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最終章 願いの代償
67. 灰燼に帰す
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「待たせてごめんね、涼ちゃん」
華は申し訳なさそうに眉を寄せて、涼介の前にマグカップを置いた。
安っぽいコーヒーの香りがふわりと広がる。涼介がブラック派だと何度言っても、華の癖で入れられてしまう砂糖とミルク。甘党の母子の基準なので一般的なものよりも相当甘いそれは、正直言って涼介の口には合わない。
それでも、涼介はこの家で飲むコーヒーが好きだった。いつの間にか当たり前のように用意されていた自分のマグカップを丁寧に持って、涼介は「いいよ、いつものことだし」と、その美味しいとは言えないコーヒーを一口、口に含む。
この何気ない時間が、涼介にとってはとても大事なものだった。こんなことをしている理由自体は困ったものだが、それでも、いつまでも続けばいいのにと思ってしまう。
少し前から、朔は仕事で夜の当番もするようになった。しかしまだ十代、成長期の身体には睡眠が足りないらしく、一度夜勤で生活リズムが崩れると翌日必ず寝坊する。それを迎えに来て、華の淹れたコーヒーを飲みながら彼を待つのが涼介の習慣になっていた。
「ほんっと無駄にデカくなっちゃってさ。涼ちゃんじゃないと、あの子布団から引きずり出せないから助かるよ」
「でもまだ成長期でしょ? これ以上デカくなられると、毎回風呂場まで引きずってくの流石に辛いんだけど……」
聞き耳を立てれば、壁の薄いこの家では朔がシャワーを浴びている音が聞こえる。不規則なその音に浴室で寝ていないと安堵すると、涼介はゆっくりと口を開いた。
「華さんはさ、朔に言わないの?」
「何を?」
「あいつの父親のこと」
涼介の言葉に、華が大きい目を更に見開く。その反応にレオニードから聞いた話が事実なのだと確信し、涼介は机の下で拳を握り締めた。
「……知ってたの」
「ヴォルコフとレオニードを近くで見たことがあってね。全員同じ目の色とか、どんだけ遺伝強いのって感じ。緑って珍しいんじゃなかったっけ?」
「嫌いなの? あの色」
華の問いかけには、答えられなかった。思い知らされる――そう言いそうになったのを無理矢理止めて、甘ったるいコーヒーを飲んで誤魔化す。
「さてはヤキモチだな?」
「え」
「涼ちゃんて独占欲強そうだもんねぇ」
「……それは関係なくない?」
「あるよ。要は自分が仲間外れっぽいのが嫌なんでしょ?」
涼介がぐっと眉を寄せるのを見ると、華は「大丈夫」と微笑んだ。
「朔にとっては、涼ちゃんだけが兄貴みたいなものだよ。あと、私がお母さんね」
「……十歳しか違わないお母さんってどうなの」
「いいの! アンタが朔のこと本当に大事にしてくれてるのは今まで見てきたもの、そんなアンタも私の息子!」
そう言ってニカッと笑う華は、とてもではないが母親には見えない。自分と同年代に見える彼女の容姿に苦笑すると、涼介は呆れたように笑みを零した。
「それ、ヴォルコフの息子ってことにはならないよね?」
「なるわけないじゃん! 種はあの人だけど、朔は私の息子ですー!」
「言い方……。お母さんならもう少しちゃんとしてくれない?」
冗談めかして言った涼介に、華は満足そうに口角を上げる。
「言い方はともかく! あの子は私の子供ってことで間違いないんだから、父親のことなんてどうでもいいの。いつかあの子が知りたがったら考えるけどさ、そうじゃなければ父親が誰かだなんて考える必要なくない? 何のために朔っていう名前にしたと思ってるの」
「意味なんてあったの?」
「うっわ、涼ちゃんてば失礼。ちゃんと意味があるのに!」
「はいはい、どういう意味?」
「内緒ー」
「……ほんっと、アンタって人は」
涼介が困った顔をして頭を抱えると、浴室の扉が開く音が響いた。
§ § §
「――何やってんだろ、俺」
人の海に飛び込んだ涼介は、真っ赤な空を見上げながら小さく呟いた。彼の周りにいた人々も、燃え盛っていた炎も、何故か涼介を避けている。しかも背中は先程まで燃えていた地面のはずなのに、不思議と熱さは感じなかった。
そのことに少しだけ自分では駄目なのかと不安を覚えた涼介だったが、すぐに人混みの中からゆっくりと近付いて来る人影に目を留め、小さく息を吐いた。
ふらふらと歩いてくる、真っ赤に焼け爛れた人間。それは生来の姿の面影を残さない悍しいものだったが、その正体が分かっている涼介には恐怖はなかった。
ならば何を感じたかと言えば、はっきりと分かったのは自分の予想が外れていなかったという安堵のみ。それ以外で彼の胸の大半を占めていた感覚は、上手く言葉にすることができないものの、涼介の顔に泣きそうにも見える苦笑を浮かべさせていた。
「ずっと、俺のこと引きずり込もうとしてたよな」
あの日を生き残ってから、気を抜くと感じていた何かに引っ張られるような感覚。それがあの日取りこぼした自分の半身だと分かってからは、まだ連れて行ってくれるなといつも不安を抱えていた。
「百人犠牲にしておいて半分しか取り返してくれないなんて、悪魔っていうのも大したことないな」
ゆらゆらと近付いてきた自分に語りかけながら、涼介は壁の上を窺った。蒼があの状態で動けるとは思えないが、声も聞こえないということは自分の思惑通り事が運んだのだろうか。
涼介が思案していると、すぐそばまで辿り着いたもうひとりの自分が彼の身体に触れた。
すると、涼介の身体が炎を上げながら少しずつ焼け始める。それどころか自分が溶け込むように、触れたところから徐々に入ってくるようだった。
そこから広がる耐え難い苦痛に、涼介は声を漏らした。しかし同時に、今まで感じたことのないような安心感が胸に広がる。
これで、もう終わるのだ。自分が果たせる責任は、蒼が肩代わりしたものを代わりに払うことくらいなのだから。
「ごめんね、華さん。俺……親を殺しちゃう子供なんだよ」
もし自分が華を母と思わなかったら――意図せず死なせてしまった父親のことを思い返しながら、ぎゅっと目を瞑った。
「なんで、俺じゃなかったのかなぁ……」
ずっと可愛がってきたのに。自分の弟のように思い、自身も頼れる兄であろうと努力してきたのに。その朔の本当の兄が、レオニードだと分かった時の言い知れぬ虚無感。
自分の見られたくない姿の象徴であるレオニード。何故、自分ではなく彼なのか──大事なものを奪われたような、お前には無理だと言われたような、そんな絶望感があった。
華も、自分のことを全て知った上で笑いかけてきたリーザも、結局はみんな大嫌いな男のもの。彼らと同じになりたいと思っても、自分を暗い道に引き込んだあの蒼色の目がそれを阻む。
だから聖杯を盗む機会ができたことに気が付いた時、自然とその算段を付けていた。聖杯の力がどんなに恐ろしいものか知っていたはずなのに、具体的にどうしたいかなど全く考えないまま、聖杯に手を出してしまっていた。
「馬鹿だよなぁ……」
欲しいと思ったものを卑怯な手段で手に入れようとして、結果として全てを失ってしまった。大事にしていた者からも、その大事な人を奪ってしまった。
自分のしたことは決して許されるものではない。いくら言い訳を並び立てたところで、結局はそれを選択した自分の責任なのだ。そんなことは、分かっていた。
それでもあの日をなかったことにすれば、まだ許されると思ってしまった。自分を許せないのは、誰よりも自分自身だったのに。
「ごめん、レオニード……。ごめん、リーザ……」
命を奪ってしまった相手は、確かに自分にとっては大切な友人だった。
「ごめん、朔……」
真実を告げた時の、朔の顔が脳裏に浮かぶ。あんな顔をさせたいわけではなかった。心の底から傷付けたいと思っていたわけではなかった。
「ただ、俺は――」
最期の言葉は、勢い良く涼介の身体を包んだ炎にかき消された。
§ § §
「――リョウ……?」
朔は呆然と目の前の光景を見つめていた。
蒼を奪い取った涼介は、彼女の傷ついた身体に自分の手を刺し入れた。エレナのことがあったためすぐに離れるだろうと思ったのに、自分の身体が蒼に触れたところからどんどん焼け爛れていくのもお構いなしに、涼介はそこに留まった。
そして追い出されるかのように蒼の身体から彼の腕が抜けた時には、涼介の身体は燃え尽きていた。かつて故郷で見た人々の亡骸と全く同じように真っ黒な炭になったかと思えば、その身体はみるみる崩れていく。
止める間も無く全て崩れ去り、気が付けばそこにはもう、支えを失って倒れた蒼と、彼女に降り注ぐ灰しか残されていなかった。
「どういう、こと……?」
エレナは無意識のうちに自分の両腕を抱きかかえていた。
――すぐに手を抜かなければ、私もああなってた……?
涼介の末路を目の当たりにして、急に寒気が彼女を襲う。背中に何かが触れ咄嗟に振り返れば、そこには辛そうな表情を浮かべた輪島がいた。
「そうね……」
自分は生きている。しかしそれを手放しに喜べないのは、輪島も同じだろう。
そっと朔に目をやれば、彼はその場で目を見開いたままだった。
――リョウが、死んだ……?
何故、どうして。蒼の身体に触れただけで、何故涼介が命を落とすのか。何故、涼介が死ななければならなかったのか。
その死に疑問を感じて、朔は自分が何も為せなかったのだと思い知らされた。島を壊した人間に復讐すると決めていたのに、涼介がその相手だと分かってからは一度も行動を起こすどころか、死んで欲しくなかったとさえ思っている。ただただ目の前の現実を受け入れるのに精一杯で、涼介に怒りを感じこそすれ、全ての憎しみをぶつけようなどということは、あの日の真実を知ってから一度も思い浮かばなかった。
──俺は結局、何やって……。
自分から全てを奪ったのは涼介なのに。何度も裏切られ、利用されていたのに。
それなのに、その死は望んでいなかった。ずっと思い描いていたとおりに復讐相手が死んだのに、喜ぶことすらできなかった。
――だって……アイツは、俺の……。
いつの間にか、朔の頬を涙が伝っていた。
しかしそれに気付くことなく朔はふらふらと立ち上がると、蒼の方へと歩み寄った。涼介だった黒い灰が彼女の右半身を覆い、まるで華の最期の姿を思わせる。違うのは、完全に生前の面影を失っていた華と違って、蒼の左半身は彼女のままだったということ。それが余計に現実を突き付けてくるようで、朔は崩れ落ちるようにして膝を付いた。
そして恐る恐る、蒼の身体を持ち上げる。壊れてしまうのではないかと思ったのは、触れた途端に崩れてしまった亡骸をいくつも見たからだろう。彼らとは違いしっかりと重さは残していたものの、相変わらず力の入っていない身体は、その見た目と相俟って朔に蒼が死んだのだと思わせるものだった。
「……リョウ、悪いな」
小さく呟いて、蒼の顔にかかった灰を優しく払いのける。灰の下から現れた赤い肌に、朔はぎゅっと眉根を寄せた。
最初に、その変化に気付いたのはエレナだった。
「ねぇ……火傷は?」
その言葉に朔は目を見開いた。赤い色に気を取られていたが、それは明らかに火傷の赤とは違う。彼女の流した血が、肌にこびり付いているだけだ。
慌てて他の部分の灰も払うと、そこから現れるはずだったおどろおどろしい火傷は跡形もなく、赤く汚れてはいるが元通りの肌のみがある。
――どういうことだ……?
蒼は、間に合わなかったのではなかったのか。状況が理解できず混乱したが、すぐにそれは涼介の最期を見て自分がそう思い込んでいただけだと思い至った。蒼が間に合わなかったことを示すことなど、何も起きていないのだ。
咄嗟にその口元に耳を近付けると、僅かながら吐息が聞こえる。空耳かと思ったが、耳を離して顔を見つめれば、蒼の睫毛が小刻みに動いているのが分かった。
そして、ずっと閉じられていた瞼が、ゆっくりと開いていく。
「……朔、さん?」
掠れた音で、自分の名を呼ぶ声。聞こえるはずがないと思い込んでいたその声に、朔は自分の腕が震えるのを感じていた。
――目も、耳もイカれた……?
