【第1部完結】勇者参上!!~東方一の武芸の名門から破門された俺は西方で勇者になって究極奥義無双する!~

Bonzaebon

文字の大きさ
上 下
78 / 401
第2章 黒騎士と魔王

第78話 今、悪夢を斬る!!

しおりを挟む
 三皇の精神。おそらく、今の自分に必要なのは、それだと思った。長らく忘れていたけど、エルちゃんを守りたい、救いたいという気持ちが自然と思い出させた、引き寄せたような気がする。


「あとはそれをどうやって実現するかだ!」


 今、サヨちゃんはエルちゃんと戦っている。ほぼ互角に見える。サヨちゃんはあくまで回避に専念し、攻撃はあまりしていない。俺を助けたときぐらいだろう。


「このっ、このっ!トカゲ女めえっ!」


 エルちゃんは必死に攻撃していた。今まで俺たちを相手にしていたときよりも勢いがある。


「誰が蜥蜴じゃ!このたわけがっ!蜥蜴ごときと妾を一緒にするでないわ!」


 魔王が相手とはいえ、サヨちゃんは本気をだしていないみたいだ。出したら出したで大変なことになるだろうけど。でも、なにか疲れているようにも見える。あの謎の魔女と戦ったからだろうか?


「サヨちゃん、待たせてゴメン!今、戻ったぜ!」

「……!?おお!回復したか?」


 エルちゃんの攻撃を躱し、隙を見て俺の所までやってきた。やっぱり、彼女は疲労があるようだ。少し息が上がっている。こんな姿は見たことがない。……早いとこ決着を付けないと、本当に全滅してしまう。


「……して、そなたはどのような算段があるのじゃ?」

「八刃だよ。あの技を使う。」

「ということは、二段階目に挑むのじゃな?」

「ああ。」


 あの技の神髄について、サヨちゃんが独自の分析をしていた。少し俺の記憶を見ただけで「最早、魔術の領域に近い」と本人が悟ったように、解析を進めるにつれて、それが正しかったことが証明されていった。


「見えない物を斬る、それを実現したい。」


 八刃は全部で八段階あることもわかった。一段階目は壊せない物を斬る。二段階目は見えない物を斬る。これを実現できればデーモン・コアを斬ることができるはずだ。


「今はあの時と違って、一刻の猶予もないぞ?本当にできるのじゃな?」


 できるかどうかの確認をしてはいるが、その口調からは「できる」ことを確信しているみたいだ。あの時よりも追い詰められているのに、不思議と負ける気がしない。


「できる!今なら!」

「何をコソコソ話してるの?どうせ、二人で私をどうやっていじめるか、相談でもしてるんでしょ!」


 エルちゃんは俺たちの様子にイライラしているようだった。俺たち二人が仲良くしているのに嫉妬しているようにも聞こえる。


「もうそろそろ、終わりにしよう、エルちゃん。」

「終わり?……やっぱり、殺すんだ!私を!」


 エルちゃんは物凄い勢いで襲いかかってきた。本気で殺す気を感じる攻撃だ。


「三皇の精神……極意、光風霽月!」


 俺は目を閉じ、集中力を高めた。目で見ていなくても、彼女の攻撃が、殺意が手に取るようにわかる。自然と感覚で攻撃を躱す。


「なんで?なんで当たんないの?目で見てないのに!」


 彼女は闇雲に攻撃をしかけてくる。俺はそのたびに躱しつつ、精神を集中させていった。彼女は攻撃のたびに焦り、動揺が積み重なっていくのが気配でわかった。


「コレなら、躱せないでしょ!」


 どす黒い気配が彼女から発せられるのを感じた。多分、これは毒霧だ!


「破竹撃!」


 気配を斬った。感じるままに斬った。斬ったそばから、どす黒い気配が薄れていくのを感じた。


「毒霧を斬った!?嘘でしょ!?そんなのありえない!」


 集中力を高めるに従って、彼女の魂の形がわかるようになってきた。弱々しい輝きが見える。これが彼女の魂だろう。それに覆い被さり食い尽くそうとしているどす黒い闇が見えた。これがデーモン・コアか!


「行くぞ!これで、決める!」


 怯んでいるエルちゃんのところまで、間合いを詰める。この一撃で全てが終わる!


「究極奥義、霽月八刃!!」


 どす黒い闇を、デーモン・コアを切り払う。さっきの毒霧のように消え失せるだろう。ハッキリとわかる。


「い、いま、何を……!?」


 わかるはずがない。今、彼女を斬ったのではなく、デーモン・コアだけを斬ったんだ。彼女を一切傷つけることなく。


「あ、あれ?何これ?」


 そこで俺はゆっくりと目を開ける。目の前にはエルちゃんがいた。次第にデーモンの角、翼、獣毛などが黒い煙のように霧散していった。元より大分大きくなっていた体格も戻っていった。髪の色と目の色も茶色になった。もとはこの色だったのか。


「やりおった!成し遂げおった!!」


 サヨちゃんが俺の代わりに喜びの声を上げる。俺は俺で何故か落ち着いていた。普段の俺なら飛び上がりたいくらい嬉しいはずなのに。


「ぶっつけ本番でよくも見事に成功させたもんじゃのう?普段のそなたから微塵にも感じぬのにのう!」

「これは、あのときとおんなじさ。みんなの助けがなけりゃ、どうにもならなかったさ。これはみんなの勝利だ!」


 そうだ、一人じゃない。一人だけでできるわけない。あの時も同じだった。ヴァル・ムングを倒した時も。


「勇者様!」


 元の姿に戻ったエルちゃんが俺に抱きついてきた。


「もう、なんともない?怪我とか残ってない?」

「何ともありません。……それよりありがとう、勇者様!私を助けてくれて。」


 なんだか照れくさかった。こんなに人から感謝されたのは初めてかもしれない。


「口惜しいけれど、私たちの負けね。」


 突然、邪悪な気配が現れた。あの魔女か?


「勇者……。大したものね。こんな坊やが私の想像を超える働きをするだなんて。ヴァル様を倒したのは、どうやら真実のようね。」


 何?ヴァルの名前がなんで今、コイツの口から出てくるんだ。こいつはまさか……、


「そうよ。貴方の想像した通り、私は邪竜。……レギンよ!」


 何!俺の心が読まれたのか?そんなことより、コイツがレギンだったなんて!


「今回はこのまま引き下がってあげるわ。じっくりと策を練ってから、貴方達を苦しめてあげる。だって、このまま普通に殺しても、面白くないもの。」


 負け惜しみか?このまま相手をしてもいいが、みんなを守り切れるかわからない。怪我人もいるし……。


「また会いましょう。勇者。そして、竜帝のお嬢ちゃん。次に会うときは貴方たちが死ぬ時よ!覚悟しておきなさい!」


 さんざん負け惜しみを言った後、魔女レギンは姿を消した。転移魔法とかいうやつだろうか?


「妾の方こそ、次会うときは返り討ちにしてくれようぞ!」


 サヨちゃんは魔女がいた方向に向かって思い切り、アカンベエーをしていた。この中じゃダントツで年を食ってるくせに、わりと子供っぽいところがあるんだよなあ。


「勇者殿!」


 俺がサヨちゃんにあきれていたところへエドワードがやってきた。そして、右手を差し出してきていた。俺は反射的に握手で答えた。


「見事な技だった。見えぬ物を斬る事など常人には出来ることではない。」


 エドワードは俺の成し遂げたことに対して賞賛していた。その感情には嘘偽りはないようだが、その目の光には何か別の感情を感じた。


「貴公に折り入って頼みたいことがある。」

「え?何?」

「もう一度、私と戦ってはくれないか?」


 ああ、そうか。これは闘志だ!ただ、ただ純粋に強さに対する欲求!そういえば、エルちゃんをどうするかで揉めたときも、決着はうやむやになっていたんだった!


「俺は構わないよ。アンタがそれを望むなら、喜んで受けて立つぜ!」


 俺は構えた。同時にエドワードも構える。決まりだな。お互い、体が闘争を求めている!


「こらああ!!待て待て、待てえぃぃ!!!」


 二人の間にサヨちゃんが割って入ってきた!


「この馬鹿者どもが!そんな体で何をするつもりじゃあ!」


 はっと我に返った。そういえば、エドワードは怪我をしていたんだった!しかも、結構重傷のはず。


「一旦、治療に専念せい!話はそれからじゃ!」


 サヨちゃんは凄い剣幕でエドワードに薬瓶を差し出した。これを飲んで休めという事だろう。


「ウ、ウム。賢者殿の言う通りだな。休ませて頂こう。」


 エドワードは多少引き気味で薬を受け取り素直に従った。このまま推し進めても無駄だと思ったようだ。


「じゃ、じゃあ、俺もきゅうけ……い!!??」


 俺は振り返り、あるものを目にしてしまった。エルちゃんの体を!彼女は一切何も身に付けていなかったのだ!


「……!?」


 俺は両方の鼻の穴から暖かい物が流れ出るのを感じた。その直後に急に目の前が真っ暗になった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...