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八、有罪決定
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王宮の中は、静まりかえっていた。
先ほどの舞踏会の賑わいは、幻だったの、と思うほどに。
「失礼します」
執務室の扉を開く。
部屋に入ったとたん、振り返ったパリスとギアと視線がぶつかる。
二人は、しっかりと手を握って、王様の重厚な机の前で、何かを(たぶん私の事)、訴えていたようだ。
「ソフィ、ババネア公爵夫人のネックレスについて、正直に答えなさい」
「はい。王様」
「アナタが、盗んだのですか」
「違います。何度も言ったように、あれはパリスからの」
途中で話が、ババネア公爵夫人の、ヒステリックな声にさえぎられる。
「嘘ざあます。あのネックレスは、特注品なのよ。
同じ物は、どこにもないはずよ。
それが、王太子様の手に、渡るはずないざあます」
唇をかんで、憎々しげに私を睨んでいる。
「なるほど。では、王太子に聞く。
ソフィの話は本当なのか」
王様は、太い眉をつりあげた。
鋭い眼差しを、我が子に真っ直ぐに向ける。
「そ、それは、えーと」
パリスは、目を泳がせた。
何をそんなに迷っているのよ。
本当の事を言えば、すむことでしょ。
皆が、息をひそめている。
『コツコツ』と、時間を刻むカラクリ時計の針だけが、音をあげていたわ。
「パリス。私の目を見て」
「ソ、ソフィ」
消え入りそうな声で、名前を呼ばれた。
「あんな女の、言うことなんか、気にしなくていいよ。
あ、じゃなくて、いいんですよ」
ギアは、チラリと王様を見て、握っていたパリスの手を、自分の豊満な胸元に、おしあてる。
とたんに、パリスは赤面した。
「ギア。王様の前です。
下品な振る舞いは、控えなさい」
はっきり言ってやったわ。
また、髪をひっぱられるかもしれない。
身体に力をいれてかまえていたけれど、拍子抜けした。
「ごめんなさい。ソフィ。
アタイは、じゃなくて私は、育ちも、頭も、良くないから、いっつも怒らせてばかりで」
ギアは、大粒の涙をこぼす。
見事な嘘泣きだった。
「ギア。ソフィみたいな人間には、僕たち、落ちこぼれの気持ちは、どんなに頑張っても理解できないんだ。
許してやって欲しい」
パリスは、ギアを抱きしめた。
なんて、バカバカしい猿芝居なの。
吐き気がする。
「では王太子に、改めて聞く。
ネックレスを、ソフィに贈ったのか」
「いえ。贈っていません。
けれど、王様、お願いです。
どうかソフィを、許してやって下さい」
「なぜだ」
「婚約破棄をして、ソフィを、傷つけてしまったからです」
パリスはひざますく。
嘘をついている癖に、善人のふりをしよって魂胆ね。
あれは、私の知っているパリスじゃない。
ギアに、良心をまるごと吸い取られようね。
「それはできない。
盗みの罪は重い。
法律通り、手首を切り落とす」
私の有罪は、あっけなく決定してしまったのだ。
先ほどの舞踏会の賑わいは、幻だったの、と思うほどに。
「失礼します」
執務室の扉を開く。
部屋に入ったとたん、振り返ったパリスとギアと視線がぶつかる。
二人は、しっかりと手を握って、王様の重厚な机の前で、何かを(たぶん私の事)、訴えていたようだ。
「ソフィ、ババネア公爵夫人のネックレスについて、正直に答えなさい」
「はい。王様」
「アナタが、盗んだのですか」
「違います。何度も言ったように、あれはパリスからの」
途中で話が、ババネア公爵夫人の、ヒステリックな声にさえぎられる。
「嘘ざあます。あのネックレスは、特注品なのよ。
同じ物は、どこにもないはずよ。
それが、王太子様の手に、渡るはずないざあます」
唇をかんで、憎々しげに私を睨んでいる。
「なるほど。では、王太子に聞く。
ソフィの話は本当なのか」
王様は、太い眉をつりあげた。
鋭い眼差しを、我が子に真っ直ぐに向ける。
「そ、それは、えーと」
パリスは、目を泳がせた。
何をそんなに迷っているのよ。
本当の事を言えば、すむことでしょ。
皆が、息をひそめている。
『コツコツ』と、時間を刻むカラクリ時計の針だけが、音をあげていたわ。
「パリス。私の目を見て」
「ソ、ソフィ」
消え入りそうな声で、名前を呼ばれた。
「あんな女の、言うことなんか、気にしなくていいよ。
あ、じゃなくて、いいんですよ」
ギアは、チラリと王様を見て、握っていたパリスの手を、自分の豊満な胸元に、おしあてる。
とたんに、パリスは赤面した。
「ギア。王様の前です。
下品な振る舞いは、控えなさい」
はっきり言ってやったわ。
また、髪をひっぱられるかもしれない。
身体に力をいれてかまえていたけれど、拍子抜けした。
「ごめんなさい。ソフィ。
アタイは、じゃなくて私は、育ちも、頭も、良くないから、いっつも怒らせてばかりで」
ギアは、大粒の涙をこぼす。
見事な嘘泣きだった。
「ギア。ソフィみたいな人間には、僕たち、落ちこぼれの気持ちは、どんなに頑張っても理解できないんだ。
許してやって欲しい」
パリスは、ギアを抱きしめた。
なんて、バカバカしい猿芝居なの。
吐き気がする。
「では王太子に、改めて聞く。
ネックレスを、ソフィに贈ったのか」
「いえ。贈っていません。
けれど、王様、お願いです。
どうかソフィを、許してやって下さい」
「なぜだ」
「婚約破棄をして、ソフィを、傷つけてしまったからです」
パリスはひざますく。
嘘をついている癖に、善人のふりをしよって魂胆ね。
あれは、私の知っているパリスじゃない。
ギアに、良心をまるごと吸い取られようね。
「それはできない。
盗みの罪は重い。
法律通り、手首を切り落とす」
私の有罪は、あっけなく決定してしまったのだ。
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