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第一章 吸血鬼、吸血鬼ハンターになる
【第一話 落下】1-3 しくじったら殺られるので気張っていきます!
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凄くどうでもいい話をしていいだろうか。
私は捨て子というやつで、壱政様に出会うまでは言葉もろくに喋れなかった。当時は大体四歳くらいかな、正確な年齢は分からない。近くに住む全く関係のないおじいちゃんが私の捨てられていた古い社まで食糧を届けに来てくれていたものの、言葉を交わす機会はほとんどなかったから覚えられなかったんだよね。
で、ある時壱政様に拾われた。壱政様は私に言葉も教養も武芸も仕込んでくれた。この頃の私はまだ人間だったから、今みたいに気軽に手足をぶった斬るとかもしてこなかった。
言いたいこと分かる? 私にとって壱政様はお父さんでお兄さんで初恋の相手だ。そのお顔も声も性格も、私の好みの元となったのはこの御方だ。
実は善悪観念がぶっ飛んでいると知ってからはまあ理想と現実って違うんだなと理解して恋心はなくなったけど、今でも壱政様の言うことだったらどんなに酷い内容でも他の人より前向きに受け取れる自信はある。
で、その上でだよ。
『お前、吸血鬼ハンターになれ』
何言ってんだろこの人。
「あのー……壱政様? 私、人間じゃないんですけど……」
「当たり前だろ」
「あ、はい」
『何言ってんだこいつ』みたいな顔はしないで欲しい。それは私の台詞だ。
「先に言っただろ、面倒な要求をされているって」
「吸血鬼の人員を吸血鬼ハンターとして寄越せってことですか?」
「いや、そういうわけじゃない。連中は俺達と対等な関係を結びたいそうだ」
「……それでどうして私がハンターに?」
よく分からなくて首を捻れば、壱政様は「その方が都合がいいからだ」とのたまった。ううん、やっぱりよく分からない。だけどいくら都合が良くてもこれは素直に受け入れちゃ駄目なんじゃないかということだけはなんとなく分かる。
「元々の要求は〝ハンター側の都合で俺達を呼びつける権利〟と、〝従属種を始めとする吸血鬼の情報を全て寄越せ〟ってものだ」
「えー……そんな無茶な……」
前者の方はまだ分かる。確か今だとこちらから接触しない限りハンター側が私達と連絡を取る手段はないから、そのへんを改善したいのだろう。誰の言葉なのか呼びつけるって言い方は悪いけど、要するに自分達が必要としたタイミングで連絡を取りたいってことだ。
でも後者はどうだろう。ハンターは基本的に従属種――モロイを見つけ次第全て殺してしまう。上位種と呼ばれる私達に手を出さないのは、ハンター側の上層部が私達とずぶずぶな関係を築いているからだそうだ。
だからこそそういう人達がこっちの情報を欲しがるってなんか嫌な感じなんだよな。しかもそのずぶずぶな人達は末端のハンターにはその事実を伝えていないというのも印象が悪い。
「別に知られたところで人間にどうこうできるものでもないが、自分達が俺達を支配したいって魂胆が丸見えだからな。それで動かれても対応が面倒臭い」
「記憶書き換えちゃ駄目なんです?」
「やったところでどうせそのうち同じことが起きるだろ。技術の進歩で俺達を殺す手段が確立できたから情報を求めてるって可能性もある。もしそうなら多少記憶をいじったところですぐにまた俺達を殺したくなるだろうさ」
私達吸血鬼は相手の記憶を書き換えることができるけど、特定の考えを持たないように書き換えるのは結構難しい。
直近の出来事だけがきっかけになっているなら簡単だけど、いろんな出来事が複雑に絡み合っていたり、憎しみのように強い感情や潜在意識が関係していたりするともうお手上げだ。一時的にその考えを消すことはできても、結局いつかまた同じ考えに辿り着いてしまう。
「でもやっぱりよく分かんないんですけど、どうして私がハンターになれば都合が良いんですか?」
