上 下
42 / 61

42、嫌味なリオン

しおりを挟む
「行方不明になっていると聞き及んでいましたが、ご無事で本当によかったです。
 まさか幽霊だ、なんてことはありませんよね」

 使者は馬車に乗りこんだとたん興奮した声をだし、レオンの下半身に視線を走らせる。

「心配するな。ちゃんと足はついているぞ。
 オレは極秘任務をまかされて、身を隠していただけなんだ」

「おおおー。極秘任務ですか。
 聞いただけでワクワクしますよね。
 私もいつかそんな重責を担ってみたいです」

 若い使者はそう言うと、額に手のひらをそえレオンに敬礼した。

 なんだか、私、すっかり忘れられているみたい。

「あれこれゴチャゴチャ聞かれるより、その方がずーと気楽でいいんだけどね」

 ふうーと息を深く吐いて、ゆったりした気分で窓の外に視線を移すと、星明りに照らされた町並みがぼわっと浮かび上がる。

 パカパカパカ。パカパカパカ。

 規則正しい馬のヒズメの音だけが、静寂な空気の中に響く。

  なんだか清々しい気分になったけれど、もうすぐあのリオン王に再会する。

 嵐の前の静けさって、こういう事を言うのかな。

「アイツはまだ、エリザに出会ってないみたいね」

王様に特定の人ですか? いないはずですよ。だって毎晩とっかえひっかえ違う女をはべられていると侍女達が噂してますからね、という使者の言葉から推測する。

「エリザがいたから、リオンは私が邪魔になり毒殺しようとした。
 と考えると、今回はエリザとの出会いをはばんだ方がいいのかしら」

 首を傾げてこれからの計画を練っていると、マカの弾んだ声が耳にとびこんできた。

 マカとロンは、「悪いけど、規則で子供は連れていけないよ」と使者に言われて精霊の姿に戻っているのだ。

「ポポ。お城の尖塔がみえてきたぞ!
 悪い思い出しかないくせに、それでもなんだか懐かしいやい」

「そーお。私は懐かしいと言うより、メラメラと闘志が燃えてきたわ」

 膝に置いていた手をギュッと握ったと同時に馬車がガタリと大きく揺れて停止し、松明の火に照れされた重厚なお城の門がギギーと開かれた。

「ポポ様ですね。
 ワタクシ達は事のしだいは聞いておりますので、どうかご安心ください。
 さあ。今から王様の元へご案内いたしましょう」

 入口で数人の貴族や侍女達がうやうやしく頭をたれる。

「そ、そーですか。あのう。私、とても心細くって…」

 王宮に入るのは初めてで、ものすごーく緊張している平民の娘、ってキャラを演じてみせた。

「ハハハハ、これはなんとも初々しい。
 お嬢さん、ご心配にはおよびません。
 ここにいる者はこの国の高位貴族ばかりですから。
 信頼して、なんなりと私どもにお申し付けください」

 彼らの中でも1番豪華な服を着た男が豪快に笑う。

 男の大きな四角い顔には見覚えがあった。

 えーと、名前はバラモン公爵だ。

 1度目の人生で、私にナンチャッテ聖女と名づけた張本人のはず。

 チッ、と心で舌打ちをしながら彼らの後についてゆくと、王宮の最奥にある王の私室へ案内される。

「は、初めまして。(本当は1度目の人生でイヤというほど会ってるけど)
 ポポと申します。
 こ、このたびはお招きにあずかり、
 た、た、大変光栄です。(むしろ迷惑なんですけど)」

 わざとたどたどしく挨拶をすると、ペコンと大きく頭を下げた。

 その間、レオンは隣で私の手をギュッと握ってくれていたのよ。

 これって愛だわ、愛。

「なーるほどな。これが噂のポポか。
 オマエが入ってくるなり異臭がしたのは、死にぞこないの隣の男のせいだろう。
 しかし、市場の娘風情が聖女とは驚いたぞ」

 煌びやかな装飾がほどこされた部屋の真ん中に立っていたリオンは、はおっていた真っ白なマントをカッコつけてひるがえした。

 なにさ。

 死にぞこないとか、市場の娘風情とか、さっそく私達を見下してちゃって。

 あいかわらず、チョーーーー嫌味なヤツだ。

 
 
 

 
 

 

 





 


 
 

 



 


 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...