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42、嫌味なリオン
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「行方不明になっていると聞き及んでいましたが、ご無事で本当によかったです。
まさか幽霊だ、なんてことはありませんよね」
使者は馬車に乗りこんだとたん興奮した声をだし、レオンの下半身に視線を走らせる。
「心配するな。ちゃんと足はついているぞ。
オレは極秘任務をまかされて、身を隠していただけなんだ」
「おおおー。極秘任務ですか。
聞いただけでワクワクしますよね。
私もいつかそんな重責を担ってみたいです」
若い使者はそう言うと、額に手のひらをそえレオンに敬礼した。
なんだか、私、すっかり忘れられているみたい。
「あれこれゴチャゴチャ聞かれるより、その方がずーと気楽でいいんだけどね」
ふうーと息を深く吐いて、ゆったりした気分で窓の外に視線を移すと、星明りに照らされた町並みがぼわっと浮かび上がる。
パカパカパカ。パカパカパカ。
規則正しい馬のヒズメの音だけが、静寂な空気の中に響く。
なんだか清々しい気分になったけれど、もうすぐあのリオン王に再会する。
嵐の前の静けさって、こういう事を言うのかな。
「アイツはまだ、エリザに出会ってないみたいね」
王様に特定の人ですか? いないはずですよ。だって毎晩とっかえひっかえ違う女をはべられていると侍女達が噂してますからね、という使者の言葉から推測する。
「エリザがいたから、リオンは私が邪魔になり毒殺しようとした。
と考えると、今回はエリザとの出会いをはばんだ方がいいのかしら」
首を傾げてこれからの計画を練っていると、マカの弾んだ声が耳にとびこんできた。
マカとロンは、「悪いけど、規則で子供は連れていけないよ」と使者に言われて精霊の姿に戻っているのだ。
「ポポ。お城の尖塔がみえてきたぞ!
悪い思い出しかないくせに、それでもなんだか懐かしいやい」
「そーお。私は懐かしいと言うより、メラメラと闘志が燃えてきたわ」
膝に置いていた手をギュッと握ったと同時に馬車がガタリと大きく揺れて停止し、松明の火に照れされた重厚なお城の門がギギーと開かれた。
「ポポ様ですね。
ワタクシ達は事のしだいは聞いておりますので、どうかご安心ください。
さあ。今から王様の元へご案内いたしましょう」
入口で数人の貴族や侍女達がうやうやしく頭をたれる。
「そ、そーですか。あのう。私、とても心細くって…」
王宮に入るのは初めてで、ものすごーく緊張している平民の娘、ってキャラを演じてみせた。
「ハハハハ、これはなんとも初々しい。
お嬢さん、ご心配にはおよびません。
ここにいる者はこの国の高位貴族ばかりですから。
信頼して、なんなりと私どもにお申し付けください」
彼らの中でも1番豪華な服を着た男が豪快に笑う。
男の大きな四角い顔には見覚えがあった。
えーと、名前はバラモン公爵だ。
1度目の人生で、私にナンチャッテ聖女と名づけた張本人のはず。
チッ、と心で舌打ちをしながら彼らの後についてゆくと、王宮の最奥にある王の私室へ案内される。
「は、初めまして。(本当は1度目の人生でイヤというほど会ってるけど)
ポポと申します。
こ、このたびはお招きにあずかり、
た、た、大変光栄です。(むしろ迷惑なんですけど)」
わざとたどたどしく挨拶をすると、ペコンと大きく頭を下げた。
その間、レオンは隣で私の手をギュッと握ってくれていたのよ。
これって愛だわ、愛。
「なーるほどな。これが噂のポポか。
オマエが入ってくるなり異臭がしたのは、死にぞこないの隣の男のせいだろう。
しかし、市場の娘風情が聖女とは驚いたぞ」
煌びやかな装飾がほどこされた部屋の真ん中に立っていたリオンは、はおっていた真っ白なマントをカッコつけてひるがえした。
なにさ。
死にぞこないとか、市場の娘風情とか、さっそく私達を見下してちゃって。
あいかわらず、チョーーーー嫌味なヤツだ。
まさか幽霊だ、なんてことはありませんよね」
使者は馬車に乗りこんだとたん興奮した声をだし、レオンの下半身に視線を走らせる。
「心配するな。ちゃんと足はついているぞ。
オレは極秘任務をまかされて、身を隠していただけなんだ」
「おおおー。極秘任務ですか。
聞いただけでワクワクしますよね。
私もいつかそんな重責を担ってみたいです」
若い使者はそう言うと、額に手のひらをそえレオンに敬礼した。
なんだか、私、すっかり忘れられているみたい。
「あれこれゴチャゴチャ聞かれるより、その方がずーと気楽でいいんだけどね」
ふうーと息を深く吐いて、ゆったりした気分で窓の外に視線を移すと、星明りに照らされた町並みがぼわっと浮かび上がる。
パカパカパカ。パカパカパカ。
規則正しい馬のヒズメの音だけが、静寂な空気の中に響く。
なんだか清々しい気分になったけれど、もうすぐあのリオン王に再会する。
嵐の前の静けさって、こういう事を言うのかな。
「アイツはまだ、エリザに出会ってないみたいね」
王様に特定の人ですか? いないはずですよ。だって毎晩とっかえひっかえ違う女をはべられていると侍女達が噂してますからね、という使者の言葉から推測する。
「エリザがいたから、リオンは私が邪魔になり毒殺しようとした。
と考えると、今回はエリザとの出会いをはばんだ方がいいのかしら」
首を傾げてこれからの計画を練っていると、マカの弾んだ声が耳にとびこんできた。
マカとロンは、「悪いけど、規則で子供は連れていけないよ」と使者に言われて精霊の姿に戻っているのだ。
「ポポ。お城の尖塔がみえてきたぞ!
悪い思い出しかないくせに、それでもなんだか懐かしいやい」
「そーお。私は懐かしいと言うより、メラメラと闘志が燃えてきたわ」
膝に置いていた手をギュッと握ったと同時に馬車がガタリと大きく揺れて停止し、松明の火に照れされた重厚なお城の門がギギーと開かれた。
「ポポ様ですね。
ワタクシ達は事のしだいは聞いておりますので、どうかご安心ください。
さあ。今から王様の元へご案内いたしましょう」
入口で数人の貴族や侍女達がうやうやしく頭をたれる。
「そ、そーですか。あのう。私、とても心細くって…」
王宮に入るのは初めてで、ものすごーく緊張している平民の娘、ってキャラを演じてみせた。
「ハハハハ、これはなんとも初々しい。
お嬢さん、ご心配にはおよびません。
ここにいる者はこの国の高位貴族ばかりですから。
信頼して、なんなりと私どもにお申し付けください」
彼らの中でも1番豪華な服を着た男が豪快に笑う。
男の大きな四角い顔には見覚えがあった。
えーと、名前はバラモン公爵だ。
1度目の人生で、私にナンチャッテ聖女と名づけた張本人のはず。
チッ、と心で舌打ちをしながら彼らの後についてゆくと、王宮の最奥にある王の私室へ案内される。
「は、初めまして。(本当は1度目の人生でイヤというほど会ってるけど)
ポポと申します。
こ、このたびはお招きにあずかり、
た、た、大変光栄です。(むしろ迷惑なんですけど)」
わざとたどたどしく挨拶をすると、ペコンと大きく頭を下げた。
その間、レオンは隣で私の手をギュッと握ってくれていたのよ。
これって愛だわ、愛。
「なーるほどな。これが噂のポポか。
オマエが入ってくるなり異臭がしたのは、死にぞこないの隣の男のせいだろう。
しかし、市場の娘風情が聖女とは驚いたぞ」
煌びやかな装飾がほどこされた部屋の真ん中に立っていたリオンは、はおっていた真っ白なマントをカッコつけてひるがえした。
なにさ。
死にぞこないとか、市場の娘風情とか、さっそく私達を見下してちゃって。
あいかわらず、チョーーーー嫌味なヤツだ。
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