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第1章 英雄と竜帝
第14話 勇者、決心する。
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ロアは呆然としていた。端から見ていただけだが、もう少しで勝てそうな雰囲気になっていたのはわかる。それが突如として破られたのである。
「もう、コレ、無理だろ。」
その場にいる誰もがそう感じているであろうことを思わず呟いていた。先程から、ヴァルはピクリとも動かない。竜帝の口から発せられたものは、何かはロアにはわからなかった。たったそれだけで、たった一瞬で、人一人を黒こげにするだけの力があるということに絶望を感じずにはいられなかった。
《少し力を出しすぎたか?あっけないものよ。》
今まで、本気で戦っていなかったのか?これでは本当に手の打ち様がない。
「……そいつはどうかな?」
ファルが竜帝の前へと進み出た。まだ終わっていないと言わんばかりに。それに続くかのようにジュリアも戦槌を構えながら、ファルの傍らへと立つ。
「なめんじゃないわよ!」
その声に呼応するかのように、ロア以外のメンバーも集結する。
《虫けら風情が大勢いたところで、ものの数ではないわ!》
その思念波が伝わってくると同時に竜帝は自らの長い尾を振りかざした。あんなものを食らっては大勢いようと一網打尽にされてしまうだろう。
「みんな、散れ!」
ファルが号令を飛ばす。一同は照らし合わせたかの様に四散する。同時にそれぞれが竜帝へと攻撃を加えていく。波状攻撃を仕掛け、竜帝の注意を一ヶ所に向かせないようにしている。
《小癪な!無駄な足掻きをしおって!》
波状攻撃は竜帝の注意を分散させるには有効かもしれない。しかし……、決定打にはならない。ヴァルの様に魔剣を持っていれば話は別だが、そこまでの決めては他の誰一人として、持ってはいないのではないだろうか。竜帝の反撃は次第に討伐隊の動きをとらえ始め、一人また一人と倒れていく。このままでは本格的にまずい。加勢しなければ。
「とりあえず、何とかしないとみんなやられちまう。」
ロアは前へと駆け出した。
そのとき、ファルは魔術を行使しようとしていた。彼の眼前に大岩が形成されていく。ロック・インパクトである。
「このままでは、ジリ貧だな。」
ここまで波状攻撃をしかけ、耐えしのいでいたが、決定打がないため次第に窮地に立たされるのは時間の問題だった。決定打ともいえるヴァルの一撃が無ければ勝利は難しい。ファルの方にも切り札がないわけではなかったが、行使するには集中するための時間が必要だった。だが、そのための時間を竜帝が与えてくれるはずがなかった。
(考えるんだ、何か手はあるはずだ!)
眼前の大岩は十分な大きさに形成されつつあった。そのとき、竜帝がファルに対して注意を向けたような気がした。
(あと少し!)
このままの状態でも並みの相手なら十分に効果はあるだろう。しかし、相手が悪い。相手は竜帝である。竜帝は眼前に迫り、大口を開けて大岩ごとファルを噛み砕こうとしている。牙がファルへと迫る。
「させるかあ!」
横からジュリアが戦槌を竜帝の上顎目掛けて打ち下ろした。そのまま、竜帝の顎は地面へと叩き付けられる。
「ぐ、おう!」
閉じたままの口から悲鳴がもれる。この戦いが始まってから、初めて竜帝の悲鳴を聞いたかもしれない。
「ついでにこいつも食らえ!」
すかさず、ファルが大岩を竜帝の顔を目掛けて放った。大岩が盛大に竜帝の顔で弾け飛ぶ。
あたりには弾け飛び細かくなった砂煙が立ち、竜帝とファルたちを隔てる。お互いに姿が見えなくなる。
「やったか?」
ファルが身構えたままで眼前のようすを伺う。ジュリアは先程の攻撃に全力を尽くしてしまったのか、息を切らしてしまっている。その息づかいだけで彼女が無事なのはわかった。しかし、次は無いこともはっきりしていた。それは魔術を行使した直後のファルも同様だった。
《おのれ!よくも!》
視界が次第にはっきりとしてきたところで、怒りに身を震わせた竜帝が攻撃体勢を取ろうとしていた。今の攻撃で逆鱗に触れたのは間違いなかった。
《一網打尽にしてくれるわ!》
竜帝は大口を広げ、そのままピタリと停止した。
「まさか!ブレスか!」
その姿を見てファルは瞬時に悟った。あのヴァルを葬り去った一撃である。ドラゴン・ブレス、炎の息である。炎というよりもほとんど高熱線という表現のほうが正しいかもしれない。あまりにも莫大なエネルギーなため、火や炎というレベルを通りすぎて、高熱を帯びた光線のうようであった。そんなものを今食らってしまってはひとたまりもない。避けるだけならなんとかなるかもしれない。しかし、それではジュリアは助からない。今のジュリアには避けるだけの余力も残っていないだろう。
「どうする?」
魔術による防御障壁を構成すればなんとか凌げるかもしれないが、今からでは構成するまでの時間が足りない。しかもジュリアを守るための障壁を構成するためにはさらに時間がかかるだろう。
「万事休すか?」
もう、打つ手がない。このまま消し炭にされるしかないのか?
「戦技一0八計の一つ、破竹撃!」
突如聞こえてきた声と同時に竜帝の左目が切り裂かれた。なんとそこには、竜帝へと剣を振り下ろすロアの姿があった。
「もう、コレ、無理だろ。」
その場にいる誰もがそう感じているであろうことを思わず呟いていた。先程から、ヴァルはピクリとも動かない。竜帝の口から発せられたものは、何かはロアにはわからなかった。たったそれだけで、たった一瞬で、人一人を黒こげにするだけの力があるということに絶望を感じずにはいられなかった。
《少し力を出しすぎたか?あっけないものよ。》
今まで、本気で戦っていなかったのか?これでは本当に手の打ち様がない。
「……そいつはどうかな?」
ファルが竜帝の前へと進み出た。まだ終わっていないと言わんばかりに。それに続くかのようにジュリアも戦槌を構えながら、ファルの傍らへと立つ。
「なめんじゃないわよ!」
その声に呼応するかのように、ロア以外のメンバーも集結する。
《虫けら風情が大勢いたところで、ものの数ではないわ!》
その思念波が伝わってくると同時に竜帝は自らの長い尾を振りかざした。あんなものを食らっては大勢いようと一網打尽にされてしまうだろう。
「みんな、散れ!」
ファルが号令を飛ばす。一同は照らし合わせたかの様に四散する。同時にそれぞれが竜帝へと攻撃を加えていく。波状攻撃を仕掛け、竜帝の注意を一ヶ所に向かせないようにしている。
《小癪な!無駄な足掻きをしおって!》
波状攻撃は竜帝の注意を分散させるには有効かもしれない。しかし……、決定打にはならない。ヴァルの様に魔剣を持っていれば話は別だが、そこまでの決めては他の誰一人として、持ってはいないのではないだろうか。竜帝の反撃は次第に討伐隊の動きをとらえ始め、一人また一人と倒れていく。このままでは本格的にまずい。加勢しなければ。
「とりあえず、何とかしないとみんなやられちまう。」
ロアは前へと駆け出した。
そのとき、ファルは魔術を行使しようとしていた。彼の眼前に大岩が形成されていく。ロック・インパクトである。
「このままでは、ジリ貧だな。」
ここまで波状攻撃をしかけ、耐えしのいでいたが、決定打がないため次第に窮地に立たされるのは時間の問題だった。決定打ともいえるヴァルの一撃が無ければ勝利は難しい。ファルの方にも切り札がないわけではなかったが、行使するには集中するための時間が必要だった。だが、そのための時間を竜帝が与えてくれるはずがなかった。
(考えるんだ、何か手はあるはずだ!)
眼前の大岩は十分な大きさに形成されつつあった。そのとき、竜帝がファルに対して注意を向けたような気がした。
(あと少し!)
このままの状態でも並みの相手なら十分に効果はあるだろう。しかし、相手が悪い。相手は竜帝である。竜帝は眼前に迫り、大口を開けて大岩ごとファルを噛み砕こうとしている。牙がファルへと迫る。
「させるかあ!」
横からジュリアが戦槌を竜帝の上顎目掛けて打ち下ろした。そのまま、竜帝の顎は地面へと叩き付けられる。
「ぐ、おう!」
閉じたままの口から悲鳴がもれる。この戦いが始まってから、初めて竜帝の悲鳴を聞いたかもしれない。
「ついでにこいつも食らえ!」
すかさず、ファルが大岩を竜帝の顔を目掛けて放った。大岩が盛大に竜帝の顔で弾け飛ぶ。
あたりには弾け飛び細かくなった砂煙が立ち、竜帝とファルたちを隔てる。お互いに姿が見えなくなる。
「やったか?」
ファルが身構えたままで眼前のようすを伺う。ジュリアは先程の攻撃に全力を尽くしてしまったのか、息を切らしてしまっている。その息づかいだけで彼女が無事なのはわかった。しかし、次は無いこともはっきりしていた。それは魔術を行使した直後のファルも同様だった。
《おのれ!よくも!》
視界が次第にはっきりとしてきたところで、怒りに身を震わせた竜帝が攻撃体勢を取ろうとしていた。今の攻撃で逆鱗に触れたのは間違いなかった。
《一網打尽にしてくれるわ!》
竜帝は大口を広げ、そのままピタリと停止した。
「まさか!ブレスか!」
その姿を見てファルは瞬時に悟った。あのヴァルを葬り去った一撃である。ドラゴン・ブレス、炎の息である。炎というよりもほとんど高熱線という表現のほうが正しいかもしれない。あまりにも莫大なエネルギーなため、火や炎というレベルを通りすぎて、高熱を帯びた光線のうようであった。そんなものを今食らってしまってはひとたまりもない。避けるだけならなんとかなるかもしれない。しかし、それではジュリアは助からない。今のジュリアには避けるだけの余力も残っていないだろう。
「どうする?」
魔術による防御障壁を構成すればなんとか凌げるかもしれないが、今からでは構成するまでの時間が足りない。しかもジュリアを守るための障壁を構成するためにはさらに時間がかかるだろう。
「万事休すか?」
もう、打つ手がない。このまま消し炭にされるしかないのか?
「戦技一0八計の一つ、破竹撃!」
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