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十、刑の執行

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「王様。他国の私が、刑を執行しても、よろしいのですか」

「我が国には、魔道具を扱える者はおらぬ。許可する」

「かしこまりました。
では、罪人ソフィ、腕をこの台にのせろ」

手首用のギロチンとはいえ、ギラリと光る大きな刃は、切れ味が抜群のようだ。

今までに、何人の罪人の腕を、切り落としてきたのだろう。

「はい」

声が震えた。

無実だから、大丈夫なはずなのに。

けど、魔道具なんて嘘っぱちかもしれない。

「オレを信じろ」

とまどう私に、ライオネルがそっと耳元で囁く。

「そうするわ」

ギロチン台は、王様の机にある。

黙って、そこまで進むと、台の窪んだ場所にそっと腕を置く。

とたんに、背筋に悪寒が走る。

「罪人ソフィ、覚悟はいいな」

ライオネルは、私を『罪人』と呼ぶとき、悪戯っぽく目で笑う。

誰にも、わからないように。

「はい」

台とつながっている皮バンドで、しっかりと、手首をつながれる。

その間、一瞬、ライオネルの身体が、私の肩にふれる。

やはり、海の香りがした。

一度は、本物の海を見てみたかったわ。

けれど、もう、ダメかもしれない。

「では、目隠しをする。じっとしていろ」


ライオネルが、長い布で、私の顔をおおってゆく。

整ったのだろう。

目の前が、真っ暗になる。

「刑を、執行する前に、もう一つ、言っておきます。
一度、刃を落とすと、このギロチンは、必ず、有罪の者を罰する。
もしソフィが無実なら、どこかにいる真犯人の手首が、必ず落とされる。
その者が、どんな遠くにいようが、罪を犯した罰がくだる。 
王様。それでも、いいでしょうか」

「うむ。許可する」

「では、始める」

いよいよね。

唾をゴクリと飲んで、目をギュッと閉じる。

「罪人ソフィ、覚悟しろ」

完璧な姿で最後に聞いたのは、ライオネルの、この声になる、かもしれない。

そう思った時に、パリスが叫んだ。

「やめてくれ。ソフィは、嘘なんかついてない。
あのネックレスは、僕がおくったんだ」

目から、布をはずしてもらうと、膝を崩して、パリスが全身を震わせていた。

「愚か者めが!」

悲痛な顔で、王様がパリスを睨んだ。

「バカだね。魔道具なんて嘘っぱちだよ。
すぐ人に、騙されるんだから。
さっきの言葉を、ひっこめなくっちゃ」

ギアは、パリスの薄い背中を叩いてなじる。

「でも、ギア。
もし、本物だったら、どうするんだ。
ギアの命が、なくなるじゃないか」

「ちょっと。それは、どういう事ざます。
ギア。説明してちょうだい」

ババネア公爵夫人が、悔しそうに、ハンカチを噛んだ。
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