2 / 6
量は質を凌駕する
プロジェクトは成功?失敗?
しおりを挟む
≪SYSTEM MESSAGE.. TRIP FOR___error__e;e/..≫
生暖かい風が頬を撫でる。ジメジメとした湿度を感じるが不快感はない。乾燥しきっていた自分の肌が不思議なくらい瑞々しく、常に感じていた肌の突っ張りを感じなくなっていた。朧げで曇り掛かった視界の焦点が徐々に合ってきた。
「成功したのか…?」
最近は仕事として既にあるプロジェクトを熟すのがメインだった自分が、余生を注ぎ込んで『本当に創りたいもの』を五年の歳月のほとんどを費やして創り上げた製品。
時空間体験システム
エンジニアの醍醐味である『無から有を生み出す』を最後にもう一度体験したかった。このシステムを作るにあたって14件の特許も取れた。社会人だった40年間の間に取得した総数を上回ったのは皮肉である。
さて、この時空間体験システムはVRゲームシステムのその先にある。脳信号に直接五感を感じさせ、事前に登録してあるデータをリアルとして感じることが出来るシステムである。登録データ量が莫大になることが欠点だが、1度登録すればいつでもどこにでも“行ったような気がする“ことを体験できる。まさに旅行革命である。
あくまでデータのため人との会話などは実装できていない。今後AIを組み込むことで会話をさせるデータの作成を検討しているが、AIの分野は恥ずかしながら専門外だ。今回の技術も専門外であるのは間違いないのだが。
「おい!エイト! なにボケっと突っ立ってるんだ!小便が終わったなら早く戻ってこい!」
頭がフリーズした。
今までもこんなことは稀にあった。自分の想定を遥かに超える成果を知らぬ間に出してしまった時である。恐らく、不足していたと感じていたAIの機能を脳が情報の補完するために過去の記憶から最適な状況を“あたかも夢のよう”に感じさせているのだろう。現実でも白昼夢という現象は多々報告されている。
一刻の感動を噛みしめていると頭に鈍痛が走った。
「おい!聞いてんのか! サボってんじゃねえよ!」
大男の拳が脳天に振り下ろされた。つい先ほど焦点の合った視界が徐々にボヤケていくのを感じながら、私の意識は遠のいていった。
◇◇◇
「旦那様、申し訳ございやせん。ちっと躾のつもりでぶん殴ったら飛んじまいやして…薬師に見せたら頭揺れというので、安静にしていたら治るとのことでした。」
「まったく、お前のすぐに手を出す癖も薬師に見てもらえ。直し方が分かったなら、それに専念しても良い」
「そんな、ひでえこと言わねえでくだせえ。俺の取り柄の一つなんですから」
「最近来たばかりの丁稚を早々に使いものにならなくした結果を見れば不要な取り柄だな。戦時であれば取り柄になるやもしれんが当面はその取り柄を使わんようにしておけ」
「努力はしておきやす」
旦那と呼ばれる壮年の男と無精ひげを携えた賊のような見た目の大男の仲良さげな会話が部屋から漏れてきていた。そんな部屋のドアの前で私の頭の中はパニックが続いている。
「旦那様、カンドです。エイトが目を覚ましましたので連れてまいりました。」
「入りなさい。」
カンドと名乗る小綺麗な服を着た若い男に連れられ、私は声の漏れ続ける部屋に通された。
「テンに殴られた頭の痛みは引いたか?初日から災難だったな。」
「エイト悪かったな。そんな簡単に飛んじまうとは思わなくてよ。」
「はい。大丈夫です。こちらこそ仕事を全うできず申し訳ありませんでした。」
『時空間体験システム』の製作は失敗だったのだろう。見方によれば大成功なのかもしれない。
上手い表現ができないが、先ほど目を覚ました時に知らない記憶が自分の中に流れ込んできていた。前に見たことがあるけど、何だったか覚えていないような不思議な感じだった。