涼介の死に混乱して、都合の良い夢でも見ているのだろうか。だってそうだろう、その目も口も、二度と開くことはないと思っていたのに。もう二度と、その声を聞くことはないと思っていたのに。
朔が自分自身の感覚を疑い始めると、「朔さん……?」と不思議そうに再び自分を呼ぶ蒼の声が耳に届いた。
その瞬間、朔は蒼をきつく抱きすくめていた。都合の良い夢だろうが何だろうが構わない。たとえ錯覚なのだとしても、自分にとっては事実なのだ──そう思って、涼介に付けられた傷が痛むのもお構いなしに、蒼を抱く腕に力を込める。
「朔さん? どうしたんですか……?」
蒼もまた、状況をいまいち理解できていなかった。穴に飛び降りる涼介の姿を見た後、自分はどうなったのか。目を開けたら朔がいたということは、元の場所に戻って来られたということだろう。しかし、それだけのはずだ。それなのにどうして今、朔に抱き締められているのだろう。
考えてみたが分かるはずもなく、朔に問いかけても腕の力が強まるだけで答えも返ってこない。どうしたものかと思い始めた時、そういえば、と蒼はあの場所に引き込まれる直前の状況を思い出した。
「あ、傷! 朔さん、お腹の傷はどうなったんですか!?」
「……うるせぇな」
「うるさいって――」
人が心配しているのに――そう言い返そうとした唇に、何かが触れる感覚。それを感じた途端、蒼の頭の中からは今の状況が丸ごと消え去っていた。
自分がどうやって地獄と呼ばれた場所から帰ってきたのか、涼介はどうなったのか、朔の怪我は大丈夫なのか――考えなければならないことがたくさんあったはずなのに、考えようとしてもその温かい感触に邪魔される。
「……え?」
唯一追えた唇の感覚が元に戻ると、蒼の口からは間抜けな声が零れた。そして同時に、何が起こったのか理解した。視界いっぱいに広がる朔の顔も、身体を包む暖かさも、自分が今どんな状態なのか表すものに過ぎない。
「さ、朔、さん……今の……」
「文句あんのか」
「え……いや、ないです……」
文句なんてないだろうとでも言いたげな声色で言われて、蒼は自分がおかしいのかと頭を悩ませた。しかしうるさい心臓の音は未だ落ち着かない。せめて熱くなった頬だけでも冷やそうと手の甲を当てると、湿った感覚があるのに気が付いた。念の為辿ってみたが、自分の目が濡れていた気配はない。するとこれは、誰のものか。
「もしかして、泣いてたんですか……?」
「あ? んなわけねぇだろ」
「素直に言いなさいよ。っていうか、そういうのは後にしてくれない?」
突然聞こえてきたエレナの声に、朔が苦々しい顔を浮かべる。一方で蒼は、今までのことが全てエレナ達の前で起こっていたのだと気付き、羞恥心で顔を歪めながらなんとか声を絞り出した。
「エレ、ナ、さん……」
「無事そうで何より」
じっとりとしたその視線がいたたまれなくて、蒼はさっと目を逸らした。ふと右腕に痛みを感じて見てみれば、そこにはレオニードに付けられた傷がある。深かったにも拘らずもう血は止まったようで、もしかしたら自分はそれだけ長く意識を失っていたのかもしれない、とやっと状況を理解した。
それならば彼らの、特に朔の反応にも納得がいく。一部不可解な点はあるが、意識不明だった人間が目を覚ませば多少大袈裟にもなるだろう。そう考えながら傷近くに触れると、身に覚えのないざらざらとした感触に首を傾げた。
「リョウだ」
朔が小さく呟く。普通はそれだけでは何のことか分からなかっただろう。しかし、蒼にはその一言だけでそれがどういう意味か分かってしまった。
――涼介さんが、死んだ……。
やはりあの場所で最後に見た彼は、その方法を選んだのだ。そして涼介が死に、自分が生きているという事実。それが意味するのは、涼介が何のためにあの行動を取ったのかという理由に他ならない。
──朔さんに、伝えなきゃ。
蒼は泣きそうになるのを堪えながら、ゆっくりと朔に目を合わせた。
「……多分、涼介さんが私を助けてくれたんだと思います」
「あ?」
「涼介さんは、きっと――」
華は申し訳なさそうに眉を寄せて、涼介の前にマグカップを置いた。
