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三十六、コーエン伯爵家の最後
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「おやおや。これはどうしたことか。
どうやら王子様は、勘違いをされておられるようだな」
ぐるりと兵士に取り巻かれたお義父様は、わざとらしい笑い声をあげる。
その表情には、まだまだ余裕がみられた。
「そうざますわ。
主人と息子が犯罪者なんて、めっそうもありません。
いくら王子様でも許しがたいわ」
「お母様。きっとアイリスのせいだわ。
王子様に嘘っぱちを吹きこんだのよ」
お義姉様が私を指さしなから、髪をさかだてる。
三人は強気の態度にでた。
「ど、どうしよう」
けど、ゴットンだけは肩や膝をガタガタと震わせている。
「ゴットン、そんなに心配することはないぞ。
わしらは真っ白なんだから。
王子様。
どうしても、わしらを捕らえたいのなら、証拠を見せていただけませんかのう」
「証拠ならここにある」
レオン王子は、胸元から髪飾り型の録音機をとりだした。
「はて。わしはそんなモンはしらないぞ」
「思い出した。
あれは賭場で、ウサギ獣人がつけていた髪飾りだ。
キャル嬢に似合いそうだな、と思って見てたから覚えている。
けど、どーしてこれが証拠になるんだよ」
いぶかしげな声をだして、ゴットンが首を傾げる。
「これはな。
賭場でのおまえらの話を、しっかりと聞いていたんだな」
レオン王子が、髪飾りの裏についたボタンを押すと、賭場での会話が再生された。
『キャル嬢って誰なの』
『もうすぐ僕の妻になる人だよ。
実はさ。ここで儲けたお金で、神官を買収するんだ。
偽の神託をだしてもらう為にね。
僕は離婚して、聖女と結婚すべし、というお告げをもらうんだ。
いい忘れたけれど、キャル嬢は聖女様なのさ。
すごいだろう』
『聖女はな。魔法で、どんなことだってできる。
それが息子の嫁になれば、わしは富も名誉も手に入れたも同然じゃ。
王族だって、ひれ伏させてやるわい』
『そんな都合のいい神官がいるのか』
『いるぞ。
神官の中でも一番偉いケッケ神官長は、腐っとるんじゃ。
有力貴族から賄賂を受け取っては、私腹をこやしておる。
あのハゲも定年近い。
老後資金をためるのに、必死なんじゃろ』
『神官長のケッケに賄賂を渡して、キャル嬢と結婚しなさい、という偽の神託をだしてもらうわけか』
『そうそうよくできました。ライオン殿』
ここで王子は、会話の再生をとめる。
「おい。どうやって、これを手に入れたんだあ」
大きく目を見開いて、天井にむかってお義父様は叫ぶ。
「私が渡したのよ」
魔法で取り出したウサギ獣人マスクをかぶって、ウサギ獣人の声音をだしてみた。
「なんと。嫁にはめられるとは」
「もう元嫁ですけど。
それとあの時のライオン獣人は、そこにおられる王子様ですわ」
「ひえええ」
お義父様は両手で頭を覆いながら、膝をおり床に倒れてゆく。
「アイリス。
こんな裏切り酷すぎるよう」
ゴットンは子供のように泣きじゃくる。
「詳しい話は城で聞こう。
お友達のケッケ神官長が待っているぜ」
王子はここへくる前に、すでにケッケ神官長を捕らえていたようだ。
「アイリス。
オレは城へ戻らないといけないから、実家までおくってやれない。
がわりに玄関に馬車を待たせている。
それで実家まで帰るんだぞ」
兵士達に囲まれて二人が部屋から出て行くのを見届けると、王子がかけてきて耳元で囁いた。
「何から何まで、感謝いたします」
「よせやい。
オレ達は、礼なんて言う間柄じゃないだろ。
また落ち着いた頃に会いに行くから、待っててくれ」
レオン王子は優しい眼差しをむける。
「これでコーエン家はおわったざます」
王子も去り、静寂をとり戻した執務室で、お義母様が気を失う。
「こうなったのは、全部アイリスのせいよ」
お義姉様は、とびかかってきそうな勢いでツバを吐きかけてきた。
コーエン家の最後の瞬間である。
どうやら王子様は、勘違いをされておられるようだな」
ぐるりと兵士に取り巻かれたお義父様は、わざとらしい笑い声をあげる。
その表情には、まだまだ余裕がみられた。
「そうざますわ。
主人と息子が犯罪者なんて、めっそうもありません。
いくら王子様でも許しがたいわ」
「お母様。きっとアイリスのせいだわ。
王子様に嘘っぱちを吹きこんだのよ」
お義姉様が私を指さしなから、髪をさかだてる。
三人は強気の態度にでた。
「ど、どうしよう」
けど、ゴットンだけは肩や膝をガタガタと震わせている。
「ゴットン、そんなに心配することはないぞ。
わしらは真っ白なんだから。
王子様。
どうしても、わしらを捕らえたいのなら、証拠を見せていただけませんかのう」
「証拠ならここにある」
レオン王子は、胸元から髪飾り型の録音機をとりだした。
「はて。わしはそんなモンはしらないぞ」
「思い出した。
あれは賭場で、ウサギ獣人がつけていた髪飾りだ。
キャル嬢に似合いそうだな、と思って見てたから覚えている。
けど、どーしてこれが証拠になるんだよ」
いぶかしげな声をだして、ゴットンが首を傾げる。
「これはな。
賭場でのおまえらの話を、しっかりと聞いていたんだな」
レオン王子が、髪飾りの裏についたボタンを押すと、賭場での会話が再生された。
『キャル嬢って誰なの』
『もうすぐ僕の妻になる人だよ。
実はさ。ここで儲けたお金で、神官を買収するんだ。
偽の神託をだしてもらう為にね。
僕は離婚して、聖女と結婚すべし、というお告げをもらうんだ。
いい忘れたけれど、キャル嬢は聖女様なのさ。
すごいだろう』
『聖女はな。魔法で、どんなことだってできる。
それが息子の嫁になれば、わしは富も名誉も手に入れたも同然じゃ。
王族だって、ひれ伏させてやるわい』
『そんな都合のいい神官がいるのか』
『いるぞ。
神官の中でも一番偉いケッケ神官長は、腐っとるんじゃ。
有力貴族から賄賂を受け取っては、私腹をこやしておる。
あのハゲも定年近い。
老後資金をためるのに、必死なんじゃろ』
『神官長のケッケに賄賂を渡して、キャル嬢と結婚しなさい、という偽の神託をだしてもらうわけか』
『そうそうよくできました。ライオン殿』
ここで王子は、会話の再生をとめる。
「おい。どうやって、これを手に入れたんだあ」
大きく目を見開いて、天井にむかってお義父様は叫ぶ。
「私が渡したのよ」
魔法で取り出したウサギ獣人マスクをかぶって、ウサギ獣人の声音をだしてみた。
「なんと。嫁にはめられるとは」
「もう元嫁ですけど。
それとあの時のライオン獣人は、そこにおられる王子様ですわ」
「ひえええ」
お義父様は両手で頭を覆いながら、膝をおり床に倒れてゆく。
「アイリス。
こんな裏切り酷すぎるよう」
ゴットンは子供のように泣きじゃくる。
「詳しい話は城で聞こう。
お友達のケッケ神官長が待っているぜ」
王子はここへくる前に、すでにケッケ神官長を捕らえていたようだ。
「アイリス。
オレは城へ戻らないといけないから、実家までおくってやれない。
がわりに玄関に馬車を待たせている。
それで実家まで帰るんだぞ」
兵士達に囲まれて二人が部屋から出て行くのを見届けると、王子がかけてきて耳元で囁いた。
「何から何まで、感謝いたします」
「よせやい。
オレ達は、礼なんて言う間柄じゃないだろ。
また落ち着いた頃に会いに行くから、待っててくれ」
レオン王子は優しい眼差しをむける。
「これでコーエン家はおわったざます」
王子も去り、静寂をとり戻した執務室で、お義母様が気を失う。
「こうなったのは、全部アイリスのせいよ」
お義姉様は、とびかかってきそうな勢いでツバを吐きかけてきた。
コーエン家の最後の瞬間である。
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