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55、レオン王誕生
しおりを挟むリオンとエリザが消えた。
「これでよかったのよね」
レオンの顔を見上げると、レオンは「そうだ」と目で合図をくれる。
「きっとマッチン宰相が待ちくたびれてイライラしてるわ。
心配しすぎて、あれ以上頭がはげたら気の毒だから、私は一足先に帰ることにする。
レオンはあとから、この船でゆっくりきてね」
さっきの騒ぎでマストが折れた船に魔法をかけて元通りにすると、私はコツンと床をけって、空高く舞い上がった。
そして宰相達がいる陸をめざして、空を泳ぐようにスイスイと進んでゆく。
「ポポ様が勝利したんですね!
いやあ、良かった。良かった」
着陸と同時に、両手を広げたマッチン宰相が駆け寄ってきた。
「これでシュメール国は新しく生まれかわれるはずです」
と、宰相のかたわらに立つイワンが興奮した声をあげる。
「2人とも、色々と心配してくれてありがとう」
ペコリと頭を下げた時だった。
ザブンと大波がおしよせてきて、砂浜に1本の丸太が流れついたのは。
「あれは何かしらね。なんとなく嫌な予感がするんだけど……」
ちゃんと正体を確認しなくてはと、砂浜に近づいてゆけば。
「これは驚いた。この木にはリオンとエリザの姿が彫られているぞ!」
船で到着したばかりのレオンが、目をみはり声をはる。
「不思議ね。一体どういう事なのかしら」
「きっと2人はあの世で夫婦になったのよ。で、その証が届けられたざんす」
私の頭の周りをグルグル浮遊していたロンが、わかったような口をきく。
「なるほど。そうかもね。ロンもたまにはいい事を言うのね」
木に刻まれた2人の絡みあう姿を見つめていると、しだいに胸がじんわりと熱くなる。
「もーう。どうしてアンナ奴らの為に私が泣くのよ」
腕を目にあててゴシゴシとあふれる涙をふいていると、マカも私と同じようにしているのに気がつく。
「マカも泣き虫ね」
「オイラだけじゃないぞ。レオンの瞳だってウルウルしてるもん」
「おい、オレはただ目にゴミが入っただけだぞ」
「かーわいい。レオンがてれてる、てれてる」
なんてレオンをからかっていると、ザックザックと大勢の足音が耳に響く。
「リオン王とエリザは聖女様の手によって、この木の中に封じ込められた。
これからはここにいるレオン様を王にするべきだ!
そして古い慣習にしばられない、新しい国をつくっていこう!」
え、私そんな事してないのに?とあっけにとられていると、イワンが見事な演説を始めた。
「そうだ、そうだ! それがいい!
レオン様の方がよほど王様にはふさわしいぞ!」
「今までもリオン王はレオン様にややこしい仕事はおしつけていた」
あちこちでイワンに賛同する声が上がり、どこからともなく大きな拍手がおこる。
イワンの政治手腕はたいしたものだわ。
「聖女様。
もうレオン様は別人になる必要はありません。
どうかレオン様を元の姿に戻してあげてください」
「え? 今すぐここで?」
「はい」
イワンはまるで、よく切れるナイフのような鋭い視線を私にむけた。
「わかりました」
その目力に圧倒された私は、レオンの両手をギュッと握り、願いの言葉を口にする。
とたんにレオンの黒髪黒目は金髪碧眼へと変わった。
黄金色の豊かな髪。
宝石のように輝く瞳。
なめらかなミルク色の肌。
身体からにじみです品格。
「とうとう、私の推しが帰ってきたのね」
もうレオンはリオンの影じゃない。
それは私が望んだ事だったのに、どういうわけか純粋に喜べなかったの。
「ねえ。レオン。私達、これからどうなるのかな」
と、不安な気持ちを口にだしたけど「おおおー」と地鳴りのような歓声にかき消されてしまった。
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