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十一、パリスの廃位

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「おいギア。まさか、オマエが盗んだのか」

「そうだよ。これもパパの為さ」

「黙れ。アホぬかすな」

ババネア公爵とギアは、王様の面前という事も忘れて、親子ゲンカを繰り広げた。

まったく、どういう神経をしているのか。

「だって。パパはいつも言ってんじゃん。
『気取り屋のマクシアン公爵め。
顔を見るだけで、ムシズが走るわい』って。
だから、娘のソフィを陥れてやろうと、アタイが、しくんだんだよ。
『いつも迷惑かけてるおわびに、これをソフィに渡して欲しい。恥ずかしいから、名前は絶対ふせてよ』って、王太子に渡しだんだよ。
私って、けっこう頭いいだろ。
クッソウ。あと一歩だったのに」 
   
ギアは、まだ立ち上がれないパリスのお尻を、足でけりあげた。

ギアの奔放な振る舞いや、言葉使いを、パリスは、『可愛いからいい』って放置していた。

だから、いい気になっている。

「ギア。王太子に、そんな態度をとるなんて、無礼にもほどがあるわよ」

「ソフィ。ほって、おきなさい。
パリスは、もう王太子ではなくなる」

「王様。それは、どういう意味ですか」

こんな失態を、やらかしたとはいえ、たった一人の跡継ぎなのだ。

穏便に計らうんじゃないの。

「皆、聞いて欲しい。
この場で、パリス王太子を廃位する!」

王様は、そう告げると、キュッと唇を一文字に結ぶ。 

そして、あ然としている一人、一人の顔に、ゆっくりと視線をなげる。
   
「廃位だなんて、ひどすぎる。
この国の領地も、宝石も、全部僕の物じゃないと困るよー。
だって結婚したら、ギアに全部あげる約束をしたんだもん」

パリスは、駄々っ子のようにすねる。

パリスの嘘のおかげで、ひどい目にあった私に『ごめんなさい』の一言もないわけね。 
  
「この国はね、パリスのオモチャじゃ、ないのよ。
どれだけ甘えたら、気がすむの。
それからね、もう二度と、パリスに、ゲンコツはふるわない。
なぐる値打ちもないってことよ。
わかった。この元バカ王子」

「まあまあ。ソフィ。落ち着いて、落ち着いて。 
王様は、ああ言っておられるが、それは建前のはず。
ほんの数日で、パリス様は王太子に戻られます。
なんだかんだ言っても、唯一の王子なんじゃから。
あまり言い過ぎると、あとで後悔するぞ。
そして、今度は私の娘ギアが、パリス様の婚約者になる。ヒヒヒヒ」

ババネア公爵が、私とパリスの間に立ちはだかり、短い両手をひろげた。

「残念だが、ババネア公爵。
それは絶対にない。
なぜなら、もう新しい王太子は決まっているからだ。
ここにいるライオネル護衛騎士が、次期
王太子である」

他国の護衛騎士が、我が国の王太子供なんて、絶対嘘だ。
    
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