2 / 401
第1章 英雄と竜帝
第2話 勇者、誕生?
しおりを挟む
所々に岩が点在する山道を歩いている途中だった。何かうめき声が聞こえたような気がした。気のせいかとも思ったが、辺りを見回してみた。彼の目は端に何か見えた気がした。
「旅の方、ちょっと頼まれてくれないか。」
今にも生き絶えそうな声でロアに話しかけてきた。彼は反射的にその声の方向に目を向けた。そこには岩陰にもたれ掛かるようにして、人がいた。服装からして異国の人間である。とはいえロアの方も、異国の人間なのだが。
「た、頼むって何を?」
反射的に彼はそう答えてしまった。その相手が今にも生き絶えそうな重傷を負っているにも関わらずだ。
「私の使命を代わりに果たしてはくれまいか?私はもう助からないだろう。」
ロアはそう言う男の元に駆け寄った。近くまで来て彼の身なりを見てみたら、どうやら剣士のようである。鎧を身につけてはいないものの、動きやすそうな服装、そして何より、頭には宝石のようなものがはめ込まれた頭冠が目をひいた。かつてロアが異国の、西方の国の英雄譚を読んだ時に、登場人物がこんな姿をしていると挿絵をみた記憶が微かにあった。
「これを受け取って欲しい。」
そう言いながら、頭冠を頭から外し、ロアに手渡してきた。ロアは戸惑いつつもそれを受け取った。
「代わりにったって、一体何を?」
「こんなところにいたか。なかなかしぶといやつだな。」
戸惑っているロアの側にもう一人の人物が割って入ってきた。一目見ただけで堅気の人間ではないとわかった。手には剣を持ち黒装束を身に纏っていた。いかにもな外見の刺客である。
「なあ勇者殿、例の頭冠はどこだ?あれはどこへやった?」
「……勇者?」
傷ついた剣士は刺客から勇者と呼ばれた。本当なのだろうか?ロアは唐突にわかった彼の正体に唖然とした。
「それを絶対に渡してはいけない!早くそれを付けるんだ。さあ早く!」
「え?なんで?」
わからないことだらけである。渡してはいけないということまではぎりぎりわかる範囲だが、それを身に付けろと言うのは意味がわからなかった。
「誰だかは知らないがさっさとそれを渡しな!死にたくないだろう?」
渡すよう迫られ、ロアは思わず後退りした。渡してしまえばそれで済むはずだが、そうしてしまうと何となく間違っていると感じていた。勇者と呼ばれた人物に頼まれた手前というのもあるが、ロアは嫌な予感がした時は大体、それが当たっていることが多かった。
「渡さないんなら、やっぱり自分の命はいらないということでいいんだな!」
刺客はそう言い終わるか終わらないかぐらいのところで襲い掛かってきた。
(これはヤバイ!)
そう思いながらも、反射的にロアは回避の行動をとっていた。
「何!俺の攻撃を躱しただと!」
「え?いや、何でだろ?ちょっと足が竦んだだけですけど。」
躱した本人も驚いていた。破門されたとはいえ、一通りの武術の心得はある。厳しい訓練によって身に付いた技術は嘘は付かない。
「何者だお前は!素人じゃないってんなら、容赦せん!」
「どうぞ、お手柔らかに!」
ロアは逃げ腰のままで、刺客の二撃目、三撃目とた立て続けにか繰り出される攻撃を次々と躱していった。
「何故だ!何故当たらない!」
刺客の顔には焦りの表情が出始めていた。ただの通りすがりの旅人だと思っていたら、そうではなかったのである。
「こうなったら!」
刺客は身に纏っていた黒い外套をロアに被せるように投げた。これには流石にロアも対処できなかった。
「危ない!」
視覚の背後から声が聞こえたと思うと、倒れていたはずの勇者が刺客に切り掛かっていた。刺客の投げた外套を側に投げ捨てて、見えてきた光景がそれだった。
「おのれ!まだ動けたのか!虫の息だったはずなのに!」
ロアだけでなく、刺客にとってもそれは想定外の事態であった。
「絶対、それを渡すわけにはいかない!これが私の最後の技だ!」
勇者は剣を逆手に持ち、前傾の姿勢をとった。
「喰らえ!勇者の一撃!シャイニングイレイザー!」
剣は眩い光を放ち、勇者は刺客に切り掛かっていった。一瞬の出来事だった。ロアが気づいた時には、勇者は刺客の後ろにいた。
「……ぐはっ!」
うめき声を発しながら刺客は倒れた。ほぼ同時に勇者も倒れた。一部始終を見ていたロアは勇者の元まで駆け寄った。
「おい大丈夫か!」
「最後の力は出し切った。今度こそもう終わりだ。……最後に頼みがある。それを君の頭につけてくれないか?」
「何でこれを?一体どんな意味が?」
「話せば長くなる。だがいずれその意味が自然とわかる様になる。」
わからないことだらけだが、とにかくロアはその頭冠を自らの頭にはめた。
「……ありがとう。……それでいい。それから最後にもう一つ、君の名前を教えてほしい。」
「俺の名前はロアだ。」
「……そうか。……ではロア君、後のことは頼んだ……。」
言い終えた勇者は完全に事切れた。そこでハッとなりロアは周囲を見渡した。刺客の姿がない。勇者に気を取られているうちに姿が消えていた。そこで背後に殺気を感じたロアは振り返った。
「死ねい!」
刺客が切り掛かってきていた。そこでロアは反射的に体を動かしていた。
「馬鹿な!その技は…」
