79 / 88
緑島三十里×1
しおりを挟む
くすんだ白の天井を、わけもなくぼんやりと見つめる。腕から入れられる薬のせいで、頭は相変わらず曖昧だった。
精神鑑定の結果で今後の処遇が決まるらしい。ここは精神科のある病院だった。
「なんだ生きてるのか」
視界に唐突に入った顔は感情のない声でそう言った。一瞬、誰だかわからなくなったのは変装で髪も目も服装のイメージもガラッと変わったからだ。
ウィッグなのか少し長めの髪型とラインを隠す服のせいで、元々中性的な印象だったのがより強くなる。
そんな事言ったら、きっと嫌がられるだろうけど。
「見舞い来てくれたの?」
「いや、屋上から飛んで死んだって聞いたから。線香くらいあげてやろうかと」
「線香より香典ちょうだい」
「お前には一円だってやらないよ」
口角を上げて笑う。こんな綺麗な人だったっけ、と思う。
「……兄貴は」
「さあな。お前がパクられる前に消えたよ。今はどこにいるかも見当がつかない」
肩をすくめて大げさに言う。
そんなわけはない。この人はオレのことが大嫌いだから、例え本当に死んでたとしても、線香すらあげてくれないだろう。
それをわざわざ様子を見に来たのは、兄貴に言われての事だ。
「銀咲さん、ありがとう」
兄貴がどこかに雲隠れしているのは本当のことだろう。銀咲さんだって変装している。
でも、兄貴はオレのことを見ている。それだけ知れれば十分だった。
「……お前があいつの弟じゃなくても、嫌いになったろうな。お前みたいなやつ」
「オレってどんなやつ?」
「明るくて人懐こい、人に好かれたがりで、人に好かれやすい」
「めっちゃ褒めてくる」
「俺とは真逆。ほんと嫌になるよ」
皮肉を含めて微笑んでくる。銀咲さんの長い前髪がはらりと落ちたから、オレは手を伸ばして耳にかけてあげた。
「オレは銀咲さんのこと苦手だけど、嫌いじゃないよ」
「俺をたらしこもうとしてる? はは、この場で絞め殺してやりたい」
その言葉はわりと本音らしい。
「じゃあな。ちゃんとお勤めして真っ当になれよ」
「うん」
「ああ、そうだ。緑島三十里、知ってるだろ? あいつ、事故ってこの病院に入院してるらしい。暇なら遊んでやれば」
「ふうん……?」
ひらひらと手を振り、銀咲さんは行ってしまった。一般人に溶け込んですぐに見えなくなってしまった。
まるでスパイ映画の美形諜報員だ。意味深なセリフを残していく。
緑島三十里がいる?あいつから逃げてどのくらい経ったか。
全てが綻び始めたのは、あいつのせいな気がした。八つ当たりでもしてやろうか。
退屈な入院生活の暇つぶしが出来たかもしれない。
精神鑑定の結果で今後の処遇が決まるらしい。ここは精神科のある病院だった。
「なんだ生きてるのか」
視界に唐突に入った顔は感情のない声でそう言った。一瞬、誰だかわからなくなったのは変装で髪も目も服装のイメージもガラッと変わったからだ。
ウィッグなのか少し長めの髪型とラインを隠す服のせいで、元々中性的な印象だったのがより強くなる。
そんな事言ったら、きっと嫌がられるだろうけど。
「見舞い来てくれたの?」
「いや、屋上から飛んで死んだって聞いたから。線香くらいあげてやろうかと」
「線香より香典ちょうだい」
「お前には一円だってやらないよ」
口角を上げて笑う。こんな綺麗な人だったっけ、と思う。
「……兄貴は」
「さあな。お前がパクられる前に消えたよ。今はどこにいるかも見当がつかない」
肩をすくめて大げさに言う。
そんなわけはない。この人はオレのことが大嫌いだから、例え本当に死んでたとしても、線香すらあげてくれないだろう。
それをわざわざ様子を見に来たのは、兄貴に言われての事だ。
「銀咲さん、ありがとう」
兄貴がどこかに雲隠れしているのは本当のことだろう。銀咲さんだって変装している。
でも、兄貴はオレのことを見ている。それだけ知れれば十分だった。
「……お前があいつの弟じゃなくても、嫌いになったろうな。お前みたいなやつ」
「オレってどんなやつ?」
「明るくて人懐こい、人に好かれたがりで、人に好かれやすい」
「めっちゃ褒めてくる」
「俺とは真逆。ほんと嫌になるよ」
皮肉を含めて微笑んでくる。銀咲さんの長い前髪がはらりと落ちたから、オレは手を伸ばして耳にかけてあげた。
「オレは銀咲さんのこと苦手だけど、嫌いじゃないよ」
「俺をたらしこもうとしてる? はは、この場で絞め殺してやりたい」
その言葉はわりと本音らしい。
「じゃあな。ちゃんとお勤めして真っ当になれよ」
「うん」
「ああ、そうだ。緑島三十里、知ってるだろ? あいつ、事故ってこの病院に入院してるらしい。暇なら遊んでやれば」
「ふうん……?」
ひらひらと手を振り、銀咲さんは行ってしまった。一般人に溶け込んですぐに見えなくなってしまった。
まるでスパイ映画の美形諜報員だ。意味深なセリフを残していく。
緑島三十里がいる?あいつから逃げてどのくらい経ったか。
全てが綻び始めたのは、あいつのせいな気がした。八つ当たりでもしてやろうか。
退屈な入院生活の暇つぶしが出来たかもしれない。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる