38 / 43
三十八、穏やかな実家暮らし2
しおりを挟む
「アイリス様。お帰りなさいませ」
その瞬間、明るい使用人達の声が耳にとびこんでくる。
「ここでアイリスの歓迎会を開くことになってね。
皆の総意なんだ」
目を丸くして驚いていたら、会場の奥からお兄様がやってきた。
「お兄様、皆、こんな私を温かく迎えてくれてありがとう」
自然に目から涙があふれてくる。
「この場にはいないが、レオン王子が全部用意してくれたんだぞ」
「ええ。これを王子様が!」
歓迎の垂れ幕、飾られた花々、いくつものテーブルに並んだ美味しそうなご馳走、可愛いお菓子を見渡して唖然とした。
「また会った時、お礼を言っておくんだぞ。
レオン王子は、口は悪いが繊細ないいヤツなんだ。
アイリスの気持ちが、もう少し落ち着いたら......」
「え?
私の気持ちが落ち着いたらどうするの」
「いや。なんでもない。
二人とも立派な大人なんだ。
変にでしゃばるのも、いけないぞ」
何やらボソボソ呟いたお兄様が、咳払いをしてごまかす。
「イエルにアイリス。
また親子三人で暮らせるんだな」
そんな私達を目を細めて見ていたお父様が、しみじみとした声をだした。
それからは、これまでの疲れがふきとぶような楽しい時間がもてたのだ。
「アイリス様。
ずいぶんご苦労様をされたようですが、以前以上に魅力的になられました。
明日からは、また私達にぜひ支えさせてください」
歓迎会は一番古い侍女の言葉でしめられた。
忘れられない一日が過ぎてからも、穏やかな日々は続く。
屋敷の中には、コーエン家のことを口にするものは誰もいない。
過去をふりきり、将来を考えるにはいい時間が過ぎてゆく。
刺繍をしたり、本を読んだり、乗馬をしたら、まるで娘のころに戻ったようだった。
そして、そんな数日が過ぎた頃、一つの決心をお兄様に告げたのだ。
「私には、無理かもしれないけど、魔道具師になりたいの」
「そうか。アイリスのことだ。
このまま、ここで大人しくしているとは思わなかったけど。
魔道具師ときたか」
お兄様は顎に手を置いて思案してから、
微笑んだ。
「ちょうどアーリャの魔道具研究所が、新しい研究員を探していると聞いた。
アイリスは、色々な経験をしたおかげで魔力がすいぶん上がっている。
一度試験を受けてみたらどうかな」
「もちろんお願いします」
けっして自信があるわけじゃない。
けど、新しい何かに挑戦したかった。
その瞬間、明るい使用人達の声が耳にとびこんでくる。
「ここでアイリスの歓迎会を開くことになってね。
皆の総意なんだ」
目を丸くして驚いていたら、会場の奥からお兄様がやってきた。
「お兄様、皆、こんな私を温かく迎えてくれてありがとう」
自然に目から涙があふれてくる。
「この場にはいないが、レオン王子が全部用意してくれたんだぞ」
「ええ。これを王子様が!」
歓迎の垂れ幕、飾られた花々、いくつものテーブルに並んだ美味しそうなご馳走、可愛いお菓子を見渡して唖然とした。
「また会った時、お礼を言っておくんだぞ。
レオン王子は、口は悪いが繊細ないいヤツなんだ。
アイリスの気持ちが、もう少し落ち着いたら......」
「え?
私の気持ちが落ち着いたらどうするの」
「いや。なんでもない。
二人とも立派な大人なんだ。
変にでしゃばるのも、いけないぞ」
何やらボソボソ呟いたお兄様が、咳払いをしてごまかす。
「イエルにアイリス。
また親子三人で暮らせるんだな」
そんな私達を目を細めて見ていたお父様が、しみじみとした声をだした。
それからは、これまでの疲れがふきとぶような楽しい時間がもてたのだ。
「アイリス様。
ずいぶんご苦労様をされたようですが、以前以上に魅力的になられました。
明日からは、また私達にぜひ支えさせてください」
歓迎会は一番古い侍女の言葉でしめられた。
忘れられない一日が過ぎてからも、穏やかな日々は続く。
屋敷の中には、コーエン家のことを口にするものは誰もいない。
過去をふりきり、将来を考えるにはいい時間が過ぎてゆく。
刺繍をしたり、本を読んだり、乗馬をしたら、まるで娘のころに戻ったようだった。
そして、そんな数日が過ぎた頃、一つの決心をお兄様に告げたのだ。
「私には、無理かもしれないけど、魔道具師になりたいの」
「そうか。アイリスのことだ。
このまま、ここで大人しくしているとは思わなかったけど。
魔道具師ときたか」
お兄様は顎に手を置いて思案してから、
微笑んだ。
「ちょうどアーリャの魔道具研究所が、新しい研究員を探していると聞いた。
アイリスは、色々な経験をしたおかげで魔力がすいぶん上がっている。
一度試験を受けてみたらどうかな」
「もちろんお願いします」
けっして自信があるわけじゃない。
けど、新しい何かに挑戦したかった。
12
お気に入りに追加
1,023
あなたにおすすめの小説
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる