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第1章 英雄と竜帝
第29話 勇者、思い出す。
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「どうじゃ?思い出せたか?」
ロアに究極奥義の光景を思い出させるために、サヨは記憶操作の魔術を使ったのである。
「……って、うあああっ!」
ロアはサヨから急いで離れた。目を開けたら、彼女の顔が目の前にあったのである。目を瞑れと言ったと思って素直に従ったら、これである。
「なんじゃ、素っ頓狂な声を上げおって!」
「なんで、そんなに近いんだよ!」
ロアは赤面しながら、抗議した。
「仕方なかろう。記憶を操作したり、覗いたりするには、互いの頭を近づけんと出来んのじゃ。堪忍せい。」
動揺するロアとは対照的にサヨは悪びれた様子もなく、落ち着いた様子で説明する。
「妾の質問に答えよ。思い出せたのか?」
「思い出せた。思い出せたけど……、」
「思い出せたけど、なんじゃ?」
ロアはばつが悪そうに言い淀む。こうも期待されていては言いにくい。
「あの技が出来るかどうかは、また別問題だぜ。」
サヨの助力により技を見た時の光景ははっきりと思い出せた。しかし再び目の当たりにすると、技の再現が困難であることもはっきりとわかってしまった。師父の動きがあまりにも高度かつ精細であり、ロアの技の精度では到底再現できそうになかった。
「要は八つの技を一纏めにしたような技なんじゃろう?最初から一辺にやろうとするから無理なのじゃ。技を部分的に組み合わせてところから始めてみてはどうじゃ?」
「部分的に?」
記憶を覗いただけの彼女の方が技の本質を理解しているのは何故なのか。ロアは自分の不甲斐なさを苦々しく思った。
「八つの技はそれぞれ表裏一体の組み合わされておるじゃろ?表四剣と裏四剣、それぞれ組み合わせて完成させるのじゃ。」
ロアが記憶の彼方に忘れていた用語まで飛び出してきた。表四剣とは破竹撃、落鳳破、虎穴獲虎衝、有隙の征である。裏四剣とは砕寒松柏、凰留撃、峨龍滅睛、空隙の陣である。
「そうだな。一つずつ組み合わせて完成に持っていくしかないか。」
技のほうはこの方法で何とかやっていくしかないだろう。だが、他にも問題はあった。
「何となくわかってきたのはいいが、俺の怪我はどうするんだよ?これじゃまともに剣が振れないぜ?」
「実際に体を動かしてやる必要などない。」
サヨは何故かとんでもないことを言い出した。体を動かさずに技の鍛練等出来るはずがない。どうしようというのか。
「イメージトレーニングじゃ。」
「……は?」
彼は自分の耳を疑った。自分の想像の中だけで完成するのならば、彼自身もここまで苦労などしないだろう。
「ただのイメージトレーニングではないぞ。そなたの頭の中に修練場を再現する、といった方が分かりやすいかもしれん。妾の魔術を使ってな。」
最早、なんでもありになってきたように思えた。魔術に詳しくないロアにとっては驚くことばかりである。記憶を覗くことに比べればまだましかもしれない。
「そなた自身、技の基礎が整っておるゆえ、可能なことじゃ。後は組み合わせるだけなのじゃ。」
「で、具体的にどうやるんだ?イメージトレーニングとやらは?」
「記憶を覗くときと基本は同じじゃ。こっちの方がまだ簡単じゃがな。ほれ、楽な姿勢になって、目を瞑るがよい。」
ロアは言われるままに行動した。座禅を組み、目を瞑る。
「では、いくぞ。」
そう言って、彼女は指をパチンと鳴らした。その瞬間、屋内にいたはずが屋外にいつの間にか、立っていた。彼女が言っていた通りならば、あくまでこれは、自分の中の仮想現実に過ぎないのだろう。そして、あたりを見渡すと、どこか風景に見覚えがあった。
「どうじゃ、これならば修練も捗るであろう?そなたのよく知る場所、最後に師父から奥義を教わった場所じゃよ。よく再現出来ているじゃろ?」
本当に自分の中のイメージと瓜二つだった。周囲の竹林や、師父が技を放った大岩まで再現されている。周囲の景色に見とれていると、どこからともなく、サヨが姿を現した。
「思う存分修練に励むがよい。あくまで妾が作り出した仮想空間じゃ。体の傷も気にせず、なんでも出来るぞ。」
「マジでか!」
ためしに右肩を回してみる。本当に痛みを感じない。さらに激しく腕を動かしてみても大丈夫だった。
「よし!これならいける!」
ロアの様子を見ながら、サヨは得意気にほくそ笑んでいる。
「修練の相手も欲しかろう?妾が一肌脱いでやるとするかのう。」
言うなり、瞬時に彼女は大きく姿を変えた。ロアの目の前には竜帝がいた。いや、正確には弱冠、姿が違うような気がした。
《これが妾の本来の姿じゃ。》
変身した途端、声が直接脳内に響いてきた。偽の竜帝のときと同じである。
「ほんとだ。竜帝そっくりだな。」
《しかし、そなたは本物の父上の姿を見たことがなかろう?そなたが見たのはヴァルのやつが仕立て上げた偽物じゃ。中等のドラゴン・ロードに幻術で誤魔化しただけの物と一緒にしてくれるな。》
そうは言っても、ロアには違いが大してわからなかった。辛うじて目付きが優しげに見える程度ぐらいしか分からない。
「わかんね~よ!……まあ、いいや。とりあえず始めてみるか。」
ロアに究極奥義の光景を思い出させるために、サヨは記憶操作の魔術を使ったのである。
「……って、うあああっ!」
ロアはサヨから急いで離れた。目を開けたら、彼女の顔が目の前にあったのである。目を瞑れと言ったと思って素直に従ったら、これである。
「なんじゃ、素っ頓狂な声を上げおって!」
「なんで、そんなに近いんだよ!」
ロアは赤面しながら、抗議した。
「仕方なかろう。記憶を操作したり、覗いたりするには、互いの頭を近づけんと出来んのじゃ。堪忍せい。」
動揺するロアとは対照的にサヨは悪びれた様子もなく、落ち着いた様子で説明する。
「妾の質問に答えよ。思い出せたのか?」
「思い出せた。思い出せたけど……、」
「思い出せたけど、なんじゃ?」
ロアはばつが悪そうに言い淀む。こうも期待されていては言いにくい。
「あの技が出来るかどうかは、また別問題だぜ。」
サヨの助力により技を見た時の光景ははっきりと思い出せた。しかし再び目の当たりにすると、技の再現が困難であることもはっきりとわかってしまった。師父の動きがあまりにも高度かつ精細であり、ロアの技の精度では到底再現できそうになかった。
「要は八つの技を一纏めにしたような技なんじゃろう?最初から一辺にやろうとするから無理なのじゃ。技を部分的に組み合わせてところから始めてみてはどうじゃ?」
「部分的に?」
記憶を覗いただけの彼女の方が技の本質を理解しているのは何故なのか。ロアは自分の不甲斐なさを苦々しく思った。
「八つの技はそれぞれ表裏一体の組み合わされておるじゃろ?表四剣と裏四剣、それぞれ組み合わせて完成させるのじゃ。」
ロアが記憶の彼方に忘れていた用語まで飛び出してきた。表四剣とは破竹撃、落鳳破、虎穴獲虎衝、有隙の征である。裏四剣とは砕寒松柏、凰留撃、峨龍滅睛、空隙の陣である。
「そうだな。一つずつ組み合わせて完成に持っていくしかないか。」
技のほうはこの方法で何とかやっていくしかないだろう。だが、他にも問題はあった。
「何となくわかってきたのはいいが、俺の怪我はどうするんだよ?これじゃまともに剣が振れないぜ?」
「実際に体を動かしてやる必要などない。」
サヨは何故かとんでもないことを言い出した。体を動かさずに技の鍛練等出来るはずがない。どうしようというのか。
「イメージトレーニングじゃ。」
「……は?」
彼は自分の耳を疑った。自分の想像の中だけで完成するのならば、彼自身もここまで苦労などしないだろう。
「ただのイメージトレーニングではないぞ。そなたの頭の中に修練場を再現する、といった方が分かりやすいかもしれん。妾の魔術を使ってな。」
最早、なんでもありになってきたように思えた。魔術に詳しくないロアにとっては驚くことばかりである。記憶を覗くことに比べればまだましかもしれない。
「そなた自身、技の基礎が整っておるゆえ、可能なことじゃ。後は組み合わせるだけなのじゃ。」
「で、具体的にどうやるんだ?イメージトレーニングとやらは?」
「記憶を覗くときと基本は同じじゃ。こっちの方がまだ簡単じゃがな。ほれ、楽な姿勢になって、目を瞑るがよい。」
ロアは言われるままに行動した。座禅を組み、目を瞑る。
「では、いくぞ。」
そう言って、彼女は指をパチンと鳴らした。その瞬間、屋内にいたはずが屋外にいつの間にか、立っていた。彼女が言っていた通りならば、あくまでこれは、自分の中の仮想現実に過ぎないのだろう。そして、あたりを見渡すと、どこか風景に見覚えがあった。
「どうじゃ、これならば修練も捗るであろう?そなたのよく知る場所、最後に師父から奥義を教わった場所じゃよ。よく再現出来ているじゃろ?」
本当に自分の中のイメージと瓜二つだった。周囲の竹林や、師父が技を放った大岩まで再現されている。周囲の景色に見とれていると、どこからともなく、サヨが姿を現した。
「思う存分修練に励むがよい。あくまで妾が作り出した仮想空間じゃ。体の傷も気にせず、なんでも出来るぞ。」
「マジでか!」
ためしに右肩を回してみる。本当に痛みを感じない。さらに激しく腕を動かしてみても大丈夫だった。
「よし!これならいける!」
ロアの様子を見ながら、サヨは得意気にほくそ笑んでいる。
「修練の相手も欲しかろう?妾が一肌脱いでやるとするかのう。」
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「ほんとだ。竜帝そっくりだな。」
《しかし、そなたは本物の父上の姿を見たことがなかろう?そなたが見たのはヴァルのやつが仕立て上げた偽物じゃ。中等のドラゴン・ロードに幻術で誤魔化しただけの物と一緒にしてくれるな。》
そうは言っても、ロアには違いが大してわからなかった。辛うじて目付きが優しげに見える程度ぐらいしか分からない。
「わかんね~よ!……まあ、いいや。とりあえず始めてみるか。」
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