シンデレラっぽいもの

Mercury

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2.後編

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「シンデレラ、掃除はもういいから先にご飯を食べなさい、片付かないでしょう。(あぁ、大変シンデレラちゃんの可愛いお顔がまた埃で汚れているわ)」
言い方は相変わらず、つっけんどんな継母であるが、手にハンカチを持ち私の顔の汚れを優しく拭いてくれる。

この家に来てから今までシンデレラが掃除をすることにはずっと反対のようだ。
この間、煙突掃除をしていた所を目撃された際は、継母は悲鳴をあげ即倒した。
そして、目を覚ますと、こんこんと5時間にも上るお説教を受けた。
それ以来、危ない場所の掃除は、継母達がいない隙を狙ってこっそり行っている。ごめんなさい。

「シンデレラ、私のしいたけを食べなさい(食べているシンデレラ可愛い)」
「シンデレラ、私の玉ねぎも食べなさい(もぐもぐしているシンデレラ可愛い)」
双子の継姉達は、そう言いながら、次々とシンデレラのお皿に野菜をのせてくる。

一件、嫌いな野菜を私に無理やり押し付けているように見えるのだが、しいたけと玉ねぎは私の大好物なのだ。
そのため、それを知ってからは毎回自分達の分をせっせとシンデレラの器に移すのが恒例行事なのだ。

『お継母様もお継姉様達も大好きですわ』
三人の優しさが嬉しくなって、満面の笑みを向ける。

「な、なにを言い出すの、いきなり。おかしな子ね。は、早く食べちゃいなさい(天使の微笑みとは正にこの事ね。直ぐに画家を呼んで家中に飾らなければ)」
「「そ、そんなこといわれても嬉しくなんかないんだからね(可愛すぎる・・・なのに、また素直に私も大好きと返せなかった)」」
継母は顔を真っ赤にしながら、口元を一文字に結んでむすっとしたような表情をしている。
継姉は、そっぽを向いたかと思えば、直後に項垂れていた。

本当に可愛らしいシンデレラの自慢の家族だ。


***



―――そんな微笑ましい日々を送っていたある日、お城から王子様のお妃を決める舞踏会の招待状が届いた。


それを見た後の三人の行動は早かった。

こんなに可愛いシンデレラを、王子なんぞに渡してなるものかと三人で結託をし、彼女に舞踏会の事を絶対に知られないように徹底的に隠し通した。

シンデレラと離れて暮らすことになるであろう、王子との結婚には継姉達は興味を示さなかったが、継母は、流石に王子からの舞踏会の招待を無視する訳にはいかないと二人は強制参加であることを言い渡した。

その際に、双子の継姉達に、「お継母様だけ残ってシンデレラと二人で過ごすなんて許せませんわ」と詰め寄られたため、仕方なく三人でお城の舞踏会に行くことになった。


***


舞踏会当日、
「シンデレラ、ドレスを着るの手伝ってくれる」
「シンデレラ、髪を結ってくれるかしら」
「「私が先よ!!」」
継姉達は、シンデレラに世話を焼かれるのが大好きなため、彼女を朝から取り合っていた。

ちなみに、シンデレラには、急に危篤になった継母の姉の姪っ子の弟の嫁(遠い親戚)に会いにいかなければならなくなったが、使用人がギックリ腰になったため※使用人には、休暇を与えてある
本日は、家の掃除をするものがいないためお願いしたいという旨を伝えてある。

本当は掃除をさせたくないが、念には念を入れ、シンデレラなら時間を忘れパーティーの終わる頃まで没頭してくれるであろう掃除を引き合いに出したのだ。
彼女は、案の定、目を輝かせて私に任せてと言わんばかりに大きく頷いたのであった。

『はいはい、順番にするので、喧嘩なさらないで、お継姉様方』
「ふんっ、しょうがないわね。(天使にお世話をしてもらえるなら舞踏会もたまには悪くないわね・・・今回こそ嫌われたわ)」
「さっさとしなさい、シンデレラ(天使にお世話をしてもらえるなら舞踏会もたまには悪くないわね・・・冷たい言い方しちゃったけど)」
二人の扱いにも落ち込み具合にも手慣れたもので、シンデレラは継姉達を宥めると急いで綺麗に仕上げていく。

元々継母に似て美人な継姉達が一段と美しくなる。その後、継母の準備も手伝い、仕上げると、馬車まで見送る。

『三人とも本当にとても綺麗ですわ、道中など怪しい方にはくれぐれもお気を付けて下さいね』
「シンデレラ、二つ約束よ。一つ煙突掃除はしないこと。二つ戸締りをしっかりして家から決してでないこと。簡単なことですもの、守れるわね(一人残していくなんて心配だわ、使用人はやはり残しておくべきだったかした。でも、こんなに可愛いシンデレラちゃんと二人きりなんて羨まし・・・危険だからいけないわ。)」
「「危ない所まで、掃除をしたら許さなくってよ(そんなことして、怪我でもしたら泣いちゃうわ・・・あぁでも許さないはきつく言い過ぎたかしら)」」
褒められて満更ではなさそうな三人だが、シンデレラを置いていくことが心配で心配で仕方ない。

『はい、約束しますわ。』
その言葉を聞くと、少しだけ安心したように三人はお城へ出発するのであった。


そして、シンデレラは、内心、久々に掃除が思いっきりできることに昂ぶる心を抑えきれずにいたため見送ってから瞬時に掃除を開始したのである。

ご機嫌に鼻歌を歌いながら、玄関の掃除をしていたシンデレラの目の前にいきなりローブを着た女性が現れた。
彼女は不審者だと思い、手に持っていた箒を構える。

「はじめまして、お嬢さん。そんなに怯えないで。怪しいものではありません。私は貴女の願いを叶える魔法使いですわ」
警戒を解こうと、にこやかにそう告げ、被っていたローブを外し顔を覗かせたのは切れ長の二重が特徴の銀髪の美女だった。

(綺麗な人だわ、まあ、お継母様達の美しさには敵わないけれど)
と内心考えながら相手を見つめるシンデレラ。

『私の願い?掃除をすることですか?それなら現在進行形で叶っていますわよ?』
警戒を解かず、周りからすれば素っ頓狂なことを平然と言うシンデレラ。

「なるほど。意地悪な継母、継姉達に教えてもらっていないのですね。本日は、王子様のお妃様を決めるお城の舞踏会なのですわ。貴女を舞踏会に連れて行くために私は参りましたの。王子のいる舞踏会へ行きたいでしょう??」
さも、行きたいのが当然であるかのように告げてくる魔法使い。

『いいえ、全く。それにお継母様達に意地悪などされていませんわ。撤回して下さるかしら。』
大好きな継母達を誤解され、怒りをにじませながら冷たく言い放つ。

「これは失礼しました。ですが、巷では、有名ですよ。灰かぶり姫は、継母や継姉達に虐められていると。現に貴女は、舞踏会のことを聞かされていなかったのでしょう?」
『いいえ、私は知っていましたわよ。でも、思いっきり家の掃除をしたいから残ったのです。それに、噂に惑わされるなど愚か者がすることですわ。優しくされた事は多々あっても意地悪をされた事などただの一度もありませんわ。掃除の邪魔なので、お帰り下さいませ。』
そうぴしゃりと告げるとシンデレラは、魔法使いを家から叩き出して掃除を再開した。

そうなのだ、彼女は三人が必死に隠していた舞踏会の事に気づいていた。その真意にも。そして、王子なんぞに興味もなかったため知らないふりをしていたのである。

しばらくして、早々に舞踏会を切り上げた継母と継姉達が帰宅する。

家に入って直ぐに、家中がぴっかぴかになっている事に気づいたが、逆にシンデレラは灰をかぶって汚れているのを見つけ直ぐさま説教タイムに突入した。

『お、お継母様、お継姉様方、予定よりもお早いお帰りですね?』
シンデレラはやり始めたら止まらず、結局煙突掃除まで行い、三人が帰ってくる前にお風呂に入って証拠隠滅しようと考えていたが、予定より早く帰宅したため約束を破ったことがバレてしまった。

「「「っっっシンデレラ!!!!」」」
『え、えへ』
とりあえず三人が弱い天使スマイルで誤魔化そうとするが今回ばかりは誤魔化されてくれず、明け方まで説教は続いたが、シンデレラが涙目で反省を訴えた所でお開きとなった。

その後、風の噂で、王子が銀髪の魔法使いと結婚したということを聞いたがシンデレラ達家族は誰も気にもとめなかった。

そして、シンデレラは相変わらず隠れて掃除に励んでいる。
継母は、画家を呼び三人の娘達の絵を沢山描かせ家中に飾ることにハマっていた。
継姉達は、シンデレラの可愛さについて朝まで語り明かし、顔色が悪いとシンデレラに心配されることもしばしば。


継母や継姉達と過ごす、そんなたわいもない日常がシンデレラにとっては最高の幸せで、一番大切なものなのだ。




―――舞踏会には行かない未来を選択したシンデレラ。

―――――彼女は、継母と継姉達と末永く、幸せに暮らしましたとさ。





Fin.



【おまけ】


「王子、貴方の理想の女性は、私ではなく他にいます!!なので私のことを追いかけ回すのはお止め下さい」

「ああ、だから舞踏会の日にボクの理想の女性を連れてくる事が出来たら君のことは諦めると約束しただろう。その代わり、連れてこれなかった場合は、君がボクと結婚するという賭けをして負けたのは君だ。自分の発言には責任を持たないとね、ボクの愚かで可愛いいとしの魔法使いさん。」

「こ、こんなはずじゃ、なかったのですわ!今からでも連れて参りますので、こちらに、せ、迫って来ないで下さいませ王子。」

「いい加減諦めなよ。初めて君に会った時からボクの理想の女性は君だったのだから。この賭けは最初からボクの勝ちが決まってたのさ。」

そう言って、王子はうっそりと微笑みながら、魔法使いの頬にキスを贈るのであった。


―――魔法使いは、腹黒策士の王子様と末永く、幸せに?暮らしましたとさ。

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