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第2章 黒騎士と魔王

第50話 砦の跡にぃ~、白骨が転がるぅ~♪

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「ようやく、着いたか。こっからが本番だな。」


 あれから一時間近く歩いた末にようやく辿り着いた。近付くにつれて、魔の気配、というか寒気、殺気とも違う違和感がだんだん色濃くなっていった。砦からはもっとおぞましい気配がする。


「やっべえな。ここまですごいとは。」

「調査結果は正しかったようだな。これほどの物には滅多に出くわすことはない。魔族狩りを生業としている私でさえ、生涯三度ほどしかない。貴公は魔族狩り初回でこのレベルの物と対面することになるとはな。貴重な体験だぞ。」


 初回でこんな大事に付き合わせんじゃねーよ。竜狩り、対ヴァル・ムング戦の時もそうとうやばかったが、今回はまた違う緊張感が漂っている。はきそうな位の感覚が常に付き纏っている。こんなに気分が悪くなるとは。


「気を付けろ。デーモン・シードの強度が高く、かつて戦場となった場所ではアンデッドが出没する可能性が高い。」

「あんでっと?なんすかそれ?」

「要するに、死霊、屍鬼の類いじゃ。もっと簡単に言うと、お化けじゃ。」

「ひょっとして、肝試し要素もあるってことすか。」


 おぞましさ、死の恐怖、感染の恐れ、イヤな要素てんこ盛りじゃないですか。いったい何が待ち受けているというのか。


「ん?ここに来たのって、何人だったっけ?」


 ふと、違和感を感じ、メンバーを数え直してみる。サヨちゃん、黒い人、冷たい人、チンピラ、猫の人、顔色悪い人。六人?……ん?六人もいたっけ?


「ニャッ!!」


 そう思った瞬間、猫の人は顔色悪い人を殴り飛ばした。見事な猫パンチだ。……おっと、感心してる場合じゃないか。


「うわあ!いきなり出やがった!」


 今度は驚いていると、自分のいる方向に矢が飛んできた。だが、自分のすぐ側を通り過ぎ、後ろへ飛んでいった。……恐る恐る振り向くと、別の顔色の悪い人が後ろに突っ立っていた。その眉間には、さっきの矢が突き刺さっていた。その矢を起点にアンデッド?はジュワアと音を立てて崩れ去っていった。猫パンチを食らったヤツも同じくとけていた。そういえば、黒い人が対魔族用に武器にも浄化能力を持たせてるとか言ってたな。


「チッ!外れたか!」


 外れた、って、俺に当てるつもりだったのか、あのチンピラめ。もちろん、そんなつもりはないのだろうが、殺気だけはこっちに向けられていたような気がする。


「むこうから仕掛けてきやがったな!」


 俺は覚悟を決めて剣を抜いた。いつの間にやら、周囲には顔色の悪い集団が増殖していた。そのいずれもが何らかの形で武装していた。これは魔王戦役とやらでお亡くなりになられた方々ですかね。


「浄化能力があるんなら、早速試させて貰うぜ!」


 先代の剣に浄化能力が備わっているかどうかは未確認だったので、確実に効果のあるあの技を使うことにした。


「勇者の一撃!シャイニング・イレイザー!!」


 構えと共に剣がまばゆい光を放ち、なぎ払うと同時に光の刃が放出される。悪霊の集団に直撃し、瞬時に消滅していった。


「おーっ、効果てきめんだな、こりゃ。」


 ここまで、この技の威力を実感したことはなかった。初使用時はただの刺客だったし、ヴァル相手の時は効かなかったからな。


「何を感心しておる!そんな暇はないぞ!」


 サヨちゃんから注意を受けた。


「わかってるよ、それくらい。」


 倒しても次から次へとぞろぞろとどこからともなく、悪霊たちが湧いてきた。いったいどれだけいるんだ?ここでそれだけ犠牲者が出たって事?


「アンデッドを操っている魔族が必ずどこかにいるはずだ。戦いながらそいつを見つけるんだ。」


 黒い人が華麗な剣捌きで悪霊共をなぎ払いつつ、俺にアドバイスする。魔族狩り初心者な俺は全くそんなことを知らなかったが、他のメンバーは戦いつつ、砦の中に侵入を始めているようだった。もう既にそんなことは承知の上で行動しているようだ。つまり、俺だけが置いてきぼりになってしまっていた。素人丸出しである。ハズカシイ。

 
「ちくしょう、いったいどこにいるんだ?」


 悪霊どもをなぎ払いつつ、砦内を探索するが、一行に操っていそうなヤツが見当たらない。これじゃきりが無い。


「もしかして、他のヤツと同じ格好で紛れ込んで隠れてたりしてな。」


 ほら、木を隠すなら森の中って言うし、と素人ながらに考えてみる。


「残念ながら、それはあり得ない話だな。この数のアンデッドを使役出来るクラスならば、圧倒的に強い者がほとんどだ。そんな手の込んだ真似はせんよ。」


 悪霊数体を流れるような動きで一体ずつ斬り捨てながら、俺の浅はかな考えをあっさり否定してくる。ま、そうっすよね~。どうも素人でスミマセンでした。


「だが、アンデッドでこちらを消耗させてから、後からいたぶるという手段を使ってくる奴は少なからず存在しているがね。」

「ひぇ~っ、まさに悪魔的思考じゃないか、それ。」

「それ故、絶対的に許されざる存在なのだ。奴らは。」


 その時、外側から口笛の音が聞こえた。誰かが何かを見つけたのだろうか?


「ん?なんだ?何事?」

「ウネグだな。奴には密かに見張り塔の探索を命じていたのだ。おそらく、デーモン・コアの持ち主がそこにいると予測してな。」


 敵には闇雲に戦っていると見せかけていたと、黒い人は付け足した。だまし合いって事か。あえて敵の罠にかかったふりをしていたということ?悪魔に勝つには悪魔の頭脳ってことか。


「貴公にこの作戦を話していなかったのは、罠にかかったふりを見せつけるにはうってつけだったのだ。迫真の演技に感謝する。」

「へ、へ~い。」


 俺の素人臭さを利用するとは、やってくれるわ。この人、なんか腹黒いな。気を付けよう。

 
「エドの旦那!待ち侘びましたぜ。」


 俺は黒い人の後を着いていき、砦の見張り塔最上階にようやく辿り着いた。そこには他のメンバーが既に集結していた。何やらおっかなそうな魔物と対峙している。


「おっと、忘れてたぜ。素人が同伴してたんだったナ。ケッ!」


 しゃあないだろ。勇者になりたてで、知らないことだらけなんだぞ、こっちは。それはともかく……、


「なんじゃあ、こいつは!」


 これが魔族、デーモンって奴なのか!見た目からしてヤバいのはイヤというほど伝わってくる。角、爪、牙、獣毛、翼等が生えている。上半身は人間にこれらを生やした姿になっているが、下半身はまるごと熊のような四つ足の獣になっている。いったい、何をすればこんな姿になるのだろうか。もちろん、デーモン・コアが原因なのだろう。


「驚いたか?デーモンとは単体でこのような姿になる訳ではない。様々な生物を取り込み、その各々の能力を凝縮した姿になる。これが所謂、キメラだ。」


 グルル、とうめき声を上げながら、デーモンは攻撃体勢に入った。こちらに対して突進しようとしているようだ。猛獣の膂力で攻撃されたら一溜まりも無いだろう。


「タクティクス№3だ。」


 黒い人が自分の部下に対して何か指示を飛ばしたようだ。彼らはデーモンを取り囲むように散開した。知らない俺はこれから何をするのかわからない。そんなことを考えている暇があるのなら、退避行動を取らなければ。


「プロミネンス・バースト!」


 背後から突然、声がしたかと思うと、巨大な火球がデーモン目掛けて飛んでいった。それはヤツに命中し大爆発を起こした。


「熱っつ!!」


 熱風が頬をなでる。多少、距離が離れているとはいえ、火炎系最大の魔法だ。余波がすごい。


「もちろん、本物じゃぞ。そなたの火遊びみたいな物とは違ってな。」


 後ろからサヨちゃんが歩み寄ってきて、俺の横に並び立つ。両手を腰に当て、ドヤ顔になっている。


「はいはい、火遊び程度で悪かったですね。相手が強いからって、今のはやり過ぎなんじゃないか?」

「これでも手加減はしておる。妾がその気になれば、この砦ごと炎上してしまうぞ。それにな……、」


 サヨちゃんが言いかけたところで、爆煙の中から、デーモンが姿を現す。所々、焼けてはいるものの、五体満足なようだ。


「ほれ、この通り、デーモン・コアの影響で奴らは魔術の類いが効きにくい。このように足止め程度にしかならんのじゃ。」

「漆黒の貴公子が配下の魔術師を連れてこなかったのはこういう理由からじゃ。妾なら兎も角、中途半端な魔術師では何の役にも立たん。」

「じゃあ、どうやって倒すんだよ?」

「そなたには勇者の技があるじゃろうが。」


 そう言って、俺のケツをスパンと叩いた。


「もちろん、あの技も効くはずじゃ。妾が援護してやるから、行ってこい!」


 ついでにもう一回叩かれた。こうも発破を掛けられたんなら仕方ない。火球をぶつけられ、激高したデーモンはこちらに狙いを定め、突進してきた。


「さあ、どうする?」


 異形の化け物相手にどう戦う?足を狙って、その突進力を削ぐか?腕を狙って相手の武器を少しでも減らすか……、


「ボヤボヤしてんじゃねーぞ、コラぁ!」


 その声と共に矢がデーモンの右目に命中する。


 ウネグが矢を放ったようだ。命中した矢の当たりから、焼きごてを押しつけたような音と煙が上がる。デーモンは苦しんでいる。さっきのサヨちゃんの火球よりもよっぽど堪えているようだ。コイツには魔法より浄化の力の方が効くようだ。


「今だ!」


 この隙に俺自身も攻撃を加える。その太い腕に狙いを定め……、


「戦技一0八計が一つ、破竹撃!」


 命中した矢を引き抜こうとしていた右腕を半ばから切り落とした。デーモンはさらに絶叫を上げた。そして、さらに追撃を前足に対して加える。


「有隙の征!」


 両方の前足を横一文字になぎ払った。こうすりゃ、動きが鈍るはずだ。……と思ったその時、俺の体に横から強い衝撃を受けた。


「ヒタシっ!」


 思いっきり、吹き飛ばされた。その反動で地面をゴロゴロと転がり、壁際まで吹き飛ばされた。痛みに顔をしかめながらデーモンの方を見ると、その左手には先ほど切り落とした右腕が握られていた。まさか、自分の腕を武器代わりにするとは。


「グオオオア!」


 デーモンは一際大きく雄叫びを上げた後、手にした右腕を投げつけてきた。さっきのダメージが残っているため、すぐには起き上がれない。どうする?


「閃・滅!!」


 飛んできたデーモンの腕に、光の塊が衝突した。ぶつかった瞬間、さらに激しい光を放った後、腕を跡形もなく消し去ってしまった。声からするとどうやら、あの冷たそうな神官さんが光弾を放ったようだ。あの人、あんな声が出るんだな。ビックリした。


「あなた、馬鹿ですか?勇者としては格好が悪すぎます。」


 突然、罵られた。塩対応。俺がヘマしたから、しょうがないんだが。


「タクティクス・№・1!一気にたたみ掛けるぞ!」


 黒い人が指示を出す。相変わらず詳細はわからないが、たたみ掛けると言っているので、止めまで持って行くつもりだろう。猫の人がデーモンへ矢継ぎ早に突きや蹴りで、主に上半身を攻撃している。その間にウネグが足を集中的に連続で矢を放っている。効果的に足止めを狙っているようだ。


「ここまでくると、さすがに妾たちの出番はなさそうじゃのう。」


 サヨちゃんが感心しながら、様子を見ている。


「俺ら、別に着いてくる必要なかったんじゃね?」

「元より、そのつもりだったんじゃろうな。部外者の妾たちが手を出せば却って邪魔になるのは明白じゃな。」


 デーモンは反撃の隙すら与えられないまま、全身の至る所まで機能不能にさせられるほどの損傷を与えられていた。


「クロエ!タクティクス・№・ジ・エンドだ!」

「承知しました、イグレス様。」


 クロエの持つ錫杖の先端にまばゆい閃光が灯り始め、次第に大きく、まぶしく輝きを増していく。まるで、太陽を目にしているようだった。このまま見てたら目が潰れそうなくらいだ。


「閃・滅・消!!」


 大きな光弾がデーモンに向かっていく。その気配を察知した、猫の人はその場から退避した。


「食らえ!ウェイアウト・グローイング!」


 黒い人が猫の人と入れ替わりで、デーモンに突撃する。そして、光弾に追いつくか追いつかないかというところで、横薙ぎの斬撃を繰り出した。光弾と斬撃は同時に命中し、デーモンの胴体、人型の上半身と獣の下半身のちょうど継ぎ目の部分で切り離された。


「シャイニング・イレイザーも真っ青だぜ、こりゃ!」


 切り離された体はそれぞれ、青白い浄化の炎に包まれ、次第に小さくなり、跡形もなく消えていった。見事な連携攻撃によって、デーモンはわりとあっけなく倒された。


「見事じゃな。漆黒の貴公子よ。噂に違わぬ、戦いぶりだったぞ。」

「幻陽の賢者殿に評価して頂けるとは、我々としても鼻が高い。」

「どこかの素人が邪魔しなけりゃ、もっと手早く片付きましたぜ。」


 ウネグは相変わらず、俺を非難してくる。そのうしろでクロエがそれに同調するかのように、無言でウンウンと頷いている。はいはい、そうですよ。素人が邪魔してゴメンなさいね。ホント、良いとこなしだったな、今回は。


「そう悪く言うものではないぞ、ウネグ。勇者殿が囮を引き受けてくれたおかげで、こちらの被害は最小限で済んだのだ。」


 囮?まあ、良いように解釈してくれてるのね。攻撃したのはいいが、ドジって攻撃食らってただけなんだが。案外、やさしいところがあるんだな、黒い人。


「貴公の身のこなしは見事だった。普通なら、あれほどの攻撃を食らえば、致命傷になっていただろう。だが、貴公はとっさの判断で受け身を取り、ダメージを最小限にしていた。」


 あれ?そんなことを意識的に取ったつもりはないんだけどな?体に染みついた癖が勝手にそうさせたのかもしれない。この人がそういう風に分析しているので間違いなさそうだ。お世辞で言っているようにも聞こえない。


「……それに、あの剣術。あれは勇者の剣術ではないな?私は聞いたことも見たこともない。浄化の力を使わずにデーモンにあれほどの傷を負わせるとは。」

「まあ、あれは、故郷では一応、名の通った流派なんすけどね。……破門されたけど。」

「破門?貴公程の者がか?なるほど、余程の手練れ揃いと見える。一度、手合わせ願いたいものだな。」


 そう言って、黒い人は手を差し出してきた。握手だろうか?俺は素直にそれに応じた。


「あの、チェックポイントとかいうのはどうなったんでしょうか?」


 恐る恐る聞いてみる。今回のこれはただの討伐任務じゃなくて、試験も兼ねているということだったので、気になっていたのだ。


「もちろん、第二チェック・ポイントは合格だ!」


 その意志を強調するかのように、握手する手を力強く握り返してきた。

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