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4章 人民よ、健やかに
27話 食糧事情は綱渡り
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「じゃあ建築を始めましょうか」
俺は設計図を開く。建築に携わるのはアラン、イアン、サミュエル。家具は、いつも通りクローイとルシンダの、二人の職人に任せることになった。
療養中であるナビ子の手を借りられないのは残念だが、ゲームとしてはそもそも、ナビゲーター役の彼女が内政に参加すること自体が特異なのである。あるべき形に戻ったと思えば、大した問題ではない。
「基本的には、先日作った小屋と同じです。玄関部分に多少変化――扉を開けてすぐの所に階段がないよう、家から出て右手側に少しだけ通路を伸ばします。後に女子部屋も、この図に合わせる予定です」
玄関付近の改造に乗り出したのは、先日クローイが《木のコンテナ・大》を運び出す際に躓いた為である。そのような事故が起こらないよう、今後の建築においても扉と階段との間に踊り場を設ける予定だ。
「建設場所は小屋の向かい側です。それから、もし余裕があるようでしたら、男子部屋の隣――畑側に仮の資材置き場も作る予定です。クローイさんには苦労を掛けますが、身体を壊さない程度にお願いします」
「石系の建材も使ってみたらどうだ?」
アランが提案してくる。俺は少し考えた後、
「建材に使える程、《石材》を取って来てないんですよ」
「あー、そうか。なら忘れてくれ」
再び採掘に出掛けるより、今ある材料で建築を終えてしまった方がよい。何せ課題は急を要するのだ。アランの案は後に――資材と時間に余裕ができ次第、採用することにする。
「何か質問はありますか? ――なければ、作業をお願いします」
大人組は次々に腰を浮かせ、作業に移って行く。クローイは建材の加工、アランは間取りを地面に描く。少年達は材料を、現場やクローイの元に運び入れた。
手順は先日組み立てた小屋と同じである。床を敷き、その上に柱、次いで壁を張る。その間に俺は、ルシンダに家具を作ってもらうべく話しを持ち掛けた。
「明かりをですね、作って欲しくて。壁掛けか、直置きじゃない奴か」
「明かり? うーん、明かりって言っても……」
ルシンダは腕を組む。職人と言えど、レシピを全て把握している訳ではない。互いに首を捻っていると、小屋の中から物悲しげな声が聞こえて来た。
「ナビ子をどうか頼りにしてください~!」
左肩に傷を負い、療養中である彼女は、建築に参加していない。せめて「情報」の面でサポートしたいのかもしれない。思わず苦笑した後、
「じゃあナビ子さん。『石工師』が作れる照明って、どんなのがありますか?」
「はい。照明カテゴリの家具は二つあります。一つ目に《石の灯篭》、二つ目に《石のテーブルランプ》です!」
「灯篭は分かるけど……テーブルランプ? そうか、部屋に机とかを置くのもアリだなぁ。ありがとうございます、ナビ子さん」
「他に御用はございませんか?」
「うーん、今のところは」
「えー」
その声は心底残念そうだった。俺は苦笑をしつつ、改めてルシンダに依頼する。《石のテーブルランプ》を二つ、《石の灯篭》を一つ作るようにと。すると彼女は怪訝とした表情を見せた。
「あら、二つでいいの? テーブルランプ」
「はい。女子部屋にも置こうと思いまして。《木のランプ》だけでは今後不自由もあるでしょうし、予備として……」
「ふーん、なるほどね。わたくし達の部屋に合うように、工夫しちゃおうかしら」
「楽しみにしてます」
入植初日こそ労働を嫌がっていたルシンダだったが、一度波に乗ってしまえば、難儀することなく役割を全うできるらしい。「希望役職・ニート」でも、労働者としての性質に欠点はないようだ。
俺は後の作業をルシンダに任せて、建築の現場に視線を戻した。
床と壁を設置し終えた彼等は屋根張りに移行していた。背の高いアランが建材を持ち上げ、それを上で受け取る身軽な少年二人が、設置の作業を行っている。
人数が増えれば、このような分担作業も可能になるのだ。建築の進行が第一小屋よりも早いのは、それが理由であろう。
二人を受け入れてよかった。改めてそう実感した。
「そういえばよ、村長」
建材の運搬をしながら、アランが呼び掛けてくる。
「食糧の在庫がな、そろそろ底を突きそうなんだ」
「ええっ、もうですか?」
村人の主な食糧は《ニンジン》と、森で採取した《レッドベリー》やキノコ類だ。この頃採取は殆ど行っていなかったが、《ニンジン》は二日前に三十個強を収穫したばかりである。
たった二日でそれらの食糧が底を突きるとは、配慮が至らなかった。
「あ、そっか、二人増えたから……。しょ、初日に植えた小麦は、まだ収穫できませんかね?」
「もうちょいだな。あと二日ってところか」
「《ニンジン》は……?」
「明日か明後日か、かな。待っている間に食いモンが尽きるだろうから、何か対策を考えてくれ」
「た、対策と言われても……」
即効の対策と言えば、やはり採取である。
森跡地にぽつぽつと残る《レッドベリーの繁み》は健在だが、主な食糧源としてきた《キノコ群》はすっかり消滅してしまっている。木々がなくなり、菌類が好む日陰が消えた為であろう。
この食糧難を《レッドベリー》にのみ頼るとなると、あまりにも心許ない。泥船もよいところだ。早いうちに別の対策案も打ち立てる必要がある。
視界に映るのは資材置き場。コンテナの中にはナイフが収まっている。つい先程ルシンダが完成させた《石のナイフ》――。
導かれる答えは、たった一つだった。
俺は設計図を開く。建築に携わるのはアラン、イアン、サミュエル。家具は、いつも通りクローイとルシンダの、二人の職人に任せることになった。
療養中であるナビ子の手を借りられないのは残念だが、ゲームとしてはそもそも、ナビゲーター役の彼女が内政に参加すること自体が特異なのである。あるべき形に戻ったと思えば、大した問題ではない。
「基本的には、先日作った小屋と同じです。玄関部分に多少変化――扉を開けてすぐの所に階段がないよう、家から出て右手側に少しだけ通路を伸ばします。後に女子部屋も、この図に合わせる予定です」
玄関付近の改造に乗り出したのは、先日クローイが《木のコンテナ・大》を運び出す際に躓いた為である。そのような事故が起こらないよう、今後の建築においても扉と階段との間に踊り場を設ける予定だ。
「建設場所は小屋の向かい側です。それから、もし余裕があるようでしたら、男子部屋の隣――畑側に仮の資材置き場も作る予定です。クローイさんには苦労を掛けますが、身体を壊さない程度にお願いします」
「石系の建材も使ってみたらどうだ?」
アランが提案してくる。俺は少し考えた後、
「建材に使える程、《石材》を取って来てないんですよ」
「あー、そうか。なら忘れてくれ」
再び採掘に出掛けるより、今ある材料で建築を終えてしまった方がよい。何せ課題は急を要するのだ。アランの案は後に――資材と時間に余裕ができ次第、採用することにする。
「何か質問はありますか? ――なければ、作業をお願いします」
大人組は次々に腰を浮かせ、作業に移って行く。クローイは建材の加工、アランは間取りを地面に描く。少年達は材料を、現場やクローイの元に運び入れた。
手順は先日組み立てた小屋と同じである。床を敷き、その上に柱、次いで壁を張る。その間に俺は、ルシンダに家具を作ってもらうべく話しを持ち掛けた。
「明かりをですね、作って欲しくて。壁掛けか、直置きじゃない奴か」
「明かり? うーん、明かりって言っても……」
ルシンダは腕を組む。職人と言えど、レシピを全て把握している訳ではない。互いに首を捻っていると、小屋の中から物悲しげな声が聞こえて来た。
「ナビ子をどうか頼りにしてください~!」
左肩に傷を負い、療養中である彼女は、建築に参加していない。せめて「情報」の面でサポートしたいのかもしれない。思わず苦笑した後、
「じゃあナビ子さん。『石工師』が作れる照明って、どんなのがありますか?」
「はい。照明カテゴリの家具は二つあります。一つ目に《石の灯篭》、二つ目に《石のテーブルランプ》です!」
「灯篭は分かるけど……テーブルランプ? そうか、部屋に机とかを置くのもアリだなぁ。ありがとうございます、ナビ子さん」
「他に御用はございませんか?」
「うーん、今のところは」
「えー」
その声は心底残念そうだった。俺は苦笑をしつつ、改めてルシンダに依頼する。《石のテーブルランプ》を二つ、《石の灯篭》を一つ作るようにと。すると彼女は怪訝とした表情を見せた。
「あら、二つでいいの? テーブルランプ」
「はい。女子部屋にも置こうと思いまして。《木のランプ》だけでは今後不自由もあるでしょうし、予備として……」
「ふーん、なるほどね。わたくし達の部屋に合うように、工夫しちゃおうかしら」
「楽しみにしてます」
入植初日こそ労働を嫌がっていたルシンダだったが、一度波に乗ってしまえば、難儀することなく役割を全うできるらしい。「希望役職・ニート」でも、労働者としての性質に欠点はないようだ。
俺は後の作業をルシンダに任せて、建築の現場に視線を戻した。
床と壁を設置し終えた彼等は屋根張りに移行していた。背の高いアランが建材を持ち上げ、それを上で受け取る身軽な少年二人が、設置の作業を行っている。
人数が増えれば、このような分担作業も可能になるのだ。建築の進行が第一小屋よりも早いのは、それが理由であろう。
二人を受け入れてよかった。改めてそう実感した。
「そういえばよ、村長」
建材の運搬をしながら、アランが呼び掛けてくる。
「食糧の在庫がな、そろそろ底を突きそうなんだ」
「ええっ、もうですか?」
村人の主な食糧は《ニンジン》と、森で採取した《レッドベリー》やキノコ類だ。この頃採取は殆ど行っていなかったが、《ニンジン》は二日前に三十個強を収穫したばかりである。
たった二日でそれらの食糧が底を突きるとは、配慮が至らなかった。
「あ、そっか、二人増えたから……。しょ、初日に植えた小麦は、まだ収穫できませんかね?」
「もうちょいだな。あと二日ってところか」
「《ニンジン》は……?」
「明日か明後日か、かな。待っている間に食いモンが尽きるだろうから、何か対策を考えてくれ」
「た、対策と言われても……」
即効の対策と言えば、やはり採取である。
森跡地にぽつぽつと残る《レッドベリーの繁み》は健在だが、主な食糧源としてきた《キノコ群》はすっかり消滅してしまっている。木々がなくなり、菌類が好む日陰が消えた為であろう。
この食糧難を《レッドベリー》にのみ頼るとなると、あまりにも心許ない。泥船もよいところだ。早いうちに別の対策案も打ち立てる必要がある。
視界に映るのは資材置き場。コンテナの中にはナイフが収まっている。つい先程ルシンダが完成させた《石のナイフ》――。
導かれる答えは、たった一つだった。
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