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8、2人の悪魔
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聖女交代は驚くほどアッケなかった。
サー教皇から差し出された透かし模様のはいった数枚の書類に、私がサインをするだけで完了したのだから。
かかった時間はほんの数分。
私の王宮での我慢はなんだったのよー、って腹がたつぐらい簡単だった。
「教皇立ち会いの元、聖女交代が無事完了したわい。
新しい聖女のお披露目は後日、国民の前で行う事にしよう。
交代の理由は前聖女の体調不良とするつもりだ。
皆様、それでよろしいですな」
書類の確認がおわり、書類から目を離したマッチン宰相が私達に順番に視線をおくる。
「私はピンピンしてるけど、まっ、いいです」
「こら、出来損ない元聖女。
前の聖女が使い物にならなかったから、と言いたい所をオマエを思いやって体調不良にしてやってるんだぞ。
なのになんだ。
そのフテブテシイ態度は」
私の軽口に、リオン王がすぐに食いついてきた。
テーブルに半身のりだして、今にもこちらに飛びかかってきそうな勢いだ。
相変わらず、怒りの導火線の短いバカ男ね。
「消えかかった結界をなんとか維持できたのは、誰のおかげかしら。
そりゃ、新しい結界をはる事はできなかったけど、私だって必死に努力したのよ。
最後ぐらいお礼の言葉を聞きたかったわ。
あっ、まあ、いいか。
だって頑張ったのは国民の為で、アンタの為じゃなかったもんね!」
手のひらでバンとテーブルを叩くと、つもりつもった不満を発散した。
「おい。皆。聞いたか。
コイツは王をアンタ呼ばわりしたんだぞ。
マッチン宰相。
即刻コイツを不敬罪で打ち首にしろ!」
どうやら私の言葉に、リオ王は少ない理性を手放したようだ。
顔を真っ赤にして、わめき散らしている。
ふん、みっともないわね。
「リオン様、どうかお気を静めてください。
聖女は王宮を去るのが淋しくて、つい心にもない事を言っているのでしょうから」
丸い身体をワナワナ震わせる教皇の言葉に宰相も、「そうじゃ、そうじゃ」と首をコクコクと縦にふる。
激しく同様するオヤジじゃなくて、男性に比べてエリザの冷静なこと。
眉一つ動かさず、涼しい顔をしてじーとしている。
そして、少し周囲が静まった時、薄い唇をゆっくりと開いた。
「元聖女様。
はやくこれを飲んで全てをお忘れ下さい。
ここで起きた事はなかった事になりますから。
そうすれば、リオン様もどうする事もできませんわ」
と。
「わかったわ」
エリザの白い手から小さなガラス瓶を受け取り、なかに入った液体をゴクリと一気に飲みほした。
とたんに意識がどんどん遠くなってゆく。
さようなら、王宮。
さようなら、出来損ない聖女。
明日からはペペス村のポポに戻れるのよ。
そう思って、微笑もうとした時だった。
急に身体がバラバラになるような、強い痛みにおそわれる。
「あっ。痛い」
叫んだ直後には、ゴホゴホと口から真っ赤な血を吐いた。
「リオン様。
生意気な女は私が処分しましたわ。
それとも、やはり打ち首の方がお気に召したかしら」
「私の記憶を消すだけじゃなかったの。
エ、エ、エリザ。
い、い、いったいどうしたなの?」
「決まってるじゃない。
オマエが目障りだったからよ」
立ち上がってカラカラと笑うエリザに、
「さすが。私のエリザ。
よくやった」
とリオ王は両手を叩いてはしゃいでいる。
私には2人が本物の悪魔に見えた。
サー教皇から差し出された透かし模様のはいった数枚の書類に、私がサインをするだけで完了したのだから。
かかった時間はほんの数分。
私の王宮での我慢はなんだったのよー、って腹がたつぐらい簡単だった。
「教皇立ち会いの元、聖女交代が無事完了したわい。
新しい聖女のお披露目は後日、国民の前で行う事にしよう。
交代の理由は前聖女の体調不良とするつもりだ。
皆様、それでよろしいですな」
書類の確認がおわり、書類から目を離したマッチン宰相が私達に順番に視線をおくる。
「私はピンピンしてるけど、まっ、いいです」
「こら、出来損ない元聖女。
前の聖女が使い物にならなかったから、と言いたい所をオマエを思いやって体調不良にしてやってるんだぞ。
なのになんだ。
そのフテブテシイ態度は」
私の軽口に、リオン王がすぐに食いついてきた。
テーブルに半身のりだして、今にもこちらに飛びかかってきそうな勢いだ。
相変わらず、怒りの導火線の短いバカ男ね。
「消えかかった結界をなんとか維持できたのは、誰のおかげかしら。
そりゃ、新しい結界をはる事はできなかったけど、私だって必死に努力したのよ。
最後ぐらいお礼の言葉を聞きたかったわ。
あっ、まあ、いいか。
だって頑張ったのは国民の為で、アンタの為じゃなかったもんね!」
手のひらでバンとテーブルを叩くと、つもりつもった不満を発散した。
「おい。皆。聞いたか。
コイツは王をアンタ呼ばわりしたんだぞ。
マッチン宰相。
即刻コイツを不敬罪で打ち首にしろ!」
どうやら私の言葉に、リオ王は少ない理性を手放したようだ。
顔を真っ赤にして、わめき散らしている。
ふん、みっともないわね。
「リオン様、どうかお気を静めてください。
聖女は王宮を去るのが淋しくて、つい心にもない事を言っているのでしょうから」
丸い身体をワナワナ震わせる教皇の言葉に宰相も、「そうじゃ、そうじゃ」と首をコクコクと縦にふる。
激しく同様するオヤジじゃなくて、男性に比べてエリザの冷静なこと。
眉一つ動かさず、涼しい顔をしてじーとしている。
そして、少し周囲が静まった時、薄い唇をゆっくりと開いた。
「元聖女様。
はやくこれを飲んで全てをお忘れ下さい。
ここで起きた事はなかった事になりますから。
そうすれば、リオン様もどうする事もできませんわ」
と。
「わかったわ」
エリザの白い手から小さなガラス瓶を受け取り、なかに入った液体をゴクリと一気に飲みほした。
とたんに意識がどんどん遠くなってゆく。
さようなら、王宮。
さようなら、出来損ない聖女。
明日からはペペス村のポポに戻れるのよ。
そう思って、微笑もうとした時だった。
急に身体がバラバラになるような、強い痛みにおそわれる。
「あっ。痛い」
叫んだ直後には、ゴホゴホと口から真っ赤な血を吐いた。
「リオン様。
生意気な女は私が処分しましたわ。
それとも、やはり打ち首の方がお気に召したかしら」
「私の記憶を消すだけじゃなかったの。
エ、エ、エリザ。
い、い、いったいどうしたなの?」
「決まってるじゃない。
オマエが目障りだったからよ」
立ち上がってカラカラと笑うエリザに、
「さすが。私のエリザ。
よくやった」
とリオ王は両手を叩いてはしゃいでいる。
私には2人が本物の悪魔に見えた。
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