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最終章
第75話 もう私だけにしてください
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消えていく黒い影を見ながら、ふわふわと白昼夢を見ているような感覚に陥った。
ノクステルナにはない明るい光、見慣れた家具、よく知った匂い。
ここは――私の家の中だ。目の前に座るお父さんは、今よりもずっと大きくて。
私が小さいんだと気付いたのは、他のもの全部が大きかったから。
「……何故それで零すんだ」
嫌そうなその視線の先には、ストローの付いた幼児用の蓋付きコップ。
いつもすぐに気付いてくれるお母さんは出かけていていない。無理矢理私と留守番をするように言われていたお父さんは、ずっと不機嫌そうだった。
でも私はお父さんと二人きりというのが嬉しくて、楽しくて。はしゃいでいたら、そのコップに手をぶつけて派手に倒してしまったんだ。中の飲み物が零れないためについていたはずの蓋は、手をぶつけた場所が悪かったのかぱかっと空いてテーブルの上を転がっていった。
顰めっ面のお父さんは、それでも私の傍に来てテーブルを拭いてくれた。私の顔を見たらまた眉間の皺を深くして、よだれだらけの口をお母さんよりも冷たい指で拭う。
初めてお父さんにやってもらったそれは、とても優しかった。向かい合わせの席に戻ったお父さんに笑いかけると、お母さんがいない時はいつも仏頂面だった顔がふっと緩んだ。
「……見るな」
珍しい顔をじっと見ていたら、すぐに顰めっ面に戻ったお父さんが不機嫌そうに言った。
「こういう感情は、もういらないんだ」
それはきっと、自分に向かって言っていて。
「人間は皆、俺より先に死んでいく」
そう言って見つめていたのは、ここではないどこか。
「だから俺にはあの人だけでいい。澪もお前も、あの人の代わりだ」
こちらを向いた瞳は、深い紫色。優しい、安心する色。
「このことは忘れろ。お前は俺を知らずに生きていけ。いつかいらなくなったら、その時は時間ではなく俺が殺してやるから」
§ § §
はっと意識を戻せば、そこは今までずっといた荒野だった。
今のは何……? ――その答えはきっと、知っている。それなのにすぐに受け入れられなかったのは、そんなはずはないとどこかで思っていたから。
だってスヴァインの中に、私はいない。アイリスの代用品にすらなれなかった私は、彼にとって何の価値もない。だからあんな顔をスヴァインが私に向けるはずがない――そう自分に言い聞かせながら、視線を上げる。そこにはもう、彼らの痕跡は残っていなかった。
現実味がなかった。
スヴァイン達だったそれは、もう全て空気に溶けてしまっていて。
本当に彼らは死んでしまったのだろうか。そう思わされているだけなんじゃないだろうか。
だって私には考えられないくらい長い時間を生きてきた人達が、あんなふうに呆気なく死んでしまうだなんておかしい。私とノエのことを殺そうとしていた人達が、それを簡単にやめて自死を選んでしまうのはおかしい。
こんな、私達にとって都合の良いことが起こるわけがない――そんな考えが、目の前で起きたことを信じようとする私を妨げてくる。
あれは本当に起こったことなの? それともまた騙されているの?
答えの出ない問いが頭の中をぐるぐると廻る。
そんな疑問から私を引きずり戻したのは、すぐ横から聞こえたノエの苦しそうな声だった。
「ッノエ! 大丈夫……じゃ、ないよね……?」
「大丈夫って言いたいけど……あー、くそ……頭とか腕とか色々痛ェ……けどとりあえず、右腕くっつけてくんない?」
「え……」
「だって俺左腕もないし。右はまだくっつけとけば、元通りは無理でもなんとかなりそう」
その言葉に恐る恐るノエの右腕を見れば、ぎりぎりで二つに分かれていないそれは確かにくっつけられそうで。と言ってもそこにあるからそう思うだけで、押し当てたところで綺麗に隙間が埋まるとは思えなかった。
でもノエ本人がやってくれと言っているからやるしかないんだろう。くっつければ多少失血もマシになるかもしれない。グロテスクな傷口に怖さを感じながらも、ノエの「一気によろしく」という言葉に倣い思い切って腕を動かした。
「ッ――」
「痛いよね!? どうしよう、私……!」
「だいッ……じょうぶ……俺の服、ちぎっていいから……これでちょっと、固定しといて……」
苦しそうに私に指示を出すノエの額はたくさんの汗が滲んでいて、彼が感じている苦痛がどれほどのものか考えたら涙が出そうになった。以前痛みに慣れているとは言っていたけれど、こんな怪我じゃそれがどれだけ役に立つのかも分からない。
それでも、放っておいたらその痛みは長く続くだろうと思って自分を叱咤する。ワンピースの袖を掴んで切り離し、ノエに言われたとおり腕に巻きつけ離れないようにした。
「左手も……」
そう言いながら立ち上がろうとした時、遠くから嫌な音が聞こえた。怒りと憎しみを孕んだ、唸り声のような。
慌ててノエにしがみつき、音の方を探る。
その音はどんどんこちらに近付いてきていた。声にならない唸りが、黒い影と共に押し寄せて来る。それらは私達を取り囲むように辺りを覆い尽くしたかと思うと、次々に人の形を成していった。
「――――!!」
誰かが声を上げる。するとそれに続くように、皆口々に怒声を上げ始める。その中をかき分けるように、エルシーさんとクラトスが姿を現した。
「――――!」
エルシーさん達が周りに向かって声を張り上げても怒声は収まらない。二人の存在は、こちらににじり寄ってくる人々を押し返すのがやっとだった。
「何が起こってるの……?」
「アイリスが死んだから、ラミア様が偽物だったってみんな気付いたんだよ。俺とほたるのこと殺せってさ。んでエルシー達はそれを止めてる」
「なんでノエまで!?」
「俺がアイリスの子だからだろ? 今までは匂いも勘違いするようになってたけど、それももう効果がないから」
ああ、本当にアイリス達は死んだのか――ノエの言葉にやっと納得することができたけれど、この状況は予想していなかった。
何と言ったらいいか分からなくてノエの服を握る手に力を込めれば、「俺、クビになったのにな」とへらりとした笑みを向けられる。
「なんで今そんな顔するの……」
「笑っとくしかなくない? ぶっちゃけ俺今ろくに動けないし、周りに催眠かけてどうにかしたくても、それもできるか分からないくらいしんどいし」
「……殺されても仕方がないとか思ってないよね?」
私が睨むと、ノエが息を飲んだ。それは肯定を表していて、沸々と怒りが湧き上がる。
「生きてくれるんじゃないの?」
「そりゃあね、でも状況的に厳しいかなって。もしそうなったらほたるのことはどうにか逃がすから――」
「もういい」
「……いいの?」
「いい。ノエは黙ってそこに座ってて!」
目を見開くノエに背を向けて立ち上がる。エルシーさんの横に並んで、周りに目を配った。
そこにいたのは、知らない人ばかりだった。ノストノクスで見かけたことがあるような人もいたけれど、名前すら分からない。そんな人達が自分達を殺せと言っているのかと思うとなんだかとても腹が立った。
怒りに任せ好き勝手に怒鳴り声を上げていた人々は、私の序列のせいか警戒を顕にしながら押し黙る。それもどこか滑稽で、けれどそうしなければならない理由を知っているから、笑うことなんてできなくて。
「私とノエは、殺されたくありません」
黙ったはずの人々は、私がそう言うとざわつき始めた。警戒と怪訝を隠そうともせず、探るような視線が私の皮膚に突き刺さる。
「アイリスとスヴァインは死にました。二人に恨みがあるかもしれません。二人の子である私とノエのことも、よく思わないかもしれません。でも、だからって殺されたくありません……!」
そこまで言うと、さっきよりも怒声が大きくなった。ふざけるな、とか、何を言ってるんだ、とか。もっとひどい日本語も混じっている。
自分でだって、彼らの気持ちを考えれば無茶なことを言っていると分かる。でもこれ以外に私は何を言ったらいいか分からないし、言いたいこともない。
「我々も彼女を殺すことには賛成しない」
怒声を宥めるように、クラトスが落ち着いた声を上げた。
「今の混沌としたノクステルナを正すには力も必要。序列第一位と二位の力は役に立つ」
「……私達に他の人達を操れってこと? そんなことしない!」
「君は状況が分かっているのか?」
「分かってるけど! でも嘘でどうにかしようとはしたくない!」
クラトスが呆れたような顔をするのは当然だと思う。彼は本気かもしれないけれど、この状況を切り抜けるためにある程度の嘘も必要だと理解できる。
だけど、嫌なんだ。
だってそんなことをしたら、アイリス達と同じになってしまうような気がするから。自分達以外の吸血鬼を物のようにしか思っていなかった彼らに不快感を抱いたのに、自分が生きたいからって今ここで同じようなことをしてしまったら、今は良くても絶対にいつか後悔する。
お前も結局同じじゃないか。自分がやられたことも忘れて、自分可愛さに他人をないがしろにして――きっと、生きている限りそんな考えに付き纏われる。
震える手を握り込むと、エルシーさんが私の肩に手を置いた。
「何故ノエとほたるを殺したがる?」
その問いかけに、周りは迷うことなく口々に答える。スヴァインの子だからだ、アイリスと共に自分達を騙していたからだ――そんなような言葉が、あたりに響く。
「スヴァインもアイリスも死んだ。ほたるはスヴァインがラーシュ様達を殺した時、生まれてすらいない。ノエは確かに我々を騙していたかもしれないが、それを裁くのは法であるべきだ。我々個人が彼らの命を奪って解決するものではないだろう」
エルシーさんの言葉に周囲はどよめくも、すぐにまた怒声が強まる。
さっきまで聞こえていた日本語は、もうほとんどなくなっていた。だから怒りを表しているのは吸血鬼の言葉なのに、ノエに教えてもらっていないのに、何度も聞いたせいで彼らがなんと言っているか分かってしまう。
スヴァインの子を殺せ、ノエを殺せ――悪意ではなく怒りによって放たれているそれらは、存在そのものを否定してくるようで余計に私の心を抉る。
どうして殺されなきゃいけないんだろう。どうして生きていたいと思っちゃ駄目なんだろう。
私達が死んだら本当に全部解決するの? また同じことにはならないの?
考えると、目が熱くなってくる。
ノエがさっき諦めた理由が、分かる気がしたから。
「なんで……なんで生きたいと願っちゃ駄目なんですか……?」
私が言うと、周りが一斉に注目するのが分かった。
「本当に私達を殺さなきゃ駄目ですか? なんのために殺すんですか?」
彼らの憎しみを引き起こした原因ではないはずなのに、どうして。
私は彼らのことを知らないのに。彼らもきっと、私のことを知らないのに。
ノエのことだって、彼が今までどんな気持ちでいたかなんて考えてすらいないだろう。それなのに、なんで。
なんで相手のことを全く知らないのに、殺したいと願えるのだろう――そんな殺意は、矛先なんて誰でもいいのだと思わざるを得なくて。
「私達を殺したら、次は誰にするんですか? それとも……これでもう終わってくれますか?」
アレサさんが言っていた、戦争に興じている間は余計なことを考えずに済むのだと。自分が操られているかもしれない、自分の感情や記憶が自分のものではないかもしれない――そんな不安から逃げるために、誰かに敵意を向ける。
たった今自分達の認識が長年歪められていたと知った人々は、その不安が大きいだろう。まだ他にもあるんじゃないかと考えだしたら切りがない。もしかしたら私とノエを殺したいのも、自分達を操れる存在を消したいからなのかもしれない。
だけど、それで私達を殺したって無駄だ。
その考えで誰かを殺したいと思うなら、自分よりも序列が高い人全員を殺さなければならないから。そしてそれは、人によって範囲が違うから。
不安を拭い去るために誰かを殺すのであれば、最後の一人になるまで繰り返さなければならない。たとえ最後の一人になったって、人間に種子を与え続けていたらいつかまた同じようなことになるかもしれない。
そうならないためには、もうここで終わりにしなきゃいけない。
終わりにしなければ、私も大事な人を失うことになるから。
「あなた達が本当に殺したいのは、誰ですか?」
私が問いかけると、周りがほんの少しだけ動きを止めたのが分かった。
「ラーシュとオッドを殺したスヴァインを憎んでいるから、私を殺したいんですか?」
そうだ、と口々に同意する声が上がる。
「じゃあもしアイリスが生きていたら、アイリスのことも殺したいと思いますか?」
その場がしんと静かになった。ところどころ声は聞こえるけれど、それは自分の意見を言うというよりは、考えるための独り言のような響きで。
静かになったのは予想どおりだった。彼らはきっと、アイリスのことは恨んでいない。そういう恨みとか怒りとかを抱くような対象じゃない。私だって直接会わなかったら、アイリスは自分達とは全く異なる存在だと思っていたはずだ。
「アイリスのことは殺したいと思わないのに、その子だからという理由でノエを殺したいんですか? 騙していたのも仲間を処分していたのも、ノエの意思じゃなくて、アイリスの意思なのに」
僅かにざわつき始めた人々は、けれど明確に答えることはなかった。
それが意味するのは、彼らが本当に殺したいのは私だけだということ。私が自分達の親であるラーシュとオッドの仇のようなものだから。スヴァイン本人はもういないけれど、私という彼の子がまだ残っているから。だから彼への憎しみを私にぶつけたいのだろう。
自分が何もしていないのに恨まれるというのも納得いかないけれど、今はこれでいい。私のことは殺す理由があるけれど、ノエに対しては明確なものがない――それが分かっただけで十分だ。これなら、もう終わりにして欲しいと頼みやすいから。
こっそりとノエを盗み見る。彼は怪訝な表情を浮かべていたけれど、私の視線に気付くとぐっと眉根を寄せた。
ノエが何かを言う前にさっと顔を正面に戻して、大きく深呼吸をしながら持ちを落ち着ける。
大丈夫、もう何度も覚悟した。本当はずっと嫌だったけれど、何もできずに大切な人が死んでしまうのはもっと嫌だと実感したから。
「――あなた達が本当に殺したいのは、私だけってことですよね?」
反論する声が聞こえないことを確認して、視線をしっかりと前に向ける。
「だったらもう、私だけにしてください。誰かを恨んで、操られるかもと不安に思って殺すのは私で最後。お願いですから、もう自分が安心するためだけに人を殺すのはやめてください」
「ほたる……お前何言って……!」
焦ったようなノエの声が聞こえる。言いたいことは分かるけれど、でもそれ以外にどうしたらいいか分からない。
だって私はノエに死んで欲しくない。彼らに私を殺す理由はあってもノエを殺す明確な理由がないんだったら、二人とも殺されないように――ノエだけは殺されないように懇願するしかない。
だからノエを見ないようにして、前だけを見つめる。
周囲から聞こえてくるどよめきは、私を殺せと訴えるもので。
時々聞こえてくる理解できない言葉の意味を知りたくてエルシーさんに尋ねようとした時、「何故操らない?」とクラトスが口を開いた。
「先程も否定していたが、君ならノエ以外のここにいる全員を操れる。記憶を操作するなりなんなりして、自分達に攻撃しないようできるはず。なのに何故やらない? 何故自分の命を差し出そうとする?」
周りが静かになったのは、彼らもまた同じ疑問を持っていたからだろうか。
なんだよそれ、馬鹿じゃないの。なんでそんなことを当たり前のように疑問に思わなきゃいけないの?
「私はもう、誰にも操られたくない。自分がされたくないことを人にしてまで助かりたいとも思わない。それにもし操って今はどうにかなったとしても、どうせしばらく経ったらまた相手を変えて同じことになるんだろうって嫌でも分かる。ちゃんと自分達の意思で決めていないから、同じことを繰り返す――それじゃあ何の解決にもならない。だったら私にできるのは、こうしてお願いすることしかない」
「君は、今後も含めて誰も操らないと?」
相変わらず、周りは静かなまま。ああもう、馬鹿らしいな――そう思うのに、その不安は私にも理解できてしまって。
視線をクラトスから周囲の人々に移して、はっきりと言葉にする。
「私は誰も操りません。誰かに操られるかもしれない、自分の記憶や感情が作り物かもしれない――そんなことを感じながら生きていくなんて、虚しいだけだと思うから」
私が言い終わったのに、さっきまでのような怒声は聞こえてこなかった。だからと言って納得してくれているとも思えないけれど、不安そうにしたら駄目だと思って前だけを見つめる。
「ノエは?」
私の不安を隠してくれるかのように、エルシーさんがノエに問いかけた。
「ほたるの意思は分かった。だがほたるよりもお前の方が序列が上だ。お前の意思を聞かないわけにはいかない」
一斉に視線がノエに集まる。ノエは居心地悪そうに顰めっ面を浮かべ、「えー……」と声を漏らした。
「お前それ、俺が今最悪やるしかないって思ってたの分かって言ってるだろ」
「ああ。だがお前がそうまでして逃そうと考えているほたる自身が、それは虚しいことだと言っているんだ。どう思う?」
「うわ、聞き方……」
「さっさと答えろ」
エルシーさんが睨むと、ノエがうっと言葉を詰まらせる。けれどすぐに大きな溜息を吐いて、顔を歪ませたまま口を開いた。
「あーもう! 分かったよ、しません! 他人操るとかそんな面倒なことしたくありません! でもその代わり今はこっちに手を出すなよ? やられそうになったら格好悪くてもやるからな、俺は! っていうか誰か頑張って俺の痛覚いじってくんない? くっそ痛くてそろそろ意識飛びそうなんだけど」
ノエの言葉を聞きながら、エルシーさんは周りに視線を戻した。
「序列最上位の奴もやらないと言っている。我々ももうやめないか? 自分の都合の良いように下位の者を操って、自分も誰かに操られているかもしれないと不安を抱きながら暴力に身を委ねる――そんな虚しいことを、これからも続けるのか? こんな二十年も生きていないような少女に言われてしまうくらい、我々のしていることは馬鹿げているんだ。折角変えられる機会を得られたのだから、誰かを殺して解決しようとするのはもうやめないか?」
そう言ってエルシーさんが見渡した周囲の人々は、完全に納得したわけではなさそうだけれど。それでも、これまで彼らから発せられていた殺意がだいぶ弱まったのが分かった。
ぽつりと聞こえたノエの「まじかよ無視か」という声にも、もうさっきまでの諦めたような雰囲気は感じられない。
薄れた自分への殺意とノエの変化に、身体の緊張が解けていくのが分かった。
少し前まで周囲を青く照らしていた空の光は、いつの間にか赤みを帯びて空気を紫色に染め上げていた。その色は嫌な印象ばかりを私に与えていたはずなのに、身体を包む深い紫はあの時のお父さんの色によく似ていて。それを見ていると、心の強張りさえ緩んでいくようで。
もしかして、今死ななくてもいいのだろうか。
もう少し先のことを考えてもいいのだろうか。
それはきっと楽しいことばかりじゃないと思うけれど。また誰かに覚えのない殺意を向けられることもあるのかもしれないけれど。
確認するようにノエへと視線を向けたら、へらりとした笑みを返された。
ノクステルナにはない明るい光、見慣れた家具、よく知った匂い。
ここは――私の家の中だ。目の前に座るお父さんは、今よりもずっと大きくて。
私が小さいんだと気付いたのは、他のもの全部が大きかったから。
「……何故それで零すんだ」
嫌そうなその視線の先には、ストローの付いた幼児用の蓋付きコップ。
いつもすぐに気付いてくれるお母さんは出かけていていない。無理矢理私と留守番をするように言われていたお父さんは、ずっと不機嫌そうだった。
でも私はお父さんと二人きりというのが嬉しくて、楽しくて。はしゃいでいたら、そのコップに手をぶつけて派手に倒してしまったんだ。中の飲み物が零れないためについていたはずの蓋は、手をぶつけた場所が悪かったのかぱかっと空いてテーブルの上を転がっていった。
顰めっ面のお父さんは、それでも私の傍に来てテーブルを拭いてくれた。私の顔を見たらまた眉間の皺を深くして、よだれだらけの口をお母さんよりも冷たい指で拭う。
初めてお父さんにやってもらったそれは、とても優しかった。向かい合わせの席に戻ったお父さんに笑いかけると、お母さんがいない時はいつも仏頂面だった顔がふっと緩んだ。
「……見るな」
珍しい顔をじっと見ていたら、すぐに顰めっ面に戻ったお父さんが不機嫌そうに言った。
「こういう感情は、もういらないんだ」
それはきっと、自分に向かって言っていて。
「人間は皆、俺より先に死んでいく」
そう言って見つめていたのは、ここではないどこか。
「だから俺にはあの人だけでいい。澪もお前も、あの人の代わりだ」
こちらを向いた瞳は、深い紫色。優しい、安心する色。
「このことは忘れろ。お前は俺を知らずに生きていけ。いつかいらなくなったら、その時は時間ではなく俺が殺してやるから」
§ § §
はっと意識を戻せば、そこは今までずっといた荒野だった。
今のは何……? ――その答えはきっと、知っている。それなのにすぐに受け入れられなかったのは、そんなはずはないとどこかで思っていたから。
だってスヴァインの中に、私はいない。アイリスの代用品にすらなれなかった私は、彼にとって何の価値もない。だからあんな顔をスヴァインが私に向けるはずがない――そう自分に言い聞かせながら、視線を上げる。そこにはもう、彼らの痕跡は残っていなかった。
現実味がなかった。
スヴァイン達だったそれは、もう全て空気に溶けてしまっていて。
本当に彼らは死んでしまったのだろうか。そう思わされているだけなんじゃないだろうか。
だって私には考えられないくらい長い時間を生きてきた人達が、あんなふうに呆気なく死んでしまうだなんておかしい。私とノエのことを殺そうとしていた人達が、それを簡単にやめて自死を選んでしまうのはおかしい。
こんな、私達にとって都合の良いことが起こるわけがない――そんな考えが、目の前で起きたことを信じようとする私を妨げてくる。
あれは本当に起こったことなの? それともまた騙されているの?
答えの出ない問いが頭の中をぐるぐると廻る。
そんな疑問から私を引きずり戻したのは、すぐ横から聞こえたノエの苦しそうな声だった。
「ッノエ! 大丈夫……じゃ、ないよね……?」
「大丈夫って言いたいけど……あー、くそ……頭とか腕とか色々痛ェ……けどとりあえず、右腕くっつけてくんない?」
「え……」
「だって俺左腕もないし。右はまだくっつけとけば、元通りは無理でもなんとかなりそう」
その言葉に恐る恐るノエの右腕を見れば、ぎりぎりで二つに分かれていないそれは確かにくっつけられそうで。と言ってもそこにあるからそう思うだけで、押し当てたところで綺麗に隙間が埋まるとは思えなかった。
でもノエ本人がやってくれと言っているからやるしかないんだろう。くっつければ多少失血もマシになるかもしれない。グロテスクな傷口に怖さを感じながらも、ノエの「一気によろしく」という言葉に倣い思い切って腕を動かした。
「ッ――」
「痛いよね!? どうしよう、私……!」
「だいッ……じょうぶ……俺の服、ちぎっていいから……これでちょっと、固定しといて……」
苦しそうに私に指示を出すノエの額はたくさんの汗が滲んでいて、彼が感じている苦痛がどれほどのものか考えたら涙が出そうになった。以前痛みに慣れているとは言っていたけれど、こんな怪我じゃそれがどれだけ役に立つのかも分からない。
それでも、放っておいたらその痛みは長く続くだろうと思って自分を叱咤する。ワンピースの袖を掴んで切り離し、ノエに言われたとおり腕に巻きつけ離れないようにした。
「左手も……」
そう言いながら立ち上がろうとした時、遠くから嫌な音が聞こえた。怒りと憎しみを孕んだ、唸り声のような。
慌ててノエにしがみつき、音の方を探る。
その音はどんどんこちらに近付いてきていた。声にならない唸りが、黒い影と共に押し寄せて来る。それらは私達を取り囲むように辺りを覆い尽くしたかと思うと、次々に人の形を成していった。
「――――!!」
誰かが声を上げる。するとそれに続くように、皆口々に怒声を上げ始める。その中をかき分けるように、エルシーさんとクラトスが姿を現した。
「――――!」
エルシーさん達が周りに向かって声を張り上げても怒声は収まらない。二人の存在は、こちらににじり寄ってくる人々を押し返すのがやっとだった。
「何が起こってるの……?」
「アイリスが死んだから、ラミア様が偽物だったってみんな気付いたんだよ。俺とほたるのこと殺せってさ。んでエルシー達はそれを止めてる」
