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一、プロローグ 噂のバカ王子

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「王様、お祝い申しあげます!」

メイプル王国では、毎年春に、盛大な舞踏会が催される。

王の誕生日を祝う為だ。

海のない国のいたる所に、花が飾られる。

いつしか、誕生日は、花祭りと呼ばれていた。

「ありがとう」

いつも、玉座に座る王の前には、贈り物を手にした国内外の貴族が、長い列をつくる。

「人柄の良さが、にじみ出ていますな」

グレン王に、会った者は誰もが感心した。

黒髪、琥珀色の瞳、小麦色の肌、をもつ王は、若き日は、勇敢な戦士でもあったのだ。

「まるで、女神じゃないか」


エレーナ王妃を、一目見た者は誰もがため息をつく。

輝くばかりのブロンド、透き通る青い瞳、ミルク色の肌に全ての人は憧れた。

「あのバカ王太子は、一体誰に似たんだ」

「王太子の代になったら、我が国はおしまいか。
この際、あのバカ王子を操って、権力を握ってやろう」

パリス王太子は、陰では、貴族達に嘲笑われている。

薄茶色の髪、華奢な身体の王太子は、いつもおどおどしていた。

パリスは、王のたった一人の男の子だった。

長い間王妃にも、数名いる側室にも、なぜか、生まれるのは女の子ばかり。

あきらめかけた頃に、王妃が息子を授かったのだ。

つい周囲の者は、王太子に甘くなる。

結果、甘えたれた、我儘王子ができあがってしまう。

「せめて、王太子妃には、しっかり者をつけなくては、心配で夜も眠れん」

側近達は、慎重に王太子の婚約者を探した。

そして、運悪く選ばれたのは。

ソフィマクシアン公爵令嬢だった。

ソフィは、美しく、学業優秀なうえに、明朗活発だ。

まだ十才の時だ。

「身に余る光栄で、ございます」

父のモリスや母のルワンは 知らせを聞いたとき歓喜した。

ただし、それは人前だけのこと。

「あんな頼りないパリスに、嫁がすのは不安で仕方ない」

モリスは、心の中ではなげいていた。

モリスは、王の弟で、権力をめぐっての貴族達の争いを、幼い頃から間近で見ていたのだ。

それだけに、心配だった。

そして、その予感は的中する。

バカ王子と、一人の娼婦との出会いが、ソフィの人生を変えていったのだ。
   
    
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