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第2章 黒騎士と魔王
第47話 謎の黒騎士現る!!
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「なんじゃ?そなたは?先に名乗れ。無礼者。」
サヨちゃんがそう言うのも無理はない。突然出てきて、こんな態度を取られては困る。
「新任の勇者がどんな男かと思っていたが……、こんな品のない男だったので、拍子抜けして、つい、な。」
「なんじゃと!!」
「お二人とも、落ち着いてください!」
ギルド長が必死で二人を宥める。一触即発の事態だったので、そうなると話どころでは無くなりかねない。ていうか、品がないとか言ったか?悪かったな。
「サヨ様、この方はクルセイダーズのエドワード・イグレス殿です。」
「エドワードじゃと!あの六光の騎士の一人、黒曜の貴公子か!」
黒曜の貴公子?なにそれ?真っ黒な鎧を着てるからまんまなニックネームだな。それから《りくこう》の騎士って何?初めて聞いた。
「そう言う貴公こそ、サヨと言えば、彼の知る人ぞ知る、幻陽の賢者か!」
なんだよそれ!初めて聞いたぞ!食の女帝じゃなかったのか?幻陽ってなんだ?たいそうなニックネーム付けやがって。
「んで、りくこうの騎士って何?」
「貴公、六光の騎士も知らんのか。風刃の魔術師、破砕の戦姫の二人と共に戦っておきながら、知らないとでも言うのかな?」
「?あの二人がどうしたって?」
「あの二人も六光の騎士だったという事じゃ。」
「何だって?」
まさか、あの二人がそんな肩書きを持っていたとは。ということは、この男も二人と同等の実力を持っていると言うことか。
「この国に住んでいれば赤子でも知っていることを知らんとは。貴公が異国出身だというのはどうやら本当らしいな。」
「うん。まあ、それは否定しない。」
「フフ。だからこそ、貴公は知らぬのだな。勇者になるということの重みを。」
何か、小馬鹿にしてやがるな。初対面の相手を鼻で笑うとは随分となめられたもんだ。
「竜食いの英雄を倒したというが、大方、あの二人や賢者殿の力があってこその話なのだろうな。」
「何を言うか!あやつを倒したのはこやつの力なくしては成し遂げられんかったのじゃぞ!」
「ちょっと待ってくれ。サヨちゃん。アイツを倒せたのはみんなの力があったからなのは間違いないだろ。」
確かに嘘ではない。あのギリギリの戦いで勝利出来たのはみんなのサポートがあったからだ。自分の力だけで勝てたとは到底思えない。
「フッ、謙虚なのだな。多少は自分の実力を弁えているということか。」
「言いたいことを言いおって!こやつの実力を見れば、そなたとて、腰を抜かすに決まっておるわ!」
「ちょっと、ちょっと!サヨ様、落ち着いてください!イグレス卿も煽るような事はお控えください。」
ギルド長も大変だな。開幕、いきなり険悪ムードになっちまったもんだから、一向に話が先に進まない。黒い人は一体何をしに来たのか?このままだと朝まで生討論が続きそうだ。二徹は勘弁して。ていうか初日を入れれば、ほぼ三徹か。
「茶番が過ぎてしまったようだな。では、そろそろ、本題に移るとしようか?」
ここに来て、ようやく本題に移る。さて、依頼とは何なのか?
「ときに“デーモン・コア”という物をご存じだろうか?」
「何?出門ドア?何?ドアがどうかしたの?」
「そなたは黙っておれ。“デーモン・コア”じゃと?またまた物騒な名前が出てきおった。」
またまた、知らない固有名詞が出てきた。こっちは知らないことずくめで、全然、話について行けない。
「では、私が説明しよう。後学のために覚えておくと良い。勇者にとっては決して避けては通れない物の一つだからな。」
避けては通れない?初めて聞くが勇者と関わりのあることだというのか。
「別名“魔王の因子”という。こう言った方がわかりやすいかもしれんな。かつて、この国には魔界の覇者、通称、魔王が現れたことは、さすがに貴公も知っているはずだろう?」
「ああ、知ってる。本で読んだことがある。勇者の話には必ずと言っていいほど、出てくるよな。」
鍛錬の息抜きに梁山泊所蔵の書物を読みあさっていたことがある。武術、歴史、戦術などありとあらゆる書物が存在していたが、大半は自分の頭脳では理解できなかったので、各地の伝説や物語といった類いの本を愛読していた。勇者の話は大抵、魔王を倒す話になっているのは定番中の定番だったのは良く憶えている。
「魔王、いわゆる魔族という物がどういった経緯で生まれてくるか、知っているか?」
「?魔界からやってくるっていうだけじゃないのか?」
魔界にいるから魔族ではないのか?いや、魔族がいるから魔界なのか?卵が先かナントやらなんて話に似てくるな。なんか、よくわからん。
「ここでデーモン・コアの話に繋がってくる。我々、クルセイダーズは魔族発生の原因がデーモン・コアであることを突き止める事に成功したのだ。」
そんな病気みたいな原因で、おっかない存在になるっていうのか?にわかにも信じがたい話ではある。
「デーモン・コアの存在はある意味、魔王の要素そのものを凝縮した塊のような物とも思って貰えばいい。通常の魔族はそれよりも小さい“デーモン・シード”という小規模因子によって魔族化しているのだよ。」
「それって、そこら中にある物なのか?」
「基本的には魔界に存在している物質だ。基本的にはな。」
何か引っかかる言い方をしやがる。もしかすると、その例外が発生したのかもしれないな。
「その物質は魔王が現れた際に、この世界にもばらまかれてしまったのだ。魔界ほどありふれた存在ではないがな。」
物騒な存在だな、魔王ってのはただ侵略してきただけじゃなくて、「みんな、仲良く魔族になろう」的なことまでおっぱじめやがったのか。災難すぎる。
物語で読む分には問題ないが、実際にあった出来事としては十分に、はた迷惑な話である。
「貴公も知っての通り、魔王はその時代の勇者によって倒された。その際、魔王の力の根源たるデーモン・コアも砕かれ、世界各地に拡散してしまった。我々クルセイダーズはその浄化の活動を主任務としている。」
浄化?一体どうやんの?病気の原因を清めれば寛解するとは聞いたことがあるが、それと似たようなモンなのか。
「浄化するためには神聖魔法が必要となる。神官が多く所属しているのはそのためだ。」
ジュリアもそうなのだろうか?この前見たアイツの戦い方だと、浄化というより、物理的に粉砕する姿しか想像できない。
「で、大体わかってきたけど、今回依頼したいことってのを説明して欲しいんだけど?」
「そうだな。デーモン・コアについての説明はこれくらいにしておこう。単刀直入に言おう。デーモン・シードの浄化を手伝って頂きたい。」
ありゃりゃ、こりゃ大変なことになったぞ。イヤな予感はしてたが、物騒なことに付き合わせられるハメになるとは。
「なんじゃ?それくらい、そなたら、黒曜の兵団なら問題無くこなせるのではないのか?」
「兵力をつぎ込めば可能だろうな。だが、リスクが大きすぎる。今回の浄化任務は極めて困難になることが予想される。ただのデーモン・シードではない。極めて大きいデーモン・コアクラスを持つ個体が現れたのだ。」
「なんじゃと?」
「嘘だろ、オイ。」
あっちゃあ、こりゃヤバい。魔王っぽい何かと戦うハメになるのかよ。これじゃ、邪竜とどっこいどっこいである。
「何か実害でも出てるのか?」
「出始めている。この近辺の動物が凶暴化し魔物化し始めているとの報告が上がっている。」
「そのデーモン・コアの持ち主の動向は?」
「何故だかはわからないが、まだ潜伏しているだけであるらしい。問題はそれが存在しているだけで、先ほど説明したような被害が出るということだ。できる限り被害が拡大する前に摘み取っておかねばならない。」
「でも、それだったら、多人数で挑んだ方が良くない。」
「ところがそういうわけにはいかんのじゃ。無闇矢鱈に人数を多くすると、デーモン・シードへの感染が拡大する恐れがあるのじゃ。デーモン・コアの存在が判明する以前の時代、魔王戦役時代の折には、戦闘中に次々と感染し魔族化が拡大したのは有名な話じゃ。」
「何、そのえげつない話!」
聞いた瞬間から、顔から血の気が引いていくのが、自分でもはっきりとわかるぐらい、ゾッとした。冷や汗が止まんないだけど。
「だからこそ、少人数かつ精鋭揃えで挑まねばならんのだ。」
「だからって、感染するのには変わりないんじゃ……?」
「人が密集すれば、その分感染率も高まる。そのリスクだけは徹底的に避けなければならない。」
「それもそうなんだろうけど、各個人の感染対策はどうなってんの?」
「それがこれだ。」
そう言いつつ、黒い人は自らの鎧を指差した。鎧?そんなんで防げんの?もしかして、ヴァルのヤツのドラゴンスケイル的な物とか、魔法しょーへき的なヤツですかね?