「なんでノエまで!?」
「俺がアイリスの子だからだろ? 今までは匂いも勘違いするようになってたけど、それももう効果がないから」
ああ、本当にアイリス達は死んだのか――ノエの言葉にやっと納得することができたけれど、この状況は予想していなかった。
何と言ったらいいか分からなくてノエの服を握る手に力を込めれば、「俺、クビになったのにな」とへらりとした笑みを向けられる。
「なんで今そんな顔するの……」
「笑っとくしかなくない? ぶっちゃけ俺今ろくに動けないし、周りに催眠かけてどうにかしたくても、それもできるか分からないくらいしんどいし」
「……殺されても仕方がないとか思ってないよね?」
私が睨むと、ノエが息を飲んだ。それは肯定を表していて、沸々と怒りが湧き上がる。
「生きてくれるんじゃないの?」
「そりゃあね、でも状況的に厳しいかなって。もしそうなったらほたるのことはどうにか逃がすから――」
「もういい」
「……いいの?」
「いい。ノエは黙ってそこに座ってて!」
目を見開くノエに背を向けて立ち上がる。エルシーさんの横に並んで、周りに目を配った。
そこにいたのは、知らない人ばかりだった。ノストノクスで見かけたことがあるような人もいたけれど、名前すら分からない。そんな人達が自分達を殺せと言っているのかと思うとなんだかとても腹が立った。
怒りに任せ好き勝手に怒鳴り声を上げていた人々は、私の序列のせいか警戒を顕にしながら押し黙る。それもどこか滑稽で、けれどそうしなければならない理由を知っているから、笑うことなんてできなくて。
「私とノエは、殺されたくありません」
黙ったはずの人々は、私がそう言うとざわつき始めた。警戒と怪訝を隠そうともせず、探るような視線が私の皮膚に突き刺さる。
「アイリスとスヴァインは死にました。二人に恨みがあるかもしれません。二人の子である私とノエのことも、よく思わないかもしれません。でも、だからって殺されたくありません……!」
そこまで言うと、さっきよりも怒声が大きくなった。ふざけるな、とか、何を言ってるんだ、とか。もっとひどい日本語も混じっている。
自分でだって、彼らの気持ちを考えれば無茶なことを言っていると分かる。でもこれ以外に私は何を言ったらいいか分からないし、言いたいこともない。
「我々も彼女を殺すことには賛成しない」
怒声を宥めるように、クラトスが落ち着いた声を上げた。
「今の混沌としたノクステルナを正すには力も必要。序列第一位と二位の力は役に立つ」
「……私達に他の人達を操れってこと? そんなことしない!」
「君は状況が分かっているのか?」
「分かってるけど! でも嘘でどうにかしようとはしたくない!」
クラトスが呆れたような顔をするのは当然だと思う。彼は本気かもしれないけれど、この状況を切り抜けるためにある程度の嘘も必要だと理解できる。
だけど、嫌なんだ。
だってそんなことをしたら、アイリス達と同じになってしまうような気がするから。自分達以外の吸血鬼を物のようにしか思っていなかった彼らに不快感を抱いたのに、自分が生きたいからって今ここで同じようなことをしてしまったら、今は良くても絶対にいつか後悔する。
お前も結局同じじゃないか。自分がやられたことも忘れて、自分可愛さに他人をないがしろにして――きっと、生きている限りそんな考えに付き纏われる。
震える手を握り込むと、エルシーさんが私の肩に手を置いた。
「何故ノエとほたるを殺したがる?」
その問いかけに、周りは迷うことなく口々に答える。スヴァインの子だからだ、アイリスと共に自分達を騙していたからだ――そんなような言葉が、あたりに響く。
「スヴァインもアイリスも死んだ。ほたるはスヴァインがラーシュ様達を殺した時、生まれてすらいない。ノエは確かに我々を騙していたかもしれないが、それを裁くのは法であるべきだ。我々個人が彼らの命を奪って解決するものではないだろう」
エルシーさんの言葉に周囲はどよめくも、すぐにまた怒声が強まる。
さっきまで聞こえていた日本語は、もうほとんどなくなっていた。だから怒りを表しているのは吸血鬼の言葉なのに、ノエに教えてもらっていないのに、何度も聞いたせいで彼らがなんと言っているか分かってしまう。
スヴァインの子を殺せ、ノエを殺せ――悪意ではなく怒りによって放たれているそれらは、存在そのものを否定してくるようで余計に私の心を抉る。
どうして殺されなきゃいけないんだろう。どうして生きていたいと思っちゃ駄目なんだろう。
私達が死んだら本当に全部解決するの? また同じことにはならないの?
考えると、目が熱くなってくる。
ノエがさっき諦めた理由が、分かる気がしたから。
「なんで……なんで生きたいと願っちゃ駄目なんですか……?」
私が言うと、周りが一斉に注目するのが分かった。
「本当に私達を殺さなきゃ駄目ですか? なんのために殺すんですか?」
彼らの憎しみを引き起こした原因ではないはずなのに、どうして。
私は彼らのことを知らないのに。彼らもきっと、私のことを知らないのに。
ノエのことだって、彼が今までどんな気持ちでいたかなんて考えてすらいないだろう。それなのに、なんで。
なんで相手のことを全く知らないのに、殺したいと願えるのだろう――そんな殺意は、矛先なんて誰でもいいのだと思わざるを得なくて。
「私達を殺したら、次は誰にするんですか? それとも……これでもう終わってくれますか?」
アレサさんが言っていた、戦争に興じている間は余計なことを考えずに済むのだと。自分が操られているかもしれない、自分の感情や記憶が自分のものではないかもしれない――そんな不安から逃げるために、誰かに敵意を向ける。
たった今自分達の認識が長年歪められていたと知った人々は、その不安が大きいだろう。まだ他にもあるんじゃないかと考えだしたら切りがない。もしかしたら私とノエを殺したいのも、自分達を操れる存在を消したいからなのかもしれない。
だけど、それで私達を殺したって無駄だ。
その考えで誰かを殺したいと思うなら、自分よりも序列が高い人全員を殺さなければならないから。そしてそれは、人によって範囲が違うから。
不安を拭い去るために誰かを殺すのであれば、最後の一人になるまで繰り返さなければならない。たとえ最後の一人になったって、人間に種子を与え続けていたらいつかまた同じようなことになるかもしれない。
そうならないためには、もうここで終わりにしなきゃいけない。
終わりにしなければ、私も大事な人を失うことになるから。
「あなた達が本当に殺したいのは、誰ですか?」
私が問いかけると、周りがほんの少しだけ動きを止めたのが分かった。
「ラーシュとオッドを殺したスヴァインを憎んでいるから、私を殺したいんですか?」
そうだ、と口々に同意する声が上がる。
「じゃあもしアイリスが生きていたら、アイリスのことも殺したいと思いますか?」
その場がしんと静かになった。ところどころ声は聞こえるけれど、それは自分の意見を言うというよりは、考えるための独り言のような響きで。
静かになったのは予想どおりだった。彼らはきっと、アイリスのことは恨んでいない。そういう恨みとか怒りとかを抱くような対象じゃない。私だって直接会わなかったら、アイリスは自分達とは全く異なる存在だと思っていたはずだ。
「アイリスのことは殺したいと思わないのに、その子だからという理由でノエを殺したいんですか? 騙していたのも仲間を処分していたのも、ノエの意思じゃなくて、アイリスの意思なのに」
僅かにざわつき始めた人々は、けれど明確に答えることはなかった。
それが意味するのは、彼らが本当に殺したいのは私だけだということ。私が自分達の親であるラーシュとオッドの仇のようなものだから。スヴァイン本人はもういないけれど、私という彼の子がまだ残っているから。だから彼への憎しみを私にぶつけたいのだろう。
自分が何もしていないのに恨まれるというのも納得いかないけれど、今はこれでいい。私のことは殺す理由があるけれど、ノエに対しては明確なものがない――それが分かっただけで十分だ。これなら、もう終わりにして欲しいと頼みやすいから。
こっそりとノエを盗み見る。彼は怪訝な表情を浮かべていたけれど、私の視線に気付くとぐっと眉根を寄せた。
ノエが何かを言う前にさっと顔を正面に戻して、大きく深呼吸をしながら持ちを落ち着ける。
大丈夫、もう何度も覚悟した。本当はずっと嫌だったけれど、何もできずに大切な人が死んでしまうのはもっと嫌だと実感したから。
「――あなた達が本当に殺したいのは、私だけってことですよね?」
反論する声が聞こえないことを確認して、視線をしっかりと前に向ける。
「だったらもう、私だけにしてください。誰かを恨んで、操られるかもと不安に思って殺すのは私で最後。お願いですから、もう自分が安心するためだけに人を殺すのはやめてください」
「ほたる……お前何言って……!」
焦ったようなノエの声が聞こえる。言いたいことは分かるけれど、でもそれ以外にどうしたらいいか分からない。
だって私はノエに死んで欲しくない。彼らに私を殺す理由はあってもノエを殺す明確な理由がないんだったら、二人とも殺されないように――ノエだけは殺されないように懇願するしかない。
だからノエを見ないようにして、前だけを見つめる。
周囲から聞こえてくるどよめきは、私を殺せと訴えるもので。
時々聞こえてくる理解できない言葉の意味を知りたくてエルシーさんに尋ねようとした時、「何故操らない?」とクラトスが口を開いた。
「先程も否定していたが、君ならノエ以外のここにいる全員を操れる。記憶を操作するなりなんなりして、自分達に攻撃しないようできるはず。なのに何故やらない? 何故自分の命を差し出そうとする?」
周りが静かになったのは、彼らもまた同じ疑問を持っていたからだろうか。
なんだよそれ、馬鹿じゃないの。なんでそんなことを当たり前のように疑問に思わなきゃいけないの?
