【第1部完結】勇者参上!!~東方一の武芸の名門から破門された俺は西方で勇者になって究極奥義無双する!~

Bonzaebon

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第2章 黒騎士と魔王

第75話 只今、勇者参上!!

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「…みんな仲良く死んじゃいなさい!!」


 俺が接近する間に事態は悪化していた。クロエが倒れ、エドワードも負傷している。間に合ってくれ!俺は後先考えず全力で走った。

「じっくり、いたぶってあげる!」

 デーモンは腕を振り上げる。コレをなんとか防ぐんだ。

(ガギィィッ!!)

 剣で爪を受け止めた。間に合った!

「勇者殿!」

「遅くなってゴメンよ。……只今、勇者参上!!」

「えっ!?勇者様?」

 デーモンが驚いている。そして……その声は紛れもなく、エルちゃんのものだった。信じたくはないけど、間違いなかった。

「あら!勇者様?あの変態術士はどうしたの?」

「あいつは……今の君を見て発狂してたよ。ていうか、そんなことはどうでもいいんだ。君はほんとうにエルちゃんなのか?」

 見れば見るほど、恐ろしい外見をしていた。彼女らしい部分は顔と声ぐらいしか残っていない。顔も牙や角が生え、鬼のような形相だ。

「勇者様ったらひどい!姿は変わっても、私は私なんですよ!」

 やっぱり、本人なのは間違いなさそうだ。とはいえ性格が変わってしまっている。話していたときの感じだと、この子はハッキリと物を言うタイプじゃなかったはずだ。

「あなたも騎士さんたちと同じで私を倒しちゃうつもりなんでしょ?」

 騎士さんたちと同じ?エドワードたちのことか。俺は最初からエルちゃんを助けるつもりでいた。でも、今の彼女の姿を見てショックを受けている。デーモン化したことから目を背けようともしていた。

「なんでさっきから黙ってるの?何か言ってよ!」

 俺は一体、どうしたいんだ?こんな状態になった彼女を救えるのか?方法はあるのか?

「どうせ、頭の中で私をどう殺すか考えてるんでしょ!」

 彼女は攻撃してきた。さっきと同じで腕を振り上げてきた。

(ギィィィンッ!!)

 俺の体はごく自然に反応して攻撃を受け流して、よけた。とんでもなく速くて強いが、動きが明らかに戦い慣れしていない。素人の動きだ。

「ほら、やっぱり!戦う気、満々じゃない!」

 この子はやっぱり戦い…というか、少なくとも格闘戦には向いていないはずだ。そんな子を……戦わせるわけにはいかない!

「どんどん行くよ!泣いて謝ったって、やめないからね!」

 今度は矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてきた。右から左から。凄い速さと力強さだ。一回でも当たったら死んでしまうかもしれない。でも、動き自体は単調だ。

「一0八計が一つ!峨龍滅睛!」

 大ぶりな攻撃を跳躍してかわし、背後に回りつつ相手の翼を斬りつける。

「きゃあああ!痛いっ!」

 彼女は悲鳴を上げる。それを聞いただけでも、胸が締め付けられる思いだった。

「痛いじゃない!やっぱり、殺すんでしょ!そうなんでしょ!」

 彼女の体を傷つけるのには抵抗があった。そのため、なるべく元の体にはなかった部分を攻撃したつもりだが、予想以上に痛がられてしまった。これじゃ、まともに手が出せない。

「もう、ゆるさないから!同じくらい痛い目にあわせてやるんだから!」

 彼女は更なる攻撃を仕掛けてきた。一回、二回というところで、急に攻撃が止まった。

(ブワァァァッ!)

 いきなり彼女の口から黒い霧のようなものが吐き出された。これはさすがに予想外だった。俺はとっさに顔を腕で覆ったが、あまり効果がなかった。体に痺れが走った。毒か何かか?

「こういうのは防げないでしょ?さすがに勇者さまでも毒には勝てないよね!」

 そのとき、体に強い衝撃が伝わってきた。両手で掴まれた!

「つかまえた!もう、これで逃げられないでしょ!」

 しまった!これじゃ抜け出せない。締め付ける力は想像以上に強く、しかも、さっきの毒霧で体が痺れてまともに力が入らない!

「もう、おしまいね。これから……ゆっくりゆっくり……優しく絞め殺してあげるね!」

 打つ手はないのか。でも、どうせ死ぬなら、最後に彼女に聞いておきたいことがある。

「なあ、エルちゃん。……君はこのままでもいいのか?」

「何?命乞い?今さら何言ってるの?」

「このまま魔王になってしまってもいいのか?」 

 体を締め付ける強さが止まった。でも、容易に抜け出せるほどじゃない。

「だって、そうするしかないじゃない!もう、戻れないよ!だったら魔王になって、世界なんか滅ぼしちゃうしかないよ!」

「君はそんな子じゃない。そんなことをしちゃいけない。」

「何よ!きれい事なんか言っちゃって!そんなこと言っても何も変わらないよ!」

「はっきり言って、君には向いてないよ。戦いに向いてないのは見ていてもわかる。」

「向いてなくても、これから人を殺しまくって練習すればいいだけよ!」

「無理だね。君には無理だよ。君は優しすぎるんだ。」

「何寝言言ってんの!」

 さっきまで止まっていた締め付けを再開し始めた。さらに力を込めている。

「だって、ここに隠れていたときもそうじゃないか。……隠れながら人に近付かないように、ひっそり隠れてたじゃないか。」

「それが何だって言うの!」

「君は人に感染させないようにするために、そうしてたんじゃないのか?人のことを気にしてないなら、人のいる町にでも行ってたはずだ。」

「……!?」

「優しいから、そういう風にしてたんじゃないのかな?俺には…そう思えたよ。」

 俺は彼女の顔をじっと見つめていた。その目には涙が浮かんでいた。やっぱり心から魔王になりたいわけじゃないんだな。

「君を必ず人間に戻してみせるさ。絶対に助けてみせるさ!」

「そんなの絶対、無理!!」

 締め付ける力が一層強まる。なんとか、脱出しないと!

(バシュッッッ!!!)

 そのとき、一筋の閃光がエルちゃんの腕を貫いた。

「うぎゃあああっ!!」

 絶叫に近い悲鳴が上がった。それと同時両手の力が弱まった。チャンスだ!抜け出すのは今しかない!

「ロアよ、遅くなってすまぬ!魔王よ、これ以上はお前の思い通りにはさせん!」

 サヨちゃんがいた!人差し指をこちらに向けて立っている。さっきのはサヨちゃんの魔法だったのか!

「ありがとうよ!サヨちゃん!これならなんとかなりそうだぜ!」

 今、俺の中では最善の策が浮かびつつあった。エルちゃん、絶対に助けてやるからな!
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