「この鎧は感染対策が成されている。この黒色の染料にはデーモン・シードを退ける効果があるのだ。我が兵団はデーモン対策を主任務としているため、全員が私のように黒衣なのだ。」
あ、そういうこと?それで真っ黒なのか。ファッション的なものかと思ってたよ。
「じゃあ、俺やサヨちゃんも黒ずくめになる必要があると?」
「その必要は無い。少なくとも貴公、勇者は対策の必要が無い。無いと言うよりも対策済みなのは歴史が証明している。」
「?俺って黒かったっけ?」
「何を言うておるのじゃ、そなたは。そうではない。勇者の額冠にその力が備わっておるのじゃ。」
黒い人もサヨちゃんの言葉に頷いている。これって、そんな機能も付いてんの?便利すぎない?どんだけ機能付いてんだよ。コレ量産したら、大ヒット間違いなしだよ。
「魔王戦役の際、勇者は絶えず最前線で剣を振るっていた。それだけ感染のリスクが高い場所にいながら、感染した事は一度もなかったそうだ。」
もし、それが嘘だったらどうするんですかねえ。俺の時だけ効果発動しなかったらどうするんだ。
「防御機能だけではない。いわゆる“勇者の一撃”にも神聖魔法と同じく浄化能力がある。」
「そうなのか。もともと、勇者は魔族退治が専門だったってことか。」
「別にそういうわけではないぞ。ありとあらゆる脅威に対応出来るよう、歴代の勇者たちが努力してきた証なのじゃ。」
「我々としては何とも言えんな。魔王戦役時代の記録を紐解くと、そのような事実がわかるというだけだ。このことに関しては長い時を生きる賢者殿の方が詳しかろう。」
まあ、時間があるときに聞いておこう。聞けたら、聞こう。
「で、具体的にどこに潜んでいるんだ?デーモンは?」
「ここから、そう遠くない場所にある古い砦に潜伏している可能性が高い。まずはそこへ行って調査を行う。」
「なんでそこだとわかったんだ?」
「デーモン・シード濃度がその場所だけ、異様に高いのだ。濃度は専用の魔術を応用した測定器具を使用する。」
器具で測れるのか。魔法というのは便利なんだな。俺の故郷では魔法の概念があまりないせいか、技術的に大分遅れを取っているようだ。何でも貪欲に取り入れないと、時代に取り残されちまうって事だろうな。
「で、いつ行くの?」
「無論、今からだ。」
「は?」
オイオイオイオイ、死ぬわ、俺。心の準備が全然出来てないんですけど?こっちは今まで観光気分でいたのに、「恐怖!魔族狩りツアー」に急遽参加させられることになっちまった!なんだよ、ホントにもう!勇者になってから、碌な目にあってないんですけど。……割とマジで呪われてるかもな、この額冠。
「処理をするならば、被害が広がらぬうちに、なるべく早く迅速に行わなくてはならない。今日は私と地獄に付き合って貰う。」
地獄を見れば、心が渇きそうだ。戦いにも飽きるかな?突如、涌いた災難に俺は噎せ込みそうになった。
サヨちゃんがそう言うのも無理はない。突然出てきて、こんな態度を取られては困る。
「新任の勇者がどんな男かと思っていたが……、こんな品のない男だったので、拍子抜けして、つい、な。」
「なんじゃと!!」
「お二人とも、落ち着いてください!」
ギルド長が必死で二人を宥める。一触即発の事態だったので、そうなると話どころでは無くなりかねない。ていうか、品がないとか言ったか?悪かったな。
「サヨ様、この方はクルセイダーズのエドワード・イグレス殿です。」
「エドワードじゃと!あの六光の騎士の一人、黒曜の貴公子か!」
黒曜の貴公子?なにそれ?真っ黒な鎧を着てるからまんまなニックネームだな。それから《りくこう》の騎士って何?初めて聞いた。
「そう言う貴公こそ、サヨと言えば、彼の知る人ぞ知る、幻陽の賢者か!」
なんだよそれ!初めて聞いたぞ!食の女帝じゃなかったのか?幻陽ってなんだ?たいそうなニックネーム付けやがって。
「んで、りくこうの騎士って何?」
「貴公、六光の騎士も知らんのか。風刃の魔術師、破砕の戦姫の二人と共に戦っておきながら、知らないとでも言うのかな?」
「?あの二人がどうしたって?」
「あの二人も六光の騎士だったという事じゃ。」
「何だって?」
まさか、あの二人がそんな肩書きを持っていたとは。ということは、この男も二人と同等の実力を持っていると言うことか。
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「うん。まあ、それは否定しない。」
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何か、小馬鹿にしてやがるな。初対面の相手を鼻で笑うとは随分となめられたもんだ。
「竜食いの英雄を倒したというが、大方、あの二人や賢者殿の力があってこその話なのだろうな。」
「何を言うか!あやつを倒したのはこやつの力なくしては成し遂げられんかったのじゃぞ!」
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確かに嘘ではない。あのギリギリの戦いで勝利出来たのはみんなのサポートがあったからだ。自分の力だけで勝てたとは到底思えない。
「フッ、謙虚なのだな。多少は自分の実力を弁えているということか。」
「言いたいことを言いおって!こやつの実力を見れば、そなたとて、腰を抜かすに決まっておるわ!」
「ちょっと、ちょっと!サヨ様、落ち着いてください!イグレス卿も煽るような事はお控えください。」
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ここに来て、ようやく本題に移る。さて、依頼とは何なのか?