私の名前はエイト。この地で商家の次男に生まれ十歳を節目に豪族のエコノリハ家に丁稚に出された。実際にこの地で過ごした10年分の記憶はある。そして神城修としての70年分の記憶もあるのだ。共存してはならない2つの記憶を持つこの奇妙さが何とも気持ち悪い。
「挨拶が遅れたが、私が当家の家主をしているオウト=ナイト=エコノリハである。そなたの名は何ぞ」
「屋号ソロバを商うソロバの子。名をエイトと申します。本日より丁稚としてお館様にご指導をいただきたく存じます」
数か月この文言を空で言えるように特訓された言葉を淀みなく言う。ここにいる全員がそれぞれの身元を分かっていながらも形式として名を確認し、要件を確認して初めて身元の確認ができるのだ。
「ふむ。ソロバとな。その者の商いは何をしているのだ。」
「はい。ソロバは行商を行っております。エコノリハ地を始めとする東西四方のバタール領全域において馬車3台を牽いております」
「相分かった。そなたエイトを本日付けてエコノリハの丁稚をすることを許す。良き働きを心得よ」
「ありがたき幸せ」
オウト=エコノリハはエコノリハ地を治める豪族の主である。
ソロバ家が何をしているのか既に知っている。丁稚とは豪族に奉仕する最下級の役職であるが、情報伝達役という上役にも正確な情報伝達をする一面も持つ。小間使いという言い方もあるが。そのためオウトはエイトに向けて自身の出家が何をしているかの情報伝達をさせたのである。
しばしの間をあけてオウト=エコノリハは徐に椅子に掛けてある装飾剣を抜き、エイトの前に歩み寄り、エイトの頭上に剣を突き立てた。
「今よりエコノリハ地の地神の代理人として宣言する。汝、エイトをエコノリハに仕えることを許し、エイト=エコと名乗ることを許す。」
晴れてエコノリハの丁稚として認められた瞬間だった。本来のエイトの記憶だけであれば心躍る瞬間に間違いはないのだが、齢70を超える記憶に邪魔をされ何とも心の晴れないイベントになったのだった。
生暖かい風が頬を撫でる。ジメジメとした湿度を感じるが不快感はない。乾燥しきっていた自分の肌が不思議なくらい瑞々しく、常に感じていた肌の突っ張りを感じなくなっていた。朧げで曇り掛かった視界の焦点が徐々に合ってきた。
「成功したのか…?」
最近は仕事として既にあるプロジェクトを熟すのがメインだった自分が、余生を注ぎ込んで『本当に創りたいもの』を五年の歳月のほとんどを費やして創り上げた製品。
時空間体験システム
エンジニアの醍醐味である『無から有を生み出す』を最後にもう一度体験したかった。このシステムを作るにあたって14件の特許も取れた。社会人だった40年間の間に取得した総数を上回ったのは皮肉である。
さて、この時空間体験システムはVRゲームシステムのその先にある。脳信号に直接五感を感じさせ、事前に登録してあるデータをリアルとして感じることが出来るシステムである。登録データ量が莫大になることが欠点だが、1度登録すればいつでもどこにでも“行ったような気がする“ことを体験できる。まさに旅行革命である。
あくまでデータのため人との会話などは実装できていない。今後AIを組み込むことで会話をさせるデータの作成を検討しているが、AIの分野は恥ずかしながら専門外だ。今回の技術も専門外であるのは間違いないのだが。
「おい!エイト! なにボケっと突っ立ってるんだ!小便が終わったなら早く戻ってこい!」
頭がフリーズした。
今までもこんなことは稀にあった。自分の想定を遥かに超える成果を知らぬ間に出してしまった時である。恐らく、不足していたと感じていたAIの機能を脳が情報の補完するために過去の記憶から最適な状況を“あたかも夢のよう”に感じさせているのだろう。現実でも白昼夢という現象は多々報告されている。
一刻の感動を噛みしめていると頭に鈍痛が走った。
「おい!聞いてんのか! サボってんじゃねえよ!」
大男の拳が脳天に振り下ろされた。つい先ほど焦点の合った視界が徐々にボヤケていくのを感じながら、私の意識は遠のいていった。
◇◇◇
「旦那様、申し訳ございやせん。ちっと躾のつもりでぶん殴ったら飛んじまいやして…薬師に見せたら頭揺れというので、安静にしていたら治るとのことでした。」
「まったく、お前のすぐに手を出す癖も薬師に見てもらえ。直し方が分かったなら、それに専念しても良い」
「そんな、ひでえこと言わねえでくだせえ。俺の取り柄の一つなんですから」
「最近来たばかりの丁稚を早々に使いものにならなくした結果を見れば不要な取り柄だな。戦時であれば取り柄になるやもしれんが当面はその取り柄を使わんようにしておけ」
「努力はしておきやす」
旦那と呼ばれる壮年の男と無精ひげを携えた賊のような見た目の大男の仲良さげな会話が部屋から漏れてきていた。そんな部屋のドアの前で私の頭の中はパニックが続いている。
「旦那様、カンドです。エイトが目を覚ましましたので連れてまいりました。」
「入りなさい。」
カンドと名乗る小綺麗な服を着た若い男に連れられ、私は声の漏れ続ける部屋に通された。
「テンに殴られた頭の痛みは引いたか?初日から災難だったな。」
「エイト悪かったな。そんな簡単に飛んじまうとは思わなくてよ。」
「はい。大丈夫です。こちらこそ仕事を全うできず申し訳ありませんでした。」
『時空間体験システム』の製作は失敗だったのだろう。見方によれば大成功なのかもしれない。
上手い表現ができないが、先ほど目を覚ました時に知らない記憶が自分の中に流れ込んできていた。前に見たことがあるけど、何だったか覚えていないような不思議な感じだった。
私の名前はエイト。この地で商家の次男に生まれ十歳を節目に豪族のエコノリハ家に丁稚に出された。実際にこの地で過ごした10年分の記憶はある。そして神城修としての70年分の記憶もあるのだ。共存してはならない2つの記憶を持つこの奇妙さが何とも気持ち悪い。
「挨拶が遅れたが、私が当家の家主をしているオウト=ナイト=エコノリハである。そなたの名は何ぞ」
「屋号ソロバを商うソロバの子。名をエイトと申します。本日より丁稚としてお館様にご指導をいただきたく存じます」
数か月この文言を空で言えるように特訓された言葉を淀みなく言う。ここにいる全員がそれぞれの身元を分かっていながらも形式として名を確認し、要件を確認して初めて身元の確認ができるのだ。
「ふむ。ソロバとな。その者の商いは何をしているのだ。」
「はい。ソロバは行商を行っております。エコノリハ地を始めとする東西四方のバタール領全域において馬車3台を牽いております」
「相分かった。そなたエイトを本日付けてエコノリハの丁稚をすることを許す。良き働きを心得よ」
「ありがたき幸せ」
オウト=エコノリハはエコノリハ地を治める豪族の主である。
ソロバ家が何をしているのか既に知っている。丁稚とは豪族に奉仕する最下級の役職であるが、情報伝達役という上役にも正確な情報伝達をする一面も持つ。小間使いという言い方もあるが。そのためオウトはエイトに向けて自身の出家が何をしているかの情報伝達をさせたのである。
しばしの間をあけてオウト=エコノリハは徐に椅子に掛けてある装飾剣を抜き、エイトの前に歩み寄り、エイトの頭上に剣を突き立てた。
「今よりエコノリハ地の地神の代理人として宣言する。汝、エイトをエコノリハに仕えることを許し、エイト=エコと名乗ることを許す。」
晴れてエコノリハの丁稚として認められた瞬間だった。本来のエイトの記憶だけであれば心躍る瞬間に間違いはないのだが、齢70を超える記憶に邪魔をされ何とも心の晴れないイベントになったのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる