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30、蜜のように甘い夜

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「ひょっとしてオレに魔法をかけたのか?」

「ううん。かけてないわ。
 ただ心の中でこれからのレオンの幸せを祈っただけ」

 そう言って左右に首をふる。

「オレの幸せを?
 オレ達じゃなくて」

「うん。
 だって私よりレオンの方が何倍も淋しかったと思うから」

「そーか。
 いい子ちゃんのポポらしいな」

 レオンはそう言うとゴツゴツした大きな手で、私の頭をヨシヨシとなでた。

「私がいい子?」

「ああ。他の令嬢のように計算高くない。
 いつもありのままの姿で生きてるところが、大好きなんだ」

「そんな事はないわ。
 こんな事を言うと嫌われちゃうかもしれないけど、私は誰よりも計算高いのよ」

「ほーう。こんな小さな頭で、一体どんな悪だくみをしているんだ。
 ぜひ、聞かせてくれ」

 レオンはそう言うと、指先で私の鼻の頭をつつく。

 とろけそうな眼差しで。

 ずーと憧れていた推しの姿でそんな事をするなんて反則じゃない。

 ここでバタリと倒れてしまいそうなぐらい、息苦しい。

「あのう。そのう」

 ハアーと大きなため息を繰り返す。

「だって、聖女の力を隠してるんだもん。
 本当は王宮にあがって、国の為につくさないといけないとわかってるのに」

「なるほど。
 なら、今からでも遅くない。
 聖女として王宮へあがるか?」

 耳元でレオンがささやいた。

 とたんに私は身体の橫に両手で拳をつくり、スクッと立ち上がると声をはる。

「絶対、絶対にいやー!
 レオンは忘れたの?
 聖女は時の王と結婚しないといけない、というこの国のルールを。
 あんなリオン王と結婚するぐらいなら、舌をかんで死んだ方がずーとマシだわ。
 ね。私はいい子なんかじゃないでしょ。
 結局、国民より自分の都合ばかり考えてるんだから」

 1度目の人生で知っているのに。

 結界がゆるんで、魔獣や瘴気に悩まされている村が国のアチコチにあことを。

 なのに、なのに。

 私たら、なんて自分勝手なんだろう。バカ、バカ。

 自分が情けなくて、ボロボロと大粒の涙がコロコロと頬をつたう。

 その時だった。

 突然、レオンに横抱きにされたのは。

「ポポ、もう泣くな。
 聖女だからっていって、国の犠牲になることはない。
 きっと犠牲にならずに、国民を救う手立てがあるはずだ。
 それよりもなにより。
 オレもポポをリオンなんかに渡したくない」

「レオン、ありがとう」

 腕で涙をぬぐっていると、レオンがチュッと額にキスをおとす。

「いつのまにかもうこんな時間だ。
 ほら、空に星がまたたいている」

「ほんとだわ。
 まだ、まだ話し足りないのにね」

 私とレオンはしばらく黙って、窓のからジーと空をながめていた。

 そして、しばらくたった頃だ。

 レオンが私の唇にキスをしたあと呟いた。


「オレももっともっと、ポポに聞きたい事がある。
 どうだろうか。
 話の続きはベッドの中でするのは」

「え、ベッドの中で?」

 想定外の提案に、私は顔をひきつらせた。

 そりゃ、イヤじゃないけど。

 まだ、心の準備ができてないもの。

「ははは。なんか勘違いしてないか。
 オレはポポに手をだすつもりは、1ミリもない」

 1ミリもですって。それはそれでちょっとショック。

 まるで女の魅力がないみたいで。

「そういう意味じゃないんだ。
 オレはまだポポの家の居候だろ。
 そんな状態で、ポポと結ばれたくないんだ。
 もっとオレがちゃんとしたら、オレと結婚してくれないか」

「結婚?
 私とレオンが。
 ねえ。マカとロンも一緒でいいの?」

「もちろんだ」

「ありがとう。まるで夢のようだわ」

 私はそう言うとレオンの首に両手をまわすと、今度は自分の方からレオンの頬にチュッとする。

 それから、ベッドの中で私達はギュッと手をつなぎ、これまでの出来事やこれからの事を、空が白々と明るくなるまで語り合った。

 もちろん、その間になんども頬や唇にキスをされて、うんと甘い言葉もささやかれる。

 濃厚な蜜よりも甘ーい甘ーい夜は、私の記憶に深く深く刻まれたのだ。

 

 




 

 


 

 


 


 

 

 

 
 


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