上 下
2 / 61

2、推しとの出会い

しおりを挟む
 約1年前のある日。

 突然目覚めた私の魔力の噂をききつけて、王子様自らがペペス村に迎えにきたのだ。

「初めまして。ポポ様。
 僕はシュメール国の第1王子リオンです。
 王都からあなたをお迎えに参りました。
 国は前聖女を失ってから、長い間聖女のいない状態です。
 そのせいで結界がゆるみ、天候不順、魔物の襲撃などの異常事態が次々とおきている。
 どうか聖女となられて、この僕を助けていただけませんか」

 こった装飾を施した豪華な白い馬車から颯爽と現れたリオン王子は、私の前でひざまずくとゾクッとするような美声で懇願したのだ。

 つややかに輝く、肩までのびた黄金色の豊かな髪。

 まるで神のような慈愛にみちた、宝石のように輝く蒼い瞳。

 なめらかなミルク色の肌。

 身体からにじみでる、そこはかとない品格。

 まるで彼は天界からやってきた天使のようだった。

 天使にあらがうなんて、人間には不可能に決まっている。

 オラ、この人の為なら死ねる!

 心で叫ぶと、脳内にカランカランと鐘の音が鳴り響いた。

 尊い推しとの神聖な出会いの瞬間である。

「ポポ様。
 大丈夫ですか」

 興奮のあまり身体がふらついた私を、なんと推しがガシリと両手で抱き留めてくれたのだ。

「オラ大丈夫だ。
 心配かけてごめんなさい」

 抱き寄せられて推しの胸に顔をうずめる形になった私の心臓は、破裂しそうに高鳴る。

 王子様の胸板はまるで騎士のように鍛え上げられていて、そのギャップにまた萌える。

「リオン様。
 本当にオラでいいなら、オラ聖女になるべ」

 押しの身体から放たれる、爽やかな柑橘系の香りに鼻腔をくすぐられながら、決心した。

「ありがとう。
 王宮では僕が全力でアナタをお守りします」

 推しは耳元で囁くと、私を抱きしめる腕により力をこめた。

 あああ、あああ。

 身体と心がトロトロにとろけていきそうだった。

 けど、ある問題に気がついて我に帰る。
 
 この国には、聖女は王様と結婚する、という掟があったはずだ。

 リオン様は第1王子だから、将来王座につくのは、ほぼほぼ間違いない。 

 推しは遠くで崇むのがベストに決まっているのに、これは困った。

 仮に結婚となれば、寝相の悪さも大食いも、他のみっともない所が全部バレてしまう。

 どーする私。

 てか、やるっきゃないのだ。

 なんだかんだ言ってたけど、推しとの初夜の妄想に毎夜興奮し、かなり期待して王宮にあがったのに。

 王妃教育を終了した私の前に現れた男は、推しとは別人だった。

 名前は同じリオンだけど。

 顔もコピーしたようにそっくりだったけど、漂よってくる香りは違った。

 この別人が現在のリオン王(アイツ)なのだ。

 それからは、不満と後悔の連続。

 けど、そんな日々とも今日かぎりだ。

 なぜって。

 エリザが現れたからだ。

 年は私より少し上のエリザは、魔力も強く、超がつく美人である。

 すでに王様はメロメロで、一刻もはやく私を王宮から追い払いたいようだ。

 で今から、教会で聖女交代の手続きをしにいくのだ。

「ポポ。
 よかったざますね。
 ワタクシもこれでホッとしますわ」

 そう言って、丸い身体をフルフルと震わせるロンに、ウンウンと何度も首を縦にふる。

 自由になったら、この国のどこかにいる推しを探しに行くんだもんね!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。 顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。 辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。 王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて… 婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。 ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。 設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。 他サイトでも掲載しています。 コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...