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第1章 英雄と竜帝
第24話 魔術師、退避する。
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「……どうやら、俺は賭けに勝ったみたいだな。」
宿の一室でファルは目覚めた。部屋の中を見回すと見知った顔がそこにあった。だが、不機嫌な顔で、目覚めた彼の姿を見ていた。
「な~にが賭けに勝った、よ!カッコつけちゃって。あの後、大変だったんだからね!」
あの後……、ヴァル・ムングとの戦いの最中、二人は転移魔法を使って、あの場を逃れることに成功したのである。
「だいたい何で、あんな中途半端な場所を指定したのよ!倒れたあんたを担いで、山を降りるの大変だったのよ!」
魔法の転移先というのが、最初に野営を行った場所だったのである。そこから、ジュリアは力尽きたファルを担いで、下山する羽目になった。
「それについては、本当にすまなかった。残りの魔力量ではあの場所でもギリギリだったんだ。」
転移魔法は魔力量の消費が多い。ファルが転移後に力尽きたのはそのためである。場合によっては転移した直後に命を落としていたかもしれないし、転移すら出来なかった可能性もあり得た。ファルが賭けに勝ったと言ったのは、生きるか死ぬかの大博打だったからである。
「それに……、君を信頼していたからだ。信頼なくして、あんな大博打は打てんよ。」
ファルは不貞腐れるジュリアに対してウインクして見せた。普通の女性ならそれだけで、彼に惚れていただろう。彼はエルフ族ゆえたぐいまれな美貌の持ち主なのである。
「ま~た、そうやって色目使おうとするんだから。女の子に力仕事をさせるだなんて、一体どういう神経してんのよ!」
ファルをもってしても、色目は通じなかったようだ。だが、それは互いの手の内をよく知っているからでもある。
「力仕事?君にかかれば、俺の重さなど、戦槌よりも余程軽いのではないか?」
色目が通じないとわかるや否や、冗談でからかった。
「へ~、じゃあ、戦槌じゃなくて、あんたを武器にしてブン回しちゃっても文句は言わないってこと?」
裏目に出た。彼女なら本当にやりかねない。本当に出来そうなほどの腕力を有していることは彼はよく知っていた。
「いや、すまん。本当にすまなかった。」
ファルは素直に敗けを認めた。ここは素直に謝ったほうが良いと、彼の勘が告げていた。せっかく拾った命を無駄にしかねない。
「それでよろしい。……でもこの件は貸しにしとくからね。わかった?」
彼はぞっとした。その貸しは高く付いたのは間違いない。以前、埋め合わせとして、彼女の我が儘に付き合わされたことがあったのだが、そのときの記憶を彼は思い出したのである。
「で、これからどうすんの?あいつはどうすんの?」
「あいつって、どいつのことだよ?」
あいつと言われても該当する人物は二人いる。
「ヴァルにきまってるでしょうが。」
「……決まってるって、お前……。」
彼女の認識ではもう一人の方は諦められているのだろうか。
「あんな状況じゃ、どのみち助からないわよ。助かるなんて思うほうが非現実的よ。あたしたち二人でなんとかする方法を考えないと。」
あいつがいない前提でヴァルに立ち向かうことを考えるとは、ある意味、肝が据わっているともいえるが、冷たい気がする。とはいえ、言葉とは裏腹に彼女の目には涙が浮かんでいるような気がした。それを悟らせまいと、ファルから顔を背けようとしていた。
「まだ、諦めるのは早いぜ。万が一ということもある。あいつは曲がりなりにも勇者なんだぜ。あの額冠の力を信じるぜ、俺は。」
その言葉には根拠があった。歴代の勇者には数々の逸話が残っている。数々の絶望的な状況を潜り抜けてきた実績があった。その実績、経験があの額冠には刻み込まれているのである。
少なくともとも先代勇者が起こした奇跡を彼は目にしたことがあったのだ。彼女もそのことは十分知っているはずだ。
「諦めずにあいつの捜索をするぞ。例えあいつが命を落としていたとしても、あの額冠だけはあいつに絶対渡すわけにはいかないからな。」
彼は決意した。ヴァルの野望を阻止しなければいけないのだから。
宿の一室でファルは目覚めた。部屋の中を見回すと見知った顔がそこにあった。だが、不機嫌な顔で、目覚めた彼の姿を見ていた。
「な~にが賭けに勝った、よ!カッコつけちゃって。あの後、大変だったんだからね!」
あの後……、ヴァル・ムングとの戦いの最中、二人は転移魔法を使って、あの場を逃れることに成功したのである。
「だいたい何で、あんな中途半端な場所を指定したのよ!倒れたあんたを担いで、山を降りるの大変だったのよ!」
魔法の転移先というのが、最初に野営を行った場所だったのである。そこから、ジュリアは力尽きたファルを担いで、下山する羽目になった。
「それについては、本当にすまなかった。残りの魔力量ではあの場所でもギリギリだったんだ。」
転移魔法は魔力量の消費が多い。ファルが転移後に力尽きたのはそのためである。場合によっては転移した直後に命を落としていたかもしれないし、転移すら出来なかった可能性もあり得た。ファルが賭けに勝ったと言ったのは、生きるか死ぬかの大博打だったからである。
「それに……、君を信頼していたからだ。信頼なくして、あんな大博打は打てんよ。」
ファルは不貞腐れるジュリアに対してウインクして見せた。普通の女性ならそれだけで、彼に惚れていただろう。彼はエルフ族ゆえたぐいまれな美貌の持ち主なのである。
「ま~た、そうやって色目使おうとするんだから。女の子に力仕事をさせるだなんて、一体どういう神経してんのよ!」
ファルをもってしても、色目は通じなかったようだ。だが、それは互いの手の内をよく知っているからでもある。
「力仕事?君にかかれば、俺の重さなど、戦槌よりも余程軽いのではないか?」
色目が通じないとわかるや否や、冗談でからかった。
「へ~、じゃあ、戦槌じゃなくて、あんたを武器にしてブン回しちゃっても文句は言わないってこと?」
裏目に出た。彼女なら本当にやりかねない。本当に出来そうなほどの腕力を有していることは彼はよく知っていた。
「いや、すまん。本当にすまなかった。」
ファルは素直に敗けを認めた。ここは素直に謝ったほうが良いと、彼の勘が告げていた。せっかく拾った命を無駄にしかねない。
「それでよろしい。……でもこの件は貸しにしとくからね。わかった?」
彼はぞっとした。その貸しは高く付いたのは間違いない。以前、埋め合わせとして、彼女の我が儘に付き合わされたことがあったのだが、そのときの記憶を彼は思い出したのである。
「で、これからどうすんの?あいつはどうすんの?」
「あいつって、どいつのことだよ?」
あいつと言われても該当する人物は二人いる。
「ヴァルにきまってるでしょうが。」
「……決まってるって、お前……。」
彼女の認識ではもう一人の方は諦められているのだろうか。
「あんな状況じゃ、どのみち助からないわよ。助かるなんて思うほうが非現実的よ。あたしたち二人でなんとかする方法を考えないと。」
あいつがいない前提でヴァルに立ち向かうことを考えるとは、ある意味、肝が据わっているともいえるが、冷たい気がする。とはいえ、言葉とは裏腹に彼女の目には涙が浮かんでいるような気がした。それを悟らせまいと、ファルから顔を背けようとしていた。
「まだ、諦めるのは早いぜ。万が一ということもある。あいつは曲がりなりにも勇者なんだぜ。あの額冠の力を信じるぜ、俺は。」
その言葉には根拠があった。歴代の勇者には数々の逸話が残っている。数々の絶望的な状況を潜り抜けてきた実績があった。その実績、経験があの額冠には刻み込まれているのである。
少なくともとも先代勇者が起こした奇跡を彼は目にしたことがあったのだ。彼女もそのことは十分知っているはずだ。
「諦めずにあいつの捜索をするぞ。例えあいつが命を落としていたとしても、あの額冠だけはあいつに絶対渡すわけにはいかないからな。」
彼は決意した。ヴァルの野望を阻止しなければいけないのだから。
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