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第二章
第6話 その考え方は古いよ、昭和だよ
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「いい感じにやっといたから」
ふかふかのベッドの中。寝起きでぼうっとしていると、勝手に部屋に入ってきた誘拐犯はそう言った。
いやツッコミどころよ。
「え、何? ていうかなんで部屋勝手に入ってるの?」
「おいおい、ここお嬢さんちじゃないぞ?」
「それは知ってるけど」
私にあてがわれたのは、中央機関の客間のような部屋らしい。裁判などで長期間滞在しなければならない人に貸し出す部屋だそうで、少し豪華なホテルといった内装になっていて実に快適だ。
電気がないらしく照明がランプや蝋燭なのが現代っ子には少々面倒だけど、それはそれで味があるのでまあ良しとする。あとはなんか謎に常時光っている照明もあるんだけど、正体不明なので今度誘拐犯に聞いてみるとしよう。
私は誘拐犯にちょっと待ってと言うと、のそのそとベッドから下りて洗面所に向かった。
ちなみに洗面所にあるのが例の謎照明。火みたいな光だけど、熱くはない。形としては普通の照明器具と同じで、本来電球や火があるところに小指くらいの長さのガラスの塊みたいなものが付いていて、これが光っている。
探してみてもやっぱりスイッチは見当たらないから消すことはできないらしい。そんなわけで常に明るいけれど、洗面所は扉で区切られているので寝る時は問題なし。もしかしたらそういう使い分けなのかもしれない。
そんな謎照明の下、私は鏡に映る自分と目を合わせる。誘拐犯相手におしゃれをする気にはならないけれど、でもあの無駄にいい顔を前に流石に目やにがついた顔は乙女の沽券に関わるのだ。
顔を洗って歯を磨いて、髪は手ぐしで軽くとかす。櫛も用意されていたけれど、なんかそこまですると気合を入れているような気になってしまうのでやめておいた。
「――それで、なんだっけ?」
洗面所から戻ってきた私がそう言うと、ソファでくつろいでいた誘拐犯が嫌そうな顔をした。「そっちが話の腰折ったんだろ……」と呟いたので、身支度に時間をかけすぎたわけではないみたい。それにしても誘拐犯、よく話の腰を折るって日本語知ってるね。
「お嬢さんの母親だよ。一ヶ月くらい家空けても気にしないようにしておいた」
「……それは、記憶を書き換えた的な?」
「つーか洗脳?」
「危なくないんだよね……?」
「だいじょうぶだいじょーぶ」
そういえば吸血鬼は洗脳もできるみたいなこと言ってたっけ。そんなことを実の母親にされるのはいい気分ではないが、そうでもしないと警察沙汰になってしまうのは事実だ。
「あとこれ、ほたるの着替え」
ソファの影から誘拐犯がボストンバックを出して私に差し出す。赤を基調としたボストンバッグは某スポーツブランドのもので、私のお気に入りと同じ。って。
「これ私のバッグじゃん!」
「そりゃそうよ、お嬢さんちから持ってきたんだから」
「じゃあ中身も見たの!?」
「いんや、それはほたるの母さんが入れてくれた」
「……おおう」
まじか洗脳。私がいなくても違和感を与えないだけじゃなくて、こんな積極的に協力までしてくれるのか。え、怖すぎない?
「本当に、その洗脳って大丈夫なやつなの……?」
「だからそう言ってるだろ」
「そうだけど……もし相手に死ねって命令しても、本当に死ぬわけじゃないよね?」
「当然死ぬけど」
「……まじか」
やっぱり危ないやつじゃないか。そんな危ないものを母親に使われていると思うと不安で仕方なくなる。
それに私の命を狙う奴らはお母さんの命も狙うんじゃないだろうか。そう思って誘拐犯に尋ねれば、「それはねーよ」と返された。
「原則、勝手に外界に行って勝手に人間を殺すのはご法度。クラトス様んとこの例もあるけど、あれは特殊。多分お嬢さんを襲ったのは従属種の独断で、クラトス様自身が意図したものじゃない」
「なんでそう言い切れるの? 何か企んでるならルールくらい破ったっておかしくないじゃん。現にあの人だって勝手に外界に行っちゃったんでしょ?」
「あれは勝手に行ったんじゃなくて、多分クラトス様が送り出してる。まあ証拠もないからそれは置いといて、派手なルール破りに関してはリスクの問題があるんだよ。ノストノクスの定めたルールを守っていれば、吸血鬼としての食糧に困ることはない。でもそれを破るってことは、安定した食糧供給を放棄するってこと。ついでに他の奴らからの報復な」
「……みんなでルール破ったら意味ないんじゃないの?」
ノストノクスに従っていれば食糧がもらえるのか、とか、その食糧って人間だったりするんだろうか、とか。色々思うところはあるけれど、今知りたいのはお母さんの安全が守られるかどうかだ。
「そうそう有り得ないよ。そんなことすりゃ五百年前に逆戻りだ」
「五百年前って?」
「戦争に夢中になって、戦いや飢えで同胞が死にまくってた頃。それを解決するために中央機関ができたんだよ」
「……でも、そんな昔のこと」
誘拐犯は五百年前をついこの間みたいに言うけれど、それは歴史的な話だろう。なんとなく吸血鬼は長命なイメージがあるものの、さすがにそんなに長生きはしないはずだ。
「俺たちにとっちゃ遠い過去じゃねーよ。俺のボスもクラトス様も、上位の吸血鬼は大体戦争初期から参加してるしな」
「戦争初期って……」
それって千年前では? 私が顔を引きつらせれば、誘拐犯はにーっと笑った。
「吸血鬼は不老だよ。俺もこう見えて四百年歳くらい」
嘘だろ。その突っ込みは、目眩が酷すぎて口にすることができなかった。
§ § §
ノストノクスの食堂で朝ごはんを食べながら、私は目の前に座る誘拐犯を時折見ては深い溜息を繰り返していた。
その理由が分かっているらしい誘拐犯はにやにやと笑っていて、「もっと年上は敬えよ? 日本はそういうルールなんだろ?」と煽ってくる。
「その考え方は古いよ、昭和だよ」
「昭和って日本の年号だっけ?」
「そう、今は令和。時代は二つも変わってるの、おじーちゃん」
「嫌味のつもりなんだろうけど、心が若いから全く響かないわァ」
むかつく。若作りならともかく、実際に外見が若いから否定できないのが尚むかつく。
私は苛立ちを誤魔化すように、スープを口に運ぶことに集中した。
「俺思うのよ、老化っていうのは身体の衰えに気持ちが引き摺られてるだけなんだって。でもほら、ずっと若いじゃん? ちなみに俺が吸血鬼になったのは二十三だから身体も全盛期よ」
「でも時々私のこと子供扱いするあたり、気持ちは少々おっさんなんじゃないの」
誘拐犯が何百年も生きてると言われて、なんとなく彼の行動が分かった。
裁判中に私の頭をぽんぽんしたり、照れさせてからかってみたり。そんな行動は彼がおじいちゃんで、私のことは子供にしか見えていないからできたことだったのだ。
だがお生憎様、私はJKだ。JKは子供であって子供じゃない。法律的には子供だけど、心はほぼ大人なのだよ。
「ほたるは子供だろ?」
「誘拐犯が生まれた頃なら私の歳って十分大人でしょ」
「おい待て、なんだ誘拐犯って。俺の名前頑なに呼ばないと思ってたらずっと心ではそんな呼び方してたのか」
「げ、バレた」
私の言葉に誘拐犯――もといノエは珍しく不機嫌そうな顔をした。
実は昨日裁判所から出る時にノエには自己紹介されていたのだ。まあ、彼に保護されるようなものなのだから当然なのだけど。
『これからしばらく俺がお嬢さんの面倒見るから。敬意を込めてノエお兄ちゃんと呼ぶがいい』
だなんて言われてしまえば、敬意を抱くどころかドン引きである。そこはせめてお兄さんだろう、と昨日の私は百歩譲って思ったわけだけど、今となってはお兄さんさえ図々しいのだと思わざるを得ない。だって四百歳はどう考えてもお兄さんじゃないもの。
まあそんなわけで、私はこの彼の発言をなかったことにしたのだ。つまり正式に自己紹介されていないことになったので、私が誘拐犯を誘拐犯と呼び続けるのは至極真っ当である。
と言っても、もうバレてしまったのだけど。
「ノエにぃでもいいぞ」
「ねえ、なんで私妹確定?」
不快感を隠しもせず言ってみれば、ノエは驚いたような顔をした。
「最近の日本の男女はこう呼び合うんじゃないのか」
「それアニメの日本」
しかも男子向けな。女子向けもあるかもしれないけれど、まあ細かいことはいい。
しかしなるほど、そういうことか。ノエは日本文化を妹キャラの出てくるコンテンツで学んでしまったのか。なんでだ。
「おっかしいな、定期的に外国人観光客と話してたんだけど」
「そこは日本人と話すべきじゃないの?」
「そうしたいけど、日本人って外国人に冷たくない? しかも普通に日本語喋ってるだけでめちゃくちゃ驚くじゃん。なんかやりづらい」
「それこそ洗脳すればいいんじゃ……?」
「業務外での能力行使は禁止されてるんだよ」
「……そういえば執行官だったね」
執行官というのがどういう仕事かはいまいち分かっていないけれど、なんとなくお役人なんだろうなと思う。重要参考人的な立ち位置だった私の話を聞きに来たのもノエだし、なんやかんやで処分保留になった私の保護もノエ。しかも裁判長と裁判以外でも話すってことは、末端ではなく中枢の立場のような気もする。
「ま、名前で呼んでくれればなんでもいいや。それよりさっさと食っちゃいな、ほたるの行動可能範囲案内してやるから。口に合わなくて進まないってわけじゃないんだろ?」
「誰かさんに話しかけられるせいで進まないの」
「悪かったな」
実際、ここの食堂のご飯はおいしい。最初ノエに食堂に行くぞと言われた時は吸血鬼だけに血しか置いていないのではと心配したのだけど、来てみたら世界各国の料理が用意されていて驚いた。どうやら吸血鬼は血液だけしか飲めないわけじゃないらしい。
ってことをノエに言えば、「まあ栄養にはならんけどな。味覚はほぼ人間のまんまだから娯楽みたいなもん」と教えられた。やはりそこは吸血鬼のようだ。ちなみににんにくも平気らしい。
しかし栄養にならないということはいくら食べても太らないんじゃ……? しかも娯楽で食べるのだから、なんというか吸血鬼、凄く良い体質な気がする。
と、無駄なことを考えるのはノエの視線が痛いので後にして。
私は急いでスープを胃袋に放り込んだ。
ふかふかのベッドの中。寝起きでぼうっとしていると、勝手に部屋に入ってきた誘拐犯はそう言った。
いやツッコミどころよ。
「え、何? ていうかなんで部屋勝手に入ってるの?」
「おいおい、ここお嬢さんちじゃないぞ?」
「それは知ってるけど」
私にあてがわれたのは、中央機関の客間のような部屋らしい。裁判などで長期間滞在しなければならない人に貸し出す部屋だそうで、少し豪華なホテルといった内装になっていて実に快適だ。
電気がないらしく照明がランプや蝋燭なのが現代っ子には少々面倒だけど、それはそれで味があるのでまあ良しとする。あとはなんか謎に常時光っている照明もあるんだけど、正体不明なので今度誘拐犯に聞いてみるとしよう。
私は誘拐犯にちょっと待ってと言うと、のそのそとベッドから下りて洗面所に向かった。
ちなみに洗面所にあるのが例の謎照明。火みたいな光だけど、熱くはない。形としては普通の照明器具と同じで、本来電球や火があるところに小指くらいの長さのガラスの塊みたいなものが付いていて、これが光っている。
探してみてもやっぱりスイッチは見当たらないから消すことはできないらしい。そんなわけで常に明るいけれど、洗面所は扉で区切られているので寝る時は問題なし。もしかしたらそういう使い分けなのかもしれない。
そんな謎照明の下、私は鏡に映る自分と目を合わせる。誘拐犯相手におしゃれをする気にはならないけれど、でもあの無駄にいい顔を前に流石に目やにがついた顔は乙女の沽券に関わるのだ。
顔を洗って歯を磨いて、髪は手ぐしで軽くとかす。櫛も用意されていたけれど、なんかそこまですると気合を入れているような気になってしまうのでやめておいた。
「――それで、なんだっけ?」
洗面所から戻ってきた私がそう言うと、ソファでくつろいでいた誘拐犯が嫌そうな顔をした。「そっちが話の腰折ったんだろ……」と呟いたので、身支度に時間をかけすぎたわけではないみたい。それにしても誘拐犯、よく話の腰を折るって日本語知ってるね。
「お嬢さんの母親だよ。一ヶ月くらい家空けても気にしないようにしておいた」
「……それは、記憶を書き換えた的な?」
「つーか洗脳?」
「危なくないんだよね……?」
「だいじょうぶだいじょーぶ」
そういえば吸血鬼は洗脳もできるみたいなこと言ってたっけ。そんなことを実の母親にされるのはいい気分ではないが、そうでもしないと警察沙汰になってしまうのは事実だ。
「あとこれ、ほたるの着替え」
ソファの影から誘拐犯がボストンバックを出して私に差し出す。赤を基調としたボストンバッグは某スポーツブランドのもので、私のお気に入りと同じ。って。
「これ私のバッグじゃん!」
「そりゃそうよ、お嬢さんちから持ってきたんだから」
「じゃあ中身も見たの!?」
「いんや、それはほたるの母さんが入れてくれた」
「……おおう」
まじか洗脳。私がいなくても違和感を与えないだけじゃなくて、こんな積極的に協力までしてくれるのか。え、怖すぎない?
「本当に、その洗脳って大丈夫なやつなの……?」
「だからそう言ってるだろ」
「そうだけど……もし相手に死ねって命令しても、本当に死ぬわけじゃないよね?」
「当然死ぬけど」
「……まじか」
やっぱり危ないやつじゃないか。そんな危ないものを母親に使われていると思うと不安で仕方なくなる。
それに私の命を狙う奴らはお母さんの命も狙うんじゃないだろうか。そう思って誘拐犯に尋ねれば、「それはねーよ」と返された。
「原則、勝手に外界に行って勝手に人間を殺すのはご法度。クラトス様んとこの例もあるけど、あれは特殊。多分お嬢さんを襲ったのは従属種の独断で、クラトス様自身が意図したものじゃない」
「なんでそう言い切れるの? 何か企んでるならルールくらい破ったっておかしくないじゃん。現にあの人だって勝手に外界に行っちゃったんでしょ?」
「あれは勝手に行ったんじゃなくて、多分クラトス様が送り出してる。まあ証拠もないからそれは置いといて、派手なルール破りに関してはリスクの問題があるんだよ。ノストノクスの定めたルールを守っていれば、吸血鬼としての食糧に困ることはない。でもそれを破るってことは、安定した食糧供給を放棄するってこと。ついでに他の奴らからの報復な」
「……みんなでルール破ったら意味ないんじゃないの?」
ノストノクスに従っていれば食糧がもらえるのか、とか、その食糧って人間だったりするんだろうか、とか。色々思うところはあるけれど、今知りたいのはお母さんの安全が守られるかどうかだ。
「そうそう有り得ないよ。そんなことすりゃ五百年前に逆戻りだ」
「五百年前って?」
「戦争に夢中になって、戦いや飢えで同胞が死にまくってた頃。それを解決するために中央機関ができたんだよ」
「……でも、そんな昔のこと」
誘拐犯は五百年前をついこの間みたいに言うけれど、それは歴史的な話だろう。なんとなく吸血鬼は長命なイメージがあるものの、さすがにそんなに長生きはしないはずだ。
「俺たちにとっちゃ遠い過去じゃねーよ。俺のボスもクラトス様も、上位の吸血鬼は大体戦争初期から参加してるしな」
「戦争初期って……」
それって千年前では? 私が顔を引きつらせれば、誘拐犯はにーっと笑った。
「吸血鬼は不老だよ。俺もこう見えて四百年歳くらい」
嘘だろ。その突っ込みは、目眩が酷すぎて口にすることができなかった。
§ § §
ノストノクスの食堂で朝ごはんを食べながら、私は目の前に座る誘拐犯を時折見ては深い溜息を繰り返していた。
その理由が分かっているらしい誘拐犯はにやにやと笑っていて、「もっと年上は敬えよ? 日本はそういうルールなんだろ?」と煽ってくる。
「その考え方は古いよ、昭和だよ」
「昭和って日本の年号だっけ?」
「そう、今は令和。時代は二つも変わってるの、おじーちゃん」
「嫌味のつもりなんだろうけど、心が若いから全く響かないわァ」
むかつく。若作りならともかく、実際に外見が若いから否定できないのが尚むかつく。
私は苛立ちを誤魔化すように、スープを口に運ぶことに集中した。
「俺思うのよ、老化っていうのは身体の衰えに気持ちが引き摺られてるだけなんだって。でもほら、ずっと若いじゃん? ちなみに俺が吸血鬼になったのは二十三だから身体も全盛期よ」
「でも時々私のこと子供扱いするあたり、気持ちは少々おっさんなんじゃないの」
誘拐犯が何百年も生きてると言われて、なんとなく彼の行動が分かった。
裁判中に私の頭をぽんぽんしたり、照れさせてからかってみたり。そんな行動は彼がおじいちゃんで、私のことは子供にしか見えていないからできたことだったのだ。