「私はもう、誰にも操られたくない。自分がされたくないことを人にしてまで助かりたいとも思わない。それにもし操って今はどうにかなったとしても、どうせしばらく経ったらまた相手を変えて同じことになるんだろうって嫌でも分かる。ちゃんと自分達の意思で決めていないから、同じことを繰り返す――それじゃあ何の解決にもならない。だったら私にできるのは、こうしてお願いすることしかない」
「君は、今後も含めて誰も操らないと?」
相変わらず、周りは静かなまま。ああもう、馬鹿らしいな――そう思うのに、その不安は私にも理解できてしまって。
視線をクラトスから周囲の人々に移して、はっきりと言葉にする。
「私は誰も操りません。誰かに操られるかもしれない、自分の記憶や感情が作り物かもしれない――そんなことを感じながら生きていくなんて、虚しいだけだと思うから」
私が言い終わったのに、さっきまでのような怒声は聞こえてこなかった。だからと言って納得してくれているとも思えないけれど、不安そうにしたら駄目だと思って前だけを見つめる。
「ノエは?」
私の不安を隠してくれるかのように、エルシーさんがノエに問いかけた。
「ほたるの意思は分かった。だがほたるよりもお前の方が序列が上だ。お前の意思を聞かないわけにはいかない」
一斉に視線がノエに集まる。ノエは居心地悪そうに顰めっ面を浮かべ、「えー……」と声を漏らした。
「お前それ、俺が今最悪やるしかないって思ってたの分かって言ってるだろ」
「ああ。だがお前がそうまでして逃そうと考えているほたる自身が、それは虚しいことだと言っているんだ。どう思う?」
「うわ、聞き方……」
「さっさと答えろ」
エルシーさんが睨むと、ノエがうっと言葉を詰まらせる。けれどすぐに大きな溜息を吐いて、顔を歪ませたまま口を開いた。
「あーもう! 分かったよ、しません! 他人操るとかそんな面倒なことしたくありません! でもその代わり今はこっちに手を出すなよ? やられそうになったら格好悪くてもやるからな、俺は! っていうか誰か頑張って俺の痛覚いじってくんない? くっそ痛くてそろそろ意識飛びそうなんだけど」
ノエの言葉を聞きながら、エルシーさんは周りに視線を戻した。
「序列最上位の奴もやらないと言っている。我々ももうやめないか? 自分の都合の良いように下位の者を操って、自分も誰かに操られているかもしれないと不安を抱きながら暴力に身を委ねる――そんな虚しいことを、これからも続けるのか? こんな二十年も生きていないような少女に言われてしまうくらい、我々のしていることは馬鹿げているんだ。折角変えられる機会を得られたのだから、誰かを殺して解決しようとするのはもうやめないか?」
そう言ってエルシーさんが見渡した周囲の人々は、完全に納得したわけではなさそうだけれど。それでも、これまで彼らから発せられていた殺意がだいぶ弱まったのが分かった。
ぽつりと聞こえたノエの「まじかよ無視か」という声にも、もうさっきまでの諦めたような雰囲気は感じられない。
薄れた自分への殺意とノエの変化に、身体の緊張が解けていくのが分かった。
少し前まで周囲を青く照らしていた空の光は、いつの間にか赤みを帯びて空気を紫色に染め上げていた。その色は嫌な印象ばかりを私に与えていたはずなのに、身体を包む深い紫はあの時のお父さんの色によく似ていて。それを見ていると、心の強張りさえ緩んでいくようで。
もしかして、今死ななくてもいいのだろうか。
もう少し先のことを考えてもいいのだろうか。
それはきっと楽しいことばかりじゃないと思うけれど。また誰かに覚えのない殺意を向けられることもあるのかもしれないけれど。
確認するようにノエへと視線を向けたら、へらりとした笑みを返された。
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