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第1章 英雄と竜帝
第5話 勇者、狙われる。
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討伐隊はひたすらに竜帝の住処へと歩みを進めた。だが、道なき道を進むのは困難を極めた。竜帝とその眷属が棲むこの地域一帯はほとんど人は立ち入らない。よっぽど腕のたつハンターもしくは冒険者でもなければ訪れるような所ではないだろう。ひたすら歩き、登り続けても、まだ竜帝の住処は見えてこなかった。最初の一日は本当にそれだけで終わってしまった。進行を中断し、討伐隊の面々は各自野営の準備を始めていた。
「あ~~もう!全然竜帝の巣なんか見えてこないじゃない!」
ジュリアは目的地に中々たどり着けないことに苛立ちを見せていた。
「当然だろ。すぐに行けるような所だったら、あの村なんて存在してないだろ。」
さすがにファルも疲れがあるようで、それを隠すかのように肩を竦めながら言った。だが本気で彼女を嗜めるような口調でもなかった。いつもの手慣れたやりとりといった感じだ。
「ところであんた?あんまり疲れてないように見えるけど、どういうわけ?」
その様な二人のやりとりを平然とした様子で見ていた。
「…いや、まあ別に疲れてない訳じゃないんだぜ。あー疲れた。腹へったなあ。」
あまり疲れていないのを誤魔化すかのように、ロアは大袈裟に疲れている振りをした。梁山泊での鍛錬で常人離れした体力が身についているため、山道は歩き慣れていたし、丸一日歩いた程度では疲れないのである。しかし、そんな素振りを見せていては正体がばれるかもしれない。
「まあ、何だ。とりあえず水でも探しに行ってくるかな♪」
わざとらしい演技を誤魔化しながら二人のもとを離れた。
水を探す……とは言ったものの、何の考えもなしに野営地を飛び出してきたロアは途方にくれていた。
「いっそこのまま、トンズラしちまおうかな。」
誰も見ていない今ならばそれも可能かもしれない。それに山の中なら滑落等の事故で死亡なんていうのもあるかもしれない。 そういうことにしてしまえば、逃亡を疑われないかもしれない。
「第一、あの勇者様に頼まれたとはいえ、別に初めてあった人に命までかけて義理立てする必要もないだろうし…」
特にクルセイダーズの二人を裏切ることになるのは、ちょっとだけ良心が痛むのはまちがいなかったが、背に腹は代えられない。
「……よし!このまま逃げるぞ!」
最早、誰に対して宣言したのかわからないが、宣言してすぐさま山道を下り始めた。そのとき、ロアの右頬を何かが掠めていった。その感触に思わず彼は右頬に手をやった。痛みと共に液体が指に付着した。
「…え?ナニコレ?血が出てんじゃねえか!もしかして狙われてんのか?今の全部見られてた?」
慌てて辺りを見渡すものの、木や岩ばかりで誰かがいたとしても容易には見つけられない。その間に、再び彼の側に何かが飛来した。それはロアの背後にあった木の幹に突き立った。矢が突き刺さっていたのだ。先程顔を掠めたのもおそらくはこれだろう。彼は確実に狙われていた。
「逃げようとしただけで、殺されるってどういうことですかあ!」
ロアは喚きながらも、とりあえず身を隠せそうな遮蔽物を探した。このままでは本当に命を奪われてしまう。ちょうど十歩ほど先に身を隠せそうな大岩があった。彼は死に物狂いでそこまで駆け寄った。しかし……、岩の目前でまたしても飛来物が彼を襲った。それはまるで遮蔽物へ身を隠すことへの牽制のようであった。
「わーっ!いったいどうすりゃいいんだ!」
てんやわんやになり、無我夢中でこの場から逃げ出そうと必死になった。だが肝心なときに木の根っこに足を引っかけ、転倒してしまった。しかも運の悪いことに躓いたその場で石に頭をぶつけてしまった。
「ぐわっ!……ぐああ……」
情けない嗚咽を漏らしながら、ロアは頭を打ったショックで意識がだんだんと遠のいていった。
「あ~~もう!全然竜帝の巣なんか見えてこないじゃない!」
ジュリアは目的地に中々たどり着けないことに苛立ちを見せていた。
「当然だろ。すぐに行けるような所だったら、あの村なんて存在してないだろ。」
さすがにファルも疲れがあるようで、それを隠すかのように肩を竦めながら言った。だが本気で彼女を嗜めるような口調でもなかった。いつもの手慣れたやりとりといった感じだ。
「ところであんた?あんまり疲れてないように見えるけど、どういうわけ?」
その様な二人のやりとりを平然とした様子で見ていた。
「…いや、まあ別に疲れてない訳じゃないんだぜ。あー疲れた。腹へったなあ。」
あまり疲れていないのを誤魔化すかのように、ロアは大袈裟に疲れている振りをした。梁山泊での鍛錬で常人離れした体力が身についているため、山道は歩き慣れていたし、丸一日歩いた程度では疲れないのである。しかし、そんな素振りを見せていては正体がばれるかもしれない。
「まあ、何だ。とりあえず水でも探しに行ってくるかな♪」
わざとらしい演技を誤魔化しながら二人のもとを離れた。
水を探す……とは言ったものの、何の考えもなしに野営地を飛び出してきたロアは途方にくれていた。
「いっそこのまま、トンズラしちまおうかな。」
誰も見ていない今ならばそれも可能かもしれない。それに山の中なら滑落等の事故で死亡なんていうのもあるかもしれない。 そういうことにしてしまえば、逃亡を疑われないかもしれない。
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特にクルセイダーズの二人を裏切ることになるのは、ちょっとだけ良心が痛むのはまちがいなかったが、背に腹は代えられない。
「……よし!このまま逃げるぞ!」
最早、誰に対して宣言したのかわからないが、宣言してすぐさま山道を下り始めた。そのとき、ロアの右頬を何かが掠めていった。その感触に思わず彼は右頬に手をやった。痛みと共に液体が指に付着した。
「…え?ナニコレ?血が出てんじゃねえか!もしかして狙われてんのか?今の全部見られてた?」
慌てて辺りを見渡すものの、木や岩ばかりで誰かがいたとしても容易には見つけられない。その間に、再び彼の側に何かが飛来した。それはロアの背後にあった木の幹に突き立った。矢が突き刺さっていたのだ。先程顔を掠めたのもおそらくはこれだろう。彼は確実に狙われていた。
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「ぐわっ!……ぐああ……」
情けない嗚咽を漏らしながら、ロアは頭を打ったショックで意識がだんだんと遠のいていった。
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