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34、天才デザイナーと辺境伯爵

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「ポポ、すぐに相手の言葉をうのみにしてはダメざんす」

 ロンがささやいた時だった。

「そっか。
 アンタがポポなんだ。
 想像していたよりも、ちょっと太いかな」

 目を輝かせて、女が私の頭をなでる。

 なんだ。この想定外の展開は。

 私をお子様扱いしたうえに、体形まで侮辱するなんて信じられない。

 ひょっとしたら。

 あまりに楽勝できそうで、なめられているのかな。

「どうして私の名前がわかったんですか?」

 ムッとして、女の手をふりほどく。

「どうしてって、何度もレオンから聞かされてたからさ。
 アンタがポポなら、その両隣にいる小さいのはマカとロンだよね。
 たしかお菓子の精霊だったね」

 女はそう言うと口元に手をあてて、プーとふきだした。

「レオンったら。
 そんな事まで浮気相手に話してるなんて、私をバカにするにもほどがあるわ」

「そーだ。そーだ。
 ボコボコにして、思い知らせてやるからな」

「ワタクシ『浮気男』って額に烙印をおしてやるざんす」

 チビ2人と毒を吐きまわっている私を、女はギュッと両手で抱きしめる。

「誤解しないで。
 レオンはね。
 アンタへのサプライズプレゼントを私に相談しにきてただけだから。
 私の名前はナターシャベル。
 王都ではちょっと名の知れたデザイナーだったんだけど、聞いたことないかな」

ナターシャベル。
ナターシャベルねえ。

あ!
そう言えば1度めの人生で、そんな名前を耳にしたよーな。

生意気な変人だけど、センスだけは抜群にいいと、貴族達が噂をしていた気がする。

「じゃあ、レオンはベルさんと浮気をしてるんじゃなかったんですね」

 あー良かった。

 本当に良かった。

 喜しすぎて、両手を上げてその場でピョコンとジャンプする。

「げんきんなものだね。
 もっとレオンを信じてやらないと可哀想だろ。
 よし。
 話の続きは家の中でしよう」

「はーい」

 ベルに案内されて館の中へ入ってゆくと、豪華なリビングになんとワニ獣人がいたのだ。

「いやーあ。ようこそ」

  ふかふかのソファーに足を組んで座った獣人が片手を挙げて、にこやかに微笑む。

 1度目の人生を含めても獣人に会うのは初めてだったので、その衝撃的な姿に身体がかたまってしまう。

 ゴワゴワの肌の中にうもれた小さな鋭い目。

 ギザギザの歯がちらつく口元。

 シルクハットをかぶった顔は、どうみてもワニそのものだ。

 で、いかにも高級そうなスーツを着た下半身は完全な人間である。

「ハハハ。
 ミーのイケオジぶりに驚いて、言葉がでないようだな」

 ワニ獣人がニンマリ笑う。

「お休みのところ、突然お邪魔して申し訳ありません。
 私はポポです」

 ペコンと大きく頭を下げる私に、ベルはソファーに座るように指示する。

「この人のことはワニ辺境伯って呼んでいいよ」

 ベルは辺境伯の隣にピタリと身体を密着させて座ると、辺境伯の手をギュッと握り、テーブルをはさんで向かいに座る私に色っぽく微笑む。

「ワニ辺境伯?」

「そーだよ。
 アンタ、レオンから何も聞いてないのかい?」

「はい」

 私と両隣に座るマカとロンは、同時に首を左右にふる。

「そっか。
 レオンはね。この人の命の恩人だんだよ。
 そうじゃないと、この私がアンタのウエディングドレスのデザインなんてしないさ。
 ねー、ダーリン」

 ベルはそう言うと、自分の方からワニ辺境伯の唇にチュッとした。

「レオンがベルさんにウエディングドレスのデザインを頼んでいたんですか!?」

「そーだよ。
 デザイナーを引退して、せっかくダーリンとの甘い生活を楽しんでいたのにさ。
 レオンがしょっちゅうきて大変だったんだから。
 おまけにデザイン料は出世払いだなんて、厚かましいにもほどがあるよ。
 ねー。ダーリン」

「ああ。
 ミーは、ぜひその話をひきうけて欲しいとベルに頼んだのだがね。
デザイン料はミーが全額払うという事でだよ」


「全額!
どうして、そんなにご親切にしていただけるんですか?」

「レオンはミーの命の恩人だからだ」

 そう言うと、辺境伯はテーブルに置かれたハマキを手にとる。

「数年前。
 ミーの領地が隣国の奴らに突然襲撃された時。
 いち早く駆けつけてくれたのが、彼だったんだ。
 もしレオンがいなければ、今ごろミーは天国に召されていただろう」

 ワニ辺境伯は遠い目をしながら、ハアーと白い煙をはきだした。

 

 



 

 
 
 





 
 
 
 






 

 
 

 
 

 

 


 
 
 

 

 

 
 

 
 
 
 
 


 



 

 

 

 


 
 

 

 

 
 

 

 

 
 

 
 
 
 
 


 



 

 

 

 


 
 

 

 

 
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