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第5章 完成!究極の超次元殺法!!
第331話 幻の奥義
しおりを挟む「あと二つ! もはや貴様は死んでいるも同然! 遠慮無く勝利させてもらう! これで九十九本目だ。」
相手は倒れた。これであと一回、それが終わればやっと処刑が完了する。我ながら酷な処刑を考えたものだ。せいぜい二、三十回で終了することを想定していた。九所封じを使用した時点で大抵のものは心が折れる。だが、この男は終わらなかった。骨の折れる仕事だ。歳だけは取りたくないものだな。
「ロア、起きて! 立ち上がらないとあなたが負けてしまうわ!」
槍覇は懸命に呼びかけている。この試合の合間に、この女は私の行いを非難したりしているが、私は意に介していない。私は意識的に遮断していた。所詮、雑音に過ぎないからだ。戦いに於いて、他者の非難を気にしていては迷いや隙をつくる事となる。どう言われようと、冷静に冷徹に冷酷であることを心掛けている。
「起きろ相棒! テメエはこのまま負けていいのか! 俺は認めねえぞ!」
「ロア! 私の知る君はここで終わるような男ではない! 立って君の信念の強さを見せてくれ!」
「勇者よ! お主はこのまま敗者となるのか! ここで死ぬるは、拙者を侮辱したも同然の行為だ! 死して恥をさらすは武人として失格だ!」
「だから逃げろって言ったのに! 逃げないからこんなことになったんじゃん! だったら責任とってさっさと起きて、勝ちなさいよ、このバカぁ!!」
数多くの声が聞こえてくる。何故だ? 何故、此奴ごときの男を慕うのだ? 何も成し遂げられぬ様な男を支援したところで何の得にもならぬというのに。所詮は弱き者どもの戯言だ。その様な愚かな幻想を今日限りで終わらせる。叩き潰す。所詮は力が全てを制し、強者こそが法となるのだ。そこに弱者が付け入る余地など微塵にも存在しない。
「起きて!! 負けないで、ロアーっ!!!」
この声はまさか! まだ、動けるはずがない! 私は恐る恐る振り返り、声の主を探った。あの娘がいた! 地面に這いつくばっている。しかも手助けしている者などいない。病室から一人で出てきたというのか?怪我で禄に動けない体でどうやって一人でここまで来たというのだ! この男の為に何故そこまで出来るのだ!恐ろしい。何故ここまで多くの者を狂気的な行動に駆り立てるのだ! 確実に処断せねば! この世から抹消してみせる!
「……。」
背後から無言の気配を感じた。声も発さず、音を立てることもなく、あの男は立ち上がっていた。目には光がない。おそらく意識はない。だが異様な気配を感じる。私の感が脅威と見なしている。どうあろうと、あと一回倒すだけだ。ただそれだけで済むはずのことが、途方もない困難な事の様に思える。
「ええい、しぶとい奴め! おとなしく死ねぃ!」
この男は異様にしぶとい。実力とは不似合いなくらいに体力がある。才能ある者でも、ここまで体力を保持している者はいない。第一、ここまで体力を有していても無駄なはずなのだ。何処で何に活用するというのだ? 天は何を意図してこのような者に途方もない体力を与えたというのだ? 宝の持ち腐れも良いところだ!
(……どきゅっ!)
骨の何本か折れているであろう、脇腹に突きを喰らわせた。だが、感触がおかしい。まるで餅でもつついたようなしかない。異様だった。恐ろしいとさえ感じた。
「……。」
相手は無造作な動きで私の肩を掴んだ。何をしようというのだ? このような技とも言えぬ動きなど、簡単に振り払ってくれる!
「むっ、ぐっ!?」
外せない! まるで力は籠もっていないのに、石像のように硬く動かせない。
(……ゴギン!)
「……ぐうっ!?」
そのまま無造作な動きで肩の関節を外された! 技とも言えぬ動きで不覚を取った。何をした? この男は体術の知識など持ち合わせてはいないはず。
「……ぐぬうっ!?」
外された肩を自力で元に戻す。最早、躊躇している場合ではない。最大最強の技で仕留めるのみ!
「離伯月影……闡嘉八掌っ!!!」
生涯でも数えるほどしか使ったことがない。どちらかの奥義で大抵の者は崩れ去った。双方を駆使するほどの相手などわずかに存在するだけだ。このような男に使用するのはある意味で屈辱だ!
「八方から技を繰り出されて対応できる者など、この世に存在せぬ!」
八人となった自身で八掌を構成する技、それぞれを繰り出す。それぞれが一撃必殺の威力を持つ。これを八回分繰り返す。それが我が奥義八掌だ!
「まずは一つ……!? がはっ!?」
あり得ないことが起きた!全ての攻撃が同時に返された。しかも、素手による攻撃で! この男が習得しているはずのない、拳覇の技で!
「まぐれに決まっている! 二つ……!? ぐぬうっ!?」
同じだった。再び返された。それぞれ先程と違う技を違う方向から放ったというのに?
「三つ……!? かはっ!?」
「四つ……!? ぎっっ!?」
「五つ……!? ぐうっ!?」
「六つ……!? げほっ!?」
「七つ……!? ぐふぅっ!?」
「八つ……!? ごばぁっ!?」
全て返された。不覚にも視界が歪み、足に力が入らず、その場に倒れ込んでしまった。奴の使った技はもしや……幻と言われたあの奥義では……? 実在すら疑われていたというのに! だが、それ以外ありえん! 全て柳のごとくしなやかに受け流し、そのしなりで大岩をも打ち砕く……伝承にうたわれるあの技、そのものではないか! 天破奥義……有形無形!
「おおおおーっと!!! どういうことでしょう!! 百本目を目前にして、パイロン選手がついにダウーーンッ!! 我々の声援を受けて勇者様が奇跡の復活を果たしましたぁ!!」
倒れた。そうか、途中で規則が変わったことが裏目に出てしまった。一度とは言え、この私が“敗北”を許してしまった。私は“死”んでしまったのだ!
「私に“死”を与えた屈辱、その身で償って貰うぞ!」
私はもう一つの禁じ手、悪鬼羅刹の技を以て、目の前の男を滅する決意をした。一度死んだ身だ。例え外法を用いてでも、勝利を掴む! 両手をそれぞれ上段と下段に据え、闘気を全身に集中させる。
「禁じ手、虚空……、」
「駄目だ! 宗家、その技は使ってはいけない!この場全ての人を巻き込むつもりですか!」
技を知る槍覇が制止しようとしている。だが、聞く耳など持たぬ。幻の技には同じく幻の技を以て制す! この技は自らの闘気を波動として放ち、敵を文字通り滅する技だ。あまりの威力故、周囲を巻き込む大技だ。地形さえ変えてしまうほどの威力があるのだ! ここまで追い詰められた。使わぬ訳にはいかぬのだ!
「……滅光ぉっ!!!!!!」
(ズオオオオオオォォォォォッ!!!!!!)
闘技場は闘気が放つ光に埋め尽くされていった。
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