夫が聖女を溺愛中。お飾り妻になったので、魔道具をつくりにいきます

りんりん

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四十二、ラーク獣人

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「アイリス大丈夫か」

頭上から、お兄様の声がふってきた。

「大丈夫よ」

見上げると、アーサやお父様も心配そうにこちらを覗きこんでいる。

「王様達と話が弾んで約束の時間に遅れそうになったから、あわてて帰ってきたの。
それと今日いただいたものよ。
お兄様に好きに使って欲しいの」

立ち上がると、ぎっしりと金貨のつまった光沢のある袋をお兄様にさしだだす。

「アイリス。もう時間がないわ。
地面が回りだしたわ」

アーサがあわてている。

「そうだわね」

魔法で素早くドレスから、質素なワンピースに着替えると、現れた魔方陣の上にアーサとのった。 

「アイリス。辛かったらいつでも戻ってくるんだぞ」

「アーリャによろしくな」

お父様とお兄様が同時に声をだす。

「色々ありがとう」

そう言うとアーサも私の口真似をする。

「色々ありがとうね」

頭を下げたアーサの銀色の髪が、ふわりと強風に流された。

アーリャの魔方陣が動きだしたのだ。

移動中はずーと目を閉じていた。

「ようこそ。アーリャ魔道具研究所へ」

明るい声にひかれて、目を開けると化学薬品の瓶がズラリと並ぶ、広い空間に立っていたのだ。

「私がアーリャ。君がアイリスだね。
学生のころはイエルからよく噂を聞いていたよ」 

白衣を着たひょろりと背の高い男性が、手をさしだす。

ここは研究所の施設の中のようだ。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

深々と頭をさげると、アーサが甘えた声をはりあがた。

「ただいま。私のアーリャ」

「アイリス。アーサは役にたちましたか」

「はい。とても」

「そうか。それは光栄です。
アーサ。よく働いたようだな。
少し休みをあげよう」

分厚いメガネをかけたアーリャが、アーサの胸元を指でつく。

とたんにアーサは、ぐにゃりとなって倒れてしまう。

「しばらくこちらで預からせてください。
故障がないか点検したいので」

「お願いします」

「では、さっそくですが研究所内を簡単に案内します。
実は魔道具学会の発表が迫っていて、時間がないのです。
歩きながら、今後のことを説明したい」

アーリャと一緒に施設の玄関をでると、そこは別世界だった。

光あふれる花の咲き乱れる広い敷地には、ドーム型の建物があちこちに建てられている。

「あれは全部、テーマごとにたっている研究所なんです」

「色々なテーマがあるんですね」

「そう。あちらから」

アーリャが指をさして説明を始めると、
向こうからキリリとした美女が歩いてきた。

「紹介するよ。こちらはアイリスの担当になってもらうラーク研究員だ。
ここでは、自分の研究テーマを決める前に、すべてのテーマを勉強するシステムになっている」

「その中から、自分にあったテーマを決めるのよ。
ちなみに私は鳥獣のテーマ担当なの」

「鳥獣のテーマって」

「まずは鳥獣の動きや、感情を正確に知るのよ。
よりよい鳥獣の魔道具をつくる為にね」

「素敵だわ」

「理解してもらえて、よかったわ。
まずは鳥獣のドームで一緒に働きましょう」 

「よろしくお願いします」

「こちらこそ。私は後輩の指導には厳しいのよ」

ラーク研究員は片目をつぶる。

ライオン獣人の彼女は、テキパキと前を歩き出す。

こうやって、研究所での初日が始まったのだ。

それから数ヶ月がたつ。

わかったことは、ここはとても自由で実力主義であるということだ。

研究所では、人間、獣人、魔族と人間のハーフ、外国の魔法使いと様々な者が働いている。

当然顔や形、考え方は多種多様だ。

けれども、それが争いの種にはならない。

むしろ、いい刺激になっているのだろう。

研究員達は、素晴らしい魔道具をつくりだしていく。

「私もがんばりたいわ」

魔鳥の羽を薬品のはいった試験管にひたす作業をしていると、後ろからラークが声をかけてきた。

「アイリス。だいぶ慣れてきたみたいね。
少し遅れたけど、明日の夕方、歓迎会をすることになったのよ。
浜辺でバーベキュをするからきてね」

「バーベキュ。楽しみだわ」

「そうそう。楽しみといえばね。
今度また新しい研究員がはいるみたいよ。
希少な光魔法の使い手で、相当なイケメンって噂よ」

早口でそう言うと、ラークはカツカツとヒールの音をたてながら歩いてゆく。

「光魔法。イケメン」

まさかね。

ここに来てからも、一日も忘れられなかったレオン王子の顔が脳内にうかんだ。

「こら。自惚れるのはやめなさい」

左右に頭をふって、キラキラした笑顔を消そうと必死になった。
 



 


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