上 下
52 / 61

52、船上の対決

しおりを挟む
「おい。オレを食うと腹をこわすぞ。
 食べるなら、あっちのチビにしろ」

 上半身は人食いザメ、下半身は人間の魔物達にグルリと囲まれたリオンが叫んでいる。

「やっぱりリオンは正真正銘のクズ野郎だわ」
と変な感心をしていると、魔物達がいっせいにとびかかってきた。

「はやく消えなさい」

 逃げようとした時、床につまずいてドスンと尻モチをついてしまった私が、呪文を唱えても魔物達はピクリともしない。

 やっぱりレオンがいないと私の魔法は底辺なのだ。

 モタモタしている間に魔物の数は激増し、船内は魔物で覆いつくされてしまう。

 宰相や国の幹部は離れた陸の上で待機しているが、どうやら私達の異変には気がついていないようだ。

「その方がいいわ。
 たとえ軍隊でもこの魔物には歯がたたないもの。
 犠牲者は最小限にとどめないとね」

 魔法で取り出した剣を振り回しながら、2度目の終わりを覚悟した。

「エリザ。さっきの言葉は本心じゃない。
 やはりオレはオマエを愛している。
 シュメール国なんて全部くれてやるから、オレの命だけは助けてくれ。頼む」

 リオンはギザギザの歯を光らせた魔物に頭からのみこまれようとしていたが、エリザの一言で魔物達の動きが一斉に止まる。

「やめなさい。この男の最後は自分の手でくだすから」

 エリザはリオンの上にツナのついた大きなアミをバサリと放ち、魚を引き上げるようにツナをグイグイと引き上げてゆく。

「結局エリザはオレを愛しているんだ」

 リオンは網の中で高らかな笑い声をたてていたが、すぐにそれは罵声にかわる。

「エリザあー。やめろ! やめるんだ!
 目が回るだろ!」

「フ、フフフ」

 エリザは冷酷な微笑みを浮かべて、しばらくアミをグルグルと空中で回していたが、最後にポーンとそれを海に放り投げた。

「ぎゃああああああああーーー」

 悲鳴をあげながらリオンは、白く渦をまく海へあっという間に沈んでゆく。

「これで終わりね。
 私は少し疲れたから、ポポはソッチにまかせるわ」

 エリザの言葉が終わるやいなや、眼光を鋭く光らせた魔獣達が私に飛びかかってきた。

「あーあ、最後にもう1度、レオンに会いたかったなー」

 目を閉じて、覚悟を決めた時だった。

「オレ達はこれからも一緒に生きるんだ!」

 背後からレオンの力強い声がとんでくる。

「ポポ。遅れてすまない」

「レオン、どーして、どーしてここにいるの」

「マカが閉じ込められていた部屋の扉を、水魔法でぶっとばしてくれたんだ」

「部屋の場所をつきとめたのはオイラじゃなくてロンだけどな」

「ワタクシは頭脳派ざんすからね」

「ありがとう。本当にありがとう。
 いつでもどんな時でも私を守ってくれて。
 2度目があるのも、きっとマカとロンのおかげなのよね」

 フワフワと宙に飛んでいるチビ達を両手で抱きしめながら、ポロポロと涙をこぼした。

「ウザい親友ごっこはやめなさいよ。
 それよりわかっているの?
 自然の摂理にそむいて生きているポポは、大罪を犯しているってことを。
 こんな女、やっぱり私が処分しなくちゃいけないわ」

 リオンのように?

 悪いけど、私はもう負ける気がしない。

 だって、私の隣にはレオンがいてくれるから。

「レオン、愛しているわ」

「ポポ、オレもだ」

「ありがとう」

 私はギュッとレオンの大きな手を握ると、「ここから消えなさい」とエリザに強く命令する。

 とたんにエリザと魔物達の姿がプツンとかき消えたのだ。

「ポポ、よくやったな」

「レオンが隣にいてくれたからよ」

 さっきまでの騒動が嘘だったように静寂を取り戻した船上で、私達はどちらからともなく抱きあい、熱いキスを何度もかわした。






 





 
 
 



 



 







 
 
 
 



 



 
 
 




 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

転生聖女のなりそこないは、全てを諦めのんびり生きていくことにした。

迎木尚
恋愛
「聖女にはどうせなれないんだし、私はのんびり暮らすわね〜」そう言う私に妹も従者も王子も、残念そうな顔をしている。でも私は前の人生で、自分は聖女になれないってことを知ってしまった。 どんなに努力しても最後には父親に殺されてしまう。だから私は無駄な努力をやめて、好きな人たちとただ平和にのんびり暮らすことを目標に生きることにしたのだ。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜

よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」  ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。  どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。  国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。  そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。  国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。  本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。  しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。  だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。  と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。  目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。  しかし、実はそもそもの取引が……。  幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。  今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。  しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。  一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……? ※政策などに関してはご都合主義な部分があります。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

処理中です...