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17 豊穣祭 〜婚姻三ヶ月〜
しおりを挟むエシモワ王国王城では、秋の豊穣を祝う宴が開かれている。
玉座のある謁見場である日光間と共に、隣接する蒼天間・碧海間の仕切りを外し開放されていた。
そうして王国全ての貴族家の当主と随行する一名が、序列に応じて次々に会場入りしていく。
「ワルエトージ侯爵、ヘルムーズ・ビアイシン閣下、アーナルヤ・ビアイシン夫人!御入場っ!」
謁見の間への入り口で貴族の入場を宣言する侍従の声が響くと、謁見の間から音が消えた。
当代の社交界の華たる第二王女が侯爵家へ降嫁したのは三月ほど前。その夫と共に現れた彼女に注目するのは、その場に居合わせた貴族たち。
優雅な微笑みを浮かべて、夫にエスコートされながら会場を滑るように歩く元王女。
父である玉座に座る国王と視線を交わし、夫婦揃って頭を垂れる。
「エシモワ王国の父たる陛下へ、御礼を述べるべく御前に罷り越しまして御座います。今年も実りの多きこと、これも全て陛下のご采配あっての賜物と存じ奉ります。明日の我らの糧をお守り下さり感謝申し上げます」
ヘルムーズがビアイシン一族特有の定型挨拶を口にした。
「うむ。相変わらずよな、ビアイシンの者は。して、嫁した姫からは言祝ぎはないのか?」
苦笑混じりにも親しげな声が掛かると、夫婦は揃って顔を上げる。
「本年も収穫が多かったと聞きましたわ、お父様。あ!申し訳御座いません、陛下」
「何を他人行儀な。我が娘よ、恙無く過ごしておるか?」
アーナルヤが失言を取り繕うかの様に慌てて頭を下げると、朗らかな笑い声で父としての言葉を掛けられた。
「はい。旦那様には大変良くして頂いておりますの」
恥ずかしそうに頬を緩める娘に相好を崩し、国王は満足そうにヘルムーズへ視線を向ける。
「ふむ。良き縁であった様だ。これからも我が国の為、其方も力添えを頼むぞ」
「勿体なきお言葉、ビアイシンの名に恥じることなく、これより一層精進して参ります」
国王が鷹揚に頷くと、三歩退き一礼、左に三歩進んで踵を返し、祝宴の場へと足を運んだ。
「アーニャ、陛下にあんなコトを言うなんて」
「ごめんなさい、ヘル。あなたと共にある幸運を、お父様にもお伝えしたかったのですわ」
ヘルムーズは肩をすくめて苦笑する。
「仕方のない奥様だ」
そう言いながら彼女の手を掬い取って指先に口付けた。
途端に「ほぅ……」と会場のあちこちから吐息の様な溜め息の様な音を皮切りに、ざわざわしたおしゃべりが再開される。
ヘルムーズ・ビアイシンは、第二王女に見染められたとは言え、特徴のある美形と言うほどではではない。
更に言えば、家門同士の取り決めた婚約を白紙にしてまで、アーナルヤを娶った男である。
当時は横恋慕王女や浮気野郎などと大層な醜聞もあったが、常に幸せそうな王女の様子が見られると、醜聞はあっさりと『真実の愛を貫いた王女と侯爵子息』の美談に変えられていった。
それ伴い、この国では現在、真実の愛などと謳い、婚約解消や破棄、破談などが横行している。
そして、美しい王女を娶った平凡な男をやっかむ者、社交界の華である立場を掠め取ろうとする者も現れ始め、その急先鋒にヘルムーズの元婚約者を担ぎ上げる者たちが水面下で蠢いていた。
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