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第1章 英雄と竜帝
第8話 勇者、応戦する。
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翌日になり、討伐隊は再び竜帝の住処へと歩みを進めた。今朝の出発前、討伐隊リーダーのヴァル・ムングによればそろそろたどり着くはずであるとのことだった。いよいよということで、討伐隊メンバーにも緊張が走った。一方、ロアはというと、他のメンバーとは違う意味で緊張が走っていた。
(俺もとうとう死ぬのか……。竜帝に食い殺されるのか、それとも勇者でないことがばれて袋叩きにあうのが先か?どちらにしても、嫌な死に方だな。)
……一人だけ、その胸中が知れたら、非難を受けそうなことを考えていた。
「あんたさあ、やっぱり様子がおかしくない?」
ロアのそんな胸中を見透かしたのかは定かではないが、ジュリアが彼に対しての疑問を投げ掛けてきた。彼女からしたら何気ないことかもしれないが、当のロアからしたら心臓に悪い質問であることには間違いない。
「おかしいって、別におかしかないだろ!」
「やっぱり、おかしいじゃん。」
やはり動揺は誤魔化しきれず、声が震えている。
「竜帝の巣が近いってんだから、怖いに決まってんだろ!」
「それよ、それ。あんたそんなに屁たれだったっけ?なんかキャラが変わりすぎなんだけど。」
ギクッと心の中が音声化されたなら、大きく鳴り響いていたであろう。それはロアの秘密の核心にせまる一言であった。
「いや、実は俺、たじゅ……、」
多重人格であると誤魔化そうとしたそのとき、頭上を大きな影が通りすぎていった。
「なんだ?なに今の?」
恐らく正体はわかっているが、それを認めたくはない、現実から目を背けたいそんな思いが彼の胸中にはあった。しかし、クルセイダーズの二人や周囲にいる討伐隊メンバーの様子がそれを完全に否定していた。
「とうとう、おいでなすったか。」
ファルはローブのフードを脱ぎ、戦闘体勢を取ろうとしていた。同じくジュリアも背中の戦槌を手にして身構えている。
「おいおい、嘘だろ……。」
ロアは振り返りながら周囲の様子を見渡した。その瞬間、他のグループの頭上から先程の大きな影が襲いかかろうとしていた。それは紛れもなく飛竜だった。
「で、でかい!」
飛竜はそのまま大きな爪で凪ぎ払っていた。襲われたグループはなすすべもなく、吹き飛ばされていた。ロアは初めて目にした竜に驚きを感じ、圧倒されていた。想像していたものより大きく、その早さも力も圧倒的だった。しかもそれは1体だけではなく、他にも2、3体襲撃してきていた。
「来るぞ!」
ロアたちの前にも一体の飛竜が咆哮を上げながら、襲いかかろうとしていた。圧倒され動けないでいるロアの背後から、ジュリアが戦槌を振りかぶり飛びかかっていった。そして、飛竜と大差ないスピード、むしろそれよりも早いスピードで飛竜の頭部めがけて戦槌を振り下ろしていた。飛竜はたまらず、大音響で叫び声を上げる。
「す、すげえ!」
あまりの迫力に思わず感嘆の声を上げてしまった。ジュリアの華奢な体からは信じられないほどの力だった。大の男でさえ振り回すのに苦労しそうな戦槌を手足のように使いこなしている。そのまま、彼女は怯んだ飛竜に対し、追撃を食らわせようとしていた。
「おい!ぼさっとしてねえで、援護だ!援護!」
「え?……あ、ああ!」
ロアは言われてやっと自分の剣を鞘から抜いた
「エンハンス・ソード!」
ロアが剣を抜くのを待ち構えていたかのように、ファルは何かを叫んだ。するとロアは手元が光を帯びていることに気付いた。自分の剣が光を帯び始めたのである。
「何だ?一体何が起きたんだ?」
「お前の剣に魔力を付与してやったんだよ!別に珍しいことでもないだろ。お前の普通の剣じゃ飛竜に歯が立たないぜ。」
ロアは魔術というものを生まれて初めて目にした。ロアの故郷には存在していないのである。自然の力を利用する術は存在するものの、自らの魔力を行使する魔術を目の当たりにするのは今が初めてであった。
「でもよ、あいつにはそういうの使ってないじゃないか?」
そう、歯が立たないどころか、圧倒している。それでは説明がつかないとロアは正直に思った。
「あの武器は特別なんだよ。あれは並みのモンじゃ歯が立たねえんだよ。怪物の方がな。」
確かに普通の武器にしては装飾が派手だし、打突部分は金剛石で出来ているようにも見える。細かいことはよくはわからないが、そういうことらしい。現に目の前の光景がそれを証明している。
「つまらんこと言ってねえで、援護だ!」
ファルはロアとの話の最中にも関わらず、次なる魔術を準備していた。彼の手元には霜の塊が形成されようとしていた。それは瞬く間に、彼の手元から横に細長く伸びていき、氷の槍となった。
「アイスロック・ジャベリン!」
彼はそう叫びながら、氷の槍を飛竜のいる方向へと投擲した。ちょうどジュリアの攻撃を受け、怯んでいたところへ向かって、それは飛来した。そのままそれは飛竜の首へと深々と突き刺さった。
「グ、グゲギャ」
飛竜は悲鳴を上げようとするが、首に刺さった氷槍のためか声が出ない。
「止めだあ!」
勇ましい声と共にジュリアが戦槌を飛竜の頭部へと振り下ろす。鈍い音が響くと共に、飛竜は体勢を崩し、そのまま前のめりに倒れる。完全に絶命してしまったようだ。
「すげえ……。」
二人の個々の強さも去ることながら、連携の手際の良さは目を見張るものがあった。他のグループがかなり苦戦しているところを見ると、相当な手練れのようだ。クルセイダーズがどういう集団かはロアは知る由もなかったが、竜食いの英雄さえも一目置くだけのことがあると思わざるを得なかった。
「ちょっと!何してんの!後ろ後ろ~!」
慌ててロアが振り向くと、そこには前足を大きく振りかぶった飛竜の姿がそこにはあった。
(やべえ!これは死んだ。)
他人事のようにロアはそう思った。迫り来る死の気配を感じながらのんびりとした思考をしていた。
「ああっ!」
もうだめだと言わんばかりにジュリアが声を上げる。しかし、飛竜の振り下ろした爪の先にはロアの姿はなかった。
「消えた?」
クルセイダーズの二人は思わず同様に声を上げてしまった。
「一0八計が一つ、空隙の陣!」
二人は同時に声がする方向へと目を向ける。飛竜から数歩離れたところに彼はいた。そこで今度は飛竜がけたたましく悲鳴を上げる。先程、振り下ろした前足の先が切断され血を吹き出していた。
「一体、何をしやがった!」
目の前の驚愕の事実を目の当たりにし、ファルは思わず声をあげた。その間、逆上した飛竜はロアに対して再び襲いかかる。今度はその巨大な口を空け、自らの足を切り落とした相手に食らいつかんばかりに襲いかかる。対するロアは剣を上段に構え、迎え撃とうとしていた。その姿はあまりにも無謀に思えた。
「避けろ!」
ファルの声にも微動だにすることなく、ロアはそのまま構えを保持していた。
「戦技一0八計の一つ、破竹撃!」
飛竜の牙がロアの頭部に食らいつく直前で、剣が閃きそのまま振り下ろされた。飛竜はそこでピタリと動きを止め動かなくなった。
「切った!手応えあり!」
ロアはその場から飛び退き剣を鞘に納めた。同時に飛竜の頭部は縦にぱっくりと割れ、そのまま倒れ動かなくなった。
(俺もとうとう死ぬのか……。竜帝に食い殺されるのか、それとも勇者でないことがばれて袋叩きにあうのが先か?どちらにしても、嫌な死に方だな。)
……一人だけ、その胸中が知れたら、非難を受けそうなことを考えていた。
「あんたさあ、やっぱり様子がおかしくない?」
ロアのそんな胸中を見透かしたのかは定かではないが、ジュリアが彼に対しての疑問を投げ掛けてきた。彼女からしたら何気ないことかもしれないが、当のロアからしたら心臓に悪い質問であることには間違いない。
「おかしいって、別におかしかないだろ!」
「やっぱり、おかしいじゃん。」
やはり動揺は誤魔化しきれず、声が震えている。
「竜帝の巣が近いってんだから、怖いに決まってんだろ!」
「それよ、それ。あんたそんなに屁たれだったっけ?なんかキャラが変わりすぎなんだけど。」
ギクッと心の中が音声化されたなら、大きく鳴り響いていたであろう。それはロアの秘密の核心にせまる一言であった。
「いや、実は俺、たじゅ……、」
多重人格であると誤魔化そうとしたそのとき、頭上を大きな影が通りすぎていった。
「なんだ?なに今の?」
恐らく正体はわかっているが、それを認めたくはない、現実から目を背けたいそんな思いが彼の胸中にはあった。しかし、クルセイダーズの二人や周囲にいる討伐隊メンバーの様子がそれを完全に否定していた。
「とうとう、おいでなすったか。」
ファルはローブのフードを脱ぎ、戦闘体勢を取ろうとしていた。同じくジュリアも背中の戦槌を手にして身構えている。
「おいおい、嘘だろ……。」
ロアは振り返りながら周囲の様子を見渡した。その瞬間、他のグループの頭上から先程の大きな影が襲いかかろうとしていた。それは紛れもなく飛竜だった。
「で、でかい!」
飛竜はそのまま大きな爪で凪ぎ払っていた。襲われたグループはなすすべもなく、吹き飛ばされていた。ロアは初めて目にした竜に驚きを感じ、圧倒されていた。想像していたものより大きく、その早さも力も圧倒的だった。しかもそれは1体だけではなく、他にも2、3体襲撃してきていた。
「来るぞ!」
ロアたちの前にも一体の飛竜が咆哮を上げながら、襲いかかろうとしていた。圧倒され動けないでいるロアの背後から、ジュリアが戦槌を振りかぶり飛びかかっていった。そして、飛竜と大差ないスピード、むしろそれよりも早いスピードで飛竜の頭部めがけて戦槌を振り下ろしていた。飛竜はたまらず、大音響で叫び声を上げる。
「す、すげえ!」
あまりの迫力に思わず感嘆の声を上げてしまった。ジュリアの華奢な体からは信じられないほどの力だった。大の男でさえ振り回すのに苦労しそうな戦槌を手足のように使いこなしている。そのまま、彼女は怯んだ飛竜に対し、追撃を食らわせようとしていた。
「おい!ぼさっとしてねえで、援護だ!援護!」
「え?……あ、ああ!」
ロアは言われてやっと自分の剣を鞘から抜いた
「エンハンス・ソード!」
ロアが剣を抜くのを待ち構えていたかのように、ファルは何かを叫んだ。するとロアは手元が光を帯びていることに気付いた。自分の剣が光を帯び始めたのである。
「何だ?一体何が起きたんだ?」
「お前の剣に魔力を付与してやったんだよ!別に珍しいことでもないだろ。お前の普通の剣じゃ飛竜に歯が立たないぜ。」
ロアは魔術というものを生まれて初めて目にした。ロアの故郷には存在していないのである。自然の力を利用する術は存在するものの、自らの魔力を行使する魔術を目の当たりにするのは今が初めてであった。
「でもよ、あいつにはそういうの使ってないじゃないか?」
そう、歯が立たないどころか、圧倒している。それでは説明がつかないとロアは正直に思った。
「あの武器は特別なんだよ。あれは並みのモンじゃ歯が立たねえんだよ。怪物の方がな。」
確かに普通の武器にしては装飾が派手だし、打突部分は金剛石で出来ているようにも見える。細かいことはよくはわからないが、そういうことらしい。現に目の前の光景がそれを証明している。
「つまらんこと言ってねえで、援護だ!」
ファルはロアとの話の最中にも関わらず、次なる魔術を準備していた。彼の手元には霜の塊が形成されようとしていた。それは瞬く間に、彼の手元から横に細長く伸びていき、氷の槍となった。
「アイスロック・ジャベリン!」
彼はそう叫びながら、氷の槍を飛竜のいる方向へと投擲した。ちょうどジュリアの攻撃を受け、怯んでいたところへ向かって、それは飛来した。そのままそれは飛竜の首へと深々と突き刺さった。
「グ、グゲギャ」
飛竜は悲鳴を上げようとするが、首に刺さった氷槍のためか声が出ない。
「止めだあ!」
勇ましい声と共にジュリアが戦槌を飛竜の頭部へと振り下ろす。鈍い音が響くと共に、飛竜は体勢を崩し、そのまま前のめりに倒れる。完全に絶命してしまったようだ。
「すげえ……。」
二人の個々の強さも去ることながら、連携の手際の良さは目を見張るものがあった。他のグループがかなり苦戦しているところを見ると、相当な手練れのようだ。クルセイダーズがどういう集団かはロアは知る由もなかったが、竜食いの英雄さえも一目置くだけのことがあると思わざるを得なかった。
「ちょっと!何してんの!後ろ後ろ~!」
慌ててロアが振り向くと、そこには前足を大きく振りかぶった飛竜の姿がそこにはあった。
(やべえ!これは死んだ。)
他人事のようにロアはそう思った。迫り来る死の気配を感じながらのんびりとした思考をしていた。
「ああっ!」
もうだめだと言わんばかりにジュリアが声を上げる。しかし、飛竜の振り下ろした爪の先にはロアの姿はなかった。
「消えた?」
クルセイダーズの二人は思わず同様に声を上げてしまった。
「一0八計が一つ、空隙の陣!」
二人は同時に声がする方向へと目を向ける。飛竜から数歩離れたところに彼はいた。そこで今度は飛竜がけたたましく悲鳴を上げる。先程、振り下ろした前足の先が切断され血を吹き出していた。
「一体、何をしやがった!」
目の前の驚愕の事実を目の当たりにし、ファルは思わず声をあげた。その間、逆上した飛竜はロアに対して再び襲いかかる。今度はその巨大な口を空け、自らの足を切り落とした相手に食らいつかんばかりに襲いかかる。対するロアは剣を上段に構え、迎え撃とうとしていた。その姿はあまりにも無謀に思えた。
「避けろ!」
ファルの声にも微動だにすることなく、ロアはそのまま構えを保持していた。
「戦技一0八計の一つ、破竹撃!」
飛竜の牙がロアの頭部に食らいつく直前で、剣が閃きそのまま振り下ろされた。飛竜はそこでピタリと動きを止め動かなくなった。
「切った!手応えあり!」
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