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「何?出門ドア?何?ドアがどうかしたの?」
「そなたは黙っておれ。“デーモン・コア”じゃと?またまた物騒な名前が出てきおった。」
またまた、知らない固有名詞が出てきた。こっちは知らないことずくめで、全然、話について行けない。
「では、私が説明しよう。後学のために覚えておくと良い。勇者にとっては決して避けては通れない物の一つだからな。」
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「別名“魔王の因子”という。こう言った方がわかりやすいかもしれんな。かつて、この国には魔界の覇者、通称、魔王が現れたことは、さすがに貴公も知っているはずだろう?」
「ああ、知ってる。本で読んだことがある。勇者の話には必ずと言っていいほど、出てくるよな。」
鍛錬の息抜きに梁山泊所蔵の書物を読みあさっていたことがある。武術、歴史、戦術などありとあらゆる書物が存在していたが、大半は自分の頭脳では理解できなかったので、各地の伝説や物語といった類いの本を愛読していた。勇者の話は大抵、魔王を倒す話になっているのは定番中の定番だったのは良く憶えている。
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「?魔界からやってくるっていうだけじゃないのか?」
魔界にいるから魔族ではないのか?いや、魔族がいるから魔界なのか?卵が先かナントやらなんて話に似てくるな。なんか、よくわからん。
「ここでデーモン・コアの話に繋がってくる。我々、クルセイダーズは魔族発生の原因がデーモン・コアであることを突き止める事に成功したのだ。」
そんな病気みたいな原因で、おっかない存在になるっていうのか?にわかにも信じがたい話ではある。
「デーモン・コアの存在はある意味、魔王の要素そのものを凝縮した塊のような物とも思って貰えばいい。通常の魔族はそれよりも小さい“デーモン・シード”という小規模因子によって魔族化しているのだよ。」
「それって、そこら中にある物なのか?」
「基本的には魔界に存在している物質だ。基本的にはな。」
何か引っかかる言い方をしやがる。もしかすると、その例外が発生したのかもしれないな。
「その物質は魔王が現れた際に、この世界にもばらまかれてしまったのだ。魔界ほどありふれた存在ではないがな。」
物騒な存在だな、魔王ってのはただ侵略してきただけじゃなくて、「みんな、仲良く魔族になろう」的なことまでおっぱじめやがったのか。災難すぎる。
物語で読む分には問題ないが、実際にあった出来事としては十分に、はた迷惑な話である。
「貴公も知っての通り、魔王はその時代の勇者によって倒された。その際、魔王の力の根源たるデーモン・コアも砕かれ、世界各地に拡散してしまった。我々クルセイダーズはその浄化の活動を主任務としている。」
浄化?一体どうやんの?病気の原因を清めれば寛解するとは聞いたことがあるが、それと似たようなモンなのか。
「浄化するためには神聖魔法が必要となる。神官が多く所属しているのはそのためだ。」
ジュリアもそうなのだろうか?この前見たアイツの戦い方だと、浄化というより、物理的に粉砕する姿しか想像できない。
「で、大体わかってきたけど、今回依頼したいことってのを説明して欲しいんだけど?」
「そうだな。デーモン・コアについての説明はこれくらいにしておこう。単刀直入に言おう。デーモン・シードの浄化を手伝って頂きたい。」
ありゃりゃ、こりゃ大変なことになったぞ。イヤな予感はしてたが、物騒なことに付き合わせられるハメになるとは。
「なんじゃ?それくらい、そなたら、黒曜の兵団なら問題無くこなせるのではないのか?」
「兵力をつぎ込めば可能だろうな。だが、リスクが大きすぎる。今回の浄化任務は極めて困難になることが予想される。ただのデーモン・シードではない。極めて大きいデーモン・コアクラスを持つ個体が現れたのだ。」
「なんじゃと?」
「嘘だろ、オイ。」
あっちゃあ、こりゃヤバい。魔王っぽい何かと戦うハメになるのかよ。これじゃ、邪竜とどっこいどっこいである。
「何か実害でも出てるのか?」
「出始めている。この近辺の動物が凶暴化し魔物化し始めているとの報告が上がっている。」
「そのデーモン・コアの持ち主の動向は?」
「何故だかはわからないが、まだ潜伏しているだけであるらしい。問題はそれが存在しているだけで、先ほど説明したような被害が出るということだ。できる限り被害が拡大する前に摘み取っておかねばならない。」
「でも、それだったら、多人数で挑んだ方が良くない。」
「ところがそういうわけにはいかんのじゃ。無闇矢鱈に人数を多くすると、デーモン・シードへの感染が拡大する恐れがあるのじゃ。デーモン・コアの存在が判明する以前の時代、魔王戦役時代の折には、戦闘中に次々と感染し魔族化が拡大したのは有名な話じゃ。」
「何、そのえげつない話!」
聞いた瞬間から、顔から血の気が引いていくのが、自分でもはっきりとわかるぐらい、ゾッとした。冷や汗が止まんないだけど。
「だからこそ、少人数かつ精鋭揃えで挑まねばならんのだ。」
「だからって、感染するのには変わりないんじゃ……?」
「人が密集すれば、その分感染率も高まる。そのリスクだけは徹底的に避けなければならない。」
「それもそうなんだろうけど、各個人の感染対策はどうなってんの?」
「それがこれだ。」
そう言いつつ、黒い人は自らの鎧を指差した。鎧?そんなんで防げんの?もしかして、ヴァルのヤツのドラゴンスケイル的な物とか、魔法しょーへき的なヤツですかね?
「この鎧は感染対策が成されている。この黒色の染料にはデーモン・シードを退ける効果があるのだ。我が兵団はデーモン対策を主任務としているため、全員が私のように黒衣なのだ。」
あ、そういうこと?それで真っ黒なのか。ファッション的なものかと思ってたよ。
「じゃあ、俺やサヨちゃんも黒ずくめになる必要があると?」
「その必要は無い。少なくとも貴公、勇者は対策の必要が無い。無いと言うよりも対策済みなのは歴史が証明している。」
「?俺って黒かったっけ?」
「何を言うておるのじゃ、そなたは。そうではない。勇者の額冠にその力が備わっておるのじゃ。」
黒い人もサヨちゃんの言葉に頷いている。これって、そんな機能も付いてんの?便利すぎない?どんだけ機能付いてんだよ。コレ量産したら、大ヒット間違いなしだよ。
「魔王戦役の際、勇者は絶えず最前線で剣を振るっていた。それだけ感染のリスクが高い場所にいながら、感染した事は一度もなかったそうだ。」
もし、それが嘘だったらどうするんですかねえ。俺の時だけ効果発動しなかったらどうするんだ。
「防御機能だけではない。いわゆる“勇者の一撃”にも神聖魔法と同じく浄化能力がある。」
「そうなのか。もともと、勇者は魔族退治が専門だったってことか。」
「別にそういうわけではないぞ。ありとあらゆる脅威に対応出来るよう、歴代の勇者たちが努力してきた証なのじゃ。」
「我々としては何とも言えんな。魔王戦役時代の記録を紐解くと、そのような事実がわかるというだけだ。このことに関しては長い時を生きる賢者殿の方が詳しかろう。」
まあ、時間があるときに聞いておこう。聞けたら、聞こう。
「で、具体的にどこに潜んでいるんだ?デーモンは?」
「ここから、そう遠くない場所にある古い砦に潜伏している可能性が高い。まずはそこへ行って調査を行う。」
「なんでそこだとわかったんだ?」
「デーモン・シード濃度がその場所だけ、異様に高いのだ。濃度は専用の魔術を応用した測定器具を使用する。」
器具で測れるのか。魔法というのは便利なんだな。俺の故郷では魔法の概念があまりないせいか、技術的に大分遅れを取っているようだ。何でも貪欲に取り入れないと、時代に取り残されちまうって事だろうな。
「で、いつ行くの?」
「無論、今からだ。」
「は?」
オイオイオイオイ、死ぬわ、俺。心の準備が全然出来てないんですけど?こっちは今まで観光気分でいたのに、「恐怖!魔族狩りツアー」に急遽参加させられることになっちまった!なんだよ、ホントにもう!勇者になってから、碌な目にあってないんですけど。……割とマジで呪われてるかもな、この額冠。
「処理をするならば、被害が広がらぬうちに、なるべく早く迅速に行わなくてはならない。今日は私と地獄に付き合って貰う。」
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さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
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