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第4章 勇者の剣と剣の巫女
第233話 師、曰く。 ~せきへきはいすいじん~
しおりを挟む「相変わらず体力だけは有り余ってますね。あなたを疲れさせるのに、こんなに時間がかかってしまうとは。」
鍛錬の途中で師父はため息交じりに言った。今日も朝から、ある技を習得するための鍛錬を行っていた。鍛錬は果てしなく続き、今はもう夕暮れ時になっている。
「技が習得できないもんだから、ひたすら練習して、っていうのを繰り返してたら、嫌でもこうはなりますよ。でもさすがに俺も疲れてきたっす。朝からずっとだし。」
習得できないことが基礎訓練の繰り返しになり、加えていつまでも下っ端だから、雑用も多く熟さないといけない。それが俺の体力を高める結果になっている。
「別に悪い傾向ではないですよ。技を極めても体力に不安のある者は意外と多いんです。勝利至上主義に走りすぎた結果がもたらした結果とも言えます。」
「でも、“勝たずば全て灰燼に帰す”とも宗家がいつも言ってるじゃないすか?勝たないと死んでしまうこともあるだろうし……。」
梁山泊において、定期的に行われる式典などで良く耳にする言葉だ。宗家はいつもこの言葉を引き合いに出し、鍛錬を怠るなとか、勝つことを躊躇うなとかいう話を訓辞で述べている。
「私はそれを必ずしも正しいとは思っていません。非情な戦場においてはある意味正しいと言えるかもしれない。でも、負けたからこそ得られることもある。逃げなければわからないこともあります。」
「負けたり、逃げたり……、それに何か意味があるんですかね?ただの負け犬になってしまうだけなんじゃ……。」
今の俺がそうだ。負けまくっているし、失敗ばかりしてる。その上で得られた物なんか何もない。実感がない。負け犬、落ちこぼれという称号ぐらいしかない。
「普通はそう考えてしまうでしょう。今はそう思うかもしれません。あくまでも“今”がそうであるだけです。後々に思い返したら、無駄ではなかったと思える時が来ます。必ずね。」
「それっていつになるんですかね?」
「さあ?それはあなた次第ですよ。」
到達点が見えない。俺はいつになったら、そこにたどり着けるんだろうか?
「話が逸れてしまいましたが、鍛錬を続けましょう。あなたが疲れるまで鍛錬を続けたのには意味があります。今の疲労した状態であの岩を破竹撃で斬ってみて下さい。」
師父は少し離れたところにある大岩を指差した。斬る?斬るって言ったって限度にも程がある。しかも疲れ切った今の力では到底無理そうだった。
「む、む、む、無理っすよ!」
「いいから、いいから。一度やってみなさい。」
言われるがままに、大岩の正面に立ち技の体勢を作る。いつもより重く感じる剣を上段に構える。
(集中、集中。余計な事は考えるな。)
疲れてはいるが、かえって雑念がなくなっていた。斬ることに対しての余力しかないからかもしれない。
「破竹撃!」
剣が折れてもいいという覚悟で、思い切り振り下ろした。すると折れるどころか、スッと振り下ろすことができた。あれ?
(ピシッ!)
「できた!」
「やれば出来るじゃないですか。私が思ったとおりです。これが“堰壁背水陣”です。これが今日教えたかった技です。」
「これが?……でも、普通の破竹撃ですよ?」
「岩を斬ったこと自体はね?技の威力を増幅したのは背水陣の効果です。実はあなたはすでにこの技を習得していたんです。」
「どういう意味ですか?」
「あなたは初めて破竹撃を習得したとき、この技の原理を使っていたんです。自然と体得していたんです。あなたの日々の基礎鍛錬があったからこそ出来たのです。」
自然と出来ていた?まるっきり実感がなかった。技を意識したことも、知識としても知らなかったのに何故?
「ここで先程の話に繋がってくるわけです。苦しみ、敗北感、それを感じてもひたむきに前に進んで努力してきたからこそ、それが結果に繋がったのです。今こそ、無駄ではなかったと思えるのではないですか?」
これが……そうなのか?今はわからない。不思議でしかたなかったからだ。いつかわかる日が来るんだろうか?
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