「連中を納得させられるだろ」
「納得?」
「一葉は連絡係兼情報源としてハンターの元に行くんだよ。いきなり全ての情報はやらないが、欲しければお前から搾り取ってみろってな」
「でもそれだったらハンターになる必要はないですよね……? なのにその方が都合が良いってことは……納得させるんじゃなくて圧力かけることになりません? 『余計なことを望むから近くで監視するぞ』みたいな……」
人間からすれば吸血鬼は恐ろしい敵だ。一応一部のハンターとは友好関係を結んでいるとはいえ、そんな相手が近くにいるのは嫌だろう。それが自分達が要求を口にした直後なら尚更思惑があると思われそうだ。
そんなことを考えながらおずおずと前を見れば、そこにいた壱政様は珍しく笑顔を浮かべていた。あらやだ格好良い。
「よく分かってるじゃないか。ならお前の役目も分かるな?」
あ、これ外したら駄目なやつだ。壱政様の笑顔は素敵だけど、九割以上恐怖とセットだからいけない。
「えっと……執行官としての仕事をこなしつつ、ハンター達も黙らせろってことですかね……?」
私が答えると、壱政様は満足そうに目を細めた。
§ § §
私は可愛い服が好きだ。ひらひら可愛いのじゃなくて、スポーティーな感じで可愛いやつ。ちょっと筋肉もついているから、それを隠せるオーバーサイズパーカーなんか大好物。
その場合は上がダボッとしているから、バランスを取るために脚は出す。必ずしも生足じゃないけれど、そうじゃない時でも選ぶのはぴったりレギンスもしくはスキニー。靴はそれに合わせて足首までのぺたんこヒールのレースアップブーツ。スニーカーでも良いけれど、最近はブーツの方が好き。
ただこれの難点は紐を結ぶのが面倒なことだ。横にファスナーがついているやつなら楽だけど、今履いているブーツにはそれがない。ジャストサイズで履きたい派だから毎回全体的に緩めて履かなきゃいけなくて、そうなると締める時も座ってちまちまやらなければならない。
「出かけるのかい?」
屋敷の玄関で私がブーツの紐と格闘していると、後ろから優しげな男の人の声が聞こえてきた。
「です! ちょっと都心に行かなきゃいけないみたいで」
首を後ろに捻りながら答えれば、案の定そこには穏やかに微笑む男性がいた。この金髪お兄さんはレイフと言って、元執行官で今はこの屋敷の管理人をしている。出身はヨーロッパのどこかだったかな。吸血鬼は圧倒的にあちら出身の人が多いから覚えていない。そもそも長生き過ぎて生まれた国がもうないなんて人もざらだから、あんまり出身国の話はしないのだ。
「ハンターの拠点に行くんだっけ? 壱政もまた無茶なこと言うね。気を付けて行ってくるんだよ」
あらやだ涙が出そう。レイフの優しさは普通の人と同じくらいなのかもしれないけれど、壱政様と接した後だと物凄く身に染みる。
ちょうど靴紐を結び終えた私は、立ち上がってくるりと後ろに向き直った。
「はい! しくじったら殺られるので気張っていきます!」
「無事に帰っておいでね」
レイフの優しい笑顔に見送られて、私は夜の東京へと繰り出した。
本当は簡単に移動することもできるけれど、まだ時間があるので電車に乗り込むことにする。こういう普通の人みたいな移動ってなんかいいよね。非日常感が気持ちを高揚させてくれる。
向かう先はハンター達の拠点。ある程度大きな街だと人が消えても騒ぎになるまで時間がかかることが多いから、法を守らない吸血鬼達が集まりやすい。だからハンターもそれに合わせて主要な都市に拠点を置いているらしいのだ。
目的の駅で電車を降りて、頭の中の地図を頼りにせっせと歩く。散歩は割と好きな方だけれど、今日は歩けば歩くほど私の足取りは重くなっていった。
だって正直言って非常に面倒臭い。そりゃ私のせいかもしれないけれど、だからと言って人間達と仲良くしろだなんて面倒臭すぎる。
こちらが吸血鬼だと知らない相手ならまだいい。人間のふりをしていれば普通に馴染めるから、余計なことを言わないようにだけ気を付けていればいいんだもの。