だがお生憎様、私はJKだ。JKは子供であって子供じゃない。法律的には子供だけど、心はほぼ大人なのだよ。
「ほたるは子供だろ?」
「誘拐犯が生まれた頃なら私の歳って十分大人でしょ」
「おい待て、なんだ誘拐犯って。俺の名前頑なに呼ばないと思ってたらずっと心ではそんな呼び方してたのか」
「げ、バレた」
私の言葉に誘拐犯――もといノエは珍しく不機嫌そうな顔をした。
実は昨日裁判所から出る時にノエには自己紹介されていたのだ。まあ、彼に保護されるようなものなのだから当然なのだけど。
『これからしばらく俺がお嬢さんの面倒見るから。敬意を込めてノエお兄ちゃんと呼ぶがいい』
だなんて言われてしまえば、敬意を抱くどころかドン引きである。そこはせめてお兄さんだろう、と昨日の私は百歩譲って思ったわけだけど、今となってはお兄さんさえ図々しいのだと思わざるを得ない。だって四百歳はどう考えてもお兄さんじゃないもの。
まあそんなわけで、私はこの彼の発言をなかったことにしたのだ。つまり正式に自己紹介されていないことになったので、私が誘拐犯を誘拐犯と呼び続けるのは至極真っ当である。
と言っても、もうバレてしまったのだけど。
「ノエにぃでもいいぞ」
「ねえ、なんで私妹確定?」
不快感を隠しもせず言ってみれば、ノエは驚いたような顔をした。
「最近の日本の男女はこう呼び合うんじゃないのか」
「それアニメの日本」
しかも男子向けな。女子向けもあるかもしれないけれど、まあ細かいことはいい。
しかしなるほど、そういうことか。ノエは日本文化を妹キャラの出てくるコンテンツで学んでしまったのか。なんでだ。
「おっかしいな、定期的に外国人観光客と話してたんだけど」
「そこは日本人と話すべきじゃないの?」
「そうしたいけど、日本人って外国人に冷たくない? しかも普通に日本語喋ってるだけでめちゃくちゃ驚くじゃん。なんかやりづらい」
「それこそ洗脳すればいいんじゃ……?」
「業務外での能力行使は禁止されてるんだよ」
「……そういえば執行官だったね」
執行官というのがどういう仕事かはいまいち分かっていないけれど、なんとなくお役人なんだろうなと思う。重要参考人的な立ち位置だった私の話を聞きに来たのもノエだし、なんやかんやで処分保留になった私の保護もノエ。しかも裁判長と裁判以外でも話すってことは、末端ではなく中枢の立場のような気もする。
「ま、名前で呼んでくれればなんでもいいや。それよりさっさと食っちゃいな、ほたるの行動可能範囲案内してやるから。口に合わなくて進まないってわけじゃないんだろ?」
「誰かさんに話しかけられるせいで進まないの」
「悪かったな」
実際、ここの食堂のご飯はおいしい。最初ノエに食堂に行くぞと言われた時は吸血鬼だけに血しか置いていないのではと心配したのだけど、来てみたら世界各国の料理が用意されていて驚いた。どうやら吸血鬼は血液だけしか飲めないわけじゃないらしい。
ってことをノエに言えば、「まあ栄養にはならんけどな。味覚はほぼ人間のまんまだから娯楽みたいなもん」と教えられた。やはりそこは吸血鬼のようだ。ちなみににんにくも平気らしい。
しかし栄養にならないということはいくら食べても太らないんじゃ……? しかも娯楽で食べるのだから、なんというか吸血鬼、凄く良い体質な気がする。
と、無駄なことを考えるのはノエの視線が痛いので後にして。
私は急いでスープを胃袋に放り込んだ。
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