シンデレラっぽいもの

Mercury

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1.前編

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昔々あるところに、巷で有名な掃除好きの一人の少女がおりました。
荘厳と輝く金の瞳に、同じく金色の髪を持つその少女の名は、シンデレラ。
天使と見間違うような可憐な見た目をしているため、誘拐されかけた経験は数え切れません。

そんなシンデレラは、家に使用人がいるにも関わらず家事が好きで、特に掃除が大好きなのです。
そのため何度止められても掃除をやめず、果ては、煙突の掃除までしてしまうのですから使用人達はたまったものではありません。

彼女のことを聞くと、皆口を揃えて、『灰かぶり姫』とそう呼びます。


***


今日も今日とて、家中の掃除をせっせと励んでいたシンデレラに、突然、父から再婚話が持ち寄られる。

「シンデレラ、紹介したい女性がいるのだが、会ってくれるかい?」
普段は娘にデレデレで顔に締りのない父が、珍しく緊張した面持ちで声を掛けてくる。

『はい、お父様』
人の良いお父様の事だ。変な女に捕まったのではと一抹の不安を隠しながら父に微笑みかける。
本当の母は、シンデレラが幼い頃に病気で亡くなっていたためほとんど記憶にない。

「こちらの女性が、シルク。実は、彼女と再婚しようと思っているんだよ。」
そう言って紹介された、見た目は、とても気が強そうな美女。
父は、見た目に騙されたのではないかと、じっと観察するように女性を見つめるシンデレラ。

そこで、初めて美女が口を開く。

「あ、貴女が、シンデレラね。わ、私のことはお継母様とお呼びなさい!
(き、聞いていた以上に天使ですわ!!そんなに見つめられたら可愛すぎて鼻血が出そうだわ。)」
顔を真っ赤にし、ぷるぷると震えながら怒鳴るようにして高圧的にそう告げる、継母。

シンデレラは、どうやら自分の事はお気に召さないらしいと察した。

『え、ええと、宜しくお願いします、お継母様?』
とりあえず、困り顔でそう返すと、継母は、声にならない悲鳴をあげ、真っ赤な顔を更に赤くしてどこかに走り去ってしまった。

そのためシンデレラは、
(何か、怒らせてしまったのかしら?呼んでいいといいながら、本当は呼んでほしくなかったとかかしら?)
と心配していた。

「ごめんよ、シンデレラ。彼女はとても照れ屋なんだ。君と会うのを随分前から楽しみにしていたようだし、きっと実際に会って照れてしまったのだろう。許してやっておくれ。あと、シンデレラと歳の近い双子の娘さんもいるそうだ。お前ならきっと直ぐに仲良くなれるさ、私の天使。」
『・・・はい、お父様(いえいえ、お父様、あれは、照れ屋なのでしょうか?真っ赤な顔で怒鳴られましたし、恐らく怒りで震えていましたわよ?でも、父は本気のようだし悪い人の感じはしないのよね)』
と内心思う事はいっぱいであった。

しかし、幼い頃から父と娘の二人家族だった為、母と姉という存在に憧れを抱いていたシンデレラ。

そのため、折角家族になるのであれば、このままではいけないと考え、仲良くなろう作戦を実行しようと心に決意するのであった。


***


後日、継母と、継姉達が家に引っ越して来た。

『ようこそ、お継母様、お継姉様!心からお待ちしておりましたわ!』

【作戦その1】門の外でお出迎え作戦。
その名の通り、とりあえず、門の外で一番に出迎えることで印象を良くするという狙いである。

「門の外で待つなんて、何を考えているの。貴女はそんなことしなくていいわ。(何てことなの!シンデレラちゃんはこんなに可愛いのだから門になんか立っていたら、すぐに変態に誘拐されちゃうに決まっているわ!!旦那様曰く過去にも何回も誘拐されかけたというのだから、今後は私が守っていかなければいけないわ。)」
馬車から降りるや否や、眉間に皺をよせ険しい顔をしながら、ぴしゃりと告げる継母。

どうやら作戦その失敗だったようだ。

継母に続き、継姉達も降りてくる。

「「貴女が、シンデレラね、仲良くしてあげないこともなくってよ(お母様のお話以上に可愛らしいわ!!また素直じゃないこと言ってしまったわ、嫌われてしまったかしら)」」
先日の継母みたいに顔を赤くしながら、上から目線でそう告げる継姉達。
継母そっくりである。だがその直後になぜか、隅で項垂れていた。

長旅で気分が優れなくなったのかと心配したシンデレラは、
(すぐにお部屋にお連れして差し上げないと)
と考え急いで三人を案内する。


***


『長旅でお疲れでしょうから、よろしければご一緒にお茶をしませんか?お継母と、お継姉様のために、ケーキを焼きましたの!ですが、ご気分が優れないようでしたらご無理はなさらないで下さいね』

【作戦その2】手作りのお菓子で仲良くなろう作戦。
掃除以外にも家事全般は得意なシンデレラ。特に手作りお菓子は、料理長にも絶賛される腕前だ。

「こ、こんなもの、食べられませんわ(シンデレラちゃんの手作りなんてもったいなさすぎて食べられるはずありませんわ。すぐに永久保存するよい方法を考えなくてはいけませんわ)」
まるで親の仇でも見るような顔でケーキを睨みつけながらそう告げるお継母様。

(もしかすると、継母は甘いものが苦手だったのかもしれない。)
と、また作戦失敗の予感に落ち込むシンデレラ。

しかし、継母の様子から、この作戦も失敗に終わるかと思いきや、
「貴女の作ったものなんて、たかが知れていますけれども、食べてあげないこともなくってよ(手作りなんて嬉しすぎて、思わずまた酷いことを…今度こそ確実に嫌われましたわ)」
「ふんっ、まあまあね。食べられないことはないんじゃなくて?(お、美味しすぎるわ。な、なのに素直に美味しいと言えないなんて…今度こそ確実に嫌われましたわ)」
そう言って、継姉達は、涙目になりながらも食べてくれた。

(きっと、涙を浮かべるほど二人ともご気分が優れないようなのに、無理して食べて下さるなんてなんてお優しいお継姉様達なのでしょう)
と継姉達の心配をよそに感動するシンデレラ。


***


―――その後も、毎日めげずに、継母と継姉達に仲良くなろう作戦を続けること早1年。


継母はツンデレ(態度は素っ気ないが、内心はデレデレ)、継姉達はツンシュン(態度は素っ気ないが、その後自分の言動に落ち込む)というような性格であることを段々と理解してきたシンデレラ。

理解してからは、作戦を中止し、三人を観察して楽しむ日々を送っていた。
特に継姉達は、高圧的な態度とすぐに落ち込むギャップが大変可愛らしい。
たまに継姉の言葉に落ち込む振りをすると、大きな瞳に涙を浮かべ、泣かないように震えながら耐える姿に新しい扉を開きそうになるシンデレラであった。


―――ちなみに、お父様はつい先日病気で亡くなってしまった。


一時期はひどく落ち込み、心を無にするため一心不乱に掃除をする手を止めなかったシンデレラ。
そんな彼女をひどく心配した三人が、試行錯誤しながら代わる代わる寄り添い励ました。

悲しんでいるのはシンデレラだけではないというのに・・・。
しかし、そのおかげで立ち直ることができたのだ。

一緒に住んだ期間は、まだ1年足らずではあるが、シンデレラ達はいつのまにか本当の家族のようになっていた。

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