でも相手はハンターだ。吸血鬼の存在を知っている上にそこそこ戦えて、しかもこちらに負の感情を持っている人が多い存在。
そんな人達の巣窟にこれから私は向かわねばならない。壱政様曰く今日行くことは通達済みらしいから、向こうは私を待ち構えているだろう。
これって結構やばくない? 受け入れるって返事しておいて実は私を殺そうとしているってこともあるかもしれないわけじゃん。その場合私は飛んで火に入る夏の虫ってやつだ。いくら身体能力その他諸々で勝っていたとしても、文明の利器で罠でも仕掛けられていたら逃げ切れるか分からない。
壱政様だってそのくらい分かっているだろうに、可愛い可愛い娘のような私をそんなところに送り出すって頭大丈夫だろうか。いや、大丈夫じゃないな。
壱政様はそういう人だ。私がやられても『その程度でやられる奴が悪い』ってばっさり言い切りそう。ていうか命からがら逃げ帰ったとしても、『情けない』ってトドメを刺してきそう。
「ああ、やだやだ。気持ち切り替えよう」
後ろ向きなことばかり考えていたって仕方がない。この仕事を成功させることで得られるものを考えよう。
まず壱政様に褒められる。なんだかんだ正当に評価してくれる人だから、私がちゃんとした働きをすれば貴重な優しい言葉をかけてくれる。
それにハンター達の拠点に出入りすれば、先日の彼にも会えるかもしれない。お近付きにはなれなくとも、あのお顔を何度も拝見できるのは非常に魅力的だ。できれば毎日写真を撮らせていただきたいな。あ、仕事の期間中にあの彼のアルバムを作るなんてどうだろう。遠くから撮れば笑顔だっていただけるかもしれない。
「明日カメラ買わなくちゃ!」
そう決意したところで、ちょうど目的地に着いていた。
表通りから少し逸れて人通りのまばらな路地裏を進んだ先にある、怪しいお店の多い道。その中の一つの古臭いビルに入って地下に進めば、清掃事務所とかなんとか書かれた看板のかかったボロいドアが目に入る。
この先がハンター達の拠点だ。こういうのってどうして地下にあるんだろうね。
「――いざ!」
ノックは不要と聞いていたから思い切りノブを掴む。いつでも逃げれるように体勢を整えて、私は敵の巣窟へのドアを開けた。
私は捨て子というやつで、壱政様に出会うまでは言葉もろくに喋れなかった。当時は大体四歳くらいかな、正確な年齢は分からない。近くに住む全く関係のないおじいちゃんが私の捨てられていた古い社まで食糧を届けに来てくれていたものの、言葉を交わす機会はほとんどなかったから覚えられなかったんだよね。
で、ある時壱政様に拾われた。壱政様は私に言葉も教養も武芸も仕込んでくれた。この頃の私はまだ人間だったから、今みたいに気軽に手足をぶった斬るとかもしてこなかった。
言いたいこと分かる? 私にとって壱政様はお父さんでお兄さんで初恋の相手だ。そのお顔も声も性格も、私の好みの元となったのはこの御方だ。
実は善悪観念がぶっ飛んでいると知ってからはまあ理想と現実って違うんだなと理解して恋心はなくなったけど、今でも壱政様の言うことだったらどんなに酷い内容でも他の人より前向きに受け取れる自信はある。
で、その上でだよ。
『お前、吸血鬼ハンターになれ』
何言ってんだろこの人。
「あのー……壱政様? 私、人間じゃないんですけど……」
「当たり前だろ」
「あ、はい」
『何言ってんだこいつ』みたいな顔はしないで欲しい。それは私の台詞だ。
「先に言っただろ、面倒な要求をされているって」
「吸血鬼の人員を吸血鬼ハンターとして寄越せってことですか?」
「いや、そういうわけじゃない。連中は俺達と対等な関係を結びたいそうだ」
「……それでどうして私がハンターに?」
よく分からなくて首を捻れば、壱政様は「その方が都合がいいからだ」とのたまった。ううん、やっぱりよく分からない。だけどいくら都合が良くてもこれは素直に受け入れちゃ駄目なんじゃないかということだけはなんとなく分かる。
「元々の要求は〝ハンター側の都合で俺達を呼びつける権利〟と、〝従属種を始めとする吸血鬼の情報を全て寄越せ〟ってものだ」
「えー……そんな無茶な……」
前者の方はまだ分かる。確か今だとこちらから接触しない限りハンター側が私達と連絡を取る手段はないから、そのへんを改善したいのだろう。誰の言葉なのか呼びつけるって言い方は悪いけど、要するに自分達が必要としたタイミングで連絡を取りたいってことだ。
でも後者はどうだろう。ハンターは基本的に従属種――モロイを見つけ次第全て殺してしまう。上位種と呼ばれる私達に手を出さないのは、ハンター側の上層部が私達とずぶずぶな関係を築いているからだそうだ。
だからこそそういう人達がこっちの情報を欲しがるってなんか嫌な感じなんだよな。しかもそのずぶずぶな人達は末端のハンターにはその事実を伝えていないというのも印象が悪い。
「別に知られたところで人間にどうこうできるものでもないが、自分達が俺達を支配したいって魂胆が丸見えだからな。それで動かれても対応が面倒臭い」
「記憶書き換えちゃ駄目なんです?」
「やったところでどうせそのうち同じことが起きるだろ。技術の進歩で俺達を殺す手段が確立できたから情報を求めてるって可能性もある。もしそうなら多少記憶をいじったところですぐにまた俺達を殺したくなるだろうさ」
私達吸血鬼は相手の記憶を書き換えることができるけど、特定の考えを持たないように書き換えるのは結構難しい。
直近の出来事だけがきっかけになっているなら簡単だけど、いろんな出来事が複雑に絡み合っていたり、憎しみのように強い感情や潜在意識が関係していたりするともうお手上げだ。一時的にその考えを消すことはできても、結局いつかまた同じ考えに辿り着いてしまう。
「でもやっぱりよく分かんないんですけど、どうして私がハンターになれば都合が良いんですか?」
「連中を納得させられるだろ」
「納得?」
「一葉は連絡係兼情報源としてハンターの元に行くんだよ。いきなり全ての情報はやらないが、欲しければお前から搾り取ってみろってな」
「でもそれだったらハンターになる必要はないですよね……? なのにその方が都合が良いってことは……納得させるんじゃなくて圧力かけることになりません? 『余計なことを望むから近くで監視するぞ』みたいな……」
人間からすれば吸血鬼は恐ろしい敵だ。一応一部のハンターとは友好関係を結んでいるとはいえ、そんな相手が近くにいるのは嫌だろう。それが自分達が要求を口にした直後なら尚更思惑があると思われそうだ。
そんなことを考えながらおずおずと前を見れば、そこにいた壱政様は珍しく笑顔を浮かべていた。あらやだ格好良い。
「よく分かってるじゃないか。ならお前の役目も分かるな?」
あ、これ外したら駄目なやつだ。壱政様の笑顔は素敵だけど、九割以上恐怖とセットだからいけない。
「えっと……執行官としての仕事をこなしつつ、ハンター達も黙らせろってことですかね……?」
私が答えると、壱政様は満足そうに目を細めた。
§ § §
私は可愛い服が好きだ。ひらひら可愛いのじゃなくて、スポーティーな感じで可愛いやつ。ちょっと筋肉もついているから、それを隠せるオーバーサイズパーカーなんか大好物。
その場合は上がダボッとしているから、バランスを取るために脚は出す。必ずしも生足じゃないけれど、そうじゃない時でも選ぶのはぴったりレギンスもしくはスキニー。靴はそれに合わせて足首までのぺたんこヒールのレースアップブーツ。スニーカーでも良いけれど、最近はブーツの方が好き。
ただこれの難点は紐を結ぶのが面倒なことだ。横にファスナーがついているやつなら楽だけど、今履いているブーツにはそれがない。ジャストサイズで履きたい派だから毎回全体的に緩めて履かなきゃいけなくて、そうなると締める時も座ってちまちまやらなければならない。
「出かけるのかい?」
屋敷の玄関で私がブーツの紐と格闘していると、後ろから優しげな男の人の声が聞こえてきた。
「です! ちょっと都心に行かなきゃいけないみたいで」
首を後ろに捻りながら答えれば、案の定そこには穏やかに微笑む男性がいた。この金髪お兄さんはレイフと言って、元執行官で今はこの屋敷の管理人をしている。出身はヨーロッパのどこかだったかな。吸血鬼は圧倒的にあちら出身の人が多いから覚えていない。そもそも長生き過ぎて生まれた国がもうないなんて人もざらだから、あんまり出身国の話はしないのだ。
「ハンターの拠点に行くんだっけ? 壱政もまた無茶なこと言うね。気を付けて行ってくるんだよ」
あらやだ涙が出そう。レイフの優しさは普通の人と同じくらいなのかもしれないけれど、壱政様と接した後だと物凄く身に染みる。
ちょうど靴紐を結び終えた私は、立ち上がってくるりと後ろに向き直った。
「はい! しくじったら殺られるので気張っていきます!」
「無事に帰っておいでね」
レイフの優しい笑顔に見送られて、私は夜の東京へと繰り出した。
本当は簡単に移動することもできるけれど、まだ時間があるので電車に乗り込むことにする。こういう普通の人みたいな移動ってなんかいいよね。非日常感が気持ちを高揚させてくれる。
向かう先はハンター達の拠点。ある程度大きな街だと人が消えても騒ぎになるまで時間がかかることが多いから、法を守らない吸血鬼達が集まりやすい。だからハンターもそれに合わせて主要な都市に拠点を置いているらしいのだ。
目的の駅で電車を降りて、頭の中の地図を頼りにせっせと歩く。散歩は割と好きな方だけれど、今日は歩けば歩くほど私の足取りは重くなっていった。
だって正直言って非常に面倒臭い。そりゃ私のせいかもしれないけれど、だからと言って人間達と仲良くしろだなんて面倒臭すぎる。
こちらが吸血鬼だと知らない相手ならまだいい。人間のふりをしていれば普通に馴染めるから、余計なことを言わないようにだけ気を付けていればいいんだもの。
でも相手はハンターだ。吸血鬼の存在を知っている上にそこそこ戦えて、しかもこちらに負の感情を持っている人が多い存在。
そんな人達の巣窟にこれから私は向かわねばならない。壱政様曰く今日行くことは通達済みらしいから、向こうは私を待ち構えているだろう。
これって結構やばくない? 受け入れるって返事しておいて実は私を殺そうとしているってこともあるかもしれないわけじゃん。その場合私は飛んで火に入る夏の虫ってやつだ。いくら身体能力その他諸々で勝っていたとしても、文明の利器で罠でも仕掛けられていたら逃げ切れるか分からない。
壱政様だってそのくらい分かっているだろうに、可愛い可愛い娘のような私をそんなところに送り出すって頭大丈夫だろうか。いや、大丈夫じゃないな。
壱政様はそういう人だ。私がやられても『その程度でやられる奴が悪い』ってばっさり言い切りそう。ていうか命からがら逃げ帰ったとしても、『情けない』ってトドメを刺してきそう。
「ああ、やだやだ。気持ち切り替えよう」
後ろ向きなことばかり考えていたって仕方がない。この仕事を成功させることで得られるものを考えよう。
まず壱政様に褒められる。なんだかんだ正当に評価してくれる人だから、私がちゃんとした働きをすれば貴重な優しい言葉をかけてくれる。
それにハンター達の拠点に出入りすれば、先日の彼にも会えるかもしれない。お近付きにはなれなくとも、あのお顔を何度も拝見できるのは非常に魅力的だ。できれば毎日写真を撮らせていただきたいな。あ、仕事の期間中にあの彼のアルバムを作るなんてどうだろう。遠くから撮れば笑顔だっていただけるかもしれない。
「明日カメラ買わなくちゃ!」
そう決意したところで、ちょうど目的地に着いていた。
表通りから少し逸れて人通りのまばらな路地裏を進んだ先にある、怪しいお店の多い道。その中の一つの古臭いビルに入って地下に進めば、清掃事務所とかなんとか書かれた看板のかかったボロいドアが目に入る。
この先がハンター達の拠点だ。こういうのってどうして地下にあるんだろうね。
「――いざ!」
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