安っぽいコーヒーの香りがふわりと広がる。涼介がブラック派だと何度言っても、華の癖で入れられてしまう砂糖とミルク。甘党の母子の基準なので一般的なものよりも相当甘いそれは、正直言って涼介の口には合わない。
それでも、涼介はこの家で飲むコーヒーが好きだった。いつの間にか当たり前のように用意されていた自分のマグカップを丁寧に持って、涼介は「いいよ、いつものことだし」と、その美味しいとは言えないコーヒーを一口、口に含む。
この何気ない時間が、涼介にとってはとても大事なものだった。こんなことをしている理由自体は困ったものだが、それでも、いつまでも続けばいいのにと思ってしまう。
少し前から、朔は仕事で夜の当番もするようになった。しかしまだ十代、成長期の身体には睡眠が足りないらしく、一度夜勤で生活リズムが崩れると翌日必ず寝坊する。それを迎えに来て、華の淹れたコーヒーを飲みながら彼を待つのが涼介の習慣になっていた。
「ほんっと無駄にデカくなっちゃってさ。涼ちゃんじゃないと、あの子布団から引きずり出せないから助かるよ」
「でもまだ成長期でしょ? これ以上デカくなられると、毎回風呂場まで引きずってくの流石に辛いんだけど……」
聞き耳を立てれば、壁の薄いこの家では朔がシャワーを浴びている音が聞こえる。不規則なその音に浴室で寝ていないと安堵すると、涼介はゆっくりと口を開いた。
「華さんはさ、朔に言わないの?」
「何を?」
「あいつの父親のこと」
涼介の言葉に、華が大きい目を更に見開く。その反応にレオニードから聞いた話が事実なのだと確信し、涼介は机の下で拳を握り締めた。
「……知ってたの」
「ヴォルコフとレオニードを近くで見たことがあってね。全員同じ目の色とか、どんだけ遺伝強いのって感じ。緑って珍しいんじゃなかったっけ?」
「嫌いなの? あの色」
華の問いかけには、答えられなかった。思い知らされる――そう言いそうになったのを無理矢理止めて、甘ったるいコーヒーを飲んで誤魔化す。
「さてはヤキモチだな?」
「え」
「涼ちゃんて独占欲強そうだもんねぇ」
「……それは関係なくない?」
「あるよ。要は自分が仲間外れっぽいのが嫌なんでしょ?」
涼介がぐっと眉を寄せるのを見ると、華は「大丈夫」と微笑んだ。
「朔にとっては、涼ちゃんだけが兄貴みたいなものだよ。あと、私がお母さんね」
「……十歳しか違わないお母さんってどうなの」
「いいの! アンタが朔のこと本当に大事にしてくれてるのは今まで見てきたもの、そんなアンタも私の息子!」
そう言ってニカッと笑う華は、とてもではないが母親には見えない。自分と同年代に見える彼女の容姿に苦笑すると、涼介は呆れたように笑みを零した。
「それ、ヴォルコフの息子ってことにはならないよね?」
「なるわけないじゃん! 種はあの人だけど、朔は私の息子ですー!」
「言い方……。お母さんならもう少しちゃんとしてくれない?」
冗談めかして言った涼介に、華は満足そうに口角を上げる。
「言い方はともかく! あの子は私の子供ってことで間違いないんだから、父親のことなんてどうでもいいの。いつかあの子が知りたがったら考えるけどさ、そうじゃなければ父親が誰かだなんて考える必要なくない? 何のために朔っていう名前にしたと思ってるの」
「意味なんてあったの?」
「うっわ、涼ちゃんてば失礼。ちゃんと意味があるのに!」
「はいはい、どういう意味?」
「内緒ー」
「……ほんっと、アンタって人は」
涼介が困った顔をして頭を抱えると、浴室の扉が開く音が響いた。
§ § §
「――何やってんだろ、俺」
人の海に飛び込んだ涼介は、真っ赤な空を見上げながら小さく呟いた。彼の周りにいた人々も、燃え盛っていた炎も、何故か涼介を避けている。しかも背中は先程まで燃えていた地面のはずなのに、不思議と熱さは感じなかった。
そのことに少しだけ自分では駄目なのかと不安を覚えた涼介だったが、すぐに人混みの中からゆっくりと近付いて来る人影に目を留め、小さく息を吐いた。
ふらふらと歩いてくる、真っ赤に焼け爛れた人間。それは生来の姿の面影を残さない悍しいものだったが、その正体が分かっている涼介には恐怖はなかった。
ならば何を感じたかと言えば、はっきりと分かったのは自分の予想が外れていなかったという安堵のみ。それ以外で彼の胸の大半を占めていた感覚は、上手く言葉にすることができないものの、涼介の顔に泣きそうにも見える苦笑を浮かべさせていた。
「ずっと、俺のこと引きずり込もうとしてたよな」
あの日を生き残ってから、気を抜くと感じていた何かに引っ張られるような感覚。それがあの日取りこぼした自分の半身だと分かってからは、まだ連れて行ってくれるなといつも不安を抱えていた。
「百人犠牲にしておいて半分しか取り返してくれないなんて、悪魔っていうのも大したことないな」
ゆらゆらと近付いてきた自分に語りかけながら、涼介は壁の上を窺った。蒼があの状態で動けるとは思えないが、声も聞こえないということは自分の思惑通り事が運んだのだろうか。
涼介が思案していると、すぐそばまで辿り着いたもうひとりの自分が彼の身体に触れた。
すると、涼介の身体が炎を上げながら少しずつ焼け始める。それどころか自分が溶け込むように、触れたところから徐々に入ってくるようだった。
そこから広がる耐え難い苦痛に、涼介は声を漏らした。しかし同時に、今まで感じたことのないような安心感が胸に広がる。
これで、もう終わるのだ。自分が果たせる責任は、蒼が肩代わりしたものを代わりに払うことくらいなのだから。
「ごめんね、華さん。俺……親を殺しちゃう子供なんだよ」
もし自分が華を母と思わなかったら――意図せず死なせてしまった父親のことを思い返しながら、ぎゅっと目を瞑った。
「なんで、俺じゃなかったのかなぁ……」
ずっと可愛がってきたのに。自分の弟のように思い、自身も頼れる兄であろうと努力してきたのに。その朔の本当の兄が、レオニードだと分かった時の言い知れぬ虚無感。
自分の見られたくない姿の象徴であるレオニード。何故、自分ではなく彼なのか──大事なものを奪われたような、お前には無理だと言われたような、そんな絶望感があった。
華も、自分のことを全て知った上で笑いかけてきたリーザも、結局はみんな大嫌いな男のもの。彼らと同じになりたいと思っても、自分を暗い道に引き込んだあの蒼色の目がそれを阻む。
だから聖杯を盗む機会ができたことに気が付いた時、自然とその算段を付けていた。聖杯の力がどんなに恐ろしいものか知っていたはずなのに、具体的にどうしたいかなど全く考えないまま、聖杯に手を出してしまっていた。
「馬鹿だよなぁ……」
欲しいと思ったものを卑怯な手段で手に入れようとして、結果として全てを失ってしまった。大事にしていた者からも、その大事な人を奪ってしまった。
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それでもあの日をなかったことにすれば、まだ許されると思ってしまった。自分を許せないのは、誰よりも自分自身だったのに。
「ごめん、レオニード……。ごめん、リーザ……」
命を奪ってしまった相手は、確かに自分にとっては大切な友人だった。
「ごめん、朔……」
真実を告げた時の、朔の顔が脳裏に浮かぶ。あんな顔をさせたいわけではなかった。心の底から傷付けたいと思っていたわけではなかった。
「ただ、俺は――」
最期の言葉は、勢い良く涼介の身体を包んだ炎にかき消された。
§ § §
「――リョウ……?」
朔は呆然と目の前の光景を見つめていた。
蒼を奪い取った涼介は、彼女の傷ついた身体に自分の手を刺し入れた。エレナのことがあったためすぐに離れるだろうと思ったのに、自分の身体が蒼に触れたところからどんどん焼け爛れていくのもお構いなしに、涼介はそこに留まった。
そして追い出されるかのように蒼の身体から彼の腕が抜けた時には、涼介の身体は燃え尽きていた。かつて故郷で見た人々の亡骸と全く同じように真っ黒な炭になったかと思えば、その身体はみるみる崩れていく。
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「どういう、こと……?」
エレナは無意識のうちに自分の両腕を抱きかかえていた。
――すぐに手を抜かなければ、私もああなってた……?
涼介の末路を目の当たりにして、急に寒気が彼女を襲う。背中に何かが触れ咄嗟に振り返れば、そこには辛そうな表情を浮かべた輪島がいた。
「そうね……」
自分は生きている。しかしそれを手放しに喜べないのは、輪島も同じだろう。
そっと朔に目をやれば、彼はその場で目を見開いたままだった。
――リョウが、死んだ……?
何故、どうして。蒼の身体に触れただけで、何故涼介が命を落とすのか。何故、涼介が死ななければならなかったのか。
その死に疑問を感じて、朔は自分が何も為せなかったのだと思い知らされた。島を壊した人間に復讐すると決めていたのに、涼介がその相手だと分かってからは一度も行動を起こすどころか、死んで欲しくなかったとさえ思っている。ただただ目の前の現実を受け入れるのに精一杯で、涼介に怒りを感じこそすれ、全ての憎しみをぶつけようなどということは、あの日の真実を知ってから一度も思い浮かばなかった。
──俺は結局、何やって……。
自分から全てを奪ったのは涼介なのに。何度も裏切られ、利用されていたのに。
それなのに、その死は望んでいなかった。ずっと思い描いていたとおりに復讐相手が死んだのに、喜ぶことすらできなかった。
――だって……アイツは、俺の……。
いつの間にか、朔の頬を涙が伝っていた。
しかしそれに気付くことなく朔はふらふらと立ち上がると、蒼の方へと歩み寄った。涼介だった黒い灰が彼女の右半身を覆い、まるで華の最期の姿を思わせる。違うのは、完全に生前の面影を失っていた華と違って、蒼の左半身は彼女のままだったということ。それが余計に現実を突き付けてくるようで、朔は崩れ落ちるようにして膝を付いた。
そして恐る恐る、蒼の身体を持ち上げる。壊れてしまうのではないかと思ったのは、触れた途端に崩れてしまった亡骸をいくつも見たからだろう。彼らとは違いしっかりと重さは残していたものの、相変わらず力の入っていない身体は、その見た目と相俟って朔に蒼が死んだのだと思わせるものだった。
「……リョウ、悪いな」
小さく呟いて、蒼の顔にかかった灰を優しく払いのける。灰の下から現れた赤い肌に、朔はぎゅっと眉根を寄せた。
最初に、その変化に気付いたのはエレナだった。
「ねぇ……火傷は?」
その言葉に朔は目を見開いた。赤い色に気を取られていたが、それは明らかに火傷の赤とは違う。彼女の流した血が、肌にこびり付いているだけだ。
慌てて他の部分の灰も払うと、そこから現れるはずだったおどろおどろしい火傷は跡形もなく、赤く汚れてはいるが元通りの肌のみがある。
――どういうことだ……?
蒼は、間に合わなかったのではなかったのか。状況が理解できず混乱したが、すぐにそれは涼介の最期を見て自分がそう思い込んでいただけだと思い至った。蒼が間に合わなかったことを示すことなど、何も起きていないのだ。
咄嗟にその口元に耳を近付けると、僅かながら吐息が聞こえる。空耳かと思ったが、耳を離して顔を見つめれば、蒼の睫毛が小刻みに動いているのが分かった。
そして、ずっと閉じられていた瞼が、ゆっくりと開いていく。
「……朔、さん?」
掠れた音で、自分の名を呼ぶ声。聞こえるはずがないと思い込んでいたその声に、朔は自分の腕が震えるのを感じていた。
――目も、耳もイカれた……?
涼介の死に混乱して、都合の良い夢でも見ているのだろうか。だってそうだろう、その目も口も、二度と開くことはないと思っていたのに。もう二度と、その声を聞くことはないと思っていたのに。
朔が自分自身の感覚を疑い始めると、「朔さん……?」と不思議そうに再び自分を呼ぶ蒼の声が耳に届いた。
その瞬間、朔は蒼をきつく抱きすくめていた。都合の良い夢だろうが何だろうが構わない。たとえ錯覚なのだとしても、自分にとっては事実なのだ──そう思って、涼介に付けられた傷が痛むのもお構いなしに、蒼を抱く腕に力を込める。
「朔さん? どうしたんですか……?」
蒼もまた、状況をいまいち理解できていなかった。穴に飛び降りる涼介の姿を見た後、自分はどうなったのか。目を開けたら朔がいたということは、元の場所に戻って来られたということだろう。しかし、それだけのはずだ。それなのにどうして今、朔に抱き締められているのだろう。
考えてみたが分かるはずもなく、朔に問いかけても腕の力が強まるだけで答えも返ってこない。どうしたものかと思い始めた時、そういえば、と蒼はあの場所に引き込まれる直前の状況を思い出した。
「あ、傷! 朔さん、お腹の傷はどうなったんですか!?」
「……うるせぇな」
「うるさいって――」
人が心配しているのに――そう言い返そうとした唇に、何かが触れる感覚。それを感じた途端、蒼の頭の中からは今の状況が丸ごと消え去っていた。
自分がどうやって地獄と呼ばれた場所から帰ってきたのか、涼介はどうなったのか、朔の怪我は大丈夫なのか――考えなければならないことがたくさんあったはずなのに、考えようとしてもその温かい感触に邪魔される。
「……え?」
唯一追えた唇の感覚が元に戻ると、蒼の口からは間抜けな声が零れた。そして同時に、何が起こったのか理解した。視界いっぱいに広がる朔の顔も、身体を包む暖かさも、自分が今どんな状態なのか表すものに過ぎない。
「さ、朔、さん……今の……」
「文句あんのか」
「え……いや、ないです……」
文句なんてないだろうとでも言いたげな声色で言われて、蒼は自分がおかしいのかと頭を悩ませた。しかしうるさい心臓の音は未だ落ち着かない。せめて熱くなった頬だけでも冷やそうと手の甲を当てると、湿った感覚があるのに気が付いた。念の為辿ってみたが、自分の目が濡れていた気配はない。するとこれは、誰のものか。
「もしかして、泣いてたんですか……?」
「あ? んなわけねぇだろ」
「素直に言いなさいよ。っていうか、そういうのは後にしてくれない?」
突然聞こえてきたエレナの声に、朔が苦々しい顔を浮かべる。一方で蒼は、今までのことが全てエレナ達の前で起こっていたのだと気付き、羞恥心で顔を歪めながらなんとか声を絞り出した。
「エレ、ナ、さん……」
「無事そうで何より」
じっとりとしたその視線がいたたまれなくて、蒼はさっと目を逸らした。ふと右腕に痛みを感じて見てみれば、そこにはレオニードに付けられた傷がある。深かったにも拘らずもう血は止まったようで、もしかしたら自分はそれだけ長く意識を失っていたのかもしれない、とやっと状況を理解した。
それならば彼らの、特に朔の反応にも納得がいく。一部不可解な点はあるが、意識不明だった人間が目を覚ませば多少大袈裟にもなるだろう。そう考えながら傷近くに触れると、身に覚えのないざらざらとした感触に首を傾げた。
「リョウだ」
朔が小さく呟く。普通はそれだけでは何のことか分からなかっただろう。しかし、蒼にはその一言だけでそれがどういう意味か分かってしまった。
――涼介さんが、死んだ……。
やはりあの場所で最後に見た彼は、その方法を選んだのだ。そして涼介が死に、自分が生きているという事実。それが意味するのは、涼介が何のためにあの行動を取ったのかという理由に他ならない。
──朔さんに、伝えなきゃ。
蒼は泣きそうになるのを堪えながら、ゆっくりと朔に目を合わせた。
「……多分、涼介さんが私を助けてくれたんだと思います」
「あ?」
「涼介さんは、きっと――」
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※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
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