦の末、パイロン選手は九十八本、勇者様は二本という結果となりました。」
二本? いつの間に俺は一本取っていたのだろう。意識のなかった間にダウンを取ったのだろうか? こればっかりは誰かに聞いてみないとわからない。
「ですが、勇者様は形成を見事に覆し、パイロン選手の連勝を止めた上で、大技を決めました! 結果、パイロン選手は継戦不能の意思を示しました。よって……勇者様の勝利をここに宣言致します!! 波乱の大武会をついに制しました!!!」
爆発したかのような大音声で会場が湧き上がった! 一瞬にして雰囲気は興奮と熱気、感動の渦に包まれた。みんなが俺を祝福している。
「やりやがったな、バカ野郎! 散々心配かけさせやがって! 今後やったら承知しねえぞ!」
ファルが一番に駆け寄ってくる。コイツが俺の心配するなんて、随分変わったな。
「優勝おめでとう! やはり君は真の勇者だ!」
俺と同じく宗家に全身傷だらけにされたはずのエドも駆けつけた。包帯などがまだ残っているが、元気そうだ。とはいえ真の勇者は言い過ぎなんでは? 照れるだろ!
「あの逆境を撥ね除け勝利するとは恐れ入る。拙者が容易に追いつけぬ境地に、お主は辿り着いたようだ。」
侍が俺の応援に来ているとは意外だった。追いつけない? いやいや、俺はアンタのストイックさに追いつけないよ……。
「ああもうバカっ!! あんなコトできるんなら、最初っから使いなさいよ! 出し惜しみしてんじゃないよ!」
言ってることとは裏腹に俺を罵声し、涙でぐしゃぐしゃにしながら、ミヤコが駆け寄ってきた。出来なかったから、苦戦したんですが?
「ア、アニ……おうあっ!? バタン!? キュウゥッ!?」
タニシがヘンなところにけっ躓いて転んで、果てには失神した。何しに来たんだ、お前……。 それ以外の人達……サヨちゃんはまだ観客席の方にいた。こちらには背を向けている。試合の最後に声をかけてきたクセに……。多分、ミヤコのように号泣してる顔を俺に見せたくないんだろう。相変わらず素直じゃないなあ。
そしてレンファさんは……自分の愛弟子のもとへと駆け寄っていた。俺を祝福するよりもエルのことを気遣ってくれていることの方が俺は嬉しかった。
「みんな、ありがとう。俺の勝利じゃない。ここにいるみんなの勝利だ!」
仲間だけじゃなく、会場の人々の期待、応援があったからこそ勝利できた。俺一人で勝ったわけじゃない。だからこそ感謝しなきゃいけない。そして……俺をずっと待っていてくれた人がいる。
「悪いけど、ちょっとどいてくれるかな? 先にやらないといけないことがあるんだ。」
駆け付けた仲間をの中をかき分け、俺は自分にとって最も大切な人のもとへと向かう。
「勝てたね。おめでとう。本当によかった。」
エルは少し苦しそうな顔で俺を祝福する。みんなには悪いけど、この試合の最大の功労者は……エルだ!
「戻ろうか? 医務室に。」
「ちょっと……無理はやめなさい! あなた、彼女よりも怪我してるのよ! 自分の体を労りなさい!」
レンファさんは俺を気遣ってくれてはいるが、この役目は他の誰にも譲れない。俺はエルを抱きかかえ、医務室へと向かう。不思議と体の痛みは感じない。エルの体を抱きかかえるのは逆に心地よかった。
「ゴメン、レンファさん。この役目は誰にも任せられないんだ。」
エルの心地よい体温を腕に感じつつ、俺は医務室へと歩いて行った。
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