気づいた時には刺客は倒れていた。ロアは先ほど見た勇者の一撃を放っていた。
「旅の方、ちょっと頼まれてくれないか。」
今にも生き絶えそうな声でロアに話しかけてきた。彼は反射的にその声の方向に目を向けた。そこには岩陰にもたれ掛かるようにして、人がいた。服装からして異国の人間である。とはいえロアの方も、異国の人間なのだが。
「た、頼むって何を?」
反射的に彼はそう答えてしまった。その相手が今にも生き絶えそうな重傷を負っているにも関わらずだ。
「私の使命を代わりに果たしてはくれまいか?私はもう助からないだろう。」
ロアはそう言う男の元に駆け寄った。近くまで来て彼の身なりを見てみたら、どうやら剣士のようである。鎧を身につけてはいないものの、動きやすそうな服装、そして何より、頭には宝石のようなものがはめ込まれた頭冠が目をひいた。かつてロアが異国の、西方の国の英雄譚を読んだ時に、登場人物がこんな姿をしていると挿絵をみた記憶が微かにあった。
「これを受け取って欲しい。」
そう言いながら、頭冠を頭から外し、ロアに手渡してきた。ロアは戸惑いつつもそれを受け取った。
「代わりにったって、一体何を?」
「こんなところにいたか。なかなかしぶといやつだな。」
戸惑っているロアの側にもう一人の人物が割って入ってきた。一目見ただけで堅気の人間ではないとわかった。手には剣を持ち黒装束を身に纏っていた。いかにもな外見の刺客である。
「なあ勇者殿、例の頭冠はどこだ?あれはどこへやった?」
「……勇者?」
傷ついた剣士は刺客から勇者と呼ばれた。本当なのだろうか?ロアは唐突にわかった彼の正体に唖然とした。
「それを絶対に渡してはいけない!早くそれを付けるんだ。さあ早く!」
「え?なんで?」
わからないことだらけである。渡してはいけないということまではぎりぎりわかる範囲だが、それを身に付けろと言うのは意味がわからなかった。
「誰だかは知らないがさっさとそれを渡しな!死にたくないだろう?」
渡すよう迫られ、ロアは思わず後退りした。渡してしまえばそれで済むはずだが、そうしてしまうと何となく間違っていると感じていた。勇者と呼ばれた人物に頼まれた手前というのもあるが、ロアは嫌な予感がした時は大体、それが当たっていることが多かった。
「渡さないんなら、やっぱり自分の命はいらないということでいいんだな!」
刺客はそう言い終わるか終わらないかぐらいのところで襲い掛かってきた。
(これはヤバイ!)
そう思いながらも、反射的にロアは回避の行動をとっていた。
「何!俺の攻撃を躱しただと!」
「え?いや、何でだろ?ちょっと足が竦んだだけですけど。」
躱した本人も驚いていた。破門されたとはいえ、一通りの武術の心得はある。厳しい訓練によって身に付いた技術は嘘は付かない。
「何者だお前は!素人じゃないってんなら、容赦せん!」
「どうぞ、お手柔らかに!」
ロアは逃げ腰のままで、刺客の二撃目、三撃目とた立て続けにか繰り出される攻撃を次々と躱していった。
「何故だ!何故当たらない!」
刺客の顔には焦りの表情が出始めていた。ただの通りすがりの旅人だと思っていたら、そうではなかったのである。
「こうなったら!」
刺客は身に纏っていた黒い外套をロアに被せるように投げた。これには流石にロアも対処できなかった。
「危ない!」
視覚の背後から声が聞こえたと思うと、倒れていたはずの勇者が刺客に切り掛かっていた。刺客の投げた外套を側に投げ捨てて、見えてきた光景がそれだった。
「おのれ!まだ動けたのか!虫の息だったはずなのに!」
ロアだけでなく、刺客にとってもそれは想定外の事態であった。
「絶対、それを渡すわけにはいかない!これが私の最後の技だ!」
勇者は剣を逆手に持ち、前傾の姿勢をとった。
「喰らえ!勇者の一撃!シャイニングイレイザー!」
剣は眩い光を放ち、勇者は刺客に切り掛かっていった。一瞬の出来事だった。ロアが気づいた時には、勇者は刺客の後ろにいた。
「……ぐはっ!」
うめき声を発しながら刺客は倒れた。ほぼ同時に勇者も倒れた。一部始終を見ていたロアは勇者の元まで駆け寄った。
「おい大丈夫か!」
「最後の力は出し切った。今度こそもう終わりだ。……最後に頼みがある。それを君の頭につけてくれないか?」
「何でこれを?一体どんな意味が?」
「話せば長くなる。だがいずれその意味が自然とわかる様になる。」
わからないことだらけだが、とにかくロアはその頭冠を自らの頭にはめた。
「……ありがとう。……それでいい。それから最後にもう一つ、君の名前を教えてほしい。」
「俺の名前はロアだ。」
「……そうか。……ではロア君、後のことは頼んだ……。」
言い終えた勇者は完全に事切れた。そこでハッとなりロアは周囲を見渡した。刺客の姿がない。勇者に気を取られているうちに姿が消えていた。そこで背後に殺気を感じたロアは振り返った。
「死ねい!」
刺客が切り掛かってきていた。そこでロアは反射的に体を動かしていた。
「馬鹿な!その技は…」
気づいた時には刺客は倒れていた。ロアは先ほど見た勇者の一撃を放っていた。
2
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる