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第1章 英雄と竜帝
第2話 勇者、誕生?
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所々に岩が点在する山道を歩いている途中だった。何かうめき声が聞こえたような気がした。気のせいかとも思ったが、辺りを見回してみた。彼の目は端に何か見えた気がした。
「旅の方、ちょっと頼まれてくれないか。」
今にも生き絶えそうな声でロアに話しかけてきた。彼は反射的にその声の方向に目を向けた。そこには岩陰にもたれ掛かるようにして、人がいた。服装からして異国の人間である。とはいえロアの方も、異国の人間なのだが。
「た、頼むって何を?」
反射的に彼はそう答えてしまった。その相手が今にも生き絶えそうな重傷を負っているにも関わらずだ。
「私の使命を代わりに果たしてはくれまいか?私はもう助からないだろう。」
ロアはそう言う男の元に駆け寄った。近くまで来て彼の身なりを見てみたら、どうやら剣士のようである。鎧を身につけてはいないものの、動きやすそうな服装、そして何より、頭には宝石のようなものがはめ込まれた頭冠が目をひいた。かつてロアが異国の、西方の国の英雄譚を読んだ時に、登場人物がこんな姿をしていると挿絵をみた記憶が微かにあった。
「これを受け取って欲しい。」
そう言いながら、頭冠を頭から外し、ロアに手渡してきた。ロアは戸惑いつつもそれを受け取った。
「代わりにったって、一体何を?」
「こんなところにいたか。なかなかしぶといやつだな。」
戸惑っているロアの側にもう一人の人物が割って入ってきた。一目見ただけで堅気の人間ではないとわかった。手には剣を持ち黒装束を身に纏っていた。いかにもな外見の刺客である。
「なあ勇者殿、例の頭冠はどこだ?あれはどこへやった?」
「……勇者?」
傷ついた剣士は刺客から勇者と呼ばれた。本当なのだろうか?ロアは唐突にわかった彼の正体に唖然とした。
「それを絶対に渡してはいけない!早くそれを付けるんだ。さあ早く!」
「え?なんで?」
わからないことだらけである。渡してはいけないということまではぎりぎりわかる範囲だが、それを身に付けろと言うのは意味がわからなかった。
「誰だかは知らないがさっさとそれを渡しな!死にたくないだろう?」
渡すよう迫られ、ロアは思わず後退りした。渡してしまえばそれで済むはずだが、そうしてしまうと何となく間違っていると感じていた。勇者と呼ばれた人物に頼まれた手前というのもあるが、ロアは嫌な予感がした時は大体、それが当たっていることが多かった。
「渡さないんなら、やっぱり自分の命はいらないということでいいんだな!」
刺客はそう言い終わるか終わらないかぐらいのところで襲い掛かってきた。
(これはヤバイ!)
そう思いながらも、反射的にロアは回避の行動をとっていた。
「何!俺の攻撃を躱しただと!」
「え?いや、何でだろ?ちょっと足が竦んだだけですけど。」
躱した本人も驚いていた。破門されたとはいえ、一通りの武術の心得はある。厳しい訓練によって身に付いた技術は嘘は付かない。
「何者だお前は!素人じゃないってんなら、容赦せん!」
「どうぞ、お手柔らかに!」
ロアは逃げ腰のままで、刺客の二撃目、三撃目とた立て続けにか繰り出される攻撃を次々と躱していった。
「何故だ!何故当たらない!」
刺客の顔には焦りの表情が出始めていた。ただの通りすがりの旅人だと思っていたら、そうではなかったのである。
「こうなったら!」
刺客は身に纏っていた黒い外套をロアに被せるように投げた。これには流石にロアも対処できなかった。
「危ない!」
視覚の背後から声が聞こえたと思うと、倒れていたはずの勇者が刺客に切り掛かっていた。刺客の投げた外套を側に投げ捨てて、見えてきた光景がそれだった。
「おのれ!まだ動けたのか!虫の息だったはずなのに!」
ロアだけでなく、刺客にとってもそれは想定外の事態であった。
「絶対、それを渡すわけにはいかない!これが私の最後の技だ!」
勇者は剣を逆手に持ち、前傾の姿勢をとった。
「喰らえ!勇者の一撃!シャイニングイレイザー!」
剣は眩い光を放ち、勇者は刺客に切り掛かっていった。一瞬の出来事だった。ロアが気づいた時には、勇者は刺客の後ろにいた。
「……ぐはっ!」
うめき声を発しながら刺客は倒れた。ほぼ同時に勇者も倒れた。一部始終を見ていたロアは勇者の元まで駆け寄った。
「おい大丈夫か!」
「最後の力は出し切った。今度こそもう終わりだ。……最後に頼みがある。それを君の頭につけてくれないか?」
「何でこれを?一体どんな意味が?」
「話せば長くなる。だがいずれその意味が自然とわかる様になる。」
わからないことだらけだが、とにかくロアはその頭冠を自らの頭にはめた。
「……ありがとう。……それでいい。それから最後にもう一つ、君の名前を教えてほしい。」
「俺の名前はロアだ。」
「……そうか。……ではロア君、後のことは頼んだ……。」
言い終えた勇者は完全に事切れた。そこでハッとなりロアは周囲を見渡した。刺客の姿がない。勇者に気を取られているうちに姿が消えていた。そこで背後に殺気を感じたロアは振り返った。
「死ねい!」
刺客が切り掛かってきていた。そこでロアは反射的に体を動かしていた。
「馬鹿な!その技は…」
気づいた時には刺客は倒れていた。ロアは先ほど見た勇者の一撃を放っていた。
「旅の方、ちょっと頼まれてくれないか。」
今にも生き絶えそうな声でロアに話しかけてきた。彼は反射的にその声の方向に目を向けた。そこには岩陰にもたれ掛かるようにして、人がいた。服装からして異国の人間である。とはいえロアの方も、異国の人間なのだが。
「た、頼むって何を?」
反射的に彼はそう答えてしまった。その相手が今にも生き絶えそうな重傷を負っているにも関わらずだ。
「私の使命を代わりに果たしてはくれまいか?私はもう助からないだろう。」
ロアはそう言う男の元に駆け寄った。近くまで来て彼の身なりを見てみたら、どうやら剣士のようである。鎧を身につけてはいないものの、動きやすそうな服装、そして何より、頭には宝石のようなものがはめ込まれた頭冠が目をひいた。かつてロアが異国の、西方の国の英雄譚を読んだ時に、登場人物がこんな姿をしていると挿絵をみた記憶が微かにあった。
「これを受け取って欲しい。」
そう言いながら、頭冠を頭から外し、ロアに手渡してきた。ロアは戸惑いつつもそれを受け取った。
「代わりにったって、一体何を?」
「こんなところにいたか。なかなかしぶといやつだな。」
戸惑っているロアの側にもう一人の人物が割って入ってきた。一目見ただけで堅気の人間ではないとわかった。手には剣を持ち黒装束を身に纏っていた。いかにもな外見の刺客である。
「なあ勇者殿、例の頭冠はどこだ?あれはどこへやった?」
「……勇者?」
傷ついた剣士は刺客から勇者と呼ばれた。本当なのだろうか?ロアは唐突にわかった彼の正体に唖然とした。
「それを絶対に渡してはいけない!早くそれを付けるんだ。さあ早く!」
「え?なんで?」
わからないことだらけである。渡してはいけないということまではぎりぎりわかる範囲だが、それを身に付けろと言うのは意味がわからなかった。
「誰だかは知らないがさっさとそれを渡しな!死にたくないだろう?」
渡すよう迫られ、ロアは思わず後退りした。渡してしまえばそれで済むはずだが、そうしてしまうと何となく間違っていると感じていた。勇者と呼ばれた人物に頼まれた手前というのもあるが、ロアは嫌な予感がした時は大体、それが当たっていることが多かった。
「渡さないんなら、やっぱり自分の命はいらないということでいいんだな!」
刺客はそう言い終わるか終わらないかぐらいのところで襲い掛かってきた。
(これはヤバイ!)
そう思いながらも、反射的にロアは回避の行動をとっていた。
「何!俺の攻撃を躱しただと!」
「え?いや、何でだろ?ちょっと足が竦んだだけですけど。」
躱した本人も驚いていた。破門されたとはいえ、一通りの武術の心得はある。厳しい訓練によって身に付いた技術は嘘は付かない。
「何者だお前は!素人じゃないってんなら、容赦せん!」
「どうぞ、お手柔らかに!」
ロアは逃げ腰のままで、刺客の二撃目、三撃目とた立て続けにか繰り出される攻撃を次々と躱していった。
「何故だ!何故当たらない!」
刺客の顔には焦りの表情が出始めていた。ただの通りすがりの旅人だと思っていたら、そうではなかったのである。
「こうなったら!」
刺客は身に纏っていた黒い外套をロアに被せるように投げた。これには流石にロアも対処できなかった。
「危ない!」
視覚の背後から声が聞こえたと思うと、倒れていたはずの勇者が刺客に切り掛かっていた。刺客の投げた外套を側に投げ捨てて、見えてきた光景がそれだった。
「おのれ!まだ動けたのか!虫の息だったはずなのに!」
ロアだけでなく、刺客にとってもそれは想定外の事態であった。
「絶対、それを渡すわけにはいかない!これが私の最後の技だ!」
勇者は剣を逆手に持ち、前傾の姿勢をとった。
「喰らえ!勇者の一撃!シャイニングイレイザー!」
剣は眩い光を放ち、勇者は刺客に切り掛かっていった。一瞬の出来事だった。ロアが気づいた時には、勇者は刺客の後ろにいた。
「……ぐはっ!」
うめき声を発しながら刺客は倒れた。ほぼ同時に勇者も倒れた。一部始終を見ていたロアは勇者の元まで駆け寄った。
「おい大丈夫か!」
「最後の力は出し切った。今度こそもう終わりだ。……最後に頼みがある。それを君の頭につけてくれないか?」
「何でこれを?一体どんな意味が?」
「話せば長くなる。だがいずれその意味が自然とわかる様になる。」
わからないことだらけだが、とにかくロアはその頭冠を自らの頭にはめた。
「……ありがとう。……それでいい。それから最後にもう一つ、君の名前を教えてほしい。」
「俺の名前はロアだ。」
「……そうか。……ではロア君、後のことは頼んだ……。」
言い終えた勇者は完全に事切れた。そこでハッとなりロアは周囲を見渡した。刺客の姿がない。勇者に気を取られているうちに姿が消えていた。そこで背後に殺気を感じたロアは振り返った。
「死ねい!」
刺客が切り掛かってきていた。そこでロアは反射的に体を動かしていた。
「馬鹿な!その技は…」
気づいた時には刺客は倒れていた。ロアは先ほど見た勇者の一撃を放っていた。
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