27 / 401
第1章 英雄と竜帝
第27話 勇者、受領する。
しおりを挟む
「クエレのやつから事情は聞いたんじゃな。」
「ああ。一通り、な。」
クエレ・ブレとは竜帝の腹心だった竜族で、つい先ほどまでロアに一部始終を説明した男性である。
「それと、さっきのはゴメン。さっきは悪のりしすぎた。」
「……そんなことは、もう良い。」
サヨは眉をピクリとは動かしたものの、平静な表情をしていた。どうやら機嫌はなおしてくれたようだ。
「それより、あの技についてなんだけどよ……、」
「先にそなたに渡しておかねばならぬものがある。着いて参れ。」
彼女はそう言い、集落の方へと歩いていく。どこへいくのかはわからないので、とりあえず言われた通り着いていくしかない。彼女は集落内をどんどん進んでいく。集落内は人間の基準からすると、ずいぶんと古めかしい住居ばかりだった。ほとんどが山の岩壁をくりぬいて作られている。長命な彼ら同様、長い年月を経ているのだろう。
ロアからすれば、古代遺跡の中を歩いているかのように思えていた。彼らは本来の姿をとっていないためか、老人や子供の姿がない。クエレが一万歳と言っていたにも関わらず、人間の3、40代程度にしか見えなかったことを考えると、彼らにとっての老いの概念は人間とは大きくかけ離れているのかもしれない。
「着いたぞ。ここに入れ。」
サヨがひときわ大きくくりぬかれた住居入り口の前で立ち止まった。ロアに入るよう指示をしてから、すぐに中に入っていく。立派な門構えからすると、族長の家、いや竜帝の城といったところだろうか。中に入っていくと、簡素な作りながらも、品のある内装になっていることがわかった。人間の王宮は絢爛豪奢な作りになっていることが多いが、それとは対称的だった。やはり、人間の価値観とは大きく違うことが窺い知れた。
「確かここにあったはずじゃが……、」
大きな玉座のある部屋に案内された。すぐさま、サヨは玉座の後ろの方で何やら、がさごそと物を探し始めた。なにか渡すとは言っていたが、ロアにはそれが何なのかさっぱり見当がつかなかった。
「おお、あったぞ!これじゃ!」
彼女は一本の剣をとりだした。見た目は竜殺しの魔剣のように特別な感じではなく、むしろ、簡素な作りの剣に見えた。だが何か不思議と馴染み深さを感じさせた。
「この剣は?」
「この剣はカレル、先代の勇者から預かっていたものじゃ。次の代の勇者が現れた時にこれを渡せ、とな。」
ロアは剣を受け取った。初めて見た時と同様、何か、ずいぶんと懐かしい様な、もともと自分の持ち物であったかのような感じがする。
「これは先代勇者愛用の剣なのか?そうだよな。」
「そなたがそう感じるのであれば、そうなのであろうな。そなたというよりは額冠がといった方が正しいかもしれん。」
額冠に秘められた記憶がそう感じているのかもしれない。いまだ、勇者の技が一つつかえるぐらいしか、額冠の力を引き出せていないロアは勇者としての実感が湧かないままでいた。この剣を手にしたとき、初めてその実感がしたような気がした。
「愛用の剣がここにあるってことは、あのとき自分の剣を使っていなかったってことか?」
「そういうことじゃ。カレルがヴァルのやつと戦う前、父上にこの剣を預けていったのじゃ。もし、自分が敗れたときにそなたへ託すためにな。いや、はじめから勝てないことを予感しておったのかもしれぬな。」
「もし、先代がこの剣で戦っていたら勝てたんじゃないのか?」
「いや、それはない。その剣はそこまでの力はない。その剣は何の変哲もない剣じゃ。」
だったら何故、この剣を預けていったのだろうか?ロアには理解できなかった。
「とはいえ、そなたら勇者にとっては特別な剣じゃ。特にカレルとそなたとの記憶の架け橋とするために残したのじゃろう。」
架け橋?ロアにはまださっぱりわからなかった。
「額冠の記憶を少しでも引き出せるように、鍵として残したということじゃ。愛用の品を渡してその記憶を共有するためじゃろう。実際どうじゃ?それを初めて見ても、昔から知っている様な感じがしたじゃろう?」
確かにサヨの言う通り、懐かしさを感じた。何か忘れていた自分の記憶を急におもいだしたかのようだった。
「額冠の力を少しでも引き出す手助けにはなるであろう。とはいえ、すぐには無理ではあろうがな。」
彼女は手についた埃を払いながら言う。
「これはあくまで気休め程度にしかならんじゃろう。じゃが、本命はそなた自身が身に付けてきた技じゃ。」
「でも、どうやってやるんだ?あの技は一度見たことがあるだけで、やったことはないんだぜ。」
一度見ただけの技を再現できるのだろうか?普通の技ならともかく、あの技は流派梁山泊が誇る究極の奥義なのである。一朝一夕に出来る技ではない。師父でさえまだ極めていないとさえ言っていた。
「妾に任せるのじゃ。そなたの記憶を引き出してみせようぞ。その記憶を頼りに技の再現を目指すのじゃ。」
ロアは記憶をまた覗かれるのかと思うとぞっとしたが、ヴァルに勝つためには手段を選んではいられない。ヴァルの魔の手はすぐそこまで迫ってきているのだ。
「ああ。一通り、な。」
クエレ・ブレとは竜帝の腹心だった竜族で、つい先ほどまでロアに一部始終を説明した男性である。
「それと、さっきのはゴメン。さっきは悪のりしすぎた。」
「……そんなことは、もう良い。」
サヨは眉をピクリとは動かしたものの、平静な表情をしていた。どうやら機嫌はなおしてくれたようだ。
「それより、あの技についてなんだけどよ……、」
「先にそなたに渡しておかねばならぬものがある。着いて参れ。」
彼女はそう言い、集落の方へと歩いていく。どこへいくのかはわからないので、とりあえず言われた通り着いていくしかない。彼女は集落内をどんどん進んでいく。集落内は人間の基準からすると、ずいぶんと古めかしい住居ばかりだった。ほとんどが山の岩壁をくりぬいて作られている。長命な彼ら同様、長い年月を経ているのだろう。
ロアからすれば、古代遺跡の中を歩いているかのように思えていた。彼らは本来の姿をとっていないためか、老人や子供の姿がない。クエレが一万歳と言っていたにも関わらず、人間の3、40代程度にしか見えなかったことを考えると、彼らにとっての老いの概念は人間とは大きくかけ離れているのかもしれない。
「着いたぞ。ここに入れ。」
サヨがひときわ大きくくりぬかれた住居入り口の前で立ち止まった。ロアに入るよう指示をしてから、すぐに中に入っていく。立派な門構えからすると、族長の家、いや竜帝の城といったところだろうか。中に入っていくと、簡素な作りながらも、品のある内装になっていることがわかった。人間の王宮は絢爛豪奢な作りになっていることが多いが、それとは対称的だった。やはり、人間の価値観とは大きく違うことが窺い知れた。
「確かここにあったはずじゃが……、」
大きな玉座のある部屋に案内された。すぐさま、サヨは玉座の後ろの方で何やら、がさごそと物を探し始めた。なにか渡すとは言っていたが、ロアにはそれが何なのかさっぱり見当がつかなかった。
「おお、あったぞ!これじゃ!」
彼女は一本の剣をとりだした。見た目は竜殺しの魔剣のように特別な感じではなく、むしろ、簡素な作りの剣に見えた。だが何か不思議と馴染み深さを感じさせた。
「この剣は?」
「この剣はカレル、先代の勇者から預かっていたものじゃ。次の代の勇者が現れた時にこれを渡せ、とな。」
ロアは剣を受け取った。初めて見た時と同様、何か、ずいぶんと懐かしい様な、もともと自分の持ち物であったかのような感じがする。
「これは先代勇者愛用の剣なのか?そうだよな。」
「そなたがそう感じるのであれば、そうなのであろうな。そなたというよりは額冠がといった方が正しいかもしれん。」
額冠に秘められた記憶がそう感じているのかもしれない。いまだ、勇者の技が一つつかえるぐらいしか、額冠の力を引き出せていないロアは勇者としての実感が湧かないままでいた。この剣を手にしたとき、初めてその実感がしたような気がした。
「愛用の剣がここにあるってことは、あのとき自分の剣を使っていなかったってことか?」
「そういうことじゃ。カレルがヴァルのやつと戦う前、父上にこの剣を預けていったのじゃ。もし、自分が敗れたときにそなたへ託すためにな。いや、はじめから勝てないことを予感しておったのかもしれぬな。」
「もし、先代がこの剣で戦っていたら勝てたんじゃないのか?」
「いや、それはない。その剣はそこまでの力はない。その剣は何の変哲もない剣じゃ。」
だったら何故、この剣を預けていったのだろうか?ロアには理解できなかった。
「とはいえ、そなたら勇者にとっては特別な剣じゃ。特にカレルとそなたとの記憶の架け橋とするために残したのじゃろう。」
架け橋?ロアにはまださっぱりわからなかった。
「額冠の記憶を少しでも引き出せるように、鍵として残したということじゃ。愛用の品を渡してその記憶を共有するためじゃろう。実際どうじゃ?それを初めて見ても、昔から知っている様な感じがしたじゃろう?」
確かにサヨの言う通り、懐かしさを感じた。何か忘れていた自分の記憶を急におもいだしたかのようだった。
「額冠の力を少しでも引き出す手助けにはなるであろう。とはいえ、すぐには無理ではあろうがな。」
彼女は手についた埃を払いながら言う。
「これはあくまで気休め程度にしかならんじゃろう。じゃが、本命はそなた自身が身に付けてきた技じゃ。」
「でも、どうやってやるんだ?あの技は一度見たことがあるだけで、やったことはないんだぜ。」
一度見ただけの技を再現できるのだろうか?普通の技ならともかく、あの技は流派梁山泊が誇る究極の奥義なのである。一朝一夕に出来る技ではない。師父でさえまだ極めていないとさえ言っていた。
「妾に任せるのじゃ。そなたの記憶を引き出してみせようぞ。その記憶を頼りに技の再現を目指すのじゃ。」
ロアは記憶をまた覗かれるのかと思うとぞっとしたが、ヴァルに勝つためには手段を選んではいられない。ヴァルの魔の手はすぐそこまで迫ってきているのだ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる