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十二、ライオネルの正体

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きっと今日は、人生で一番最悪の日よ。

婚約破棄、罪人扱い、お次はこれだ。

さすがの私も疲れた。

執務室に、置かれているソファーの一つに腰をおろす。

つられるように、ギア以外の女達は、自分の近くにあるソファーに座った。

「おそれながら、王様。
突然現れた素性のわからぬ男を、王太子にとおっしゃられても、納得がいきかねますぞ」

ババネア公爵は、ゲジゲジのような眉をひそめた。

今度だけは、公爵の意見に一票よ。

「では、これでどうだ。納得できるか」

王様は、ライオネルの横に並んだ。

「ライオネルの方が、身長が高い。
そこが、良かったんだ。
どうせ、僕はチビだし」

へたりこんだままのパリスは、床を握り拳で叩く。

「パリス。そんな、幼稚な事しか言えないの。
あいかわらずね」

思いきり、鼻をならしてやる。

けれど、私にもわからない。

王様の言いたいことが。

腕を組んで、首を傾げて、二人を見比べる。

「あらあ。よく見るとライオネル護衛騎士は、イケメンだこと。オホホホホ」

ババネア公爵夫人が、扇に手をあてて、はしゃぐ。

ライオネルの良さに、今さら気がつくなんて遅いわよ。

私なんか、出会った瞬間、心臓が、跳ね上がったんだから。

「黒髪。黒真珠のような瞳。小麦色の肌。広い肩幅、長い足」

ライオネルを、上から下までじっくりと観察していると、わかったことがある。

ライオネル護衛騎士は、王様の面影を、秘めていた。

まさか、そういうことなの。

「ソフィ、その顔はどうやら、気がついたようだな。
思った事を言ってみるのだ」

「はい、王様。
ひょっとして、ライオネル護衛騎士は、王様の息子なのですか。
お二人は、あまりに似ておられます」

「さすがなだ。ソフィ。正解だ。
かつて、南方に遠征したことがあってな。
ライオネルは、そのおりキュール王国の娘との間に、生まれた子供だ。
私は、しばらく、その存在を知らなかった。
だが、数年前、キュール王国の王子から教えられた。
王子とライオネルは、従兄弟だから、心配されたのであろう」

「私も、ライオネルが、次期王太子によろしいかと思います。
この数年、様子をうかがっておりましたが、ライオネルの優秀さに、パリスは、足下にもおよびません」

王妃さまも、知っておられたのだ。

穏やかに微笑んでいる。

「私も、納得できます」

父が拍手をした。

ライオネルがどんな人間なのか、父には一目で、わかったのだろう。

華やかなオーラをまとっているのに、誠実な性格が、にじみ出てる。

「もう、またエエ格好しやがって」

ババネア公爵が、唇をかんだ。

「パパあ。これじゃ、アタイ、王太子妃にならないじゃん。
なんとか、逆転してくんない」

「やかましい。もうオマエになんか、なんの価値もないわい。
養子縁組は解消じゃ」

「そうざあます。
あんなアバズレには、早く出ていってもらいましょう」

ババネア公爵は、夫人と共に、ガニ股で部屋から去ってゆく。

「そんな、ひどいよ。
アタイ、娼館には、二度と戻りたくないよう」

二人を追いかけようとするギアの腕を、パリスがつかんだ。

「心配しないで、ギア。僕と結婚しよう」

「アタイはね。王太子じゃない、アンタなんかに、全然興味ないんだよ。
手をはなしな」

パリスを、突き飛ばして、この場を離れようとしたギアを待っていたのは、近衛兵だった。

「ギア。ギア。僕を一人にしないでよ」

パリスは、髪をかきむしって、動揺していたわ。

哀れだったけれど、さすがに、同情なんかできる気分じゃない。
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