8 / 14
八、有罪決定
しおりを挟む
王宮の中は、静まりかえっていた。
先ほどの舞踏会の賑わいは、幻だったの、と思うほどに。
「失礼します」
執務室の扉を開く。
部屋に入ったとたん、振り返ったパリスとギアと視線がぶつかる。
二人は、しっかりと手を握って、王様の重厚な机の前で、何かを(たぶん私の事)、訴えていたようだ。
「ソフィ、ババネア公爵夫人のネックレスについて、正直に答えなさい」
「はい。王様」
「アナタが、盗んだのですか」
「違います。何度も言ったように、あれはパリスからの」
途中で話が、ババネア公爵夫人の、ヒステリックな声にさえぎられる。
「嘘ざあます。あのネックレスは、特注品なのよ。
同じ物は、どこにもないはずよ。
それが、王太子様の手に、渡るはずないざあます」
唇をかんで、憎々しげに私を睨んでいる。
「なるほど。では、王太子に聞く。
ソフィの話は本当なのか」
王様は、太い眉をつりあげた。
鋭い眼差しを、我が子に真っ直ぐに向ける。
「そ、それは、えーと」
パリスは、目を泳がせた。
何をそんなに迷っているのよ。
本当の事を言えば、すむことでしょ。
皆が、息をひそめている。
『コツコツ』と、時間を刻むカラクリ時計の針だけが、音をあげていたわ。
「パリス。私の目を見て」
「ソ、ソフィ」
消え入りそうな声で、名前を呼ばれた。
「あんな女の、言うことなんか、気にしなくていいよ。
あ、じゃなくて、いいんですよ」
ギアは、チラリと王様を見て、握っていたパリスの手を、自分の豊満な胸元に、おしあてる。
とたんに、パリスは赤面した。
「ギア。王様の前です。
下品な振る舞いは、控えなさい」
はっきり言ってやったわ。
また、髪をひっぱられるかもしれない。
身体に力をいれてかまえていたけれど、拍子抜けした。
「ごめんなさい。ソフィ。
アタイは、じゃなくて私は、育ちも、頭も、良くないから、いっつも怒らせてばかりで」
ギアは、大粒の涙をこぼす。
見事な嘘泣きだった。
「ギア。ソフィみたいな人間には、僕たち、落ちこぼれの気持ちは、どんなに頑張っても理解できないんだ。
許してやって欲しい」
パリスは、ギアを抱きしめた。
なんて、バカバカしい猿芝居なの。
吐き気がする。
「では王太子に、改めて聞く。
ネックレスを、ソフィに贈ったのか」
「いえ。贈っていません。
けれど、王様、お願いです。
どうかソフィを、許してやって下さい」
「なぜだ」
「婚約破棄をして、ソフィを、傷つけてしまったからです」
パリスはひざますく。
嘘をついている癖に、善人のふりをしよって魂胆ね。
あれは、私の知っているパリスじゃない。
ギアに、良心をまるごと吸い取られようね。
「それはできない。
盗みの罪は重い。
法律通り、手首を切り落とす」
私の有罪は、あっけなく決定してしまったのだ。
先ほどの舞踏会の賑わいは、幻だったの、と思うほどに。
「失礼します」
執務室の扉を開く。
部屋に入ったとたん、振り返ったパリスとギアと視線がぶつかる。
二人は、しっかりと手を握って、王様の重厚な机の前で、何かを(たぶん私の事)、訴えていたようだ。
「ソフィ、ババネア公爵夫人のネックレスについて、正直に答えなさい」
「はい。王様」
「アナタが、盗んだのですか」
「違います。何度も言ったように、あれはパリスからの」
途中で話が、ババネア公爵夫人の、ヒステリックな声にさえぎられる。
「嘘ざあます。あのネックレスは、特注品なのよ。
同じ物は、どこにもないはずよ。
それが、王太子様の手に、渡るはずないざあます」
唇をかんで、憎々しげに私を睨んでいる。
「なるほど。では、王太子に聞く。
ソフィの話は本当なのか」
王様は、太い眉をつりあげた。
鋭い眼差しを、我が子に真っ直ぐに向ける。
「そ、それは、えーと」
パリスは、目を泳がせた。
何をそんなに迷っているのよ。
本当の事を言えば、すむことでしょ。
皆が、息をひそめている。
『コツコツ』と、時間を刻むカラクリ時計の針だけが、音をあげていたわ。
「パリス。私の目を見て」
「ソ、ソフィ」
消え入りそうな声で、名前を呼ばれた。
「あんな女の、言うことなんか、気にしなくていいよ。
あ、じゃなくて、いいんですよ」
ギアは、チラリと王様を見て、握っていたパリスの手を、自分の豊満な胸元に、おしあてる。
とたんに、パリスは赤面した。
「ギア。王様の前です。
下品な振る舞いは、控えなさい」
はっきり言ってやったわ。
また、髪をひっぱられるかもしれない。
身体に力をいれてかまえていたけれど、拍子抜けした。
「ごめんなさい。ソフィ。
アタイは、じゃなくて私は、育ちも、頭も、良くないから、いっつも怒らせてばかりで」
ギアは、大粒の涙をこぼす。
見事な嘘泣きだった。
「ギア。ソフィみたいな人間には、僕たち、落ちこぼれの気持ちは、どんなに頑張っても理解できないんだ。
許してやって欲しい」
パリスは、ギアを抱きしめた。
なんて、バカバカしい猿芝居なの。
吐き気がする。
「では王太子に、改めて聞く。
ネックレスを、ソフィに贈ったのか」
「いえ。贈っていません。
けれど、王様、お願いです。
どうかソフィを、許してやって下さい」
「なぜだ」
「婚約破棄をして、ソフィを、傷つけてしまったからです」
パリスはひざますく。
嘘をついている癖に、善人のふりをしよって魂胆ね。
あれは、私の知っているパリスじゃない。
ギアに、良心をまるごと吸い取られようね。
「それはできない。
盗みの罪は重い。
法律通り、手首を切り落とす」
私の有罪は、あっけなく決定してしまったのだ。
12
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます
音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。
調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。
裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」
なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。
後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。
婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
もふきゅな
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
どうでもいいですけどね
志位斗 茂家波
恋愛
「ミラージュ令嬢!!貴女との婚約を破棄する!!」
‥‥と、かつての婚約者に婚約破棄されてから数年が経ちました。
まぁ、あの方がどうなったのかは別にどうでもいいですけれどね。過去は過去ですから、変えようがないです。
思いついたよくある婚約破棄テンプレ(?)もの。気になる方は是非どうぞ。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる