【第1部完結】勇者参上!!~東方一の武芸の名門から破門された俺は西方で勇者になって究極奥義無双する!~

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第2章 黒騎士と魔王

第73話 黒の兵団の掟~タクティクス№0~

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「ぐ……、うう……、」


 ……私は一体?……そうだ!私は魔王に体を貫かれ重傷を負い、不覚にも意識を失っていたようだ。


「イグレス様!意識が戻ったのですか?」


 地面に横たわった自分の傍らにはクロエがいた。回復魔法を使って私を死の淵から呼び戻してくれたのだろう。


「申し訳ありません!治療に専念したいのはやまやまですが……、」

「構わんよ。私は兼々君にはデーモンの殲滅を優先するよう教示しているからな。」

「タクティクス№0、仲間の命よりもデーモンの殲滅を優先せよ、ですね?」

「その通りだ。よくわかっているではないか。それを実践してくれればいい。」


 負傷した私はただの足手まといに過ぎない。彼女の力ならば、例え重傷であっても治療することは出来る。だが、今の状況下においてはそれは難しい。魔法力にも限界はある。敵を倒すことに残りの力を注がねば勝つのは困難だろう。


「死ぬ覚悟はできた?じゃあ、みんな仲良く殺してあげるね!」


 魔王は手に魔力を収束し始めている。今までとは比べものにはならないほどに強い力を感じる。魔王の様子を見たクロエが私の盾になるかの様に、前へ進み出た。


「神よ、我に力をお貸し下さい。全力を持って邪なる者を完全に消し去らんが為に……、」


 グローイング・パルバライザーか!彼女の持つ最高の秘術だ。詠唱の言葉通り全力で魔王を仕留めるつもりだ。あまりに強力なため自身の消耗も激しい。一歩間違えば自分も命を落としかねない魔法だ!


「へえ、まだそんな力が残ってるんだ!……じゃあ、私もちょっと本気を出そうかな!」


 何を言っているんだ?まだこの期に及んで、本気を出していなかったというのか!完全に我々は遊ばれているといことか。


「ヤロウ!ふざけやがって!」


 ウネグとジェイがクロエの秘術の時間稼ぎをするために、魔王へと飛びかかっていく。それと同時に魔王の体に異変が起き始めた。体格が大きくなり、体中に獣毛が生え、頭部には角が生え始めた。


「雑魚が出しゃばるんじゃないわよ!」


 今まで少女の姿をしていたとは思えないくらい、異様に筋肉質になった豪腕を振りかざした。そのままかかってきたジェイを吹き飛ばした。その間、ウネグの矢が命中しているものの、そのまま矢が瞬時に腐り果てていた!


「もう遅い!今更何したって無駄よ!」


 戦いながらも、体の変容を続けている!遂には背中から翼が生え、ウネグをその羽ばたきで吹き飛ばした。


「馬鹿な!これでは全く手に負えんではないか!」


 歴戦の傭兵をいとも簡単にあしらっていた。……せめて、私の傷が深くなければ、こんな真似などさせないのだが……。本当に口惜しい!


「ワタクシにお任せ下さい!イグレス様!この一撃を以て、必ず倒して見せます!」


 彼女の秘術は完成を迎えていた。後は狙いを定めて放つだけだろう。彼女の実力を疑っているわけではないが、通じるのだろうか?今の魔王に……?


「閃・消・滅……絶!!」


 らせん状に練られた光条が束になって、魔王目掛けて飛んでいく。対する魔王はさすがに身構えている。


「やるじゃない!そうこなくちゃ、楽しくないよね!」


 魔王は黒い障壁を前面に展開し、防ごうとしている。抜けるのか?この悪夢の障壁を!


(バチィィィ!!!)


 正と負のエネルギーがぶつかり合い、激しく音が鳴り響く。こうも激しいぶつかり合いは今まで見たことがない!


「貫!……突!!」


 悪夢の障壁に阻まれた光弾に、クロエは更なる力を加えていた。頼む、彼女の力よ届いてくれ!


「うう……、思ってたより強い!何よこれ!」


 あまりの力に魔王がうろたえている!障壁には次第に亀裂が生じ始めている。


(バキィィィッッ!!!)


 抜けたか!障壁は砕け、霧散した。もう、光弾を阻む物は何もない!


「うわああああっっ!!」


 光弾は魔王に命中し、それと同時に爆発を起こした。魔王を中心に辺り一帯がまばゆい光に包まれる。


「やったのか?」


 光に視界を奪われたままのため、それが確認できない。だが、そうであって欲しい。クロエが全力を以て放った一撃なのだから。


「……!?馬鹿な!!」


 閃光は次第に収まり、魔王が姿を現した。光弾が炸裂する前の姿を保っている!全く効かなかったというのか!


「残念だったね!ちょっと焦ったけど、なんともなかったよ!」


 手傷さえ負わせることは敵わなかった。途方もない強さだ。


「ご……めん…なさい。エ…ド……。ワ…タクシの力…は……および…ませんでした。」


 力を使い果たしたクロエはその場に崩れ落ちるかのように倒れた。思わず私は彼女の元へ駆け寄った。


「良くやった、クロエ!後は私に任せてくれ!」

「無理よね!そんなんじゃ、あなたたちに勝ち目なんて、ひとつもないんだからね!……!?」

(パキィッ!!)


 そのとき、何かが折れる音が鳴り響いた。思わず魔王の方を見てみれば、二本ある角の片方が根元から折れているではないか!


「なっ……!?角を折られてた?」

「無傷……というわけではなかったようだな!クロエの全力の一撃だ。くらっておいてただでは済むまいよ。」

「ふん!こ、こんなの擦り傷程度にもならないんだから!」


 明らかに魔王は動揺している。手傷を負わせることはできなかったとしても、精神的にはダメージを負わせることはできたのだ!


「もういい!これで終わりだからね!さっさとみんな仲良く死んじゃいなさい!」

「エド……、あなただけでも……いい…から、逃げて……。」


 このままでは終わらせはしないさ!クロエの働きを無駄にするわけにはいかない!私の意地を何が何でも通させて貰う!
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