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第1章 英雄と竜帝
第13話 勇者、傍観する。
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目下には現実離れした光景が広がっていた。そこでは魔剣と竜帝の鱗がぶつかり合う、けたたましい大音響が洞穴内に響かせている。竜帝とヴァルがほぼ互角の戦いを繰り広げていた。さすがにヴァルがやや押されているようにも見える。
「……これ、本当に現実か?」
ヴァルがたった一人で竜帝の元に向かってしまったため、置き去りにされた討伐隊一行は後から追い付くまでに時間がかかった。そして、ようやく追い付いた先での光景がこれである。驚く他ない。
「夢ではないのは、確かでしょうね。」
ジュリアがロアの頬をつねりながら答える。
「いてて、何すんだよ。」
割りと強めにつねられたため、抗議する。
「さて、どうしたもんかな。」
眼前の状況を見たファルは何やら決めあぐねている。
「どうするって、どうしなくても良くない?コレ。」
今、下手なことをするとヴァルの邪魔になりかねない。かといって、加勢しなければ、ヴァルが負けてしまうかもしれない。
「やるしかない。援護するぞ。」
ファルはすかさず、ロアの剣に魔力を付与し、次なる魔術の準備に取りかかった。飛竜の時と同じ氷槍を使おうとしているようだ。
「アイスロック・ジャベリン!」
彼の手元に瞬く間に氷槍が形成されていく。投擲する体勢をとり、チャンスを伺っている。すると、その時、ヴァルが一旦後ろに飛び退いた。彼は目線だけでこちらに何か合図を送ってくる。恐らく察してくれたのだろう。すかさず、氷槍を竜帝に向けて投擲する。丁度、竜帝もはヴァルへの追撃を入れようとしているところだった。
「こいつを食らえ!」
氷槍は竜帝に向かって、吸い込まれるように飛んでいった。
「よし!いけるぞこれは」
まるで自分が放ったかのように、ロアは期待の声を上げる。氷槍はそのまま竜帝に命中し、その鱗へ深々と刺さっていった。
「おおっ!やった!」
ロアだけでなく、ほかのメンバーもその様子に歓喜の声を上げる。しかし、様子がおかしい。
「良く見ろ!」
ファルが注意を促す。一同が竜帝のほうを見ると、先程の氷槍が完全に消え失せ、霧散していた。竜帝の体に傷一つ付いていなかった。最初から突き刺さっていなかったかのように。
「これがバーニング・コートだ。生半可な武器や魔法など通用せぬよ。覚えておきたまえ。」
ヴァルが憎々しげに語る。そのまま、彼は竜帝との戦いへと身を投じた。
「へ?《馬場に行くコット》?なにそれ、おいしいの?」
「バーニング・コートだよ!馬鹿野郎。一種の防御障壁みたいなもんだ。上位の竜は魔術も使えるんだよ。」
「竜が魔法?嘘だろ、おい。」
最初に戦った飛竜は下位種であり、知能はそれほど高くはない。上位の竜、ドラゴン・ロードクラスともなれば、魔術を使うどころか知能は人間を遥かに凌駕しているものも多い。竜帝との遭遇前に思念波を送ってきたり、先程目の当たりにした防御障壁等、人間であれば高位の魔術師でなければ行使できない魔術をいとも簡単に行使できるのだ。
「半端ないじゃねえか。そんなやつにどうやって勝つんだよ!」
驚愕の事実を知らされ、ロアは半狂乱になって慌てふためく。
「それでも、何とかするんだよ。」
ファルは新たな魔術の準備に取りかかっている。
「つべこべ言っていないで、さっさとやるわよ!」
ジュリアも戦槌を手に竜帝へと向かっていく。他のメンバーも攻撃体勢に入っている。
「……どうすんだよこれ。」
ロアはただただ、途方に暮れるしかなかった。そこにはロアだけが取り残される形になった。
それからしばらく、竜帝との戦いは繰り広げられ、膠着状態から次第に討伐隊側がやや有利とも言える状況になってきていた。その戦いはほぼヴァルとジュリアが中心となって攻撃を繰り広げていた。ヴァルほどではないが、ジュリアも十分にひけをとらない戦いぶりであった。彼女の戦槌は相手に目につくような手傷を与えてはいないものの、命中時の衝撃は相手を怯ませるのには十分効果的であった。
ファルの方はひたすら援護に専念していた。相手の防御障壁がある関係上、大してダメージを与えることができないのは理解しているので、竜帝への牽制目的で大岩を生じさせ、それを放っている。戦槌と同様、熱の防御障壁では防ぐことができないようで、怯ませることは可能なようだった。これはロック・インパクトと呼ばれる魔術のようである。
「俺、別に要らないじゃん。」
激戦が繰り広げられるその一方で、ロアはいつまでたっても加勢できずにいた。挙げ句の果てに、自分はいなくても大丈夫なのではないかとさえ思っていた。
度重なる連携攻撃の前に、ついに竜帝は大きく怯んだ。その隙を逃がさず、ヴァルは魔剣をおおきく抱えあげ、竜帝へと飛びかかっていった。
「これで終わりだ!」
その瞬間、竜帝は首をもたげ大きな口をヴァルへと向けた。
《バカめ!かかりおったわ!》
その声とともに、口からは閃光が放たれたのだった。一瞬にしてヴァルの体はその閃光に包まれた。そのままヴァルの体は吹き飛ばされ、洞穴の壁に叩きつけられた。その体は完全に真っ黒焦げになっていた。
「ヴァル!」
討伐隊一同が一斉に声を上げる。その声にヴァルはピクリとも反応しない。たった一瞬のうちに一同は絶望の縁へと叩きつけられた。
《人間風情が!身の程を知るが良い!》
「……これ、本当に現実か?」
ヴァルがたった一人で竜帝の元に向かってしまったため、置き去りにされた討伐隊一行は後から追い付くまでに時間がかかった。そして、ようやく追い付いた先での光景がこれである。驚く他ない。
「夢ではないのは、確かでしょうね。」
ジュリアがロアの頬をつねりながら答える。
「いてて、何すんだよ。」
割りと強めにつねられたため、抗議する。
「さて、どうしたもんかな。」
眼前の状況を見たファルは何やら決めあぐねている。
「どうするって、どうしなくても良くない?コレ。」
今、下手なことをするとヴァルの邪魔になりかねない。かといって、加勢しなければ、ヴァルが負けてしまうかもしれない。
「やるしかない。援護するぞ。」
ファルはすかさず、ロアの剣に魔力を付与し、次なる魔術の準備に取りかかった。飛竜の時と同じ氷槍を使おうとしているようだ。
「アイスロック・ジャベリン!」
彼の手元に瞬く間に氷槍が形成されていく。投擲する体勢をとり、チャンスを伺っている。すると、その時、ヴァルが一旦後ろに飛び退いた。彼は目線だけでこちらに何か合図を送ってくる。恐らく察してくれたのだろう。すかさず、氷槍を竜帝に向けて投擲する。丁度、竜帝もはヴァルへの追撃を入れようとしているところだった。
「こいつを食らえ!」
氷槍は竜帝に向かって、吸い込まれるように飛んでいった。
「よし!いけるぞこれは」
まるで自分が放ったかのように、ロアは期待の声を上げる。氷槍はそのまま竜帝に命中し、その鱗へ深々と刺さっていった。
「おおっ!やった!」
ロアだけでなく、ほかのメンバーもその様子に歓喜の声を上げる。しかし、様子がおかしい。
「良く見ろ!」
ファルが注意を促す。一同が竜帝のほうを見ると、先程の氷槍が完全に消え失せ、霧散していた。竜帝の体に傷一つ付いていなかった。最初から突き刺さっていなかったかのように。
「これがバーニング・コートだ。生半可な武器や魔法など通用せぬよ。覚えておきたまえ。」
ヴァルが憎々しげに語る。そのまま、彼は竜帝との戦いへと身を投じた。
「へ?《馬場に行くコット》?なにそれ、おいしいの?」
「バーニング・コートだよ!馬鹿野郎。一種の防御障壁みたいなもんだ。上位の竜は魔術も使えるんだよ。」
「竜が魔法?嘘だろ、おい。」
最初に戦った飛竜は下位種であり、知能はそれほど高くはない。上位の竜、ドラゴン・ロードクラスともなれば、魔術を使うどころか知能は人間を遥かに凌駕しているものも多い。竜帝との遭遇前に思念波を送ってきたり、先程目の当たりにした防御障壁等、人間であれば高位の魔術師でなければ行使できない魔術をいとも簡単に行使できるのだ。
「半端ないじゃねえか。そんなやつにどうやって勝つんだよ!」
驚愕の事実を知らされ、ロアは半狂乱になって慌てふためく。
「それでも、何とかするんだよ。」
ファルは新たな魔術の準備に取りかかっている。
「つべこべ言っていないで、さっさとやるわよ!」
ジュリアも戦槌を手に竜帝へと向かっていく。他のメンバーも攻撃体勢に入っている。
「……どうすんだよこれ。」
ロアはただただ、途方に暮れるしかなかった。そこにはロアだけが取り残される形になった。
それからしばらく、竜帝との戦いは繰り広げられ、膠着状態から次第に討伐隊側がやや有利とも言える状況になってきていた。その戦いはほぼヴァルとジュリアが中心となって攻撃を繰り広げていた。ヴァルほどではないが、ジュリアも十分にひけをとらない戦いぶりであった。彼女の戦槌は相手に目につくような手傷を与えてはいないものの、命中時の衝撃は相手を怯ませるのには十分効果的であった。
ファルの方はひたすら援護に専念していた。相手の防御障壁がある関係上、大してダメージを与えることができないのは理解しているので、竜帝への牽制目的で大岩を生じさせ、それを放っている。戦槌と同様、熱の防御障壁では防ぐことができないようで、怯ませることは可能なようだった。これはロック・インパクトと呼ばれる魔術のようである。
「俺、別に要らないじゃん。」
激戦が繰り広げられるその一方で、ロアはいつまでたっても加勢できずにいた。挙げ句の果てに、自分はいなくても大丈夫なのではないかとさえ思っていた。
度重なる連携攻撃の前に、ついに竜帝は大きく怯んだ。その隙を逃がさず、ヴァルは魔剣をおおきく抱えあげ、竜帝へと飛びかかっていった。
「これで終わりだ!」
その瞬間、竜帝は首をもたげ大きな口をヴァルへと向けた。
《バカめ!かかりおったわ!》
その声とともに、口からは閃光が放たれたのだった。一瞬にしてヴァルの体はその閃光に包まれた。そのままヴァルの体は吹き飛ばされ、洞穴の壁に叩きつけられた。その体は完全に真っ黒焦げになっていた。
「ヴァル!」
討伐隊一同が一斉に声を上げる。その声にヴァルはピクリとも反応しない。たった一瞬のうちに一同は絶望の縁へと叩きつけられた。
《人間風情が!身の程を知るが良い!》
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