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6話 ようこそ、Goワールドへ!
58話 俺の村
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村へ戻るなり、俺は熱烈な歓迎を受けた。
ナビ子は突進し、アランは首をしっかり押さえ込み、ルシンダは穏やかに笑む。
発展した一一七番植民地、もとい「カップランド」もよいが、自分の村が最も落ち着く。
家はたったの二件、畑は数面。住民は片手で足る程の人数。小規模だが、忘れられた国よりもずっと愛着がある。
今こそカップランドは私有地も同然だが、あちらに入り浸るつもりはない。何よりも俺の村を最優先に、しかしかつての村長より引き継いだ歴史を潰えてしまわないよう、今後は気を配る必要がある。
カップランドで何があったのか、今後どのように付き合っていくのか。村へ戻った日――入植から十五日目の夕方は、全て説明に費やした。
「簡単に言うと、村長がいなくなったから、新しい村長を求めた。――そんな感じかしらね」
黄昏時の屋外、《平焼きパン》を焼きながら、ルシンダは言う。村人ならば、その認識でよいだろう。
俺は頷いて、
「でも、あちらのナビ子さんも苦渋の決断だったと思うんです。だから、あまり責めないでほしい……なぁって」
カップランドのナビ子とて苦悩しただろう。
システムの申し子であると同時に、村人に近い立ち位置である。情が移らない筈がない。俺のナビ子が設定の変更という形で、俺や村人を守ろうとしたように、彼女等も時には無茶をする。
向こうのナビ子は、決して無罪ではない。しかしかと言って、俺には裁くことが出来なかった。
俺が彼女の立場だったらどうするか。どれだけ思考を巡らせても、行き付く先は同じだったのだ。どれだけ取り繕っても、執着は隠せない。俺も、一人の人間だ。
「自分勝手ね。まあ、村長がいいなら、これ以上言及はしないわ。で、向こうの村……カップランド、だったかしら。そこが村長の統治下に入ったということは、搾取も出来るようになるのね」
「搾取って」
俺は思わず苦笑をする。
ルシンダには、俺がそのように見えているのだろうか。全くもって身に覚えのない偏見である。
「いずれは交易もしたいと思っています。しかし、この村で出来ることはしたいので、向こうに頼り切りの生活にするつもりはありません」
チ、と舌打ちが二つ聞こえて来る。
ルシンダとアラン――役職『ニート』になることを望んで入植してきた彼等は、まだ諦めていなかったらしい。ここよりもずっと発展したカップランドの支援を受けられるとなれば、自分達は働く必要がなくなる、そう期待していたのだろう。
残念ながら、楽をさせるつもりはない。
俺はこのゲームを始めたばかりだ。それなのに、食糧生産から資材の調達まで向こう頼りになってしまっては、楽しみがなくなってしまう。
余所は余所、うちはうち。その精神で、今後も運営していくつもりだ。
「向こうから人を連れて来ることもしないのか?」
アランが尋ねてくる。それは考えていなかった。俺は頭を巡らせる。
「カップランドの住民にはカップランドでの生活がありますし、それはいかがなものかと……。志願者がいれば話は別ですが」
「マジか。『農民』と『調理師』の採用頼むわ」
「『調理師』の第一候補はアランさんなので」
これだけ話していても、不思議なことに、誰一人としてイアンのことを口にしようとはしなかった。
彼等にとってあの少年は、いわば裏切り者。当然と言えば当然である。彼が拉致という行動に出なければ、あの騒動すら起きなかったのだ。もはやダブーと称しても差し支えない扱いなのかもしれない。
親友であったサミュエルも、さぞ肩身が狭いだろう。かと思いきや、彼は静かだった。片膝を抱え、弾ける炎をじっと見つめている。表情は読み取れなかった。
彼が感情を殺すのはいつものことである。しかし今日は一段と静かだ。
村人達も異変に気付いている。しかし彼等は、あえて言葉を絶やそうとはしなかった。変に顔色を窺うこともない。それが彼等なりの気遣いなのかもしれない。
普段通りに。これまで通りに。その思いで過ごす夜は、少しだけ疲れた。
■ ■
入植十六日目。
軽い倦怠感と共に、俺は朝を迎えた。《ワラ敷きベッド》から身体を起こし、足を降ろす。
床が鳴く。アランの鼾に掻き消されたかと思いきや、その音は少年の耳に届いてしまったらしい。薄目を開けて、サミュエルが首を動かした。
手は既に剣――この村で作られた《石の剣》に伸びている。
『戦士』就任当時はベッドで寝てもくれなかった。それが随分と懐かしく思える。俺は一つ謝罪をしてから、俺は小屋を出た。
春も終わりに近付いた時期。もう少しで夏が来る。そうだというのに、朝はまだキンと冷え込んでいる。この時間帯は、村人の誰一人として起き出していない。俺の補佐が仕事であるナビ子でさえ、女子部屋で眠り込んでいる。
地平線から上がる太陽を見るのは俺と、黄金に輝く《小麦》のみ――ああ、今日は収穫の日か。そんなことを思っていると、どこからともなく音が聞こえて来た。
キン、キンと甲高い、何かがぶつかる音。
まさか。なぜ。背筋が凍りつく。
ここまで追手が? なぜ。全て終わった筈だ。誰が戦っている。何が起きている。
皆を起こそうか、それが頭をよぎる。しかし誰かが既に対処に当たっていたら。声を掛けているうちに取り返しのつかないことになってしまったら。
駄目だ、待てない。俺は駆け出した。小屋のすぐ隣、村の中央となる予定の場所へ向けて。
単独行動は慎むようにと、耳に胼胝ができる程聞かされた声すら、俺の頭からは転げ落ちていた。
弾む視界に飛び込んできたのは、大量の瓦礫と朝日に輝く長い髪だった。
「ルシンダさん……?」
ナビ子は突進し、アランは首をしっかり押さえ込み、ルシンダは穏やかに笑む。
発展した一一七番植民地、もとい「カップランド」もよいが、自分の村が最も落ち着く。
家はたったの二件、畑は数面。住民は片手で足る程の人数。小規模だが、忘れられた国よりもずっと愛着がある。
今こそカップランドは私有地も同然だが、あちらに入り浸るつもりはない。何よりも俺の村を最優先に、しかしかつての村長より引き継いだ歴史を潰えてしまわないよう、今後は気を配る必要がある。
カップランドで何があったのか、今後どのように付き合っていくのか。村へ戻った日――入植から十五日目の夕方は、全て説明に費やした。
「簡単に言うと、村長がいなくなったから、新しい村長を求めた。――そんな感じかしらね」
黄昏時の屋外、《平焼きパン》を焼きながら、ルシンダは言う。村人ならば、その認識でよいだろう。
俺は頷いて、
「でも、あちらのナビ子さんも苦渋の決断だったと思うんです。だから、あまり責めないでほしい……なぁって」
カップランドのナビ子とて苦悩しただろう。
システムの申し子であると同時に、村人に近い立ち位置である。情が移らない筈がない。俺のナビ子が設定の変更という形で、俺や村人を守ろうとしたように、彼女等も時には無茶をする。
向こうのナビ子は、決して無罪ではない。しかしかと言って、俺には裁くことが出来なかった。
俺が彼女の立場だったらどうするか。どれだけ思考を巡らせても、行き付く先は同じだったのだ。どれだけ取り繕っても、執着は隠せない。俺も、一人の人間だ。
「自分勝手ね。まあ、村長がいいなら、これ以上言及はしないわ。で、向こうの村……カップランド、だったかしら。そこが村長の統治下に入ったということは、搾取も出来るようになるのね」
「搾取って」
俺は思わず苦笑をする。
ルシンダには、俺がそのように見えているのだろうか。全くもって身に覚えのない偏見である。
「いずれは交易もしたいと思っています。しかし、この村で出来ることはしたいので、向こうに頼り切りの生活にするつもりはありません」
チ、と舌打ちが二つ聞こえて来る。
ルシンダとアラン――役職『ニート』になることを望んで入植してきた彼等は、まだ諦めていなかったらしい。ここよりもずっと発展したカップランドの支援を受けられるとなれば、自分達は働く必要がなくなる、そう期待していたのだろう。
残念ながら、楽をさせるつもりはない。
俺はこのゲームを始めたばかりだ。それなのに、食糧生産から資材の調達まで向こう頼りになってしまっては、楽しみがなくなってしまう。
余所は余所、うちはうち。その精神で、今後も運営していくつもりだ。
「向こうから人を連れて来ることもしないのか?」
アランが尋ねてくる。それは考えていなかった。俺は頭を巡らせる。
「カップランドの住民にはカップランドでの生活がありますし、それはいかがなものかと……。志願者がいれば話は別ですが」
「マジか。『農民』と『調理師』の採用頼むわ」
「『調理師』の第一候補はアランさんなので」
これだけ話していても、不思議なことに、誰一人としてイアンのことを口にしようとはしなかった。
彼等にとってあの少年は、いわば裏切り者。当然と言えば当然である。彼が拉致という行動に出なければ、あの騒動すら起きなかったのだ。もはやダブーと称しても差し支えない扱いなのかもしれない。
親友であったサミュエルも、さぞ肩身が狭いだろう。かと思いきや、彼は静かだった。片膝を抱え、弾ける炎をじっと見つめている。表情は読み取れなかった。
彼が感情を殺すのはいつものことである。しかし今日は一段と静かだ。
村人達も異変に気付いている。しかし彼等は、あえて言葉を絶やそうとはしなかった。変に顔色を窺うこともない。それが彼等なりの気遣いなのかもしれない。
普段通りに。これまで通りに。その思いで過ごす夜は、少しだけ疲れた。
■ ■
入植十六日目。
軽い倦怠感と共に、俺は朝を迎えた。《ワラ敷きベッド》から身体を起こし、足を降ろす。
床が鳴く。アランの鼾に掻き消されたかと思いきや、その音は少年の耳に届いてしまったらしい。薄目を開けて、サミュエルが首を動かした。
手は既に剣――この村で作られた《石の剣》に伸びている。
『戦士』就任当時はベッドで寝てもくれなかった。それが随分と懐かしく思える。俺は一つ謝罪をしてから、俺は小屋を出た。
春も終わりに近付いた時期。もう少しで夏が来る。そうだというのに、朝はまだキンと冷え込んでいる。この時間帯は、村人の誰一人として起き出していない。俺の補佐が仕事であるナビ子でさえ、女子部屋で眠り込んでいる。
地平線から上がる太陽を見るのは俺と、黄金に輝く《小麦》のみ――ああ、今日は収穫の日か。そんなことを思っていると、どこからともなく音が聞こえて来た。
キン、キンと甲高い、何かがぶつかる音。
まさか。なぜ。背筋が凍りつく。
ここまで追手が? なぜ。全て終わった筈だ。誰が戦っている。何が起きている。
皆を起こそうか、それが頭をよぎる。しかし誰かが既に対処に当たっていたら。声を掛けているうちに取り返しのつかないことになってしまったら。
駄目だ、待てない。俺は駆け出した。小屋のすぐ隣、村の中央となる予定の場所へ向けて。
単独行動は慎むようにと、耳に胼胝ができる程聞かされた声すら、俺の頭からは転げ落ちていた。
弾む視界に飛び込んできたのは、大量の瓦礫と朝日に輝く長い髪だった。
「ルシンダさん……?」
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